ウクライナ避難民が母国のスイーツをキッチンカーで販売!日本での新たな挑戦にかける思い

3月下旬、戦火が激しくなったウクライナ東部のハルキウから、滋賀県彦根市に住む娘の元に避難してきたイリーナさんとその母ギャリーナさん。これから日本で生活していくために始めたのは、ウクライナの郷土料理を販売するキッチンカーでした。新たな挑戦にかける避難民と、その家族の思いとは―。

【特集】夫を残し、戦火から逃れ…日本で挑戦決めたキッチンカー「誰かの負担になりたくない」ウクライナ避難民の生きる決意、取り戻した笑顔

ウクライナ避難民 イリーナ・ヤボルスカさん(51)

 3月下旬、ウクライナ東部のハルキウから戦火を逃れ、娘が住む滋賀県彦根市に避難してきたウクライナ人の女性がいます。日本で生活していくために始めたのは、母国の郷土料理を販売するキッチンカーでした。新たな挑戦にかける彼女の思いを取材しました。

「毎日攻撃され…」愛する夫を残し、日本へ

ウクライナのスイーツをキッチンカーで!

 彦根城の近くに、多くの人で賑わうキッチンカーがあります。売られているのは、日本のクレープに似たウクライナの郷土料理。「おいしい。食べやすいし、日本になじみやすい味だと思う」と、お客さんにも好評です。経営しているのは、ウクライナ人のイリーナ・ヤボルスカさん、51歳。イリーナさんは3月下旬、ウクライナ東部のハルキウから、母のギャリーナさんと共に日本に避難してきました。現在、日本人と結婚した娘のカテリーナさんが住む彦根市で暮らしています。来日時に応じた記者会見で彼女が話したのは、変わり果てた母国の様子でした。

来日時の記者会見(2022年3月)

「私たちがハルキウを出たとき、町はとても怖い状況でした。毎日のように攻撃され、昼も夜も攻撃が続きました」(イリーナさん)

 突然壊された日常…イリーナさんの夫は、今もウクライナに残っています。戦火から逃れ、日本で取り戻した穏やかな日々ですが、新たな課題に直面しています。

「日本での生活はとても良いです。周りの皆さんが優しいことがありがたいです。ただ、日本語が分からないことが難しいです」(イリーナさん)

イリーナさんと家族

 立ちはだかっているのは言葉の壁です。これから日本で働き生活していく上で、日本語がわからないことがネックになっているのです。今2人は、滋賀県が提供した県営住宅で暮らしています。近所に住む娘夫婦が頻繁に訪ねてきては、慣れない暮らしをサポートします。

ウクライナの家庭料理「ブリンチキ」

 料理が得意なイリーナさんは、日本でもウクライナの郷土料理を作り、家族や近所の人たちに振舞っています。この日のメニューは、クレープ生地で具を包んだ「ブリンチキ」。果物やクリームを包めばスイーツになり、鶏肉やマッシュルームを包めば主食になる、ウクライナを代表する家庭料理です。日本で生きていくためにイリーナさんが目を付けたのが、得意の「ブリンチキ」でした。

「料理を作るのが好きで、それなら私にもできます。私たちの料理を日本人に紹介したいです。この国で自分のいる場所を見つけたい、そして自分のビジネスを作りたいです。誰かの負担になりたくないです」(イリーナさん)

 思いついたのは、移動ができるキッチンカーでのスイーツ販売でした。資金をクラウドファンディングで募ると、目標の360万円を大きく上回る金額が集まりました。

オープンしたキッチンカー、初日は…!

手伝いに来たウクライナ避難民・チュプラさん(右)

 営業開始まであと一週間となった5月22日、イリーナさんはキッチンカーで、お客さんの注文から調理まで実際の手順を確認していきます。手伝いに来ていたのは、ウクライナから同じ滋賀県に避難しているイリーナ・チュプラさん。

「私はひらがな・カタカナから覚え始めていますが、大変です」(チュプラさん)

 ほかの避難民にも声をかけ、一緒に働くことにしたイリーナさん。日本に来て2か月、右も左もわからなかった生活に、少しずつ光が見えてきました。

「緊張していますが、キッチンカーオープンに向けて全てがうまくいくように頑張ります」(イリーナさん)

営業初日には長蛇の列が!

 そして迎えた5月28日、営業初日はオープンと同時に長蛇の列ができました!訪れたお客さんからは、ウクライナ語で「おいしかった」を意味する「スマーチオ」と声をかけられることも。暖かいほめ言葉に、イリーナさんにも笑顔があふれます。購入した人に話を聞くと…。

「とても応援しています。平和を祈っています」(訪れた学生)
「普段何もできることがないので、心で思うことしかできないのですが、購入することで少しでも支援になればと思います」(訪れた女性)

お客さんに笑顔で対応

 この日1日で約900個が売れ、初日は大成功に終わりました。イリーナさんは、今後は大阪や名古屋でも営業し、避難民の雇用の受け皿を作りたいと言います。

「楽しくて嬉しくて、仕事ができるのは最高です!人々に料理を気に入ってもらえて何よりです」(イリーナさん)

遠く離れた異国で見つけた新たな喜び。イリーナさんの挑戦は始まったばかりです。

(「かんさい情報ネットten.」 2022年5月30日放送)

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