エデュケーション✖テクノロジー➡ 教育現場に急速に広がる「エドテック」とは…

パソコン1人1台と言われ、生まれた時からデジタル技術がすぐそばにある
子どもたちの教育現場では、今、急速に「エドテック」が広がっています。
「エドテック」とは教育=エデュケーションと、技術=テクノロジーを掛け合わせた言葉。
新型コロナの感染拡大もあって、オンライン学習の導入が進む中、
AIが子どもの「苦手」を分析し、問題を選んでくれる「AIドリル」など、
さまざまな「エドテック」が活用されつつあるんです。
「エドテック」最前線を追いました。

【徹底取材】急速に導入増加「エドテック」 AI活用で成績アップの児童も、一方で学力差広がる懸念…教育現場の実情から見えたメリット・デメリット

 パソコン1人1台と言われ、生まれた時からデジタル技術がすぐそばにある現代の子どもたち。その教育現場では今、「教育(エデュケーション)」と「技術(テクノロジー)」を掛け合わせた「エドテック」と言われる新たな学び方が急速に浸透しています。その最前線を追いました。

急速に広がる「エドテック」とは?

正答率アップの実績も!苦手克服をサポート「AIドリル」

AIドリルに取り組む子供たち(滋賀県守山市・中洲小学校)

 滋賀県守山市の中洲小学校では、4年生の児童たちが学校に着くと、みんな一斉にパソコンを取り出します。取り組むのは、自動で様々な問題を出題してくれるデジタルのドリル。これは、児童が問題を解く中で“つまずいた”ところを、AI(人工知能)が分析し、児童の状況に合わせて問題を変化させてくれる「AIドリル」なのです。

不得意分野の克服をサポート

 例えば「ある学校の生徒は90人いて、その20%が野球チームに入っています。野球チームに入っているのは何人でしょう?」という問題。これと同じような問題を繰り返し間違えると、AIが「この児童は、%を少数に直すのが苦手」と判断し、“%を少数に直す”ことに特化した問題が多く出題されるようになります。そうして児童たちの理解を引き出すのです。

AIドリル導入で正答率がアップ

 さらに、授業範囲や学年にとらわれず、自分に合わせた学習ができるメリットがあり、この学校では3か月間AIドリルに取り組んだ結果、同じ難易度のテストの正答率が、全ての学年で上がりました。

児童たちの感想は…

 この学校では、授業が始まる前の朝の時間などを活用してAIドリルに取り組んでいて、先生も子どもたちへの声掛けなどを行っています。児童たちに感想を聞いてみると…

「間違えたときに分かりやすく説明したり解説したりしてくれるので、分かりやすい」(児童A)
「5年生になっても4年生の復習とかできるからいいと思う」(児童B)
「すぐ終わって、もっと課題が欲しいくらいです」(児童C)
「自分では頭がよくなっている気がします」(児童D)

中洲小学校 長田光広校長

(中洲小学校 長田光広校長)
「問題数が非常にたくさんありまして、教師が一つ一つ選ばなくても、子ども自身が選んでやっていけるので、自由度が高いというのが大きいです。また、今までだと教師が全て印刷をして子どもたちに配ったり、市販のドリルを使っていたので、教師の負担もずいぶん減ったと思います」

日本におけるエドテック市場規模予測(野村総合研究所のデータを基に作成)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、オンライン学習が増加したことなどを背景に、急速に導入が進んだエドテックですが、野村総合研究所は、その市場規模が右肩上がりに拡大すると試算しています。2020年当時の文部科学省・萩生田光一大臣も「ICT(情報通信技術)を活用することで、家庭学習を含め、全ての子どもの学びを保障できる環境を早急に実現してまいりたいと思います」と表明しています。

個人差をどうフォロー?エドテックの課題

 一方、エドテックの活用を巡っては、まだまだ課題もあります。AIドリルは、パソコン上で学習状況を確認できるものの、AIが大量の問題を出題するため、子どもたちがどのような問題を解いているのかが分かりづらくなります。さらに、生徒に出題される問題の難易度や量は、個人によっても違います。

AIドリルの活用方法を考える職員会議(中洲小学校)

 中洲小学校では、AIドリルの活用方法を考える職員会議が行われました。

「個人がどの程度できているのか?が把握しにくかったと思います」(教員A)
「すごく個人差が出てくるので、たくさん差が出てしまった子への支援が必要となってくると思いました」(教員2)

このような意見に対し、長田校長は…

「伸びる子は、どんどん自分で勉強して伸びていくのは大事なことなので、認めてあげていいと思います。問題は、どうしても進みにくい子をどのようにフォローしていくかです。そこは細かに子どもに返していく、また保護者と一緒に、どうやって支えていくかなどの方法を検討しながら進めていくことが、必要だと考えています」(中洲小学校 長田光広校長)

AIがアドバイスも!自分自身を知るためのスマホアプリ

スマホアプリに入力する生徒たち(大阪府茨木市・追手門学院高校)

 大阪府茨木市にある追手門学院高校では、“アプリ”を活用して自分自身の振り返りを行う取り組みが行われています。このアプリは、生徒たちがスマーフォンに、自分の感情を自由に打ち込んだり質問に答えたりすることで、そのときの考えや気持ちを記録します。それに対してAIがアドバイスもくれるのです。これまでは教員の作ったシートに書き込み提出していましたが、見られることで本音を書かない生徒もいたことから、実験的にアプリを導入することにしました。

自分の気持ちを入力するとAIがアドバイスも

「機械なので周りのこと考えずに自分が思っていることを素直に言うことができたので、アプリを使ってよかったと思いました」(生徒A)
「落ち込んだりしたときに『何事にもチャレンジしてみよう』というのが出て、励みになりました」(生徒B)
「自分をマイナスにとらえることが多かったんですが、プラスにとらえることによって自信が付きました」(生徒C)

 生徒たちからも好評を博していますが、学校が大切にしているのは、アプリに記録するだけではなくその先。可能な範囲で、クラスメートと書いた内容などを話し合い、自分の考えを言葉にすることです。

追手門学院高校 牛込紘太教諭

(追手門学院高校 牛込紘太教諭)
「このアプリを使う第一の目的は、“自分で自分のことが分かっている”ようになって欲しいという事です。『自分はこういったことが大切で、こういうふうになりたいんだ』というのを、自分の言葉で言える生徒になって欲しいと思います」

拡大する「エドテック」 今後必要なことは?

情報通信総合研究所 平井聡一郎特別研究員

 浸透しつつあるエドテックの今後の活用方法について、長年教育現場に携わってきた専門家は、このように指摘します。

(情報通信総合研究所 平井聡一郎特別研究員)
「デジタル技術は“道具”ですから、道具をいかに使うかという点で、目指す方向性が無いままだと失敗します。ですから、『こんな学びを実現しよう』ということを考えて、その理念を持った上で使っていけば、成功に近づくと考えています」

生まれたころからデジタル技術がすぐそばにある今の子どもたちにとって、“良い教育”を実現していくために技術をどのように活用していくかが、問われています。

(「かんさい情報ネットten.」 2022年3月23日放送)

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