【美味しいのは当たり前】新たな食の『SDGs』大阪の飲食業界の取り組みとは

テーマは“つくる責任つかう責任”です。フードロスの削減や持続可能な漁業など、食にまつわるSDGsへの取り組みが大阪の飲食店で広がっています。「おいしさ」との“両立を目指す取り組み”を取材しました。

【特集】ワインの副産物は驚きの食感! おいしいのは当たり前 “食のSDGs” さっくりモチモチピザの秘密は公園の木?海を知らないサバは生で食べられる!大阪の飲食業界の取り組みを紹介

「あまから手帖」副編集長 白川恵理子さん

一人の女性がなにやら試食をしています。

(女性)
「すごく脂がのっていて、おいしいですね…」
おいしい店があると聞けばどこへでも。関西のグルメ雑誌の草分け、「あまから手帖」の副編集長白川恵理子さんです。

(白川さん)
「普通に普段おいしいと思って食べているものが、実はSDGs(持続可能な開発目標)の考えに基づいているとか、SDGsに関連して作られたということがたくさんあると思います」

「あまから手帖」が力を入れている “SDGs”

今「あまから手帖」が力を入れているのが、“食のSDGs”です。飲食店の特集や連載記事で積極的に取り上げています。今やおいしいのは当たり前、プラス環境への影響をどう少なくするか。食の世界で広がるSDGsの新たな形を追いました。

リサイクルで終わらせない おいしさとの両立!

イタリアンレストラン 「島之内フジマル醸造所」(大阪市中央区)

 白川さんが注目するお店がこちら「島之内フジマル醸造所」です。予約なしでは入れないほど連日賑わっているイタリアンレストランです。

(女性客A)
「すごくおいしい。酸味が効いているのかと思ったら、そうじゃなくてすごく飲みやすい!」

(女性客B)
「濃くない。するする飲めるみたいな感じ」

お客さんのお目当ては、お店で作っているワインですが、白川さんのお目当ては違うようで…。

島之内フジマル醸造所のワイナリー

(白川)
「今回こちらを取り上げた理由は、お店の一階にあるワイナリーにあります」

(「島之内フジマル醸造所」を運営する株式会社パピーユ 社長 藤丸智史さん)
「これは三重県産のマスカットベリーAという品種です。それを茎だけ取って軽くつぶして、いまが発酵がちょうど終わりぐらいのときですね」

この日は、およそ2週間アルコール発酵させたブドウに、圧力をかけて果汁を絞り出す作業です。これを樽で寝かせて発酵・熟成させればワインができあがります。

年間約3トン発生する“搾りかす”

 問題は、この過程でできるブドウの“搾りかす“です。その量は年間約3トンにものぼります。以前は自社農園の肥料として活用していたのですが・・・。

「島之内フジマル醸造所」を運営する株式会社パピーユ 社長 藤丸智史さん

(藤丸社長)
「普通に肥料にしてしまうとリサイクル、もしくはダウンサイクル(価値の低いもの)で終わってしまうのですが、なんとかこのおいしそうなものを価値あるものにできないかなと思って、何よりも一番風味が凝縮した部分ですよね、それが肥料になるだけで終わるというのは、すごくもったいないなと思って…」

搾りかすをパウダーにして活用

 考えた末にたどり着いたのは、食材として活用することです。ブドウの搾りかすをパウダー状にして、生地に練りこみます。平打ちのパスタにしたところプチプチとした搾りかすの食感が楽しめる一品が出来上がりました。

(岡 学シェフ)
「(ブドウの)種・皮というのをスパイスのような要素で使っております。そのスパイスというのは、フレッシュなお野菜では出ない奥行であったり、香り滋味深さというのを出すことができるので、パスタに練りこんで表現しております」

ヴィナッチャパスタ(1650円)

(白川さん)
「わりと触感がプツプツとしたヴィナッチャ(搾りかす)が“入っているな”という感じがあって、お酒なんかでいただくときに、こういうアクセントがあるとすごく合いそうな感じがします」

生産から消費まで、持続可能なサイクルの実現とおいしさとの両立。この店では、新たな商品開発を進めています。

おいしいピザの秘密は間伐や倒木

カフェ「ノースガーデン」(大阪府吹田市)

 一方、“地産地消”でSDGsに取り組んでいる店もあります。吹田市の万博記念公園にあるカフェ「ノースガーデン」です。人気メニューは、店内で焼きあげるピザです。白川さんがそのピザ窯を覗いています。

(白川さん)
「けっこう熱いですね」

(スタッフ)
「100度以上あります」

ノースガーデンのピザ窯

この店が取り組むSDGsは、ピザ釜の燃料にあります。

ノースガーデン シェフ 田村直樹さん

(ノースガーデン シェフ 田村直樹さん)
「公園内に間伐材とか倒木がたくさん出ていまして、広葉樹の薪に向いている木がたくさんあったので、それを使えないかということで…」

年間約500本発生する間伐材

 広大な万博記念公園の敷地内にあるおよそ1万本の樹木。公園には欠かせない緑ですが、年間500本余りの 間伐材が生まれ、管理の悩みの種でした。これまでは、細かく切って発酵させ肥料にしていましたが、手間と時間がかかり処理が追いつかなくなっていたのです。そこで、ノースガーデンが、間伐材のおよそ20パーセントを 買い取り、ピザ釜の燃料として使うことにしたのです。

黄金のピッツァ(1430円)

(田村シェフ)
「薪で焼くことによって、高温で短時間で焼けるので外はカリッと中はもちっと仕上げることができます」

(白川)
「もっちりとしていますし、サクッと歯切れもよくて。薪の香りがしっかりと香って、すごくおいしいです!」

大阪の飲食店で広がるSDGs。さらに大きな取り組みが進んでいます。

海を知らないサバは食中毒が起きにくい!?

トロサバのお造り(1120円)

(白川さん)
「また違った側面からSDGsにアプローチしている会社があるんです」

こちらは、新鮮なサバが人気のサバ料理専門店「SABAR(サバー)」です。白川さんが試食したのはサバのお刺身です。

(白川さん)
「すごく脂がのっていておいしいです!プロの漁師さんも、サバはお刺身で食べるのが一番おいしいとおっしゃるんですってね」

(サバー マネージャー 宗元由加さん)
「そうですね。ただサバには寄生虫がおりますので、“冷凍処理”か“加熱処理”をして召し上がっていただきますと、リスクが少なく召し上がっていただけます」

サバの刺身は、漁師も絶賛するおいしさですが、寄生虫の処理が必要です。ならば寄生虫がいないサバは
 できないものか…。この店は、その難題にチャレンジしています。

大きな水槽が設置されたビルの一室

 案内されたのは、ビルの一室。中にはいくつもの大きな水槽が設置されています。

(フィッシュ・バイオテック株式会社 社長 右田孝宣さん)
「この完全閉鎖型陸上養殖では、この子たちが“日本で初”・“世界で初”になります。この子らは海を知らない子です。陸で生まれて陸で育っているので…」
  
ここで行われているのは実現が難しいといわれている、卵から育てるサバの完全陸上養殖です。またその養殖システムが、SDGsに関連して作られています。仕組みを説明すると…

閉鎖循環型陸上養殖のイメージ

 水槽の水は、水道水から作った人工の海水です。これが新たに開発したろ過装置を通って循環することで有害な物質が分解・除去されます。今はまだ試験段階ですが、水を替える必要がなく排水で海や川を汚すことがない、環境にやさしいシステムなんです。
 
(右田社長)
「海を再現することをやるので、極端な話砂漠のど真ん中でも水道水さえあれば養殖できるという仕組みですね。本当にサスティナブル、持続可能な養殖に今我々はチャレンジしているので…」

このシステムは屋内のため、自然環境の変化に左右されることもなくスペースさえあれば、どこにでも設置が可能。そして、何よりこの養殖で育ったサバは 安心して生で食べることができます。サバは、海で育つとアニサキスという寄生虫が体内にいることがあり、 食中毒になることがありますが、このシステムは完全な陸上養殖のため、その心配はありません。

フィッシュ・バイオテック株式会社 社長 右田孝宣さん

(右田社長)
「サバが当たり前のように生で食べられる。そういった食文化を今後作っていきたいなと思っていますので…」

5年後の実用化を目指していて、成功すれば、他の魚でも可能になるということです。

(白川さん)
「SDGsというのが禁欲的に何か奉仕精神でやるというのではなくて、食を楽しみながら地球の環境によくて  雇用にもつながってということができると、すごくいいなと思いますね」

SDGsから生まれている新たな食文化。その取り組みはさらに広がっていきそうです。


(「かんさい情報ネットten.」2022年5月6日放送)

ホームページ上に掲載された番組に関わる全ての情報は放送日現在のものです。あらかじめご了承ください。

過去の放送内容