5月26日(金)
ツバメのお宿~幸せ運ぶ鳥と人の営み~
奈良県宇陀市に毎年、自宅の納屋にツバメが訪れる夫婦がいます。40年間、子育てから巣立ちまでを見守ってきました。また、同じ地区にある高校にも、毎年ツバメが訪れます。しかし、ことしで閉校となり、生徒たちは学び舎を巣立ちました。「幸せ」の象徴と言われているツバメとともに暮らす人々の1年間に密着します。
ツバメの成長40年間見守る夫婦 「幸せの象徴」との1年間に密着 奈良・宇陀市

“幸せを運ぶ鳥”ツバメ
春から夏にかけ、各地で見られるツバメ。古くから縁起の良い鳥として、人と自然が共に生きる“幸せの象徴”となってきました。そんなツバメの成長を40年間見守る夫婦が、奈良県宇陀市にいます。日本の原風景が残る自然豊かな場所で、ツバメと人々が織りなす営みを1年にわたり見つめました。
ツバメと共に暮らす夫婦の思い

奈良県宇陀市の大宇陀地区
奈良県宇陀市、大宇陀地区。自然豊かなこの地に建つある家に、南の国で冬を過ごしたツバメが毎年やって来ます。この家に住むのは、2人暮らしの西谷さん夫婦です。夫・重信さん(76)と妻・真知子さん(73)は、40年もの間、自宅の納屋に巣を作るツバメたちを見守ってきました。
「ツバメは、ほんまに仲良いからね。見とったら、ほほえましいよ」(重信さん)
「ホッとするよ、気持ち的に」(真知子さん)
「ウワーッて、じゃれあってね」(重信さん)

屋根裏に並ぶツバメのお宿
ツバメが巣を作る納屋の床には、新聞紙を敷いた大きな箱がたくさん並んでいます。
「おしめ替えるのと一緒」(真知子さん)
それはヒナの糞を受ける箱でした。真知子さんは笑いながら、ヒナたちの“おしめ”をテキパキと替えていきます。
「3月終わりぐらいかな。卵がかえりだしたら忙しい。どっさり出るし、山盛り」(真知子さん)
「巣は42個あります、今」(重信さん)
「『今年は、この子は初めてやな』とか、だんだんわかるようになってきて。初めての子は、子どもの数が少ないです。新しい家を作ったりしてるし。3羽ぐらいしか、卵をかえせないからね」(真知子さん)

巣作りのため枝を拾う
ツバメは、落ちている泥や草を拾って、巣を作っていきます。人の住む場所に巣を作るのは、カラスやヘビなどの敵から身を守るためだともいわれています。子育ては夫婦で協力して行い、交代で田んぼや河原へ虫を捕まえにいきます。そして、何回も何回も、親の手を離れるまで、ヒナのもとへエサを運びます。

死んだヒナは、空が見える場所に埋めてあげる
しかし、全てのヒナが無事には育ちません。
「最近ですけど、ツバメの巣から、ヘビの頭だけ出てました。そのヘビを捕まえたら、お腹がボコッボコッボコッとなってて…みんな、のまれてるねん、かわいそうに」(重信さん)
納屋でも、真知子さんが床に落ちた何かをティッシュで拾い上げ、そっと包みました。
「これで、今年4匹目やね。かわいそうやけど」(真知子さん)
それは、落ちて死んでしまったヒナでした。真知子さんは、少し傾斜になった庭の一角の土を深く掘り、ヒナの亡骸を埋めてあげました。青い空がよく見える、「ツバメ」と書かれた小さなお墓。真知子さんは埋葬し終えると、静かに手を合わせます。
「ここに埋めたのは、また空が見えるかなと思って。ツバメがね」(真知子さん)

西谷さん夫婦に見守られ成長
西谷さん夫婦が出会ったのは、50年前。大阪に住んでいた真知子さんが重信さんのもとに嫁ぎ、2人の子どもに恵まれました。40年前に納屋を建てたときに初めてツバメが訪れ、それ以来、毎年3月の彼岸の頃に必ずやって来るようになりました。
「お金よりも、作る楽しみ・育てる楽しみを持ちながら、これから何年かわからんけど、ぼちぼち頑張りますわ」(重信さん)
重信さんは何十年にもわたり日記をつけていて、その中にツバメのことも細かく書いています。
「“来る”のか“帰る”のかわからんけど、『ツバメ帰る』って書いてます」(重信さん)
夏になると、ツバメは旅立っていく

ツバメは大宇陀高校のシンボル
西谷さん夫婦が住む地区にある、奈良県立大宇陀高校。多くのツバメが巣を作るこの高校は、大正時代に建てられ、創立100周年です。しかし、隣の学校との統合で閉校が決まり、校舎は新しい高校として使われることになりました。3年生16人が、この高校の最後の生徒になります。ツバメは、この学校のシンボルでした。

飛ぼうとするヒナ
西谷さん夫婦にとっては、夏が別れの季節です。西谷さん夫婦の家でも、ヒナのいる巣の周りを大人のツバメたちが活発に飛び回っています。
「体の小さい子がいてますねん」(真知子さん)
「弱いから、よう外に出られない。そしたら、親だけじゃなくて、周囲の鳥がいっぱい寄ってきます」(重信さん)
「飛び方を教えに」(真知子さん)
「あれは多分、『こうして飛ぶんや』と教えとるんやろうね。『はよ来い、はよ来い』って言うてんのかなー」(重信さん)

ツバメは西谷さん夫婦のもとを巣立った
そして、8月。納屋は、すっかりキレイになっていました。西谷さん夫婦が、ツバメの為に用意した“おしめ”や網などを片付けています。
「出て行ったときは、ホッとするね。『元気に行ったわ』って。やれやれ…。やれやれやね。やれやれやけど、いなくなると、寂しい」(真知子さん)

7万羽が集まる平城宮跡
ツバメは子育てが終わると、敵に襲われないよう、集団でねぐらを作ります。空を覆いつくすような、ツバメの群れ。あまりの壮大さに、写真を撮る人もいます。7万羽ものツバメが奈良の平城宮跡に集まり、そして、南の国へと旅立ちます。
ツバメは幸せを運ぶ鳥…今年も、これからも

稲刈りは夫婦2人で
ツバメが旅立った大宇陀に、秋がやって来ました。西谷さん夫婦が稲刈りをしています。
大宇陀高校の生徒たちは、新しい高校になってもツバメが戻ってくると信じて、巣のあった場所の床を掃除しました。

春が、すぐそこに
冬を経て、大宇陀高校では、100年の歴史に幕を下ろす最後の卒業式が行われました。
「どれほど長く紡がれた歴史にも、必ず始まりがあり、必ず終わりがあります。旅立つ私たちを、どうか、温かく見守っていってください」(大宇陀高校 生徒会長・岩崎勝さん)
校舎の壁に物悲しく残る、ヒナのいないツバメの巣。校庭の桜の木は、蕾が膨らみ始めています。

春の訪れを告げる
ようやく、春が訪れました。大宇陀地区の山々には、桜が満開です。重信さんが、納屋のシャッターを開けると…。今年も西谷さん夫婦のもとに、ツバメが帰って来ました。
「遠い旅をして、無事に戻ってきたんやなと思ったら、かわいいですよ」(重信さん)
西谷さん夫婦には、楽しみにしていることが、もう一つあります。毎年、温かくなると、娘の家族が友人を連れてやって来ます。年を重ねるごとに集まる人が増えました。子どもたちに納屋のツバメを見せてあげ、庭でBBQを楽しみます。輪の中心にいる西谷さん夫婦は、弾けるような笑顔を見せます。

西谷さん夫婦「幸せです」
「場所は、提供するよ。何もできないけど」(重信さん)
「来てくれるほうが、うれしい」(真知子さん)
「ツバメも来て、皆さんにも来てもうて、幸せですわ。幸せ、それだけ」(重信さん)
(「かんさい情報ネットten.」 2023年5月26日放送)
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