「いつか桜並木を一緒に…」移植を待ち続けて3年半 こぼれ落ちた息子の命

国内で心臓移植を待つ人の待機期間は大人で平均5年ほど、子どもで3年以上と長期に及んでいます。この間に命を落とす人も少なくなく、これまで移植ができた人が700人程なのに対し、亡くなった人は540人…。いま、こうした命を救おうと法整備も視野に、新たな取り組みが始まっています。
(かんさい情報ネットten. 2023年4月11日放送)

【特集】3年半超、病室で生きた我が子…移植を待ち続け、こぼれ落ちた息子の命…日本の臓器移植に危機感抱く医師らが新たな取り組みへ

4歳で短い生涯を閉じた芳和くん

 国内で心臓移植を待つ人の待機期間は、大人で平均5年、子どもで3年以上と長期に及びます。そして、その間に命を落とす人も少なくありません。日本の臓器移植に危機感を抱いた医師らが、現状を変えようと新たな取り組みを始めようとしています。3年半以上移植を待ち続けた末に4歳の息子を亡くしたお母さんが、大切な思い出と共に想いを語りました。

こぼれ落ちた息子の命…「ごめんねしか思わなかった」険しすぎた心臓移植の道

芳和くんと過ごした幸せな時間

 2022年、春。お母さんに抱っこされた玉井芳和くん(4)は、入院中だった病院の裏口に出て、大きな目で辺りを見渡していました。満開の桜並木が、遠くに見えます。お母さんや看護師さんに「どう?お外」と聞かれて、風に当たりながら手を振っていた芳和くんは、この約1か月後、短い生涯を閉じました。

 それから1年が経った、2023年の春。芳和くんの母・敬子さんが、大切な思い出を綴ったアルバムを見せてくれました。

「桜並木を、私が時々歩いて通っていて、『いつか芳和が退院したら、ここをベビーカー押しながら歩くんだ』と思っていた道。ちょうど去年の今頃に、お花が咲いたから『お花見行こう』って看護師さんたちが言ってくれて、裏口に出て遠くの桜を小さく眺められて、少しだけ夢が叶って、良かったなって…」(芳和くんの母・敬子さん)

看護師さん直伝のポーズを取る芳和くん

 2018年2月、芳和くんは3兄弟の末っ子として、福井県で生まれました。しかし、生後半年ほどで夏バテのように元気がなくなり、徐々にミルクを飲まなくなりました。その後、「ミトコンドリア心筋症」と診断されました。生きるためには心臓移植しか道はなく、補助人工心臓を装着しての入院生活が始まりました。告げられた移植までの待機期間は、3年…。

「0歳の子が、4歳近くなるまで病院にいないといけない。どうやって育つんだろうと思った。でも、それしかないから、それにすがるしかない」(母・敬子さん)

補助人工心臓が芳和くんのお気に入り

 心臓移植の為に海外渡航も提案されましたが、まだ幼い他の兄弟を置いていくことはできず、国内で待つことに決めました。玉井さん一家は家族で病院の近くに引っ越し、毎日、芳和くんの面会に通いました。

「2、3、4歳あたり、自分の補助人工心臓が大好きで、触ると『どや』って顔するんです。看護師さんからシールもらって貼りつけて、『見て!』って看護師さん呼ぶ、みたいな」(母・敬子さん)

移植の道がすごく険しいものだった

 しかし、目安だった3年を超えても、移植は叶いませんでした。また、待機期間は当時、子どもとしては国内最長になっていました。

「何度も何度も急変を繰り返して、本人がしんどい中、ずっと調子が悪い中、3年半…自分の意思もハッキリしない時に、私たち夫婦で移植の道に進ませると決めたけど、移植の道がすごく険しいものだった。頑張らせすぎてしまった気がして、4歳児に…。『ごめんね』しか思わなかった」(母・敬子さん)

医師らの組織、国内初「心臓移植学会」立ち上げへ…こぼれ落ちていく命が、これ以上ないように

心臓移植者数と移植待機中の死亡者数

 1997年から2022年までの25年間で、707人が心臓移植を受けました。一方、540人もの人が、長い待機期間中に命を落としています。2021年には52人もの人が命を落としました。

 その背景にあるのは、ドナー不足です。日本では、諸外国に比べて臓器提供者数の割合が各段に低く、アメリカの40分の1程度です。日本で心臓移植を希望する人は約900人いますが、2022年に移植を受けられたのは79人でした。18歳以上の成人では、平均で5年近くの待機期間が必要だといわれています。

日本の臓器移植の未来に危機感

 これらを受け、心臓移植を行う医師らの組織が、2024年4月に国内初の「心臓移植学会」を立ち上げようと動き出しました。

「移植登録に辿り着いて、ようやく、これから移植を目指して頑張っていらっしゃった方を500人も救えていない。今、改めて見直していかないと、このままでは日本の臓器移植・心臓移植は、停滞したままで終わってしまう」(日本心臓移植研究会 澤芳樹代表)

 医師らが注目したのは、人口比率で年間およそ4倍の移植が行われている韓国です。心臓移植は、脳の機能が完全に失われる「脳死」になったドナーから提供を受けます。日本では、脳死とされ得る状態になった場合、国の機関に報告するかは現場の判断次第で、大半が報告されていません。一方、韓国では国への報告を義務付けているため、日本の8倍の脳死が報告され、移植の件数も多くなっています。

「法改正につながる、あるいは制度を少し改める方向に行くといいと思います」(日本臓器移植関連学会協議会 小柳仁代表)

いつか二人で歩きたかった桜並木

「すごく久々に通りました。1年ぶり。遠くから見てはいたけど、なかなかここに来る勇気がなくて」(母・敬子さん)

 病院に通っていた4年間、芳和くんと一緒に歩くことを夢見た道を、一人で歩く敬子さん。1年前、二人で小さく眺めた桜が、今年もきれいに咲いています。我が子の死から1年、あの頃を振り返り、“今”伝えたいこと…。

最期に芳和くんと見た桜が、今年も満開に…

「日々、一生懸命、命を削りながら待っている人がいる。待っているときの気持ちは、誰かが亡くなるのを待ち望んでいるわけでもないし、したくない人に臓器移植してくれと言っているわけではなくて、『臓器提供をしてもいいよ』という方がいらしたら、その方の声が確実に届くような日本の制度になれば嬉しいと思います」(母・敬子さん)

(「かんさい情報ネットten.」 2023年4月11日放送)

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