一泊1700円⁈西成のディープなホテルに外国人観光客が集まるワケ

かつて労働者の生活を支えた西成の簡易宿泊所が、今や海外からの外国人観光客向けのホテルに生まれ変わり、観光拠点として人気を集めている。どんな人がどんな目的で三畳一間の激安ホテルを選ぶのか、外国人たちのホテルライフをノゾキミした。

【ノゾキミ】「西成一番好き!」外国人観光客が集まるディープなホテルは一泊1700円!日雇い労働者の簡易宿泊所が今では人気ホテルに…外国人観光客の知られざる“西成ホテルライフ”に密着

外国人を魅了する西成の激安ホテル

 大阪・西成の一角に、三畳一間1泊1700円~という激安ホテルがあります。観光の拠点にと、こうしたホテルをわざわざ選ぶ外国人たちが増加中。なぜ西成の激安ホテルがこれほどまでに外国人観光客を魅了するのか?彼らの知られざるホテルライフをノゾキミしました。

「西成一番好き!」1泊1700円からの激安ホテルに集うワケ

1泊1700円からで人気の「ホテル東洋」

 新今宮駅からほど近い場所にある、外国人に人気の宿「ホテル東洋」。20年ほど前から外国人向けのホテルとして営業してきました。ホテルスタッフは英語や韓国語、中国語に対応しています。料金は1泊1700円~冷暖房付きだと2100円~となっています。ツインルームも含め、部屋数は120部屋あります。

オランダから来日したティムさん

 オランダから初めて日本に来たティムさんが案内された部屋は、わずか三畳。背が高いので余計に狭く見えます。

(ティムさん)
「とても安いと思います。日本に来る前にオーストラリアにいたのですが、16人部屋でここの2~3倍の値段でした。だからこの部屋にとても満足しています」

Q.なんで行き先を日本に決めたのですか?
(ティムさん)
「オーストラリアから日本への飛行機代がとても安くて、日本に行かなきゃと思いました」
Q.何歳ですか?
(ティムさん)
「18歳です。高校を卒業してそのまま大学に進学するのが嫌だったので、少し旅行をしています」

オランダでは高校を卒業すると、1年間ほど社会体験活動をする「ギャップイヤー」という制度があり、旅行をする人が多いそうです。

Q.日本では何が楽しみですか?
(ティムさん)
「自動販売機です。友達が日本にはたくさんの自動販売機があると言っていたので、とても面白いと思いました」

イスラエルから来たアミットさんとノアさん

 そして、今度は2人組の女性客がチェックインしてきました。彼女たちが選んだのは1泊5000円からのツインルームです。
(アミットさん)(ノアさん)
「イスラエルから来ました」
(ノアさん)
「イスラエルでは2年間の兵役があるのですが、兵役が終わると少し働いてお金を貯めて長期間の旅行をする人が多いんです。アジアとか南アメリカとか」

兵役時代の写真

見せてくれたのは当時の写真。

(ノアさん)
「彼女は空軍。私は軍のIT系の部門にいました」

つらい訓練の日々から解放され、自由を楽しんでいる彼女たち。旅が終わると大学に進学するそうです。

日本を満喫中

(ノアさん)
「和食を食べるために来ました寿司が大好きです」
(アミットさん)
「イスラエルでもとても人気なんです。ナンバーワンです」

後日、送ってもらった動画には、目的通り寿司やうどんを堪能する姿がありました。

長期滞在するオーストラリア人のノアさん

 このホテルでは、長期滞在する人も多くいます。

(ノアさん)
「ハロー!ようこそ我が家へ。初めまして私の名前はノアですどうぞよろしくお願いします。去年の12月にここに住んだ」

陽気な声で出迎えてくれたのは、オーストラリア人のノアさん。このホテルの三畳一間で暮らしながら京都の小学校で英語を教えているそうです。

(ノアさん)
「ここにずっと住みたいつもりです。日本はすごい安全で、日本の家は安い。私は月3万5千円すごい安いと思います。私のオーストラリアのアパートは1か月16万円」

Q.でもその分広いんじゃないですか?
(ノアさん)「広くない。同じくらいこの部屋と本当に」
Q.でも、なぜ西成なんですか?
(ノアさん)
「他の日本人は、この辺はすごい危ない(と言いますが)、でも、すごい安全だと思います。オーストラリアのほうが危ないと思います。西成一番好き!すごい本当に一番好き」

「日雇い労働者の聖地」から「外国人観光客の聖地」へ…生まれ変わった西成

かつては簡易宿泊所が軒を連ねていた西成

 かつては、日雇い労働者が多く寝泊まりしていた西成。30年前は、観光客の姿をほとんど見かけませんでした。多くの労働者たちを支えていたのが、簡易宿泊所です。一畳から三畳ほどの部屋を数百円から1000円ほどで提供していました。そんな西成も労働者が減り、20年ほど前から簡易宿泊所の多くが外国人を受け入れるホテルへと生まれ変わりました。今では京都や奈良にもアクセスが良いこともあって、外国人観光客に人気のエリアとなっています。ホテル東洋も改装して簡易宿泊所からホテルにかわりました。

「ホテル東洋」浅田裕広代表

(「ホテル東洋」浅田裕広代表)
「労働者向けのホテルをしていました。2003年ぐらいから海外のお客様とか観光客の方に来てもらえるようにシフトチェンジした感じですかね」

内装を外国人向けに改装

 ホテル東洋の内装は、簡易宿泊所の名残は感じるものの、洗面所の鏡の位置が高かったり、大浴場を個室のシャワールームに変えたりと工夫してきました。

漬物の試食会、ゲーム…共有の休憩室で国境を越えたコミュニケーション

ゲームに興じるイギリス人カップル

 ある日の夕方。ホテルに帰ってきた客たちが向かった先は、共有の休憩室です。国も言語も違う旅行者たちがスマホの写真を見せ合ったり腕相撲をしたり、異文化交流を繰り広げていました。イギリスからやってきたというカップルは、テレビゲームを楽しんでいました。

Q.来日観光の目的は?
(マーリン・オオタさん)「千葉県に日本人のおばあちゃんが住んでいるの。おばあちゃんと一緒に過ごすために来ました。とても元気そうでした。学校を卒業したら(日本に)行くって決めていたんです。本当に会いたかったんです」
Q.なぜこのホテルにしたのですか?
(マーリン・オオタさん)
「高級なホテルに泊まっても、見える景色はどこも同じような感じだと思うんです。ここのほうがよりその場所の空気を身近に感じることができます」

二人はこのあと、広島へと旅をする予定だといいます。

漬物にも挑戦

 日本の庶民の味・漬物に初挑戦しているグループもいました。見慣れない紫色の漬物に…

(ティボさん)「これナスじゃない気がする」
(エチエニさん)「この野菜はなんですか?」
(スタッフ)「ナスですよ」
「おいしいですか?」
(エチエニさん)「まぁまぁ嫌いじゃないけど」

1年間日本を旅行するエチエニさん

 フランスからやってきたエチエニさんは、このホテルを拠点に日本各地を旅しているそうです。

(エチエニさん)
「一年間旅行します。四国お遍路をやりました」

四国では八十八か所の霊場全てを周ってきたそうです。

Q.日本中を旅する目的は何ですか?
(エチエニさん)
「(ワーキングホリデーを利用して)いま、畑で働きたい。ちょっとだけ」
(スタッフ)「日本のですか?」
(エチエニさん)
「うん。私はエンジニアだから、毎日パソコンで働きます。本当に違うことをやりたい」

その隣では、オランダ人のティムさんがカップラーメンを食べていました。

Q.自動販売機は楽しめましたか?
(ティムさん)
「飲み物を買ってみました。とても冷たくてよかった。ヨーロッパより発達していました。数も多いし面白かったよ」

自動販売機が旅の目的になるなんて、思いもしませんでした。

即席の書道教室開催!激安ホテルが提供する日本の文化

関西に台風が接近

 関西に台風が接近した日。大雨の影響で外国人たちも観光どころではなくなりました。

(ノアさん)「Oh my god・・・」

小学校で英語を教えるノアさんも、台風情報にくぎ付けです。

(ノアさん)
「きょうは学校ぜんぜんないです。電車止まった。やることないです。少し悲しいです」

即席の書道教室で…

 移動手段を失い、延泊を決めた客も多くいました。そんな客たちを見かねたホテルがこんなサービスを…

(ホテルスタッフ)「みなさん『書道』の時間ですよ!」

即席の書道教室です。暇を持て余す外国人たちが一斉に集まります。初めての書道。いったいなんと書くのでしょうか?

(イギリス人)
「これにしました。みんなにハローと言いたくて」

見せてくれた半紙には「やあ!はじめまして」と書いてありました。

ノアさんが書いたのは、「関西弁おもろい」。

(ノアさん)
「『なんでやねん』を是非覚えてください。『なんてことだ』とか『なんで?』みたいな意味です」
(イギリス人)
「今度『なんでやねん』って道路で叫んでみるよ」

西成最後の夜、外国人観光客たちの旅は続く…

毎日銭湯に通う宿泊客

ワーキングホリデーを利用して農業をやりたいと言っていたエチエニさんがホテルの玄関から出てきました。

Q.どこに行くのですか?
(エチエニさん)
「銭湯に行きたい」
Q。銭湯は初めてですか?
(エチエニさん)
「毎日行きます。シャワーあまり好きじゃないから銭湯が好き」

すっかり日本に馴染んでいる様子のエチエニさん。銭湯から戻ってきたのはわずか10分後。

(エチエニさん)「ただいま」
Q。銭湯はどうでした?
(エチエニさん)「いいね。すっきり。もうビール飲みたい」
Q.10分は早すぎませんか?
(エチエニさん)「ごはん食べたいから」

大阪での最後の食事

エチエニさん、この日が大阪での最後の食事だといいます。

(エチエニさん)
「金沢に行きます。そしてあとで岐阜の畑で2週間ぐらい働きます」

一年間の日本旅行はまだまだ続くようです。

次の目的地へと旅立つエチエニさん

 翌日は台風一過。晴れ渡った朝、エチエニさんが金沢へと旅立ちます。

(エチエニさん)「いろいろありがとうございます」
(ホテルのスタッフ)「気を付けて」
(エチエニさん)「いってきます」

外国人に人気の激安ホテル。次は世界中からどんな旅人がやってくるのか、楽しみです。

(「かんさい情報ネットten.」2023年6月19日放送)

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