動物病院の新人獣医師 ペットの病に向き合い、託されたケア 悪戦苦闘の日々に密着

大阪にある1日に100件以上のペットの治療をしている動物病院。ここに今年の春から一人の新人獣医師が働き始めました。目の当たりにするのは、次々と運ばれてくる助けを求めるペットと飼い主の悲痛な叫び…。懸命に命を救おうとする獣医師と動物医療の最前線を、新人獣医師の目線を通してノゾキミしました。 (かんさい情報ネットten. 2023年5月1日放送)

【密着】新人獣医師、ペット治療の最前線で奮闘!さまざまな問題抱えたペットが次々やって来る…その日々に悪戦苦闘も、「『任せて大丈夫』と思ってもらえる獣医師になりたい」

ペットの命を救う最前線に密着

 ペット治療の最前線である動物病院には、様々な問題を抱えたペットたちが、次から次へとやって来ます。病気やケガに苦しむペットたち、そして“かけがえのない家族”の異変に悲しむ飼い主たちを救おうと、今日も医療スタッフたちは駆け回っています。そんな命の現場で奮闘する、一人の新人獣医師に密着しました。

ペットと飼い主の悲痛な叫び…最前線の動物病院に、一人の新人獣医が加入

縫い針を飲み込んでしまった

 こもは(4歳)が飼い主に連れられて、動物病院にやって来ました。元気そうに見えますが、縫い針を飲み込んでしまったかもしれないといいます。

「私が縫い物をしていて、針が服に付いていたか、テーブルの下に落ちたんでしょうね。うにゃうにゃ何かを噛んでいるのを見つけたら、光ったので…」(飼い主)

飼い主は慌てて取ろうとしましたが、かえって喉の奥へ入ってしまいました。レントゲンを撮ってみると、体の中にくっきりと針の影が映りました。早く取り出さなければ内臓を傷つけてしまう恐れがあるため、肥下誠司獣医師ら医療スタッフは、すぐに処置を始めます。

“先輩”肥下獣医師が、こもはのお尻から内視鏡を入れようと、排泄物の処理をします。すると…。

「これじゃない?…あっ、出た!」(先輩の肥下誠司獣医師)

なんと、便と一緒に縫い針が出てきました。偶然にも、うまくお尻まで流れてきたようです。

悪戦苦闘、“新人”の木戸崚太獣医師

 大阪市西区にある大阪動物医療センターには、一日に100人以上の飼い主が駆け込んできます。獣医師や動物看護師など医療スタッフ約40人が治療に当たっていて、2023年の春に、大学を卒業したばかりの新人獣医師が加入しました。

「岐阜大学から来ました、木戸崚太です。慣れないことも多いと思いますが、よろしくお願いします」(木戸崚太獣医師)

高校生のときからの“獣医師になる”夢叶えるも、落ち込む日々

突然動けなくなった愛犬「くるる(16歳)」

 この日、運び込まれてきたのは、トイプードルのくるる(16歳)です。

「マヒが出てる。酸素、嗅がせようか」(肥下獣医師)

 医療スタッフたちが、テキパキと処置を始めます。

「昨日までは、元気といえば元気でした。でも、その元気さが、ちょっとおかしかったかな。今朝は、何か痛がるような声を出していて、もう後ろ脚が動かなかった」(くるるの飼い主)

 急変の原因は、何なのでしょうか?レントゲンで調べてみると、肺に異常が見つかりました。

「通常であれば、黒い状態の肺が広がっているはずですが、全体的に白くなっています。原因は、血栓が詰まっている可能性があるかもしれないですし、肺炎で炎症による可能性もあるかもしれないです」(先輩の肥下獣医師)

 診断を確定するには、さらに詳しい検査が必要なのですが…。

「麻酔をかけた状態でCTを撮りますが、今の状態で麻酔をかけると、結構リスクが高いです。どこまで踏み込んでいくか、というところです」(肥下獣医師)
「16歳で、年が年やしね。負担がかかるのも…」(飼い主)

 追加で検査すると命の危険もあるため、飼い主は難色を示します。肥下獣医師は、検査を回避し、血栓を抑制する薬と、肺炎を改善する抗生剤を投与しました。

1週間後、何とか持ち直し退院した「くるる」

 それから一週間。くるるは何とか持ち直して退院し、飼い主がスプーンであげる液体状のご飯を食べられるまでになりました。しかし、いつ急変してもおかしくない状態は続いています。

「食べられるようになっただけ、元気。この子を見ていたら、自分の人生に重なる。元気なときもあったし、走り回っていたときもあったし…」(飼い主)

 くるるは、16年間、一緒に暮らしてきた愛犬です。最期まで穏やかに過ごせるよう、家族で見守ることにしました。

“新人”獣医師は不安ばかり

 この春、獣医師になったばかりの木戸獣医師は、不安だらけです。小型犬に聴診器を当て、心臓の音を聞いていますが…。

「すみません。何が(心臓の)雑音か、いまいち分かっていないです」(木戸獣医師)

 先輩の獣医師が、指導に入ります。

「ドックンドックンの『クン』が、ドシュードシューみたいな感じ。これ、めちゃくちゃ典型的な聞こえやすい雑音。全然違うから、これを忘れないように」(村上獣医師)

幼少期から動物好きだった木戸獣医師

 木戸獣医師は、動物好きの両親の下で育った影響なのか、高校生のときには獣医師になることを決めていたといいます。

「知識としては、『こういう病気』と聞いたときに、『どういう病態か』というのは分かるんですけど、実際に治療するときに、薬の処方であったり、実際に治すというところは、全然分かっていないなと、実感しました」(木戸獣医師)

かけがえのない家族を救いたい…新人獣医師の挑戦は続く

家族のアイドルに“がん”再発

 12歳のゴールデン・レトリバー秀吉は、2023年1月、お腹に23cmもある悪性の腫瘍が見つかり、摘出手術を受けました。それから3か月が経ち、再発がないか、検査のためにやって来ました。

「再発等がないかCTを撮らせてもらったんですが、再発が認められました」(肥下獣医師)

 がんが再発し、腫瘍が2つ見つかりました。秀吉の飼い主は、絶句します。

「サイズ的には、大体3cm弱ぐらい。前回に比べると、まだ全然小さい状態ではあります」
「他の臓器に転移は…?」(秀吉の飼い主)
「今のところは、明らかな転移は疑われないかなと」(肥下獣医師)

 秀吉は、診察室のドアのほうを向き、座っています。

「早く帰りたいな、秀くん。何か気配がするんでしょうね、嫌な気配が。先生が治してくれるからな。前みたいに治してくれるから。秀くん、頑張ってね」(秀吉の飼い主)

 家族にとって、かけがえのない存在の秀吉。無事に手術を終えて帰ってくることを、家族みんなが待っています。

秀吉(人間でいうと80代後半)の手術が始まる

 手術が始まりました。秀吉は12歳で、人間でいうと80代後半という高齢です。麻酔などによるリスクがあるため、少しでも早く手術を終えてあげないといけません。

「噴門(胃の入り口)の外側が、ボコッとなっていると思います。大きくはないんですけれど」(肥下獣医師)
「あるな。これ…めっちゃ深いな。2か所か…」(北井獣医師)

秀吉の術後管理を任された木戸獣医師

 1時間20分後。予定よりも早く、手術を終えることができました。

 新人の木戸獣医師は、術後管理を任されました。感染症を防ぐため、秀吉の傷口を丁寧に消毒します。

 そして、4日後。退院の日を迎えた秀吉は、飼い主に会えると、嬉しそうにしっぽを振ります。

「秀くん!秀くん!」(秀吉の飼い主)

 今後は抗がん剤を使って、がんの再発を抑えていくことになりました。

「実際に自分が動くとなると、何をすれば良いのか分からなくなっちゃうので、まだまだですね」(木戸獣医師)

苦しむ愛猫に迫る命の危機、歩けなくなったトラ

 ペットの命を左右する治療の現場。大学の授業では味わえなかった緊張感に、戸惑う日々です。しかし、立ち止まっている時間はありません。突然動けなくなったという猫のトラ(推定16歳)が、運び込まれて来ました。

「午前中は元気やったんです。午後に呼んだら、もう動かないんです。それで、変な鳴き声をするんですよね。これは、『何か、おかしいな』と思って」(トラの飼い主)

トラは3か所を骨折して変形していた

 何が起こっているのか、レントゲンで調べてみることになりました。すると…。

「骨盤が3か所骨折し、内側に押しやられてしまっています」(肥下獣医師)

 高い所から飛び降りることで、こういう骨折をするケースがあるといいます。骨盤を元通りにしなければ、腸が圧迫されて排泄できなくなり、死んでしまう危険もあります。治すには、大きくずれた骨を元の位置に戻し、骨折した部分をプレートで固定するしかありません。

 すぐに、トラの手術が始まりました。手術室に入った木戸獣医師は、真剣な眼差しで肥下獣医師の施術を見つめます。

「野良猫だったんです。今から14~15年前。かわいかったから餌をやったら、居つきましてね。ぼくがいい加減に『トラ』と言ったら、『ニャー』と鳴いたから。それで飼いだして…」(トラの飼い主)

重要な術後管理を担当、誤れば深刻な事態を招くことも

 1時間後、大掛かりな手術が終了しました。肥下獣医師は、木戸獣医師に術後管理の重要性を説明します。

「骨に対してアプローチしている手術だから、感染を起こすと骨融解などを起こして、最悪の状態になってしまうから」(肥下獣医師)

 術後の管理を誤れば、深刻な事態を招くこともあります。木戸獣医師は、優しく丁寧にトラの傷口のケアをします。働き始めたばかりの木戸獣医師にとって、息の抜けない日が続きます。

飼い主の傍でまどろむトラ、無事に退院

 手術から、10日後。トラは退院し、飼い主のそばで、美味しそうにご飯を食べていました。

「トラは人見知りで、僕以外には来ないです。僕一人が、この世の中で唯一の“頼りになるおじさん”という感じです。こうなったら、最後まで面倒を見ることになると思います」(トラの飼い主)

 木戸獣医師の術後管理の甲斐もあり、秀吉もトラも、無事に飼い主の元へ帰ることができました。

「飼い主さんに、『この先生なら任せて大丈夫だな』と思ってもらえるような獣医師になりたいです」(木戸獣医師)

 念願の獣医師になり、動物病院で働き始めた木戸獣医師。先輩の背中を見て、早く一人前になろうと、今日もペットたちに必死で向き合っています。

(「かんさい情報ネットten.」 2023年5月1日放送)

ホームページ上に掲載された番組に関わる全ての情報は放送日現在のものです。あらかじめご了承ください。

過去の放送内容