「一級建築士になりたい」「死ぬ3日前まで働ける知識を」終わりのない学び、今大人たちが勉強に励むワケ

早朝から深夜まで、大人たちが足繫く通う勉強カフェ。その多くの人たちの目的は、夢を叶えるためや老後など将来への不安に備えて学び直し、何かしらの資格を取るということ。その真剣な姿から見えてくる、それぞれの思いをノゾキミしました。

【特集】「死ぬ3日前まで働きたい」 還暦間近で大学院、一級建築士、老後の備え、彼女のため、母親の死…”大人の自習室“で勉強に励む人たちに密着

学び直す大人たちが増加中

 早朝から深夜まで、目標を持つ大人たちがやって来て、勉強に打ち込む“大人のための自習室”が今人気です。「資格を取る」「夢を叶えたい」「将来への不安に備えて」など、学ぶ理由はさまざまですが、その真剣な姿から見えてくるのは、それぞれが抱く強い思い…いま勉強に“ハマる”大人たちに密着しました。
※情報は2023年7月24日放送時点のものです。

転職のための資格を…早朝の「勉強カフェ」で出会った大人たち

早朝から勉強に励む

 大阪のビジネス街、本町にある「勉強カフェ」。

 午前6時50分という早朝にもかかわらず、すでに勉強に没頭する男性(33)がいました。今は離職中ですが、スキルアップを目指して、日商簿記1級取得に挑戦するといいます。

「高校が商業高校だったんですけど、学生時代は部活動にも取り組まずに何もせず、ただ学校に行って帰るだけの繰り返しだったので、得意なもの・特出してできるものが、今のところはないので。そこを目指したいとなると、自分が経験した中では、『簿記』が出てきました」(日商簿記1級取得を目指す男性)

 合格したら、経理関係の仕事に就きたいということです。

社会人を中心に人気を集める「勉強カフェ」

 「勉強カフェ」は、大阪と兵庫に5店舗を展開しています。現在の会員数は約1000人で、大阪・本町店の場合、月1万2127円で午前6時30分から夜中の0時まで使い放題。「空いた時間に、集中して勉強ができる」と、利用する社会人は年々増えているといいます。

得意だった英語を学び直しキャリアアップ

 自動車関連会社勤務の女性(29)はいつも出勤前に来て、英語の民間試験に向けての勉強をしています。英語力をアップして、外資系企業に転職することが目標だといいます。

「学生時代は英語が得意だったんですが、社会人になってから時間が空いてしまったことを後悔しています。昔、思い描いていた『英語を使って仕事をする』ことをやりたいと思って。家に帰ると、どうしても怠けてしまうので、一日に少しの時間でもいいので、積み重ねて勉強していきたいです」(英語の勉強をする女性)

見ず知らずの”同志“と刺激し合う

 「勉強カフェ」で自習をする多くの人が、何らかの資格を取ることを目標に掲げています。見ず知らずの“勉強仲間”から刺激を受けられることも、ここで勉強する理由のようです。

「彼女と一緒に生きていくために」日常の延長としての勉強

中国出身の恋人のために中国語を勉強

 「勉強カフェ」大阪うめだ店には、夜になっても、会社帰りの人たちが続々とやって来ます。山﨑健太郎さん(27)も、その一人。勉強しているのは、中国語です。

「目的というよりかは、付き合っている人が最近妊娠して、その人が中国出身で、日常会話が中国語なので、中国語を勉強しないといけないかなと」(山﨑さん)

彼女のお腹の中には新しい命が

 まだ正式に夫婦になっていないものの、彼女と一緒に生活をしているといいます。

「名前は、ヤン・ウェンシーといいます。中国・遼寧省から来ています」(山﨑さん)

 ウェンシーさんは、奈良の大学に留学するため、2018年に来日しました。山﨑さんとウェンシーさんが打ち解けるのには、言葉の壁など関係なかったといいます。

「ネットのチャットで知り合って、『話が合うね』ということで、梅田で初めて会いました」(山﨑さん)

料理は山崎さんが担当

 中国では、男性が料理を作ることが多いそうで、いつも山﨑さんが食事の支度をしているといいます。帰宅後、Yシャツ姿で料理をする山崎さんを、ウェンシーさんが見守ります。この日のメニューは「野菜の肉巻き」と「水餃子」ですが…。

「味がしない」(ウェンシーさん)
「うん…」(山崎さん)
「たぶん醤油がなかったからじゃない?」(ウェンシーさん)
「それでも食べてね」(山崎さん)
「栄養のためにね」(ウェンシーさん)

「未来の選択肢を増やすため」の勉強

 近々、入籍して夫婦となり、2024年1月には子どもが産まれます。

「子どもには、中国語とか自分がやりたいことをやってほしいです。それが一番重要です」(ウェンシーさん)
「選択肢を広げる意味で、仕事を選べる自分を保つために、勉強を頑張っています。中国語ができると、仕事の幅が増えるので」(山﨑さん)

 中国語をマスターしておけば、ウェンシーさんの故郷で生活をすることもできます。一緒に生きていくために、これからも中国語の勉強を続けていくといいます。

「これではヤバい」「年金はあてにならない」将来・老後…不安から勉強する大人たち

合格率10%「一級建築士」に挑む

 「勉強カフェ」には、将来に備えて資格を取ろうという人が多く、2年間通い続けているという不動産会社勤務の男性(25)も、その内の一人です。目指しているのは、合格率10%といわれる「一級建築士」合格です。

「大学時代、アメリカに交換留学していて、海外の学生と接する機会があって、そこで日本の経済に不安を覚えてしまって…。『これではヤバいな』という気持ちで今、頑張っています。ここで勉強している人が多いので、それを見ていたら自分も鼓舞されることが大きいかなと」(一級建築士合格を目指す男性)

コロナ禍で“ガクチカ”がなく…

 大学3年生の女性(20)は、就職に不安を抱え、「証券外務員一種」の取得を目指しています。

「コロナが流行しだして、大学1年生の間はほとんどオンライン授業になって、いわゆる“ガクチカ”(学生時代に力を入れたこと)みたいなものが自分にはなかったので、それを作るためにも資格を取ろうかなと思って、勉強しています」(証券外務員一種取得を目指す女性)

「どこででも生きていける体制を作りたい」

 会社で経理を担当しているという女性(57)。税理士を目指すという彼女の目的は、老後の備えのため。

「年金はあてにならないので。でも、あまり社会のせいにしたくなくて、どこででも生きていける体制を自分で作りたいな、という気持ちです。死ぬ3日前まで働きたいと思っているので」(税理士を目指す女性)

勉強カフェ大阪・荒井浩介社長

 「勉強カフェ」に多くの大人たちが通うようになった背景を、「勉強カフェ」社長の荒井浩介氏に聞いてみると…。

「将来、“食いっぱぐれてしまう”という不安感から、『スキルを付けておかなきゃ』という意味で、求められる要素が一つあったと思います。一方で、学びというものを楽しみ、趣味的な要素で成長を続けていきたいという、『生涯学習』の要素もあると思います」(荒井氏)

立ち止まっていた時間が動き出す…いくつになっても「学び直せる」

59歳で大学院を目指す!

 定年を目前に会社を早期退職した大西達也さん(59)が「勉強カフェ」に通う理由は、なんと…。

「数学好きが高じて、大学院を受けようかなと思いまして。この年になって。もっと理解したり、問題を解くのが楽しいということが動機です」(大西さん)

Q.早期退職してまで学び直そうという原動力は、何ですか?
「原資というのは、誰にでもあると思います。みんな、それを自分で抑えてつけている。自分は、そうでした。押さえつけていたのを外したら、こうなったという感じです」(大西さん)

資格を取りたいというより「知識を得たい」

 カフェの一番奥、人目に付きにくい席で勉強をしている内堀加奈さん(32)。読んでいたのは、ITや経営全般に関する基礎知識が身に付いていることを証明する「ITパスポート試験」の参考書です。

「資格を取りたいというよりは、知識を得たいという感じで勉強をしています。2022年の夏にメンタルをやられてしまって、会社を休んでいたんですが、今はだいぶと元気になってきたので」(内堀さん)

 内堀さんにとって「勉強カフェ」は、前向きに進んでいる人たちの息吹が感じられる、居心地の良い場所だといいます。

夫の言葉に救われた

 2020年に結婚した内堀さん。職場の人間関係で心を痛めたときに支えてくれたのは、夫でした。

「本当に“負の循環”で、お腹が痛くなったり、寝られなくなったり、朝に涙が止まらなくなったり、体に症状が出てワーッとなっていたとき、夫が軽い感じで、『調子が悪いんだったら、休めば良くない?』ぐらいのトーンで言ってくれたことに、救われました。頭を空っぽにする…そういう時間って、今までの人生を振り返ってもなくて、それを与えてもらえたというのは、良かったなと思っていて。立ち止まっていたからこそ、『よし、じゃあ進もう』と思えました」(内堀さん)

 新たな自分を見つけた内堀さん。近々、職場復帰する予定です。

「母親の死」「祖父との約束」…それぞれの事情、それぞれの想い

「会社に言われて」2回目の挑戦

 建築関連会社に勤務する男性(48)の目標は、建築施工管理技士。2回目の挑戦です。

「会社で、資格を取れと言われたので、やっています。この年になると目が悪くなったり、覚えが悪くなったりするので、ちょっとしんどいですね(笑)」(建築施工管理技士取得を目指す男性)

母の死をきっかけに、人生を考え直す

 サービス業の男性(51)が目指すは、司法書士。

「母親が4年前に急に亡くなって、そのときにいろいろと考えて…仕事的にも行き詰まったというか、もう一度、人生を考え直そうかと思って目指してみました」(司法書士を目指す男性)

「ここまできたら執念」祖父との約束守るため5回目の挑戦

 ドラッグストア勤務の女性(32)は、薬剤師の国家試験に5回目の挑戦です。

「しょっちゅう心が折れています。ただ、小さいころの約束で…」(薬剤師を目指す女性)

 諦めずに挑戦を続ける理由は、「医療に関わる仕事に就く」という、がんで亡くなった祖父との約束。

「もう、ここまで来たら、執念みたいなところもありますね(笑)」(薬剤師を目指す女性)


 “学ぶ”ということは、“前に進み続ける”ということ。いくつになっても、学びに終わりはありません。

(「かんさい情報ネットten.」 2023年7月24日放送)

ホームページ上に掲載された番組に関わる全ての情報は放送日現在のものです。あらかじめご了承ください。

過去の放送内容