10月4日(水)
目指すは靴磨き職人ナンバーワン!強豪ひしめく大会にむけ奮闘する、若き2人の職人の日々に密着
靴磨きの頂点を決める大会に、京都在住の2人の若き職人が挑みました。1人は知的障害がありながらもチャレンジを決意。その彼を支えながら、自らも腕を磨く若き青年。国の内外から腕自慢の靴磨き職人が集う中、美しく磨き上げ頂点に立つことはできるのか?昼夜問わず、大会に向け二人三脚で奮闘する日々をノゾキミしました。
【特集】目指すは靴磨き職人No.1!「チャレンジすることが一番大切」知的障害ある青年と彼を支えながら自らも腕を磨く若き職人、二人三脚で挑んだ日本一、しかし意外な結末が…
靴磨きは、心を磨くこと―
靴磨きの頂点を決める大会に、京都在住の若き職人二人が出場しました。一人には知的障害があり、自らも腕を磨く若き社長と二人三脚で挑戦します。靴磨きは、“心を磨くこと”。国の内外から腕自慢の靴磨き職人が集う中、頂点に立つことはできるのでしょうか―。
きっかけは障害ある人たちの“働きたい思い” 一念発起して起業した青年と、「出張責任者」まで成長した知的障害の青年、“パートナー”となった二人の歩み
藤井琢裕さん(左)と魚見航大さん(右)
国の内外から腕自慢の靴磨き職人が集い、ナンバーワンを決める大会。大阪で開かれるその予選に出場する靴磨き職人・藤井琢裕さん(32)と魚見航大さん(29)は、本番の約1か月前から、二人で昼夜を問わず練習に励んできました。
藤井さんには知的障害がありますが、活躍するのに、障害の有無は関係ありません。決勝に駒を進めることが、できるのでしょうか―。
(藤井琢裕さん)
「できることが増えたら自分が楽しいし、頑張るのが大事ですね」
(魚見航大さん)
「靴磨きの技術というところで、どこまでやれるのか、常にチャレンジし続けていきたいことなので」
魚見さんが代表務める店「革靴をはいた猫」
「大丸京都店」の5階に、藤井さんと魚見さんが働く「革靴をはいた猫」の店舗があります。この日は藤井さんが靴を磨き、魚見さんがお客さんの対応に当たっていました。一人ひとり、丁寧な作業と接客で、お客さんからの評判も上々です。
(お客さん)
「靴って磨くと、こんなに綺麗になるのかなって。また、お願いしたいですね」
「磨く前と終わった後の差が、ものすごく分かるんですよ。全部含めて、私は好きになっているお店です」
魚見さんが大学生のときに触れた思い
二人が出会ったのは、8年前。魚見さんが大学在学中、学内のカフェで障害のある人たちと働く中で、彼らの「働きたい」という思いに触れました。そして、靴磨き職人という仕事に辿りつき、自立を叶えるため、起業を決意しました。
(魚見さん)
「靴磨きのプロジェクトをやろうということになって、靴磨きの修行に行って、それをカフェで働いていた藤井たちと一緒に練習していったという感じです」
知的障害がありながらも「出張靴磨き」の責任者に
最初は一人で切符も買えなかった藤井さんですが、今では「出張靴磨き」の責任者を任されるほどに成長し、魚見さんの大切なパートナーとなりました。
(藤井さん)
「お客さんがどういう所で履くかを考えて、磨いています」
靴磨き職人になって、6年。二人は実力を試すため、職人の頂点を決める大会に出場することを決めました。
いつもは優しく時に厳しく…その奥底にある社長の想い「チャレンジ精神に驚く、だからこそ僕もやらなきゃと思える」 切磋琢磨して目指す、“日本一”の称号
藤井さんに厳しく指導する魚見さん
大会の約1か月前、制限時間10分で左右どちらかの靴を磨くという本番を想定して、練習する二人。しかし、藤井さんは時間を計らずに、靴を磨き始めてしまいました。
(魚見さん)
「…今、時間って計ってる?」
(藤井さん)
「まだ…計ってない」
(魚見さん)
「本番は、『よーい、ドン』じゃないの?どういうつもりで磨いていたん?今」
(藤井さん)
「……『よーい、スタート』しなかった」
(魚見さん)
「してないね。してないから?自分で磨こうと思ったってこと?自分で磨こうと思うのは良いんやけど、自分で磨くんやったら、何をしないといけない?」
(藤井さん)
「自分で時間を計る」
(魚見さん)
「そうよね?じゃあ今から10分計って、やるので。自分が思うように、磨いたらいいので。じゃあ、タクがタイマー押して、スタートしよか」
厳しく指導するのも、二人の関係性があってこそ。決められた時間内で、どこまで磨きの完成度を高められるかが、藤井さんの課題です。
見守る眼差しにも熱がこもる
靴を磨く藤井さんを、険しい表情で見守る魚見さん。10分後、タイマーが鳴りました。
(魚見さん)
「おつかれさまでした。正直、メチャクチャでした。液体を踵につけて、ヤギのブラシでやったこと、ある?」
(藤井さん)
「ない」
(魚見さん)
「ないよね。いつもやっていないことは、やらないほうがいい。いつも通り、落ち着いてやれば、大丈夫なので」
時間制限の中、いかに美しい光沢を出せるかが勝負の分かれ目
魚見さんも時間を計って、練習します。慣れない時間制限。短い時間で、いかに美しい光沢を出せるかに重きを置いて、磨いていきます。
(魚見さん)
「藤井くんが、大会に出たいって言って。そこにチャレンジしていくっていう、そのチャレンジ精神には、いつもビックリします。だからこそ、僕もやらなきゃと思えるという感じですね」
二人三脚で、試行錯誤の日々が続きます。
「これが本番にできれば、戦える」 試行錯誤の末習得した技術 取引先、お客さん…支えてくれる人たちのために…「本番に強いので、頑張ります」
決起集会で抱負を語る
大会に向けて、会社の同僚と取引先の人たちが集まり、決起集会を開いてくれました。
(「革靴を履いた猫」取引先・辻敏彦さん)
「藤井くんの手、練習しすぎて、“タコ”ができている。食べているのは、ミズダコやけどな」
(藤井さん)
「ははは(笑)」
(辻さん)
「磨く靴の色は、茶色が得意だったり、黒が得意だったりって、あるんちゃう?」
(魚見さん)
「皆さん、あると思います」
(辻さん)
「藤井くんは、何が得意なん?」
(藤井さん)
「茶色。濃い茶色だったら、ピカッと光るのが分かるので」
(魚見さん)
「濃い茶色か。じゃあ大会本番は『濃い茶色、“来い”』って、願っておこう」
(辻さん)
「ちょっと今、何言いました?」
(魚見)
「いや違います、今のは違います(笑)」
(一同)
「ははは(笑)」
盛り上げてくれた仲間たちのためにも、良い成績を残したい。藤井さんが、意気込みを語りました。
(藤井さん)
「本番は緊張しないで、本番に強いので、頑張ります」
常連さんが練習用に靴を提供してくれた
大会を2週間後に控えた、ある日。常連のお客さんが練習に使ってほしいと、革靴を提供してくれました。魚見さんとお客さんが見守る中、汚れた革靴を黙々と磨いていく藤井さん。落ち着いているように見えますが、仕上がりは―。
藤井さんが磨いた常連さんの靴
(常連のお客さん)
「つま先、めっちゃキレイ。つま先バッチリ」
(魚見さん)
「アプローチの仕方は良かったと思います。最初にしっかり仕上げて、落ち着いて一か所一か所やっていくっていうのは、今まで磨いた中で一番良いと思います。これなら戦えると思いますね。これが本番で出来れば」
本番に向けて、視界は良好のようです。
迎えた大会本番、二人三脚で歩んできた、青年たちが手にした“モノ”とは―
空前の靴磨きブームの中、猛者ら31人が大会に参加
迎えた大会当日。「靴磨き選手権大会」は、靴磨き文化の発信と発展を目的に、5年前から開かれています。世の中は、空前の“靴磨きブーム”。全国各地からプロアマ問わず、その地で腕をふるう31人の靴磨き職人が参加し、技を競い、決勝進出を目指します。公平を期すために、靴とクリームなどは新品を使用し、光沢の強さやムラの無さ、ゴミや傷がついていないかなどが審査対象となります。
緊張で「全部、震えています」
いよいよ、初めての大舞台。
(藤井さん)
「緊張して、手が震えています」
(魚見さん)
「全部、震えています(笑)でも、全力を出すことに集中して、頑張りましょう」
“運命の10分間”カウントダウンが始まる―
ついに始まった1回戦。10分間で、左右どちらかの靴を磨きます。決められた時間内で、成果を出せるのでしょうか。
(司会)
「よーい、スタート」
二人とも落ち着いて、磨き上げていきます。
藤井さんが磨いた靴
途中、司会者から話しかけられる場面もありました。この時の受け答えも、採点の対象となります。
(司会)
「魚見さんは普段、どちらでやられているのですか?」
(魚見さん)
「私たちは京都で靴磨きをやっていまして、京都の大丸と、京都市役所のすぐ側に店舗を構えて、やっています」
残り3分を切り、ラストスパートをかけます。二人が磨いた靴のつま先は、綺麗に光っています。ちゃんと磨けているようですが、審査員は、どのような評価をするのでしょうか。
1回戦を1位通過した小川恭正さんが磨いた靴
2回戦に進むことができるのは、得点の上位12人。発表は、1位から順に行われます。
(司会)
「1回戦、第1位はエントリーナンバー6番、小川恭正さんです」
小川さんが磨いた靴は、一見すると違いがわかりませんが、光沢の精度や完成度の高さなどが抜群で、全ての項目で高得点を獲得しました。
1回戦を突破できず…
続々と2回戦進出者が決まっていく中、魚見さんと藤井さんの名前は、まだ呼ばれません。
そして…
(司会)
「ラスト12位です。エントリーナンバー26番、伊藤由里絵さん」
二人の挑戦は、終わりました。
「来年も出たい」打ちひしがれず、前を向く
(魚見さん)
「僕に関しては、本当に良くない出来だったなと思ったので、悔いが残りますね。応援してくださった方もいたので…。切り替えて、頑張りたいと思います」
(藤井さん)
「切り替えて、また練習して、来年も出たいと思います」
まさかの特別賞受賞に、驚きを隠せない二人
この後、12人で2回戦が行われ、決勝への切符を手にした6人が決まりました。
(司会)
「最後、特別賞を受賞された方を、発表させていただきたいと思います」
(阪急メンズ大阪・芝崎優輔バイヤー)
「今回の受賞者ですけれども、『革靴をはいた猫』の藤井さんに、お渡ししたいなと思います」
思わず顔を見合わせる、魚見さんと藤井さん。
(司会)
「藤井さん、おめでとうございます!藤井さん、どうぞこちらへ」
魚見さんに促され、藤井さんがステージへ。
“靴を大切に扱う姿”が評価された
(芝崎バイヤー)
「靴磨きって、靴を光らせるだけではなくて、それをどう扱うかっていうところで、それが形になって現れるものだと思います。藤井さんは、しっかりやられていたなというふうに感じましたので、今回この賞をお渡ししたいなと思います」
まさかの、特別賞受賞。挑戦する気持ちが、伝わったのかもしれません。
(藤井さん)
「賞を貰ったのが初めてなので、本当に貰えるとは思わなかったので、嬉しかったです」
藤井さんに盛大な拍手を
ステージを下りた藤井さん、すぐさま魚見さんの元へ向かいます。
(魚見さん)
「よくチャレンジしたと思います。やるかやらないか選んでいいよって言った中でチャレンジしてくれて、色んな方に影響を与えているところは多分にあると思いますし、僕も勇気を貰ってやっているので、本当に彼に救われた気分です」
チャレンジ精神を忘れず、今日も靴と心を磨く
(藤井さん)
「特別賞を貰ったのが、ビックリしました。チャレンジが一番大切だと思います」
靴磨きを通して知ったのは、挑戦することの大切さ。磨かれて輝く靴のように、諦めないかぎり、可能性は広がっていきます。
(「かんさい情報ネットten.」2023年10月2日放送)
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