2月11日(金)
ニッポンの農家を救う! 料金は“前払い”? アプリで人手不足解消!? 時代に合わせた“最先端の取り組み”とは?
日本国内で主に農業を仕事にしている人口は、2000年~2020年までの20年間に100万人余り減少しています。高齢化や後継者不足などが原因で今後も減少が続くと予想されていますが、この危機を乗り越えようと今の“時代に合わせた新たな取り組み”が次々と始まっています。農家を支える取り組みの最前線を取材しました。
地域ぐるみで農家を応援!“持続可能”な農業とは?
「ナチュラリズムファーム」大皿一寿さん(画面右)・読売テレビ・諸國沙代子アナウンサー(画面左)
読売テレビ・諸國沙代子アナウンサーが訪れたのは、兵庫県神戸市西区で有機野菜を栽培する「ナチュラリズムファーム」。こちらの大皿一寿さんは、少し変わった方法で野菜を販売しているそうです。
少し変わった方法で野菜を販売している
収穫した野菜の仕分け作業をしているところにお客さんが訪ねてきました。スタッフがたくさんの野菜が入った紙袋を手渡していますが、これは?
(利用者)
「毎週取りに来ています。お金は一年分をお支払いしています。」
1年分の代金を先払いしているとは、どういうことなのでしょうか?
(ナチュラリズムファーム 大皿一寿さん)
「この野菜のセットは、『CSA』という取り組みで販売して届けています。」
地域が支える農業 「CSA」の仕組み
CSA(Community Supported Agriculture)は、「地域支援型農業」と呼ばれる取り組みです。1980年代にアメリカで始まり、欧米を中心に広がりをみせる中、日本国内では現在10か所ほどで行われています。一般的にCSAは消費者が前もって数ヶ月から1年分の野菜の代金を農家に支払い、育った野菜を定期的に受け取る仕組みです。
年間約50種類の野菜を栽培
5年前に有機農家グループ「BIO CREATORS」を立ち上げた大皿さん。カブラやベビーリーフなど、年間約50種類の野菜を育てていますが、他の3軒の農家と共同で毎回10種類の有機野菜を利用者に届けています。気になるお値段は?
(大皿さん)
「10週で2万円なので、この1袋は2千円です。野菜1個が大体200円くらい。流通の工程が入らない直接の取引なので、その分安く提供できます。利用者もお得ですし農業者もそれだけ高く買ってもらえる、そこは双方にとってすごくメリットだと思います。」
ナチュラリズムファーム 大皿一寿さん
大皿さんは販路開拓のため様々なイベントに参加し、野菜をPRしています。今ではグループ全体で約100人の利用者に有機野菜を届けています。そんな大皿さんがCSAを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
(大皿さん)
「直売所だと価格の競争をしたり、買ってもらう努力が大変だった。野菜が残って苦労しているときに、このCSAの仕組みを知りました。」
豊作の場合「値下げ競争」になってしまう
農業の大きな課題のひとつが「値下げ競争」です。豊作になると農家は野菜を売り切ることを優先し「値下げ競争」になってしまう現状があります。利益が上がらず若い農家が農業をあきらめる一因になっているそうです。
(大皿さん)
「今年だと白菜と大根が大豊作なので出荷できずに畑に戻したりするんですけど、出荷したら出荷するだけ赤字になるんです。そういう仕事っておかしいじゃないですか。価格競争がない、安定した価格で買ってもらえるのが、このCSAの良さだと思います。」
(諸國アナウンサー)
「実際に経営は安定しましたか?」
(大皿さん)
「はい、先にお金をもらって運営できたらすごいラクになりました。資金繰りの面で助かっているのと、今月いくら収入があるかが把握できるので、すごく計画が立てやすいです。」
CSA導入後、農地が6倍に拡大した
CSAの導入で経営が安定した大皿さん。農地も始める前と比べ6倍に拡大したそうです。グループの他のメンバーはどう感じているのでしょうか?
(なちゅらすふぁーむ 石野武さん)
「消費者からしたら農家の顔が見えることが1番だと思うのですが、僕たち生産者も消費者の顔が直接見えるということは力が入るので、そこが1番のメリットだと思っています。」
農家に様々なメリットがある「CSA」ですが、ここで疑問が…。
(諸國アナウンサー)
「農作物は天候とか自然現象に影響されると思うんですけど?」
(大皿さん)
「不作の時は農家だけのリスクではく“消費者も一緒にリスク負いましょう”ということで、不作の時はあまり野菜が届きませんよ、下手したら全然届きませんよということになっています。前払いしているのにも関わらず。」
一般的にCSAでは、仮に不作となって野菜が届けられなくなった場合、すでに料金を支払っている利用者への補償は一切ないんです。この仕組みについて利用者は?
CSA歴4年という利用者
(利用者)
「農家さんだけが天候でリスクを負うのではなく、おいしいものを食べたいなと思ったら野菜を作っている農家さんを応援したいという気持ちの方が大きいです。」
利用者は、リスクを受け入れた上で農家を支えているんです。
(大皿さん)
「僕たちは10種類を必死で集めます。約束に応えていくのが農業のモチベーションにもなっていて、僕たちは今まで『不作で届きませんでした』っていう言い訳は1回もしていないです。」
複数の店舗にピックアップステーションを設置している
大皿さんのグループでは、複数の店などに協力してもらい神戸市内などに利用者が野菜を受け取る場所を設置しています。兵庫県神戸市元町にある食料品店、「NEIGHBOR FOOD」もそのひとつです。
(NEIGHBOR FOOD 店主 安藤美保さん)
「自分が農作業をやってすごく大変だった経験があるので、街中にいる私たちが農家さんにできることは“消費者と農家さんをつなぐ”ことが私たちのお店にできることではないかと思っています。」
通販などを展開する「フェリシモ」にも野菜を届ける
さらに、大皿さんが野菜を届けたのは通販などを展開する神戸市内の「フェリシモ」。CSAの取り組みに賛同し複数の社員が利用しています。
(CSA利用歴3年のフェリシモ社員)
「どんどん農作地が少なくなっている状況があったので消費者としてCSAを利用して応援できればいいなと思い始めました。『届いたお野菜美味しかったよね』とかコミュニケーションが生まれるのが思った以上に楽しくて、美味しいものを受け取りながらより楽しめるというのも大きなメリットになっています。」
神戸市農水産課 山田隆大さん
地元の自治体も、取り組みに期待を寄せています。
(神戸市農水産課 山田隆大さん)
「農業をやる人が減っているので、これまでのように『地元のものを食べましょう』以上に生産者の顔が見えたりとか、農業が好きになってくれるファンを作ってもらうという意味では消費者と生産者の距離が近いCSAが広がっていけばいいなと思います。」
地域ぐるみで農家を応援することで、“持続可能”な農業が実現ができるということです。
“今どきのサービス”を利用して農家の悩みを解決!
人材不足を解決する“今どきのサービス”とは?
続いて向かったのは兵庫県三木市のイチゴ農家。こちらでは、いま多くの農家が抱える「人材不足」の悩みを解決してくれる“今どきのサービス”を利用しているそうです。それがー
(たにい農園 谷井啓人さん)
「携帯を使ってできるマッチングアプリがあります。」
(諸國アナウンサー)
「マッチングアプリですか?」
(谷井さん)
「農家と一般の方をあわせてくれるっていう。」
“農家”と“農業をやりたい人”とをつなぐマッチングアプリ 「農mers」
谷井さんが利用しているのは、“農家”と“農業をやりたい人”とをつなぐマッチングアプリ 「農mers」。 2019年にサービスを開始しました。
(谷井さん)
「このアプリに僕たち農家がしてほしい仕事や時間などの条件を入れて、それに興味を持ってくれた人が応募してくれる。」
(諸國アナウンサー)
「スマホひとつでできちゃうということですか?」
(谷井さん)
「そうです。スマホひとつでできます。」
「農mers」の働き手の登録者の推移
2020年1月時点の働き手の登録者数は1300人程度でしたが、現在の登録者は16000人以上に。農家の登録数も2020年1月時点では約600でしたが2022年1月時点では約4000人と6倍以上に増え、これまで500件以上のマッチングに成功したそうです。
(谷井さん)
「今までだったらハローワークとかに僕たちが行き書類を書いたりしていたが、僕らはなかなか時間がないのでスマホで簡単にできるので『農mers』を使わせてもらいました。」
なかなか人材が集まらないことから、2年前に利用を始めた谷井さん。これまでアプリを通じて4人のスタッフを採用しました。
たにい農園 谷井啓人さん(画面左) 諸國アナウンサー(画面右)
(諸國アナウンサー)
「これまではどういう方が応募してこられましたか?」
(谷井さん)
「普通に会社で勤めている事務職や営業をされている方。仕事がテレワークになったりして空いた時間ができてしまったりとか、そういう時に来てもらえるようになりました。」
谷井さんのもとで働く増井邦彦さんの前職はIT企業の営業職で農業は未経験だったといいます。不安はなかったのでしょうか。
たにい農園で働く 増井邦彦さん
(増井さん)
「自分のプロフィールの中に『農業スキル』というのがあって、農業未経験という事をあらかじめ伝えていたので、経験がないことに対して『全然大丈夫ですよ』と。『車の免許さえあれば、大丈夫ですよ』ということだったので、凄く安心できました。」
農家にとっても、応募者と事前にやりとりできることはメリットが大きいといいます。
(谷井さん)
「今までは面接をして、そこで初めてわかることが多かったですけど、チャットの段階で相手のことが全部わかってしまうのでミスマッチになることは無くなりました。」
(諸國アナウンサー)
「ミスマッチがなくなって二度手間もなくなって、効率的に人材募集ができるんですね。」
こちらのアプリ。実は農家も応募する人も利用料金は無料なんです。そこにはある狙いがー
農mers担当者 マイナビ農業 黒壁勇人さん
(農mers担当者 マイナビ農業 黒壁勇人さん)
「マイナビ農業は農業全体の振興や農業をビジネスにする様々なサービスでマネタイズ(収益を上げる)を行っているので、スマホひとつで気軽にマッチングできるというところでハードルが下がり農業人口を増やすことができるというとこで始めています。」
(たにい農園 増井さん)
「ここで農業の大変さとか、どういうところに気を付けなければいけないのかを勉強させてもらい、将来の自分の生活スタイルの中に取り入れていきたいなと思います。」
(諸國アナウンサー)
「働きながらノウハウを教えてもらえるっていうのはwin-winですね。」
(増井さん)
「そうですね!」
ミスマッチを減らすマッチングは、効率的な人材募集が可能になり、農家も働き手もwin-winな関係が築けているようです。生き残りをかけるニッポンの農家にとって“時代に合わせた取り組み”が救世主になっているのです。
(読売テレビ 「かんさい情報ネットten.」 2022年2月11日放送)
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