3月11日(金)
【南海トラフ】最新技術で「見える化」 内陸にも到達する“河川津波”
関西にも必ず来ると予想されている「南海トラフ巨大地震」。東日本大震災では、沿岸部だけでなく海から離れた内陸部でも津波が猛威をふるいました。それが、“海から川へとさかのぼる”「河川津波」です。最新の研究から見えてきた“水の都大阪”を襲うその脅威から、私たちはどう身を守るべきか、ゲキ追しました。
(かんさい情報ネットten. 2022年3月11日放送)
【特集】“南海トラフ巨大地震” 内陸にも到達する“河川津波”を 最新技術で「見える化」 水の都大阪を襲う脅威から身を守るための備えとは?
都市部を襲う津波に備えて
地震のもうひとつの危険、「津波」。東日本大震災では沿岸部だけでなく内陸部でも津波が猛威を振るいました。それが、海から川へとさかのぼる“河川津波”です。今後必ず発生すると予測されている南海トラフ巨大地震。激しい揺れのあとには津波が押し寄せます。その高さは10メートルをゆうに超えるところも。東日本大震災を教訓に津波を予測し、備えるための研究が進められています。最新の研究から見えてきた、水の都大阪を襲うその脅威から私たちはどう身を守るべきか、取材しました。
東日本大震災でも発生した“河川津波”とは?
宮城・気仙沼市に押し寄せる黒い濁流
11年前の東日本大震災。黒く濁った激流。その勢いはすさまじくあらゆるものを飲み込んでいきます。地震の発生直後、宮城県東松島市では住民が“ある現象”を目撃していました。
鳴瀬川 通常は上流から下流へ流れるが
(東松島市野蒜地区 鈴木俊樹さん)
「普通は上流からこっちに静かに流れるんですけど逆に波打って“遡上している”ような」
成瀬川 震災後は下流から上流へ逆流
一級河川の鳴瀬川。画面右の下流から左側の上流へと流れが逆流していました。津波が川をさかのぼる“河川津波”という現象です。東日本大震災では宮城県など175の河川で津波の遡上が確認されました。中には河口から49キロ離れた場所まで津波がさかのぼっていたケースもありました。
最新技術で津波を見える化
日本近海の津波観測地点を増加
東日本大震災以降、日本近海では津波の監視が強化されています。日本海溝や和歌山県沖を中心に観測地点を1.8倍に増やしています。富士通などはこの観測データを世界一のスーパーコンピュータ「富岳」に学習させ、市街地に押し寄せる津波をわずか1秒で詳細に予測できるAI=人工知能の開発に成功。これで、リアルタイムの津波予測が可能になりました。
神奈川・川崎市へ流れ込む津波のシミュレーション
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「こちらは富岳で実施しましたシミュレーションになっています」
富岳による詳細なシミュレーションで明らかになったのは、「都市部ならではの津波の脅威」です。これは南海トラフ巨大地震で神奈川県川崎市に流れ込む津波のシミュレーションです。青色が街に押し寄せる津波。津波は海から川へ、
そして、海抜が低い場所から街に入り込んでいきます。その後は道路をつたって、様々な方向に流れ込んでいきます。
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「建物の間で“縮流”と言って、津波が速くなって特に道路のところを、先行的に進んでいくところが再現可能になっています」
どこから来るかわからない津波
これは東日本大震災で、宮城県内を走っていた車からの映像です。河口からはおよそ1キロ離れていますが…画面左から津波が現れます。次の瞬間、車の背後からも濁流が。都市部では、津波はあらゆる道路をつたって進むため、どこから来るかわからない状況に陥ります。
津波の水位もより正確に
津波の水位を想定
さらに明らかになったのは「これまでの想定よりも浸水の水位が高くなる危険性」です。右側は内閣府が公表している10メートル四方の浸水想定。左側は富岳のシミュレーションをもとにした想定でより細かい3メートル四方の浸水想定です。比べてみると、左側は3メートル以上の浸水を示す赤色が濃く、多くなっていることがわかります。富岳のシミュレーションでは、青色で示されている建物1棟1棟の構造も考慮されているため、建物の間を進む津波の水位がより正確にわかり、これまでの想定より高くなりました。
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「建物が多くございますと、浸水する時に障害物となりますので(津波が街に浸水した)周辺のところが強くなる傾向が強いです」
津波の高さは、公表されている想定を上回ることもあることを忘れてはいけません。
大阪に津波が押し寄せたら?
バーチャル映像を見る中谷アナウンサー(左) 関西大学石垣泰輔教授(右)
では、大阪に津波が押し寄せた場合、街はどうなるのか。バーチャルの視覚情報を重ねる最新のAR=拡張現実の技術を使って梅田の街を見てみました。
(中谷しのぶアナウンサー)
「うわ、すごい光景ですね。1mくらいの想定ですがこうなると人も動けなくなりますね」
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「人が歩くのは危険になります」
梅田に津波が押し寄せたら…
内閣府の分析によると、津波の浸水が1mを超えた場合、人が立っていることはほぼ不可能です。金属やコンクリートなどの漂流物が混ざる濁流に流され、計算上の致死率は100%です。都市部での津波に詳しい関西大学の石垣泰輔教授は、その威力は計り知れないと指摘します。
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「(水深)60cmくらいで乗用車は浮きだします。流れがあると浮いて流れる。コントロールがきかないので流れの方向にどんどん流れていく」
大阪で被害拡大の恐れ
川から街に流れ込む津波は大阪ならではの都市構造で、さらに被害を拡大させる恐れもあります。
(中谷しのぶアナウンサー)
「ビルの間を複雑に押し寄せてくる河川津波は、あっという間に地下街に流れ込むことが想定されています」
河川津波はあっという間に地下街へ
公的なものだけで梅田周辺におよそ200か所もある地下街の入り口に加え、津波は、地下鉄の地下進入口などあらゆるところから流れ込みます。わずか20分で地下空間の半分以上が浸水するといいます。
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「低いところに水が流れて集まってきますので、大量の水がトンネルを通じて梅田の地下街まで到達する低いところにいるんだということを事前に知っていれば、なるべく逃げる高いところに避難することが重要」
水の都大阪 津波被害拡大の恐れとは?
向きを変える川は危険 大阪・港区
川に囲まれた「水の都大阪」。それは同時に河川津波の危険性が高い地形でもあります。
(中谷しのぶアナウンサー)
「津波が川を遡って内陸に入り込む入り口として入り込む場所として危険とされている1つがこのように川が向きを変えている場所です」
大阪市港区のこの場所は川が直角に曲がっています。こうした場所は大阪に数多く存在します。
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「遠心力の影響で水位が外側が高くなります。ここみたいに直角に曲がっているところはぶつかってさらに水位が高くなる」
海抜0メートル地帯の多い大阪
さらに大阪は海抜0メートル地帯が多く、一度水に浸かればなかなか引きません。もちろん浸水を防ぐため、堤防は整備されています。しかし…
津波がきたとき堤防は?
(中谷しのぶアナウンサー)
「川沿いに堤防もありますが津波がきたとき堤防は役割を果たせる?」
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「地震が起きると液状化現象で堤防が沈下する最悪の場合は倒れる。倒れるとそこから一気に水が入ってくる非常に危険」
広範囲で液状化の危険
実は、大阪はもともと地盤がやわらかく沿岸部だけでなく広い範囲で液状化の危険があります。大阪府でもこのリスクは把握していて堤防の地盤改良に取り組んでいるものの効果は未知数です。
被災した時の避難場所は?
梅田から上町台地まではおよそ3キロ
ハード面の対策だけでは限界があり、命を守るために避難は欠かせません。しかし、たとえば梅田にいるときに被災した場合、最も近い”高台”は上町台地。およそ3キロもの距離があります。
津波避難ビル
被災時の混乱の中でスムーズな避難が難しい場合は、自治体が定めている「津波避難ビル」に避難するのも一手です。
(関西大学環境都市工学部 石垣泰輔教授)
「地震が起きて大阪湾に(津波が)やってくるのは2時間弱と言われていますからその間に逃げる避難することが非常に重要」
東日本大震災を教訓に、最新技術で正しい避難を目指して
限られた時間の中で押し寄せる津波からどのように逃げるか。最新の技術が、近い将来、その答えを出すかもしれません。
アプリで津波の予測を通知
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「この地点にまもなく津波が来ますので避難を開始します」
富士通が開発を進めるスマートフォン用アプリ。現在、気象庁の津波の到達予測は海岸線に来たときの数値で、海から離れた内陸部にいる場合、その場所に津波が来るかどうかはわかりません。しかし、このアプリでは、いつ・どこに・どのくらいの高さの津波が到達するのか、「富岳」が予測したデータを瞬時に知らせてくれます。
津波の予測はどんどん変わる
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「(♪ぴろーん) なるべく津波から遠い方向に避難する。今切り替わりましたけど少し(津波の予測到達範囲が)広がったんですね。そういう予測はどんどん変わっていくものなので、なるべくここがぎりぎり安全なのでここは大丈夫だということではなくてより安全な方向に移動する必要がある」
家族や友人の位置情報も
さらに、事前に登録した家族や友人の位置情報も確認することができます。万一、逃げ遅れた人がいると…
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「村上さんがまだ逃げていないということなので今から村上さんに呼びかけます。村上さん逃げてください」
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「特に周りの避難行動がその人の避難行動のトリガーになったということは実際3.11でも見られていることですのでそういったところをこういう技術を使ってより多くの人にシェアできるような状況にしていくということを目標にしています」
「奇跡をシステムに」 富士通 大石裕介主席研究員
このアプリはまだ試作段階で、気象庁の許可など実用化に向けたハードルは残っていますが、研究者を突き動かすのは11年前のあの日の教訓です。
(富士通研究本部 大石裕介主席研究員)
「3.11の際には(うまく避難したことを)“奇跡”ですとか、そのように呼ばれていたわけですけど、“奇跡”というものを次の機会には、一般的に実際どこでもおきるような“システム”に変えていくことが重要な課題であると考えています」
都市を襲う河川津波。必ずやってくる“南海トラフ巨大地震”に備え、1人1人が今から備えることが必要です。
(かんさい情報ネットten. 2022年3月11日放送)
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