大阪・ミナミの通称「グリ下」 若者が求める“居場所”とは… 困ったときに頼ることができる、自分らしくいられる場所は作れるのか

大阪・ミナミにある通称「グリ下」には、2021年の夏以降、若者たちが集まり続けています。パパ活、貧困、虐待…様々な事情を抱えた彼らが求めている「居場所」とは何か…。困ったときに頼ることができる場所、自分らしくいられる場所、それは「グリ下」以外でも作ることができるのか、ゲキ追しました。
(かんさい情報ネットten. 2023年9月12日放送)

【特集】大阪・ミナミ“グリ下”に集う事情を抱えた若者たち 悪い大人に利用され、時には犯罪の加害者に…彼らの求める「居場所」とは?支援する大人に密着

大阪・ミナミ、観光名所の光と闇

 道頓堀川にかかる戎橋から見える、大阪・ミナミのシンボル「道頓堀グリコサイン」。観光客も多く賑やかな場所ですが、2021年の夏以降、“グリ下”と呼ばれる橋の下に居場所のない若者が集まり続けています。親や大人を信じられなくなった若者と、彼らのSOSに耳を傾け、時には本気でぶつかりながら支援をする大人に密着しました。

なぜ、“グリ下”に?被害者にも加害者にもなり得る若者の貧困

犯罪の温床“グリ下”…そこに集う若者たちは、何を求めているのか

 大阪・道頓堀の観光名所は、橋の「上」。しかし、“彼ら”が集まるのは橋の「下」…通称“グリ下”です。

Q.ここが安心なのは、なぜですか?
(10代少女)
「みんながいるから」
(10代少女)
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

 そう言いながら10代の少女たちは、お酒を飲んだりタバコを吸ったり…。近年、犯罪の温床にもなっている“グリ下”。若者たちは、ここ以外の居場所を見つけることができるのでしょうか。

元受刑者の更生を支援する草刈健太郎社長

 2023年7月、“グリ下”の近くに無料の「占いブース」が設置されました。企画したのは、元受刑者の更生支援を行う草刈健太郎社長(50)です。

(カンサイ建装工業・草刈健太郎社長)
「背景が分からないと、解決策が見いだせないじゃないですか。気楽に、若い子に相談しに来てもらえるブースを、一回やろうかなと思って」

 占いブースの中では、若い女性たちが嬉しそうに、占い師に相談していました。

(占い師)
「何を見てほしい?」
(10代少女)
「全部見てほしいなぁ(笑)いや、恋愛で」

「パパ活やめたい」短冊に書かれた切実な願い

 “グリ下”にいる少女たちが、大人とのデートの見返りに金銭を受け取る“パパ活”や売春に手を染めてしまうケースは、後を絶ちません。

(草刈社長)
「“グリ下”の女の子の所に、おっさんが体を買いに来る…そのおっさんが悪いと思うけどな、俺は。それは、あかんやろ。でも、そうしないと、若い子らがご飯を食べられないっていう現状もあるっていうことなんです」

犯罪者が“グリ下”の若者を利用することも

 “グリ下”で集まる中で、犯罪に巻き込まれるケースもあります。例えば2023年4月、男性に硫酸をかけて大ケガをさせたとして、指示役の男らが検挙された事件。関係者などによると、男らは“グリ下”に集まっていた少年を実行役として募り、報酬50万円を渡していたといいます。貧しさ故に、被害者にも加害者にもなり得るのです。

「支えてやれんかった」と後悔も…それぞれの形で支援する大人たち

経済的に自立できるよう仕事を紹介する

 職に就き、経済的に自立すれば、悪循環を断ち切れるのではないか―。少年少女の非行問題などを扱う田村健一弁護士は、地元企業と連携して、“グリ下”にいた若者に仕事を紹介しています。

 この日は、約半年間“グリ下”に通っていたという駿さん(21)を連れて、お好み焼き店「千房」の面接に来ていました。駿さんは大学受験に2度失敗し、心の拠り所を求める中で、“グリ下”に辿り着いたといいます。面接は、中井貫二社長(47)が直々に。

中井社長が駿さんの想いを聞き出す

(千房・中井貫ニ社長)
「何のために、誰のために働きますか?」
(駿さん)
「飲食でいったら、お客さんとか」
(中井社長)
「清潔感がある身だしなみを、我々はとても大切にしています。髪の毛の色は、直していただけますか?」
(駿さん)
「はい、そこは大丈夫です」

“グリ下”から抜け出し、新しい道で奮闘

 無事、アルバイトに採用された駿さん。“グリ下”に通いながら、社会の役に立ちたいという気持ちも、どこかにありました。この取り組みで、今では駿さん以外にも10人を超える若者が、新たな職に就いたといいます。

一歩ずつ自立への道を歩み始めた

 仕事を終えた駿さんが、一服していました。

Q.働いたという実感は、ありますか?
(駿さん)
「やっぱり体を動かすのは、楽しいなって思いました」

Q.働いた後のタバコは、どうですか?
(駿さん)
「おいしいですね(笑)めちゃくちゃおいしいです」

 週に3日働き、少しずつ自分の足で立とうとしています。

「絶対に困っていると思って」居場所なき若者に手を差し伸べる

 兵庫県尼崎市で会社を営む松本和也社長は、日頃から草刈社長と共に、居場所がない若者を支援しています。この日、松本社長が草刈社長に紹介していたのは、19歳のコウタさん(仮名)。高校中退後、家出をしてから転々としていましたが、貯金は底をつき、今夜、泊まる場所もないといいます。

(松本商会・松本和也社長)
「“グリ下”を通ったら、彼が寝転がっていたんですよ。僕はそれを見て、この子は絶対に困っていると思って」
(草刈社長)
「何を悩んでんねん?全てか」
(コウタさん)
「そうっすね」

“グリ下”にいる若者の話を親身に聞く

 草刈社長が親身になって、コウタさんの話を聞きます。

(草刈社長)
「マクドナルドで寝ていたら怒られたから、“グリ下”やったらいけると思ったん?親は、おらへんの?」
(コウタさん)
「もう連絡取れないです」
(草刈社長)
「なんで?」
(コウタさん)
「あんまり親のこと好きじゃない」
(草刈社長)
「そうなん。何が嫌いなん?」
(コウタさん)
「稼いだ金、全部家に入れろって言うから」
(草刈社長)
「何も自分に与えてくれへんから、一人で生きていこうと思ったんやな。でも、一人で生きていくのも大変やぞ」
(コウタさん)
「自分で何かしたい」
(草刈社長)
「将来、商売やりたいんやな。ええやんか。やりたいんやったら、やったらええやん。でも、そのためには、お金がいるからな」

 松本社長は、草刈社長にコウタさんを託され、会社の寮へ連れて帰ることにしました。

「支えてやれんかった」後悔が残る

 しかし―。

(松本社長)
「あの日の晩、僕の会社の寮に連れて帰って、何人か社員がいるので、みんなで乾杯して、これから仲良くやっていこうってやったんですけど、2日後の深夜に、勝手に出て行ってしまいました。支えてやれんかったなっていうのが、自分の弱点なのかなと思いました。一緒に帰ろうって連れて帰ったけど、結局そこから2日ぐらいで失踪しちゃったので。その2日間に、もうちょっと寄り添っておけば、失踪しなかったんじゃないかなと」

葛藤抱える親、関心ない親…“グリ下”に集まる子どもの親たち

「どうにかしてあげたくて、口出しが多くなり…」子どもとの接し方に後悔

 大人の下を離れ、“グリ下”に行き着く背景には、何があるのでしょうか。17歳の息子が“グリ下”に通っていたという母親は、子どもとの接し方に後悔があるといいます。

(“グリ下”に息子がいた母親)
「息子が中学3年生のときに、ちょっと不登校の時期がありました。それを何とかしようと思って、受験もあるし、どうにかしてあげたくて、口出しがすごく多くなってしまって…今思うと、息子が家に居づらい環境を作ってしまっていたと思います」

 新型コロナウイルスの影響で仕事が減り、家計が苦しくなり、大人も追い詰められました。減っていったのは、息子との時間でした。

(“グリ下”に息子がいた母親)
「居場所を作ってあげないといけない大人に、余裕がなくなりすぎていた時期というのが、この2~3年だったと思います」

関心示さず、中学生にタバコ公認する親も

 子どもに対して葛藤を抱える親がいる一方で、7月に行われた大阪府警の一斉補導でみえたのは、子どもを手放してしまった親の存在です。捜査員たちに話を聞かれていたのは、14歳の女子中学生。

(捜査員)
「ここには、よく来るの?」
(女子中学生)
「いや、久々に来たかも」
(捜査員)
「お母さんは何をしてはる?」
(女子中学生)
「今は生活保護を受けています」

 女子中学生は、母親に電話します。

(女子中学生)
―「もしもし?警察~ははは(笑)」
(女子中学生の母親)
―「警察が、何?」
(女子中学生)
―「警察が、親に電話してやって(笑)」
(女子中学生の母親)
―「また⁉」

女子中学生のバッグからはタバコが

 中学生の彼女は、学校にほとんど行っていません。

(捜査員)
「一日に、どれぐらい吸うの?」
(女子中学生)
「一日1箱」
(捜査員)
「一日1箱⁉吸いすぎちゃいますか?」
(女子中学生)
「ストレスでやってて、リスカの代わりに、ママも許してくれてる。『自傷よりはマシやろ』みたいな」

 親の関心の低さが、子どもを“グリ下”へ向かわせているのかもしれません。

大人の熱意で“グリ下”を抜け出せた若者も…“家族”とは何か

“グリ下”に通っていた頃の真綺さん

 中には、“グリ下”から抜け出せた若者もいます。松本社長の下で働く真綺(まさき)さん(20)は、家に居場所がなく、心の拠り所がなかったため、半年ほど“グリ下”に通っていました。 その頃は、大人のことは信用できませんでした。

Q.ご両親のことを聞いても、大丈夫ですか?
(真綺さん)
「お父さんが3回ぐらい変わっていて、トラウマがあるぐらいバチバチにしばかれて…お母さんが仕事から帰ってきたら、しばかれるの終わり、みたいな」

ご飯や弁当を作ってもらえず、虐待も…

(真綺さん)
「僕3人兄弟なんですけど、小学校のときから妹と弟と、自分たちでご飯が作れないから、ラーメン鉢に卵かけご飯を作って食べたり、ほんまにそういう環境で。お弁当も作ってもらえなくて、恥ずかしくないように、学校に空の弁当箱を持っていったり…そんなことをしたぐらい、あんまり良い環境とはいえませんでした」

真綺さんのため、両親と本気で言い合いに

 松本社長は、真綺さんが過ごしてきた環境を知り、放っておけませんでした。

(松本社長)
「家で、お父さんとお母さんとうまくいってないと。あと、押入れが部屋やったらしいんですよ。部屋がなくて、ずっと押入れで過ごしていたみたいで、それはヤバいやろって」
(真綺さん)
「結局、帰る所ないですからね。親もほぼ、松本さんに“お願いします状態”やし」

涙で交わした約束「俺が親代わりになったる、帰ろう」

(松本社長)
「真綺の両親と、めちゃめちゃ言い合いしました。僕と真綺と真綺の両親と4人でよくご飯行って、話して、でも向こうは、『別に、この子はええねん。家に帰ってこなくて、ええねん』って言うから、『なんで、そんな息子と向き合わんねん!』って、僕も感情的になってしまって。それで多分、そのときに言いました。『真綺、もうええわ。俺が親代わりになるわ、帰ろう』って。そしたら、真綺が泣きよったんですよ。僕も、ちょっと泣きましたけど」

“グリ下”以外に居場所を作った松本社長の熱意

 親代わりになることは難しく、ぶつかって、真綺さんが家出をしたこともあります。それでも、帰ってくる度、迎え入れました。

(真綺さん)
「松本社長は、ほんまに“お父さん”って感じもするし、年のめちゃくちゃ離れた“兄貴”って感じもするし。僕はもう、こっちのほうが家族やと思っています」

 困ったときに、頼ることができる場所。自分らしくいられる場所。それは、“グリ下”以外でも作ることはできます。

(「かんさい情報ネットten.」2023年9月12日放送)

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