11月1日(火)
9歳でセンター試験問題正解!超繊細な絵画!11歳で高校生に!一方でトラブルも…生まれつき優れた才能持つ“ギフテッド”を取り巻く現状
生まれつき優れた才能を持つ子どもを指す“ギフテッド”。いまや、クラスに1人はいるとされています。しかしその中には、孤独を感じ、息苦しい学校生活を送っている子も数多くいます。“ギフテッド”を取り巻く現状と、教育現場の課題を追いました。
9歳でセンター試験問題正解!11歳で高校生に!一方で「居場所がない」、「1日中演技して生活」…生まれつき優れた才能持つ“ギフテッド”を取り巻く現状と課題
生まれつき優れた才能を持つ子どもを指す“ギフテッド”。いまや、クラスに1人はいるとされますが、実は、孤独を感じ、息苦しい学校生活を送っている子どもも数多くいるといいます。そして、ギフテッドにまつわる教育現場の課題も…ギフテッドを取り巻く現状と子どもたちの思いを取材しました。
たくや君・9歳―難関中学レベルの問題を解く裏で、増えた友達とのトラブル

小学4年生のたくや君はIQ149
たくや君は9歳の小学4年生です。学校から帰ってすぐ手にしたのは、何やら難しそうな参考書でした。
(たくや君の母親)
「たくやが、宝くじの一等賞が当たる確率が知りたいからっていうことで、本屋さんに行って、パラパラって見ていた時に確率の問題があったので、『ママこれ買って』って言われたのが『実用数学技能検定2級の問題集』でした」
たくや君は、算数、中でも図形の問題が大好きだといいます。そして、小学4年生では到底解けそうもない問題集の数々。過去のセンター試験の問題集もありました。たくや君は学校から帰ると、そういった問題集を母親と一緒に解いていきます。

たくや君が解いていた難関中学レベルの図形問題
これは、難関中学受験レベルの問題です。青の部分が45平方センチメートルで、全体の面積を求めるのですが、たくや君は、ひとたび問題を解き始めると止まりません。彼は1年前に、ギフテッドと診断されました。ギフテッドとは、“何らかの分野で優れた才能を持つ”子どものこと。生まれつき高い知能や、芸術的な才能を持ち合わせています。突出したギフテッドとしては、白熱電球を発明したエジソンや、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツらが有名です。

高いIQを持つ人のみが所属できるグループのメンバー
ギフテッドはIQなどの数値で診断されるわけではないのですが、たくや君のIQは149で、一般の平均のおよそ1.5倍です。「JAPAN MENSA」という高いIQを持つメンバーがそろう国際グループに所属しています。そんなたくや君ですが、実は順風満帆な学校生活を送ってきたわけではありません。

たくや君の母親
(たくや君の母親)
「たくやは、授業中に立ち歩いたりするのですが、それは、たくやにとっては授業内容が易しくて、退屈で面白くなくて、何か自分なりに面白いことを見つけようと全然違うことをしたり、板書も写さない。字も丁寧に書けますが、書かない。そういうことをいつも言われていて、自分の納得しないことはやろうとしないので、先生の指示通りにもしない。そんな様子を周りのクラスメイトからも見ていたので、クラスメイトからも注意されるようになり、友達とのトラブルやけんかが増えるようになりました」
ケイコさん・15歳―特技は“写真のような”絵、でも「居場所がない」学校

ケイコさんが書いた“写真のような”絵
これは、猫の写真・・・ではなく、人が描いた絵です。一本一本の線が、動物の毛並みの細やかさを表現しています。この絵を描いたのは、ケイコさん(仮名・15)です。60種類以上の色鉛筆を使って描いています。母親によると、何事にも没頭しがちな性格だといいます。
(ケイコさんの母親)
「ケイコは、小さい時から細部に対してすごく突き詰めるので、小学校3年生で版画を作ったときに、ものすごく細かい見事なものを作ったんです。でも、そんなの時間内で終わらせてくれないとだめだ、って学校の先生には言われて。結局この子は困った子だ、ってなってしまいました」

ケイコさんは小学校4年生で不登校に
徹底的に、深く掘り下げたくなるのは、ギフテッドがもつ特徴のひとつです。しかし、学校ではそれを理解してもらえず、ケイコさんは小学校4年生で不登校になり、現在も学校に行くことができていません。
(ケイコさんの母親)
「ケイコも本当は学校に行きたいんですよ、今でも行きたい。聞く耳をまず持っていただけなかった。できないところがあるからと言って、全部がダメみたいな感じになる。ダメとはおっしゃられないですけど、結局は居場所がないんです」
土居綾美さん・25歳―幼少期は「1日演技して生活」、いまは「生きづらさ」を研究

神戸大学大学院でギフテッドの研究をする土居綾美さん
このように、日本の教育現場では、ギフテッドに対する理解が足りず、居場所を失ってしまう子どもたちが後を絶ちません。
土居綾美さん(25)は現在、神戸大学大学院で、ギフテッドの研究をしています。彼女自身もまた、居場所のない幼少期を過ごした1人です。
(土居さん)
「まず授業を受けるのが結構しんどかった。教科書に書いてあることと同じように授業が進んでいくという中で、教科書を見ればわかるのに、それが全く同じ形で流れてくるのがしんどいんです。あとは、友人関係で同年代の子どもたちと接するにあたって、みんなは楽しくお話をしているけど、その輪の中に自然体で自分が入っていけない。感覚としては年下のお子さんたちと話している感覚で会話をしないといけないというのが、しんどさとしてありました」
そんな土居さんが、幼い心で考えた解決策は…
(土居さん)
「周りの子どもたちを観察して、どう行動すれば集団の中で目立たずに済むのかを考えながら、全部100点取ったらやばいから、どこでへこませておこうかみたいな…1日演技して生活する感じでした」
それから10数年、周りに合わせ続けてきた土居さんは、高校3年生の頃、ギフテッドという言葉に出会いました。
(土居さん)
「ギフテッドという言葉に出会ったとき、最初はすごくうれしくて、本当に。あっ!私だけじゃない!って希望に見えて。大学で研究する中でギフテッドについてより知りたいだとか、自分が今まで抱えてきた生きづらさ、ギフテッドに限らず、生きづらさというところをもっと研究してきたいと思い始めました」
日本より進む、海外の「ギフテッド教育」

海外の「ギフテッド教育」の様子
海外の「ギフテッド教育」は、日本より進んでいます。アメリカでは1950年代から本格的に始まり、韓国やシンガポールなどでは、ギフテッドだけを選抜して教育しています。日本では10数年前までギフテッドという言葉は、あまり知られていませんでした。ギフテッドの子どもは、「落ち着きのない子」・「協調性のない子」などと、一括りにされることが多かったのです。才能の芽を、摘み取り続けてきたことになります。

メキシコの「ギフテッドの学校」に通う みゆちゃん(8)
メキシコに住む、みゆちゃん(8)は、南アメリカ最大級のギフテッドの学校に通っています。みゆちゃんは理数系の科目が得意な上、スペイン語や英語など4か国語を話すことができます。今年6月に高校生までが対象の生物学コンテストでは2位になりました。カビの種類や分解力を調べる研究が評価に繋がったといいます。両親の仕事の都合でメキシコに来たみゆちゃんは、もう帰国することもできますが、ギフテッドの学校に通うため、この国に留まっています。
Q.将来は何になりたいですか?
(みゆちゃん)
「医者です。人を治すところが格好良いです。骨が折れた時があって、病院に行って治してもらった時の医者が格好良かったです」
みゆちゃんは10歳で義務教育を終えた後、11歳で高校生になり、そして20歳で医者になりたいと話してくれました。
日本のギフテッド教育の現状と今後の課題

末松信介前文科相
「ギフテッド教育」で海外に水をあけられる中、日本もようやく重い腰を上げました。
末松信介前文科相は「特異な才能のある児童生徒が、その才能のゆえに学習上、学校生活上のですね、困難を抱えている場合に着目をして、その解消を図るということ、そして、個性や才能を伸ばすという基本的な考え方に立って対応を進めてまいりたいと思っております」とコメント。文科省は、2023度、「ギフテッド教育」におよそ1億円の予算を求めるなど本格的な支援に乗り出すことを決めました。

関西大学・松村暢隆名誉教授
文科省有識者会議に参加した関西大学・松村暢隆名誉教授は「才能のある子も障害のある子も今の学校現場では多い。それぞれの子どもにもっと合う、学ぶ内容、学び方、そういうのがあるといきいきと才能を発揮できる」といいます。

たくや君の担任教師
ギフテッドのたくや君は、反復練習が嫌いです。
書き取りの宿題をする様子を取材している時のことでした。漢字を4回ずつ書く内容でしたが、たくや君は1回ずつしか書いていません。
(記者)「あと3回ずつは?」
(たくや君)「これは、もう覚えられるからいい」
(記者)「書かないの?」
(たくや君)「うん」
結局、書いたのは1回ずつ。一度書けば覚えられるので、それが宿題だとしても断固拒否します。
しかし、小学校生活はギフテッドと診断されたことで大きく変わりました。たくや君の担任は、「たくや君は、ずっと集中して授業を受けるのは、難しいだろうなと印象を受けた。そこで切れた後に戻ってこられるような手立てとか、僕が作っている授業の仕掛けの部分に必ず反応してくれる。授業全体が広がっていくし、楽しいとか面白いっていうふうに繋がっていくと思う。彼は非常に欠かせないというか、本当に良い考えをたくさん言ってくれる」と話します。
Q.みんなに知ってもらいたいことや伝えたいことはありますか?
(たくや君)
「自分のことをわかってもらえたら、大変でなくなる。自分のことをわかってもらえたら、学校にも行きやすくなる」
ギフテッドの多様な個性を尊重し、どの子どもも取り残さない。そんな学びの場が、いま、求められています。
(「かんさい情報ネットten.」2022年11月1日放送)
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