「私の経験を役立てることが、彼女が生まれた意味になる」1歳を前に亡くなった娘がくれた使命― 過酷極める「付き添い入院生活」の“あたりまえ”を変えたい

「子どもから目が離せず ごはんを買いに行く時間がない」「小さなベッドに添い寝で眠れない」
病気で入院する子どもに昼夜付き添う親の生活は過酷を極めます。そんな家族にどこまでも寄り添い支援を続ける人が…。光原ゆきさんは2人の娘の入院に付き添った“元当事者”です。活動に尽くすのは、ある人がくれた使命を見つけたから。現状を変えようと駆け抜ける日々を追いました。

【特集】1歳を前に亡くなった娘の“生まれた意味”になるために…過酷極める「付き添い入院」の支援続けるパワフルママ、笑顔の裏にある断固たる決意

パワフルママの活力の源は…

 光原ゆきさんは、付き添い入院をする家族をサポートするNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」の代表を務めています。付き添い入院とは、病院で寝泊まりしながら病気の子どもの世話をすることで、昼夜問わず子どもに付き添うため、食べられず、眠れず、自分のことは二の次になってしまい、その生活は過酷を極めます。いつも明るく笑顔を絶やさない光原さんですが、実は2人の娘に付き添い入院をした元当事者で、そのとき、愛する娘を亡くしているのです。それでも前を向き、現状を変えようとパワフルに駆け抜ける光原さんに密着しました。

「いつでも成功の途中」バイタリティ溢れる支援活動

付き添い入院の支援をする光原ゆきさん

 東京・銀座にある、「キープ・ママ・スマイリング」の事務所。食品や日用品が壁いっぱいに並んでいて、それらは全て、付き添い入院中のママ・パパへの贈り物です。これまで4600人以上を支えてきました。

 付き添い入院をする親には、食事もベッドも提供されません。多くの人が、一日の食事の全てをコンビニなどで調達し、手早く簡単に済ませます。夜は、寝返りも打てないほど狭い簡易ベッドや、子どものベッドに寄り添い、休みます。そんな生活が数年にわたり、体調を崩しながら子どもたちに付き添い続けている親たちがいます。

自身も過去に付き添い入院を経験

 光原さん自身も、先天性疾患があった長女と二女の付き添い入院で、6つの病院を渡り歩いた経験者です。

「全く心の準備がないまま、私も初めて知る世界でした。そこで初めて、『お母さんには、ごはん出ないよね』『ベッドも、寝返りも打てないよね』って…毎日、ろくなものも食べられないし、自分も熱を出して倒れました。私だけじゃなくて、みんなが過酷な環境の中、付き添っています」(光原さん)

 光原さんの付き添い入院生活が終わった9年前の2014年、こうした小児病棟の環境を変えようと、NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」を立ち上げました。今では45人のスタッフが、活動を支えています。

「光原さんは、本当にパワフル。みんなの話を聞いて、自分の仕事もして、聖徳太子のようです」(スタッフ)
「本当に、『キープ・ママ・スマイリング』の事務所はパワースポット。みんなが楽しく働くのがポリシーです」(スタッフ)
「楽しいは、楽しいよね。私も楽しい」(光原さん)
「光原さんは、こんなに辛い思いをしている人間とは思えないぐらい、笑いを提供してくれます」(スタッフ)

岡野社長が用意したトートバッグやエコバッグ

 この日、光原さんらが向かったのは、2020年から活動に協力してくれているタオルの販売会社「川辺株式会社」です。ママやパパへ贈るものは、応援してくれる企業への“おねだり行脚”で募ります。

「私たちがお送りしている“付き添いパック”は、Tシャツやスプーンなど、病室で暮らすことになったときに、『用意していなかったけど、これ、あったら便利だな』と思うものをお届けしたいと思っています」(光原さん)

 岡野将之社長らが用意してくれたのは、小ぶりのトートバッグやエコバッグです。

「え、かわいい!院内コンビニに行くときに、財布とか入れて持っていくのに良いですね」(光原さん)

 キャリアウーマンとして長年培った手腕で、今では80社以上が力を貸してくれています。

川辺株式会社 岡野将之社長

「光原さんは『バイタリティがあるな』というのが第一印象で、目標に向かって、失敗か成功かわからないにしても、動かれる方なんだろうと。できるまでやるんだろうな、と。僕なんか、すぐに諦めるので(笑)」(川辺株式会社 岡野将之社長)
「いつでも成功の途中だと思っています(笑)」(光原さん)

 そう笑顔で語る光原さん。「必ず、最後はうまくいく―」そう思えるのは、“いつも見守ってくれている”と思える人がいるからなのです。

愛する娘の死、彼女がくれた“使命”

突然失った二女との日々…

「二女は、お腹にいるときに、長女よりも難しい病気があるとわかって…」(光原さん)

 光原さんがつけていたスケジュール帳には、ページから溢れるほどに、二女と重ねた宝物のような日々が綴られています。「よく動く」「よく笑う」など、ウィークリーのスケジュール帳に、二女との日々を大切に書き記していました。しかし、ある日を境に、空白になったままのページが続きます。

「二女が元気になることだけを考えて、一緒に付き添って泊まっていたけど、あと1か月で1歳になる時に急変してしまって…院内で付き添い入院をしているときに、突然亡くなってしまいました。よく『目の前が真っ暗になる』と表現しますけど、『これだな』と。自分がこの先、どう生きていったらいいのかが、本当にわからなくなりました」(光原さん)

 しかし光原さんは、また前を向きます。それは、二女がくれた“使命”を見つけたからでした。

「二女が何をして、『じゃあ、もう天に帰っていいかな』と思ったのか。きっとそれは、私が答えを作っていくことだろうし、それができたら、ゆくゆくは私も自分の人生を終えるときが来るから、そのときに彼女にもう一回会って、『よくやったね』って言ってもらえるかな…」(光原さん)

自身の活動が「彼女が生まれた意味になる」

「…彼女がいたから、私が経験できたこととか、分かることができたことがあれば、そして、それが誰かの役に立つことが出来れば…それがきっと『彼女が生まれた意味』になるんじゃないかなと思いました」(光原さん)

届ける季節の味、受け取る感謝のハグ

届けたいのは「あたたかいごはん」

 二女が亡くなった年に団体を立ち上げ、光原さんが一番最初に取り組んだのは、付き添い中の家族に温かいご飯を作り、届ける活動でした。この日は、寄付で集まった食材で、遠方から付き添いのために来た家族が身体を休め、滞在できる施設に、ご飯を届けます。

「私ができること、その1!にんにくの皮をむく!これならできる!全くの戦力外なので、皆さんの邪魔にならないように、下働き(笑)」(光原さん)

 いつもは司令塔の光原さんですが、料理は避けて通ってきました。

「ちゃかちゃか動く優秀なスタッフがいるので、この活動においては、私は全くお呼びじゃないけど、単に私が参加したくて来ています(笑)」(光原さん)
「光原さん、次コーン開けようか」(米澤シェフ)
「本当にありがたい、みんなが私にできる仕事を振ってくれる(笑)コーン開けようかな(笑)」(光原さん)

料理を監修する米澤文雄シェフ

料理を監修するのは、ミシュラン3つ星店に勤めていた米澤文雄シェフです。活動を始めたときから、「キープ・ママ・スマイリング」の輪に加わっている一人です。

「うちの弟が、産まれてから2年ぐらい入院していました。こういう活動も必要だなということで、なんとなく、ずっとご一緒しながら、光原さんに巻き込まれています(笑)」(米澤シェフ)

想いを込めながらお弁当作り

 光原さんたちが大切にしているのは、「ずっと病室にいる親たちに、季節を感じてもらう」ことです。夜遅くに疲れていても食べやすい“優しい味”で、栄養たっぷりのメニューが、お弁当箱を彩ります。

「お母さんたちが、身体を壊しませんように。ちょっとでもこれを食べて、栄養つけて。『おいしい』って思えると、ホッとするじゃないですか。『おいしい、おいしい』って、ホッとしてもらえるといいな」(光原さん)

お弁当をもらったママが感謝のハグ

 夜、付き添いを終えたママやパパが、施設に戻ってきました。光原さんは笑顔で談笑しながら、ママとパパにお弁当を手渡しで渡していきます。みんな疲れてはいますが、お弁当を受け取ると顔がほころびます。

「今までも、何度も光原さんにお食事をご提供いただいていました。お野菜も入っていて、『ちゃんと食べてる?』みたいなメッセ―ジが込められているお弁当で」(ママ)
「嬉しい。喜んでいただけているなら、何より嬉しいです」(光原さん)
「直接お礼が言えて良かった」(ママ)

 一人のママが、光原さんに“感謝のハグ”、光原さんも嬉しそうに返します。

「皆さんに、こうやって喜んでいただけたら、二女が生まれてきた意味になるだろうなって。それだけかな。それだけが原動力です」(光原さん)

「環境を変えたい!」当事者らの“声”を国に

3600人超の“声”を提出

「多くの人に付き添い中の親たちの声を届け、過酷な環境を変えたい」。光原さんはその想いを胸に、2023年6月、大きな一歩を踏み出しました。3600人を超える当事者の声を集め、国の担当者に渡したのです。2022年の末に、付き添い入院の生活実態を調べると、これまで「キープ・ママ・スマイリング」からの支援を受け取っていた親たちを中心にたくさんの声が集まり、全国初の大規模調査が実現しました。

「小児医療は、とてもとても進化しているのに、付き添いに関しては、全く環境が変わりません。私たちが直接支援をして、お母さんたちに本当に喜んでいただいているのは間違いありませんが、このままだと、この先30年40年、環境は変わりません。病院が努力して出来ることも、もちろんあると思いますが、病院ではどうにもならないところは、やはり国に動いていただきたいです」(光原さん)

 調査報告を受けて国は、2023年度中に医療機関の実態調査を行うことを決めました。

目標達成まで、光原さんの活動は続く

「ホッとしていますけど、通過点だと思っています。あとで振り返って、『変わったね』って、『私が付き添っていたときとは、全然違うようになったね』と思えるまで、頑張っていきたいです。まだまだ成功の途中ですけど、必ず成功すると思います!」(光原さん)

(「かんさい情報ネットten.」 2023年6月9日放送)

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