【報道発信PJ】ウクライナ侵攻から2年
人道危機の最前線で活動するNPOスタッフの現地リポート②
モルドバ事務所の今野聖巳(こんの・さとみ)と申します。私からは、ウクライナの隣国モルドバにおける難民の現状と、AARが提供している支援についてお話をさせていただきます。モルドバには現在も12万人ほどの難民が滞在しています。この青い折れ線グラフが現在、モルドバに滞在している難民の数を示していますが、全体としては、滞在者数は減ってはいない状況です。モルドバの南東部と国境接しているウクライナのオデーサ州をはじめとして、多くの地域で引き続き攻撃が続いていることもあり、当初はすぐにウクライナに帰るという予定だった人たちも、なかなか帰還することが難しく、モルドバにとどまっている状況です。冬期は、ロシアからのインフラの攻撃もありますので、そういったところから避難してこられる方も冬場は特に多くなります。こうした状況から全体の人数は微増していて、高止まりを続けているような状況です。
難民の出身地としては、南部のオデーサ州から来られる方が一番多いです。子供やお年寄りがいる世帯が多くなっています。避難生活が長引いていく中で、様々な課題が生じています。例えば、モルドバの滞在資格を取得しない難民に関しては、公的サービスへのアクセスが難しくなっていくことや、難民が身を寄せていた滞在施設が次々と閉鎖していることですとか、あとは子供の教育に関しては、今までウクライナのオンライン学習を子供にさせていたけれども、現地の学校に入れるかどうか、頭を悩ませているといった声もよく聞かれます。
AARは2022年のウクライナ危機の直後からモルドバで支援を続けていますが、現在はモルドバの首都キシナウでコミュニティセンターという施設の運営を行っています。コミュニティセンターでは、現地のNGOとともに難民と地元住民の両方に対して個別支援を実施しています。具体的には常駐するケースワーカーが、個人個人のニーズの聞き取りを行ない、内容に応じて医師による医療支援ですとか、心理カウンセラーによるカウンセリングにもつないでいるような支援を行っています。
ウクライナ危機の発生当初、発生直後は、食料や生活用品の配布ですとか、難民の滞在施設の支援をメインに、支援を必要とする人すべてに対して、基本的に全ての支援を行ってきました、現在はより脆弱性の高い人々にフォーカスして、中長期的に支援を行うという観点から、一人ひとりにじっくりと向き合いながら、継続的に支える個別支援という形をとって支援を続けています。こうした個別支援のほかにも、このセンターでは子どもからお年寄りまで、誰もが安心して過ごすことができる交流の場の提供も行っています。
この写真はセンターでのクリスマス飾りを作っているウクライナ難民のボランティアの皆さんの様子です。センターではモルドバの祝日に合わせてイベントを開き、日本文化を体験するワークショップなどを開催して、センターに継続して訪れて利用してもらえるような活動を行っています。こちらはクリスマスに実施した親子向けのイベントの様子です。難民の子どもだけではなく、地元の子どもも参加してみんなで交流を楽しんでいます。歌と踊りを楽しんでいる様子です。
センターを訪れるウクライナ難民の方々の声を少しご紹介させていただきます。こちらはオデーサ州から避難されてきた女性です。彼女はこのコミュニティセンターで編み物を教えています。クラブ活動として教えているのですが、彼女は子どもから大人まで多くの人々に親しまれています。彼女はモルドバに避難してきた当初は、家にこもりがちでしたが、このセンターでたくさんの人に自分の得意な編み物を教えられるようになってから、人から必要とされることの喜びを感じられるようになりましたとお話をしてくれました。こちらの写真は彼女が作った手作りの手編みの作品になります。
彼女はハルキウ州から避難してきた大学生です。彼女はモルドバの大学で教育学を専攻しており、週に一度、センターで子どもたちに算数の勉強を教えてくれています。彼女は「難民施設で一人暮らしをしている私にとって、このセンターを自分の家のような場所です。ウクライナにいる家族のことはすごく心配ですが、この場所に来ると落ち着くことができます」と話をしてくれました。もちろん難民の方々に話を聞くと、皆さんは口々に「早くウクライナに帰りたい、家族に会いたい」とおっしゃいます。しかし、先の見えない避難生活の中で、それぞれが少しでも心のよりどころを見つけて、ウクライナに帰れる日を待ち望んでいます。私たちの授業では、そういった方々を支えるために日々活動を行っています。ご清聴いただきありがとうございました。
- ヤマカワ目線
- AAR Japan「難民を助ける会」の3名のスタッフの報告から、2年というタイミングで様々な困難な問題が生じていることが分かりました。避難先での安心できる暮らしへのサポートと、ウクライナへの早期帰還に向けたサポートという、異なる性格の支援が必要になっているという現実が見えてきました。3名のスタッフの方々に聞きました。
(山川) 今野さん、隣国のモルドバでは、たくさんの難民を受け入れているということですが、モルドバという国自体が、決して裕福な国ではないという事情がある中で、運営しているコミュニティセンターでは、ウクライナの難民の方だけではなくて、現地の方も利用できるような施設にしているというお話ですが、目的や意味があるのでしょうか?
(今野氏) おっしゃる通り、モルドバは経済的には豊かではない国で、特に高齢者の貧困問題などは深刻に議論されています。そういった中で難民だけを支援の対象にしてしまうと、難民と地元の住民の中であつれきが生じてしまうという恐れもあるので、AARをはじめとして、支援の提供者としては両方にバランスよく支援をして、地元住民との間に亀裂が入ったりしないように、バランスよく支援するように心がけています。
(山川) 支援活動が長期化する見通しになっているということですが、支援活動を続けていくにあたって今、課題になっていること、問題点についてどんなことを感じていますか?
(東氏) 私はウクライナ国内の担当ですが、今はモルドバにいます。ウクライナ国内の支援ですので、現地で支援するのが一番いいのですが、日本の外務省が危険レベル4ということで退避勧告を出している中で、AARの事務所を現時点で、ウクライナに持つことができず、現地に行くことや、常駐することができない状況です。現在、遠隔で事業をやっています。どうしても遠隔で教育団体を経由してという形になりますので、そこは国内の支援で一番大きな課題です。あとは、支援疲れですとか、人々の関心が薄れていくことも課題です。こういったイベントや広報活動を通じて、皆さん忘れずに関心を持っていただけるように、努力しています。
(今野氏) モルドバ国内では、ほかのヨーロッパ諸国からは少し遅れていましたが、難民受け入れにかかる法整備が進んできて、滞在資格を持たない難民に関して支援が制限されてくるとか現在、そういった動きになっていて。AARだけではなく、NGOに関しても、モルドバ国内の方針に沿った形で支援を提供していかなければならず、当初のように支援が必要な人みんなに対して支援することはなかなか難しくなってくるというのが、課題だと思います。
(山川) 3回の現地での活動も踏まえて今、何が必要なのか提言をお願いします。
(中坪氏) はい。ありがとうございます。この間、私たちは様々な支援をしていますがが、やはり昨年、イスラエルのガザ地区の問題、それから年初の能登半島地震で、ほとんどのメディアが全てこれ一色になっています。これは当然のことであり、特に能登半島地震は我々の身近なところで発生していますので、ここに傾注する、監視が集中するというのはもちろんだと思います。一方でこうした大災害、人道危機が発生すると、どうしてもその前に起きていることを私たちは忘れがちになりますので、これだけ未曾有の危機といわれたウクライナ危機に対する関心さえも今、やや薄れつつあるのかなという危機感を持っています。まだまだ様々な支援活動が必要ですが、とにかくまず関心を持ち続けようじゃないかというところが一番大きなポイントではないかと考えています。
2024年2月3日(土)
AAR Japan 報告会「ウクライナは今 人道危機2年現地報告より」
