循環器病チャリティー 医療セミナー
「“口は災いの元”~むし歯・歯周病と脳卒中の危ない関係~」vol.3
我々、脳出血の方々を普段から多く見ております。ある時、80代の女性の方が脳出血を起こされて病院にお越しになりました。過去にほかの病院でMRIを撮られていたことがわかり、そのMRIを取り寄せてみました。そうすると、実は3年前にここに小さな出血の、黒い点があるのがおわかりになろうかと思います。この時は当然、無症状でしたが、この小さな出血を起点に大きな出血が起こったと想定されます。したがって、小さな出血は症状がなくとも侮れない病変であることがおわかりになろうかと思います。
これまでの研究では、微小出血をお持ちの方とお持ちでない方を比べると、微小出血をお持ちだと将来、脳出血を起こされる、こうした大きな出血につながる危険と頻度が大体10倍にはねあがるといわれていますので、1個でもあれば要注意という変化になります。これがその研究ですが、特に国内では50倍という数字もあり、微小出血というのはこの時点で、なんらかの介入をしなければならないといわれています。つまりこの脳微小出血が大きな出血につながる、あるいはこの小さな出血が増えるということをなんとか予防しないといけないといわれています。
先程の我々の100人を対象にした研究でも悪玉むし歯菌をお持ちの方とお持ちでない方の微小失血の数を実際にカウントしてみました。そうするとやはり悪玉むし歯菌をお持ちの方は有意に多く、微小出血をお持ちであったということで、知らず知らずの間にそういう小さな出血が増えて、ある時ドーンと大きな出血につながったという可能性が想定されたわけです。
我々の国循で行った研究がこちらですが、実はこの検診を受けられた方を対象に、京都府立医科大学でも似たような研究が行われました。そこで、この悪玉をお持ちであるかないか、さらに微小出血をお持ちであるか否かというのを調べると、このオッズ比という数字で表されていますが、この悪玉むし歯菌をお持ちの方というのは微小出血を持っている頻度が有意に高いということが、我々の研究でも、さらに検診を受けられた方の研究でも明らかになったということになります。
これが京都府立医科大学で行われた検診、まだまだ健康な企業にお勤めの方を対象にした研究ですが、微小出血のある方となしの方を比べています。むし歯菌をお持ちかどうかというのは、実はほとんど変わりなしです。この検診を受けられる方は、ほとんどが60歳以上の方ですので、ほぼ皆さんむし歯菌をお持ちであるということだったのですが、明らかに違いがあったのは、この「悪玉」をお持ちかどうかということでした。微小出血なしの方は悪玉を持っている頻度はこのくらい(15.6%)だったのですが、微小出血ありの方の悪玉の頻度では、83.7%ということで、この悪玉と微小出血との関係が明らかになったということを、この検診のコホートを使って京都府立医科大学が報告しています。
さらに先程、脳卒中の先に認知症があるというお話しをさせていただきました。これも京都府立医科大学で行われた研究ですが、悪玉むし歯菌をお持ちの方というのは当然ながら微小出血をお持ちの頻度は10%対59%で高いという結果でした。言語流暢性試験というものがあります。これは一分間で“た”から始まる言葉、あるいは“か”から始まる言葉をできる限り言ってくださいという試験で、臨床でもよく使う試験ですが、“た”から始まる言葉に関しては、「むし歯菌あり」の方が若干ちょっと少な目でした。これ有意差はないという結果だったのですが、“か”から始まる言葉に関しては明らかに有意な差があり、むし歯菌ありの方が出てくる単語が少なかったということで、まだまだ検診の方々ですので認知機能は一見全く正常です。ただこうした詳しい検査をすると、少し認知機能が落ちかけていることが明らかになり、微小出血が起こる、さらにその先にある認知症が起こりかけているかもしれないということが研究で明らかになったわけです。
これは国循で行った研究ですが、大体むし歯菌をお持ちでない方というのは少ないですが、お持ちでない方に比べると悪玉ではない、むし歯菌をお持ちの方は微小出血のリスクが、ざっくりいうと4倍でした。さらに、悪玉をお持ちの方は、さらにその4倍です。したがって、虫歯菌を持ってない方に比べて、悪玉虫歯菌を持っておりますと4倍×4倍で16倍、微小出血のリスクが高まることが明らかになり、報告しました。
さらに経時的に時間を追い、増えるスピードがどのくらい速いかを調べないといけないということで、国循で過去に何度もMRIを受けられている患者さんがおられますので、そういう方を対象に、これは後方視的な研究といいますが、過去に遡って「Cnm」をお持ちの方とお持ちでない方の微小出血の増え方を調べました。そうするとこの観察期間が500日程度ですが、悪玉むし歯菌をお持ちの方の、特に脳の深い場所における微小出血の増える頻度が大体50%近くです。我々も外来でこの1年に一回とかMRIを撮影させていただくことが多いのですが、そうそう微小出血は増えないです。ただこの悪玉むし歯菌をお持ちの方というのは、特に脳の深い場所に微小出血が増える頻度が、お持ちでない方に比べて極めて高かったという結果が実際に確認されたということになります。
どういうメカニズムなのかですが、正常の血管であれば血管の内腔というのは内皮細胞という敷石状に血管の壁が完全に覆われているんですね。したがって、血管の中から見て悪玉むし歯菌が接着できるコラーゲンというのは全く暴露されていないわけです。ただこの加齢とか高血圧によって血管が傷ついてきますと、ほころびが出てきます。敷石状に張り詰められている内皮細胞の間に綻びが出てくる。これあの血液脳関門の破綻と専門的にいいますが、そういう綻びが出てきますと、そこにコラーゲンが見えてきます。そういうところを目掛けてですね、Cnm陽性のむし歯菌、悪玉むし歯菌というのは接着するのではないか、といわれています。当然ながら細菌が血管に接着しますので、炎症が起こる。さらに血小板は、血管の絆創膏みたいなものです。出血が起こるとペタッと張り付いて出血を止めるわけですが、血小板は負に荷電しています、細菌も負に荷電しています。したがってこういうところに細菌がペタッと接着すると、血小板が近づいてこられなくなります。それで出血がさらにひどくなると、そういうメカニズムが現在想定されています。
我々は結果を踏まえて「現在前向き研究」を行っています。実際にこの悪玉をお持ちの方とお持ちでない方を2年間ずっと縦断的にフォローアップして、そういう方々が脳出血を起こされるかどうか、さらには認知症を発症されるかどうかを縦断的に研究していまして、「RAMESSES研究」と名付けました。これ「Risk Assessment of cnM-positivE S. mutans in StrokE Suvivors」と若干むりやりRAMESSESに近づけていますが、もうひとつ理由があります。「RAMESSESⅡ世」といわれるエジプトの有名なファラオをご存じの方がおられるかもしれませんが、史実によりますとRAMESSESⅡ世が歯科疾患と動脈硬化を患っておられたということが書かれています。そうすると、もしかしたらRAMESSESⅡ世も悪玉むし歯菌をお持ちだったのではないかという想像も交えて、今回RAMESSES研究を行っておりまして、2018年から開始して、登録とフォローアップがほぼ終わりかけています。今年度中にすべての患者さんの2年間のフォローアップが終了しますので、この悪玉むし歯菌がいかに悪いかということが証明できるのではないかと期待しています。実際は国内の10施設以上の施設に参画いただきまして、2018年時点での研究体制ですので、若干異動等で構成員は変わっていますが、この研究で悪玉虫歯菌の役割、脳卒中における役割を明らかにしたいと思っております。
以上をまとめますと、脳卒中の中でも特にこの出血は、アジア人・日本人に多いと言われている脳内出血ですが、かつては高血圧を管理しましょう、禁煙しましょうということで、なんとかリスク管理を行う中で、ここにきて下げ止まってきました。したがって、新たなリスクを探さないといけないという中で、どうもこの「悪玉むし歯菌」が悪さをしているということがわかってきたということです。実はこうしたむし歯菌は容易に血液中に入り込んで、心臓弁にも脳血管にも悪さをしています。特に悪玉むし歯菌が、脳血管に悪さをしているということがわかってきました。この悪玉むし歯菌を減らす方法を企業と一緒に開発していて、タブレットかあるいは歯磨き粉によって、口腔内の環境を整えて脳卒中を予防する術・方法をこれから研究していく予定にしております。