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【独自解説】地図を見ればロシアの思惑が分かる!?いま注目の「地政学」から分析するウクライナ侵攻の行方とプーチン大統領が抱える“恐怖心”
2022年4月12日 UP
多くの市民を犠牲にしながら侵攻を続けるロシア。その行動を読み解く上で、いま注目を集めているのが「地政学」です。地政学の専門家、国際地政学研究所・上席研究員の奥山真司(おくやま・まさし)さんが、ロシアの次なる動向や思惑、そして日本の安全保障を読み解きます。
いま注目の「地政学」とは?
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奥山さんが監修した地政学のビジネス書は、ウクライナ侵攻後に発行部数20万部を突破。地政学とは、奥山さんによると「国の地理的条件をもとに、他国との関係性や国際社会の行動を探るものの見方のこと」で、地政学を学ぶことで「国が考える“ふるまい”(姿勢・態度)を理解することができ、世界の覇権争いや、今後の動きの大枠を捉えることができる」 ということです。
Q.地球儀や世界地図を見たときに、ロシアや他の国の思惑が分かる、というのが地政学だと思っていいのですか?
(国際地政学研究所・上席研究員 奥山真司さん)
「はい、国際政治を考える一つの視点を提供してくれているのが、地政学というものなのです。かなり大雑把ではありますし、巨視的な視点ではあるのですが、“地理”と言う要素は変わらないものなので、それをベースに、国家がどういう対外戦略を練っているのかを見ていく基礎となるアイディアですね。例えば、中国と韓国に挟まれている北朝鮮のように、大きく見て大国の間に挟まっている半島の国が、どういう動きをするのかを見たりします」
地政学で見る国際紛争の図式と日本の特徴
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地政学の基本概念の一つに“ランドパワー”と“シーパワー”があります。まず“ランドパワー”というのは、ユーラシア大陸内部の国々のことを表します。道路や鉄道を使う陸上輸送能力に優れる国々で、例えばロシアや中国、ドイツなどが含まれます。一方の“シーパワー”は、国境の多くが海洋に面する国で、海洋に出る船や造船場などを持つ海上輸送能力に優れる、例えばアメリカ、イギリス、日本などが含まれます。奥山さんによると、「国際紛争はこの“ランドパワー”と“シーパワー”のせめぎ合いで起こっている」ということです。
Q.紛争が起こると、「海洋進出する国々と自分の領土を守る国々が対立する」というのが、国際紛争の一つの図式であるということなのですか?
(奥山さん)
「基本的には、“シー”は貿易をしようということで、海で活動したい。ところが“ランド”は陸の国なので、海の勢力が自分のところにちょっかいを出してくるのが嫌だということで、せめぎ合いが常におこり、衝突してしまう可能性が大きいということです」
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地政学で日本を捉えると“シーパワー”に属していますが、歴史的に見るとそうではない時期もありました。江戸時代までは、内向きの“ランドパワー”で海の外には目がいかず、海外との衝突も3回のみでした。しかし明治から昭和初期にかけては、“ランドパワー”、“シーパワー”の両面を持っていました。ただ、海や陸の両方に進出したことで失敗しています。第二次世界大戦後は“シーパワー”となり、アメリカの同盟国として世界の主要国となりました。日本の国土の特徴は、海流や季節風に守られた島国で、自給可能な国土と人口を持ちます。海外からは攻めにくく、建国以来、独立を維持してきました。
Q.建国以来独立していて、平和を維持しているというのは、世界的に見て珍しい国と言えるのですか?
(奥山さん)
「はい、日本は海に守られてきたという部分があって、逆に海に守られてきたからこそ、外に行こうという意識はあまりなかった。いろんな条件はあるんですけど、基本的にはやはり、地理的な条件というのは大きいです」
Q.日本は、「ロシアが次に取ろうという野心を持ってもおかしくない国だ」と最近よく言われていますが、ロシア側から日本列島を見たら、こんなに障害になる地理的な場所はないですよね?
(奥山さん)
「その通りだと思います。日本列島は大陸が外に展開する際、蓋のような形になっているところは、どうしても彼らにとってはやっかいな存在であるということはあります」
Q.世界中でもこんなに対外米軍がいる国というのは珍しいと思いますが、それは米国が重要だと思っているということもありますし、だからロシア側や中国からすると簡単に手が出せない国であったと言えるのですか?
(奥山さん)
「もちろんです。アメリカがユーラシア大陸に足がかりを作りたいという時に、日本というユーラシアの外にある島国をできれば取っておこう、コントロールしておこうということが、太平洋戦争の背景にあるということです」
Q.日本がある場所はものすごく大事だし、一歩間違えればとても危ない場所にあることを、我々は認識したほうがいいということですね?
(奥山さん)
「その通りだと思います」
地政学で見るロシアの思いと狙い
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Q.ロシアを中心とした地図を見ると、これだけ他国と接している国って他にないかもしれないですね?
(奥山さん)
「そうですね、ロシアそのものは国境の長さが6万キロ、国内で11時間の時差があります。それだけ大きい中で、国境に接している場所が多いということは、逆に言えばこれはロシアにとって、“ロシアに攻め込まれるという恐怖”を持っているということです」
Q.ロシアは「いつNATOや西側から攻められるか分からない」というくらい囲まれてしまっているということですね?
(奥山さん)
「はい、国際政治の中で“見逃されやすい要素”というものがあるのですが、それは“恐怖心”というものです。ロシアは威張っているようですが、その威張っているものの後ろ側を心理学的に見ると、他国に囲まれて、いつか攻めてくるかもしれないという“恐怖心”があって、今は活発に出てきているということが言えると思います」
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ロシアの海外進出について、地政学的戦略の大原則としてあるのが“南進ルート”です。ロシアにとって、北部は冬に港や海が凍ってしまうため、古くから南に進む5つのルートを利用してきたということです。奥山さんは、「日本に関係があるのは、『シベリア・ウラジオストクルート』と『北極海ルート』。そして、今回の軍事侵攻でロシアがものにしたいのは、『黒海ルート』、将来的には『バルト海ルート』や『ヨーロッパ陸ルート』も見据えている」ということです。
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Q.地球温暖化の影響とも言われていますが、「北極海ルート」で通る海の氷が解けてしまって、ロシアが出やすくなってしまったのは一つありますよね。
(奥山さん)
「それと共に、そこを世界各国が、南側のスエズ運河のような所を通らずに、北を通った方がヨーロッパに物資を届けるのが近くなった。距離で言うと大体3割ぐらい短いですし、なおかつ中東の海賊が出るような所も通らなくていいと。そうなってくると『ショートカットをするルート』という意味があって、“バイパスルート”という形で商業的に使おうとなり、それだったらロシアもそこからお金取ろうかという思惑も出てくる。それと、石油・ガスですね。やはり海の近くの所っていうのは、石油資源も多いので、その辺が狙われているというところも複合的な意味で、北極海を開発していこうという機運が、ここ20年ぐらいで出てきています」
Q.「北極海ルート」を自分のものにできそうだとなると、「今度は南の海を支配したい」というロシアの狙いが明確に分かるということですね?
(奥山さん)
「はい。もちろん支配したいというところもあるんですが、これは、『そこから入ってこられると怖い』という気持ちの裏返しで、『攻められるのは怖い、だったら逆に攻めてやろう』という心理状態が、支配の方に向くということが言えると思います」
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Q.ウクライナの大統領府顧問が「戦争の行方を左右する激しい戦いが、今後2週間にわたり東部で起こる」としていますが、ウクライナの東部を取れば、ロシアは陸続きでアゾフ海、黒海に抜けられるから、ここだけは是非とも欲しいということですね?
(奥山さん)
「はい。モルドバにはロシア人が多い地域もありますし、オデーサには有名な大きな港もあります。そういうところも含めて、実際は黒海の北の部分、ウクライナにとっての海の出口の部分を全部支配したいという意図は持っております。皆さんご存じの通り、ウクライナは小麦を多く生産していて、そこの作付けがないので恐らく世界的に小麦の値段が上がるというふうに言われておりますが、その小麦を運び出すときに最も重要になってくるのが港なんです。港から運び出すので、そこは管理しておきたいということです」
Q.ロシアが「黒海ルート」の実権を握れば、例えばウクライナの小麦が復活してきた場合に、通行料を請求される危険性だってありますよね?
(奥山さん)
「その点もあると思います。でも実は軍事と商業は一緒になっているということですね。そういう意味では、支配と言うとすごく厳しい言い方ですけど、ロシアにとっては黒海をコントロールする力を上げたいというところも一つ、見逃せないポイントだと思っています」
地政学で見るプーチン大統領が“次に狙う国”
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「ソ連以上の帝国に戻したい意思があるのではないか」と思われるプーチン大統領ですが、奥山さんによると、「まずウクライナの黒海沿いを押さえ、西のモルドバに入る可能性がある。そして将来的にはロシアの飛び地を守るため、バルト三国を狙う可能性もあるのではないか」ということです。
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Q.プーチン大統領は、いわゆる“緩衝地帯” をなるべく作りたい、そして海を押さえたい、港を押さえたい、という意思があるのでしょうか?
(奥山さん)
「その通りです。『バッファーゾーン』と言ったり、自国に近い外国、『ニア・アブロード』っていう名前も出たりするんですが、自分の所を侵略される恐怖を抑えるために、少し先の方に余裕のある場所、ロシアにとって言うこと聞いてくれる国を作って置くということです」
Q.こうやって見ると、ロシアの目と鼻の先にある日本も危ないですよね?
(奥山さん)
「そうですね。大事になってくるのは、ロシアは昔からオホーツク海を“聖域”ということにして、完全にその海を囲い込んでおきたいと思っています。そこに原子力潜水艦などを沈めて、そこからアメリカに対して、『ミサイル撃ってやるぞ』ということをずっと計画して、実際にやっているわけなんです。近くの海を確保したいっていうのは、どんな大国でもやりたがることですよね」
Q.地政学的にみて、ロシアはウクライナの首都キーウの陥落を諦めたと思いますか?
(奥山さん)
「いえ、僕はまだ来るんじゃないかと思います。今あるドネツク、ルハシンク、ハルキウとか、その辺がこれからは焦点になってくると思うんですが、恐らくまだプーチン大統領自身は、全然諦めておらず、いずれまたキーウは取りにくるんじゃないかと。もちろん、軍事的にそれなりの力が残っているかどうかは別問題ですけど、意思としてはやはり取りにいくというところは変わらないと思っています」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月11日放送)