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【独自解説】あなたは実は“勘違い”している?経済のスペシャリストが『103万円の壁』にまつわる疑問や誤解に全てお答えします!大事なのは「『年収の壁』は103万円の壁より『106万円・130万円の壁』」
2024年11月7日 UP
『103万円の壁』を越えないよう“働き控え”をする人も多い中、話題となっているのが、国民民主党・玉木雄一郎代表が強く訴える「103万円を178万円に」という公約です。そもそも“年収の壁”とは?多くの人がしているかもしれない“勘違い”とは?経済評論家・加谷珪一氏の解説です。
■「勘違いしている人も多い」“103万円の壁”実は、関係あるのは…
年収103万円を超えると所得税が発生するという『103万円の壁』。家庭として大きく影響するのが、子どもの収入です。子どものアルバイト代などが103万円を超えた場合、親の扶養から外れ、親は年間2~12万円の税負担が増えます。
Q.大学生が熱心にアルバイトをして年収103万円を超えてしまった場合、扶養から外れるということですね?
(経済評論家・加谷珪一氏)
「そういうことになるので、“働き控え”が起こっています。ただ、これは『ほとんどの場合、学生かつ親の扶養に入っている人』に関係する壁だと考えてください。主婦・主夫は150万円までの『配偶者特別控除』があるので、ほとんど関係なく、103万円を気にする必要はないです」
Q.『103万円の壁』と聞くと、働いている主婦・主夫というイメージがあるのですが、実は働いている学生の話なんですね?
(加谷氏)
「そうなんです、もしかしたら勘違いしている人も多いかなと思います。『配偶者特別控除』があるので、本当は150万円まで働いても大丈夫なのに、勘違いして103万円で止めている主婦・主夫も結構いるのではないでしょうか。複雑な制度が悪いですが、もう少し中身を調べて、賢く使うのが良いと思います」
(『読売テレビ』高岡達之特別解説委員)
「『配偶者特別控除』は2018年からやっていますが、“配偶者”なので、法的には『国が考える家族の形を作ってくれていないとダメです』ということですよね?」
(加谷氏)
「おっしゃる通りです。政府はいろいろやってはいますが、どうしても“昭和時代の家族観”がベースになっています。『130万円の壁』など他にもいろんな“壁”があって、最終的にはこれを撤廃していく流れの中で、不公平感が生じないようにバランス良く進めていくべきなので、ぜひ国民民主党・玉木代表には103万円だけではなく、“トータルな提案”をしていただきたいなと思います」
Q.いろんな家族の形があって、これからもどんどん変わっていくでしょうね?
(加谷氏)
「家族の形態は人それぞれなので、『自分が働いて得た分はちゃんと自分に返ってくる』というよう制度を引き直す、そういう変更が必要なのではないでしょうか」
■もう一つある“壁”「103万円の壁より、『社会保険料の壁』が重要」その理由とは…
加谷氏によると、「『年収の壁』は103万円の壁より、社会保険料の支払いが生じる『106・130万円の壁』が重要」だということです。
パート主婦・主夫には、様々な“年収の壁”があります。仮に、会社員の夫と扶養に入っている妻で考えた場合、妻の年収によって『税金の壁』と『社会保険の壁』という2種類の壁が生じます。年収によって支払いが発生する項目を以下にまとめました。
■年収100万円超➡『住民税』
■年収103万円超➡『所得税』
■年収106万円超➡一定条件(従業員51人以上の企業で勤務など)を満たす場合、健康保険や厚生年金などの『保険料』
■年収130万円超➡従業員50人以下の企業でも厚生年金などの『保険料』
■年収150万円超➡『配偶者特別控除』が段階的に減額※妻の年収201万円でゼロに
(※2025年度に年金制度改正があり、“年収の壁”は大きく変わる可能性があります)
では、『社会保険の壁』を越えた時に手取りはどうなるか、(株)FPコクア代表・向井佳三ファイナンシャルプランナーが実際に試算しました。共働き世帯が確認すべきは、『106万円・130万円の壁』です。
『106万円の壁』を例にとり、会社員(年収500万円)の夫・パートタイムで働く妻と仮定します。妻の年収が103万円で“壁”を越えない場合、住民税が発生し、手取りは約102万円です。これを基準に、年収105万円と年収108万円、2つのケースの手取りの違いを考えました。
ケース①年収105万円の場合…住民税に加え、年間1000円の所得税が発生。ただ、手取りは103万7000円で、年収103万円の手取りより1万7000円プラスに。
ケース②年収108万円の場合…保険料が発生する『106万円の壁』を越えているため、住民税・所得税に加え、年間16万円の社会保険料が発生。手取りは91万5000円と、ガクッと下がります。年収103万円の手取りと比べると、10万円以上マイナスに。
ただ、加谷氏によると、「社会保険料を支払うと年金額も増えて、各種手当も手厚くなるため、総合的に考えてお得」だということです。遺族年金・障害年金が手厚くなり、傷病・出産手当など休業時に手当が出るということで、手取りはマイナスになっても、一概に損とは言えません。加谷氏は、「働き控えなどせず、働ける人は『働けるだけ働く』のが一番お得!収入も増えて、社会保障も手厚くなる」と提言しています。
Q.日本は、セーフティーネットがしっかりしているということですよね?
(加谷氏)
「そうなりますね。年金は、『なくなる』と言う人もいますが、財政検証が行われていて、破綻する心配は全くないとの結論が出ています。また、公的年金は満額を納めると、払った額の2.5倍貰えるんです。民間の商品に当てはめると、こんなに有利な商品は他には存在しませんので、活用しない手はないです。私は、『社会保険料を払うと損をする』という感覚は見直したほうがいいのではないかと思います」
■「ここを解消するだけでも相当状況は改善する」働き手を増やすため、同時並行で議論すべきこと
しかし、“働く人の環境整備”にも大きな課題が残っています。加谷氏は「育児や介護に時間を要し、『働きたくても働く時間がない』という相談がとても多い」と話していて、2025年予定の年金制度改革と連動して、トータルで議論する必要があると指摘します。
Q.働く人の環境整備とは、具体的に、どういうことでしょうか?
(加谷氏)
「まだまだ日本では『家事や介護は女性がやるものだ』という価値観が非常に根強くて、どうしても親の介護は妻がやるところが多く、働きたくても働けない人がいます。だから、介護制度などの整備も、同時並行で進めていく必要があります」
Q.地域単位・企業単位で託児所や介護施設を充実させ、働きたい人が安心して預けられるようになれば、もっと働き手は増えるということですね?
(加谷氏)
「そういうことになります。なかなかそれができないので、フルタイムの仕事を辞めて、パートタイムをせざるを得ない女性が多いですから、ここを解消するだけでも、相当状況は改善すると思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年11月4日放送)