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【独自解説】「ゼロコロナ政策」の弊害 集団免疫できず、デマ拡散も…中国“規制緩和”による感染急拡大で医療崩壊の恐れ 実情を専門家が解説
2022年12月26日 UP
中国が12月に入り“ゼロコロナ政策”を事実上撤廃しました。中国国内は、感染急拡大で大混乱に陥っていて、今後中ほかの国に影響が出る恐れもあるといいます、中国は今後どうなっていくのか?中国情勢に詳しいジャーナリストの福島香織氏と関西福祉大学の勝田吉彰教授が解説します。
中国、規制緩和で新型コロナ感染爆発

中国の“コロナ”の現状ですが11月下旬に急激に感染者が増加し、11月29日には、新規感染者が7万人を突破しました。航天総病院という病院では、12月17日から小児科の受付を停止していて、別の大型病院では、500人以上いる職員の半数以上が感染しているという事です。そんな中、重慶市では、”コロナ”に感染していても軽症者や無症状者は出勤を認めています。

Q.12月21日の中国国家衛生健康委員会の発表ですと、中国の”コロナ”感染者数は2966人で死亡者0人となっていますが、実際にはどれくらい広がっているかわからないですね。
(福島氏)
「中国当局はPCR検査をしなくなってから、感染者数はもうどうでもいいという態度になったと思います。死者が異様に少なく見えるのですが、死者の定義を大きく変えていて、血栓による心筋梗塞や脳梗塞やもともと基礎疾患がある人が“コロナ”にかかって亡くなっても、それは“コロナによる死亡”には入れません。肺炎や呼吸不全で亡くなった人だけを数えているのです。今のデータを見ていると日本の方が感染者や死亡率が高いように見えますが、実際は中国の感染の広がる速度や死者の数は、かなり多いのではないかと感じます」

Q.重慶市などは、”コロナ”に感染していても軽症者や無症状の出勤を認めていますが、これをするとクラスターなどが発生して、間違いなく感染は広がりますよね?
(勝田教授)
「間違いなく感染は拡大します。また、中国は寒い地域が多いのですが、そういうところの建物は、換気しにくい構造になっています。そうなると、エアロゾルで感染が一気に広がる恐れがあります。日本でも夏や冬の換気しにくい時期に“コロナ”が広まりますが、同じです」
Q.中国では、医療体制の脆弱さが“コロナ”以前から問題になっていたという事ですが…
(福島氏)
「中国の場合、特に地方ですと医療施設や医療関係者の数は十分ではありません。本来は3年間の“ゼロコロナ政策”の中で医療体制を充実させて、準備が終わってから規制を緩和すればよかったのですが、習近平政権が『“ゼロコロナ政策”は変わらない』と言い続けていたので、医療現場は規制の緩和を想定した準備をしなかったのだと思います。その結果、引退した医師も呼ばれますし、学生も動員されて、これが学生デモの原因にもなっています」
“感染爆発”には中国ならではの要因が…

Q.中国と比べると、日本は“ゼロコロナ政策”をしなかったので、ある程度免疫を持っている人が一定数いるという事ですね。
(勝田教授)
「集団免疫は、まずはワクチンの免疫があって、その上に感染して、ハイブリッド免疫という状態になると強くなります。中国の場合、ワクチンの種類が『不活化ワクチン』という少し効果が落ちるものを使っていて、今までの“ゼロコロナ政策”のために人と触れ合う機会が少なく、感染による免疫を持っている人も少ないという状態です。日本の場合、献血のデータから4人に1人が感染によってできる抗体であるN抗体を持っているというのが分かっていて、ワクチン接種率も高いので、ハイブリッド抗体を持つ人も多いのですが、中国はそれと比べると免疫を持つ人が少ないので、爆発的に感染が広がるのは当然です」
他にも、勝田教授は、ワクチン効果に加え必要とされる追加接種が進んでいないことや、“ゼロコロナ政策”が長く、換気が重要など、国民の間に正しい対策が浸透していない可能性もある、と指摘しています。
Q.一気に感染が拡大していますが、集団免疫も早くできるのでしょうか?
(勝田教授)
「早くできると思いますが、その過程でかなりの犠牲者を出すはずです。イギリスがまさにそうでした。そして犠牲者に加えて後遺症の問題もあり、労働力が低下してしまいます。例えばアメリカでは一時期、後遺症のために400万人の労働者が働けないという問題が発生しました。中国でも、何か月か先には、人手不足の深刻化が大きな問題になると思います」
香港大学は、『2022年12月~2023年1月までに、中国で”新型コロナ感染症“により100万人が死亡する』と試算しています。
Q.本来は人とウイルスは共存するもので、“ゼロコロナ政策”のように、ウイルスを全滅させるのはできないですよね。
(勝田教授)
「そうなんですが中国は、2003年のSARSという“今回のコロナ”の先輩のコロナウイルスが流行ったときに、感染者をゼロにすることができたのです。今回の傲慢とも見える“ゼロコロナ政策”は、そのときの成功体験が原因だと思います。しかし今回の”コロナ”は、SARSと違い症状が出る前の感染者も他人を感染させてしまうので、封じ込めにくいのです」
“ゼロコロナ政策”の弊害?「桃の缶詰が効く」デマ拡散も

中国では、「桃の缶詰が症状を和らげるらしい」という根も葉もない情報で桃の缶詰が売り切れたり、「軽度な症状はレモンをお湯に浸して飲むと良い」という大学病院の院長の根拠の薄い話でレモンの売り上げが急増するなどの現象が起きています。またネット上には「みかんを食べると陽性になる」などのデマもあるのですが、どれも化学的な根拠はありません。勝田教授によると、以前SARSが流行したときに「薬草が効く」というデマで、食中毒が多発したこともあるということです。
Q.中国では、薬も足りないと聞いていますが、実際のところはどうなのですか?
(福島氏)
「製薬会社には増産の指示が出ているのですが、材料などのサプライチェーンの問題から追いついていない状態だと思います。“ゼロコロナ政策”では、工場も閉鎖されていた期間も長く、どうしても必要な薬は、工場ごとロックダウンして、監獄のような環境で働かされて労働者が抵抗したり暴動を起こしたりもあったようです」

さらにアメリカのプライス報道官は12月19日、中国の感染状況について「ウイルスは拡散事に変異して、世界の人々に脅威をもたらす可能性がある」と指摘しました。勝田教授は「オミクロン株のマイナーチェンジはそれほど脅威ではないが、オミクロン株から新たな株になると脅威になる恐れもある」としています。
Q.中国は14億人を抱えていて、そこで感染爆発が起こると日本と比べものにならない変異をする可能性もあるのではないでしょうか?
(勝田教授)
「今あるオミクロン株の範囲内や、ちょっと変化するものであれば常識的に考えられますが、例えば、オミクロン株がある動物に感染して、その動物の中で変異して人間に戻ってきたりすると、人間を殺さない方向に進むとは限りません。SARSの時は、食用動物を売っているマーケットでハクビシンなどから人に感染しました。そういうことが起こりやすいのが中国です。中国以外でもリスやスカンク、鹿、ミンクなどがコロナウイルスに感染するという論文が出ています」
これから起こる事 日本の我々は何に気を付ければいいのか
Q.今は第8波といわれていますが、こういう波はまだ繰り返されるのでしょうか?
(勝田教授)
「9月にWHOが『“コロナ禍”の出口は見えてきたが、3つのシナリオがある』と言っています。一般的なシナリオは、多くの人に抗体ができて流行が下火になる。しかし何か月か経つと抗体が減ってまた感染が増えるという波が続くというものです」
Q.インフルエンザと“コロナ”の同時流行という恐れはありますか?
「今のところ、インフルエンザの流行は注意報や警報が出るところまでは行っていませんが、確実に増加は始まっています。過去のオーストラリアのように、一気に感染者が増えるというようなことがなければ、と思っています」
Q.我々は何に気を付ければいいのでしょうか?
(勝田教授)
「日本人の場合は、これまで何度かのリスクコミュニケーションがあって、どういう行動をすべきかを知っています。例えば、高齢者は重症化の危険が高いので、帰省をしても高齢者には合わないだとか、具合が悪い時は公共交通機関の利用を控えるだとか、いろんなことが知識としてあります。これまで我々が知って来た知識を思い出して、しっかり対処していくという事だと思います」
(情報ライブミヤネ屋2022年12月22日放送)