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【独自解説】「“絆創膏を貼る”くらいの対応しかしていなかったのが大出血」バイデン大統領がイスラエル訪問を表明。ガザ地区への地上侵攻が近いと言われている中、何が変わるのか?専門家が解説
2023年10月18日 UP
ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」による奇襲攻撃以来、イスラエルは連日、ガザ地区への空爆を行っていて、両陣営の死者は、これまでに4100人以上といわれています。イスラエル軍による地上侵攻の可能性も高まる緊迫した状況の中、アメリカのバイデン大統領が18日にイスラエルを訪問すると発表。大統領の訪問で、今後イスラエルとハマスを巡る情勢はどうなっていくのでしょうか?中東情勢に詳しい放送大学名誉教授の高橋和夫氏が解説します。
「問題なのは“土地争い”」ユダヤ人とパレスチナ人、対立の歴史
ピンクのところがイスラエルで、黄色がパレスチナ暫定自治区です。パレスチナ暫定自治区は、ガザ地区とヨルダン川西岸の2つに分かれていて、今回の衝突が起こっているのがガザ地区となります。ガザ地区は2007年からイスラム原理主義組織「ハマス」に実効支配されていて、日本の種子島より狭い約365平方キロメートルに約222万人が住む人口密集地となっています。今回の紛争でイスラエル側が1400人以上、ガザ地区では2750人が犠牲になっています。
このパレスチナの地を巡る「ユダヤ人」と「パレスチナ人」の対立の歴史ですが。まず、19世紀ごろヨーロッパ各地で差別や迫害を受けたユダヤ人が、祖先の地「パレスチナ」に国を作ろうという「シオニズム運動」というのが起こります。さらに、第二次世界大戦中にナチスによるホロコーストなどが行われたため、国際的にもユダヤ人国家建設に同情的な空気ができてきました。そして、1948年、ユダヤ人の祖先の地パレスチナに「イスラエル」が建国。世界中に散っていたユダヤ人がそのイスラエルに暮らすようになります。そのため、元来そこに暮らしていたイスラム教を信じる「パレスチナ人」は追いやられることとなってしまいました。その結果、「パレスチナ」は「イスラエル」に対して反発。同じイスラム教のアラブ諸国が「パレスチナ」を支援し、4度にわたる中東戦争が起こります。
Q.宗教も絡んでいますが、実は領土争いとみていいのでしょうか?
(放送大学名誉教授 高橋和夫氏)
「そうです、領土問題が重要です。実は、パレスチナ側にはキリスト教徒もいますので、宗教で争っているわけではありません。ユダヤ教徒はユダヤ教が正しいと思っていますし、イスラム教徒はイスラム教、キリスト教徒はキリスト教が正しいと思っていますので、それが問題なのではなく“土地争い”なんです」
Q.大昔からの対立だと聞きますが?
(高橋氏)
「実際は19世紀の末ごろからだんだん争いが激しくなっています。それまではパレスチナでユダヤ人がいじめられたとか、イスラム教徒やキリスト教徒がいじめられたという話をあまり聞かなかったと思います」
Q.ユダヤ教とキリスト教とイスラム教はもともとの根源は同じですよね?
(高橋氏)
「一番古いのがユダヤ教で、ユダヤ教徒の中からイエスが生まれて『私は神の子だ』と言って、キリスト教が始まります。その後7世紀にムハンマドが出てきます。『ユダヤ教もキリスト教もいい宗教だけど、神がもっといい宗教を広めろと私にメッセージを送って来た。イスラム教が一番いい宗教だ。しかし、ユダヤ教もキリスト教もいい宗教なので大切にしましょう』というのが最初のメッセージでした。この3つの宗教は「兄弟宗教」なんです。イスラムから見てユダヤ教もキリスト教も同じ“神”を信仰しているので、排除するというのは(昔の)イスラム世界ではありませんでした。ヨーロッパではユダヤ教徒は迫害されていたので、ヨーロッパからイスラム世界に逃げてくるユダヤ教徒はたくさんいました」
イスラエル国民の多くは、「『絶対ハマスを殲滅するしかない』という政治家に納得」
Q.ハマスの支配に対するガザ地区住民のデモなどもあって、ハマスに対する不満が爆発しそうになったのでイスラエルへの攻撃を行ったのですか?
(高橋氏)
「そういう見方は素直な解釈ですが、住民のデモは比較的最近です。しかしこの作戦は、もっと前から計画を立てていたと思います。なので、元々計画があって、デモもあったので、ますます実行しないといけないと考えたと思います」
Q.イスラエルは、人道回廊を作って、時間をとって「一般の人は南部に逃げてください」といいましたが、移動できない人もいっぱいいるわけですし、またハマスも一般の人に紛れていますよね?ハマスだけ掃討するのは不可能じゃないですか?
(高橋氏)
「ハマスにも家族がいますので相当難しいと思います。しかしイスラエルとしては『今回のテロはひどすぎる』という感覚です。今まで何回もイスラエルとハマスは戦争をしていますが、イスラエルの被害は十数人だったのが今回は千人規模の死者が出ています。イスラエルの人口は約1000万人ですので、例えばイスラエル人が1000人亡くなったとしたら、日本の感覚で言うと1万2000人が亡くなったことになります。イスラエルの国民の多くは、『絶対ハマスを殲滅するしかない』という政治家の説得に納得しているのだと思います」
Q.ガザ地区を実効支配している「ハマス」はどういった組織なのでしょうか?
(高橋氏)
「軍事部門をみると洗練された部隊もいるし、そうでもない部隊もいます。今回イスラエルのキブツに入って、テロを行った部隊もいますが、お茶をすすめられて飲んでいる間に捕まってしまった戦闘員もいます。訓練されて決意に燃えた若い人もいますし、『行けと言われたから行っただけ』という人もいたようです」
地上侵攻迫る中、バイデン大統領がイスラエル訪問。何が変わるのか?
Q.バイデン大統領はネタニヤフ首相と会いますが、イスラエルは今にも地上侵攻を行おうとしています。どうなったら停戦になるのでしょうか?
(高橋氏)
「イスラエルとしては、ハマスを武力的に解体すれば停戦ということになると思います。戦闘が激化しようとする時期にアメリカのバイデン大統領が来る意味を読むのは難しいです。大統領が来たからイスラエルが地上侵攻を延期するのか?アメリカの大統領の支持があると思って地上侵攻に行ってしまうのか?何を考えているのかちょっとわかりません。バイデン大統領は、『パレスチナ問題は時間をかけても解決しないから、国内の問題だけを解決したい』と思って“絆創膏を貼る”くらいの対応しかしていなかったのが、大出血が起こったので慌てて行ったのだと思います。そして、対立する共和党やトランプ氏からは『バイデン大統領がしっかりしないからこんなことになった』と叩かれているところもあって、元々バイデン大統領はイスラエル支持ではあるのですが、ここでイスラエルとちゃんと向き合って、馬は合わないけどネタニヤフ首相ともうまくやっているとこを見せるのが、来年の大統領選に向けて必要だとの判断なのではないでしょうか」
(「情報ライブミヤネ屋」2023年10月17日放送)