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【独自解説】緊張高まるロシア軍のウクライナ侵攻、北京五輪中の開戦の可能性は?
2022年2月4日 UP
2月4日に開会式が行われる北京五輪。この“平和の祭典”の裏側で、国際情勢に“ある危機”が迫っている。それが、ロシア軍によるウクライナの侵攻だ。なぜロシアは、隣国ウクライナに侵攻するのか?遠く離れた日本への影響とは?現地ウクライナからのリポートも交え、ロシア情勢に詳しい筑波大学・中村逸郎教授が解説する。
ウクライナを巡る情勢
「言っていることとやっていることが違う!」今、プーチン大統領が怒っている原因となっているのが、アメリカやヨーロッパなど30か国が加盟し、同盟国の領土や国民を守ることを目的とした軍事同盟「NATO(北大西洋条約機構)」。ロシア側は、冷戦終結後にNATOが「東方に拡大しない」とした取り決めをないがしろにした、と主張しているのだ。
実際NATOは、ロシアを包囲するように東側に拡大。そのロシアの喉元に突き刺さるように位置するのが、ウクライナだ。現在ロシア軍は、そのウクライナとの国境付近に、12万人規模の部隊を展開。アメリカに対して、ウクライナをNATOに“加盟させない”よう要求している。
緊張が高まるウクライナ国内では、一見通常の生活が営まれているように見えるが、ロシアの軍事侵攻への備えも着実に進んでいる。キエフ市では、最大320人が収容できて核攻撃にも耐えられる“防空壕”の点検を進めており、誰を避難させるかもすでに決めてあるという。また、工場跡地ではロシア軍の攻撃に備え、一般市民200人が参加する“軍事訓練”が行われ、参加者には若い女性や10代の子どもの姿もあった。ロシアが国境付近に軍を配備して以降、訓練への参加者は増えているという。
ウクライナ第2の都市・ハリコフから、記者が現地リポート
Q.今のハリコフはどのような状況でしょう?
(NNN 山田智也記者)
「私はキエフとハリコフの両方を見てきましたが、どちらも非常に落ち着いていて、通常の生活が続いています。一方、外国の企業が退避する動きが進んでいて、経済に影響する懸念が出てきています。国境のほうに近づくと緊張は高まってくるという話は聞いています。」
Q.今のハリコフの住民感情は?
(山田記者)
「私はいつ侵攻があってもおかしくないと言われているので、非常に緊張していましたが、ウクライナの人たちは落ち着いていて、話を聞くと『緊張は高まってはいるが、2014年の“クリミア併合”以来、緊張はずっと続いている』と言われました。2014年以降、ウクライナでは“親ロシア派”との戦いで1万3000人以上亡くなっているので『ロシアの脅威というのは、常にウクライナ人とともにある』という人も多くいました。それでも“自分たちの国を作っていくんだ”という意志が強いと感じます。その過程で、西側諸国と仲良くしたほうがいいと考える人も多くいる印象です。」
Q.ウクライナの日本人の状況は?
(山田記者)
「こちらには250人ほどの日本人がいると言われていますが、一部の日本人はすでに帰国しています。今回取材したバレリーナの門馬美沙希(もんま・みさき)さんの場合は、荷物を常にスーツケースに入れて、いつでもすぐに帰国できるようにはしているが、こちらで4年も頑張ってやっとバレリーナという地位を確立しつつあって、生活の面では通常の生活が送れているので、ロシアの侵攻がどうなるかわからない中、すぐに帰国を決断するのは非常に難しいと悩んでいました。」
北京五輪開催中の侵攻も?専門家が解説
ウクライナはロシアの南西に位置する国で、面積は日本の約1.6倍、人口約4000万人で、主な民族はウクライナ人だが、東部にはロシア人もかなり多くいる。元はソビエト連邦の一部だったのが、ソ連崩壊に伴い1991年に独立をしたまだ新しい国家といえる。
Q.独立してから間もないということは、ウクライナ国内でも「独立を守ろう」という派と、「もう一度ロシアと一緒になって大国の一部になった方がいい」という派に、分かれているのでしょうか?
(中村教授)
「そうなんです。ロシアに近いウクライナ東部には、自分たちをロシア人だと思っている人たちが8割くらいいるんです。対して西側に住んでいる人は、ロシア人ではなくウクライナ人だと思っている人たちが8割くらいいて、ウクライナの中でも東西分裂状態になっています。」
Q、ロシアのウクライナ侵攻の大義面分は、「ロシア語を話す人たちの保護」といいますが、どうやって始めるつもりなのでしょう?
(中村教授)
「今ウクライナの中に、ロシアが派遣した工作員がたくさん入っていて、内乱を誘発したところで侵攻しようというのがロシアの目論見です。」
中村教授は、ロシアが侵攻をやめるための条件として、
(1)NATOの東方不拡大
(2)NATOの軍備配置を1997年以前の状態に戻す
(3)ロシア国境付近に攻撃型兵器を配備しない
の、3つを要求していると言います。
(中村教授)
「ソ連が崩壊する前、東西ドイツが統一されたときに、ソ連のゴルバチョフ大統領とアメリカの国務長官との間で、NATOは統一ドイツから東へは拡大しないという口約束があったんです。ロシアのプーチン大統領はそのことを持ち出して来て『約束が違う!』と言っているんですが、NATO・アメリカ側は、条約や協定があるわけではないと言っているので、押し問答になっているわけです。」
ウクライナをNATO加盟に加盟させるなというロシアの要求をアメリカは拒否、アメリカの「お互いの軍事演習を制限しよう」という提案にロシアは回答せず、外相会談も具体的な進展が見られないという状況になっている中、プーチン大統領は「ロシアの懸念が無視されている、今日NATOはどこにいる?言っていることとやっていることが違う、だまされた」と述べた。
しかしNATO側も、ロシアに対して一枚岩になれない理由がある。それは、ロシアがにぎっている「天然ガス」だ。EUは、天然ガスの約4割をロシアからの輸入に頼っているため、仮にロシアからの供給が止まると、世界的な天然ガスの価格高騰に拍車がかかると言われている。
Q.特にドイツは、かなりロシアの天然ガスに依存しているという話もありますね?
(中村教授)
「バイデン大統領は、まとまってロシアに対抗したいのですが、ロシアとNATOが戦うことになって、天然ガスのパイプラインを破壊されたりしたら、ドイツは電力などが止まって経済的に大変な損失を被ることになってしまいます。バイデン大統領についていくと自分たちの経済が回らなくなる心配があるんです。」
Q.北京五輪の最中に、プーチン大統領が開戦宣言をするという説がありますが?
(中村教授)
「2008年の北京五輪の時も、開催期間中にグルジア(現ジョージア)に軍事介入しています。今回、国としては五輪に参加できないのに、プーチン大統領は北京に行って首脳会談を行います。習近平国家主席との間で、何か密約を交わすのではないかと思うんです。」
Q.もし今ウクライナ侵攻があったら、アメリカはそっちに手を取られて、台湾方面が手薄になる。これは日本の危機でもあるんですが、これを避ける落としどころは?
(中村教授)
「今は最大級の危機なので、これを退避するには、ロシアをNATOの仲間に入れてしまうしかないと思います。実は2002年に、NATOの会議に出席したプーチン大統領が、『ロシアもNATOに入る意思がある』と言ったんです。その時はみんな冗談かと思っていたんですが、当時のNATOの事務総長がその時のことを思い出して、『あれは本気だったんじゃないか、もうここまで来たら、ロシアのNATO加盟を認めるしかないんじゃないか』という話も出てきています。」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年2月3日放送)