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【独自解説】新たな変異株「オミクロン」の脅威 日本の対応は? 専門家医師「ワクチン自体が全く無効になる可能性はほとんどない」
2021年11月30日 UP
新たな変異株「オミクロン」
11月、南アフリカで確認された、新たな変異株「オミクロン」の感染拡大を受け、岸田総理が新たな水際対策として、11月30日から全世界からの外国人の入国を原則停止することを発表しました。これで日本への「オミクロン株」流入は防げるのでしょうか?日本感染症学会の指導医でグローバルヘルスケアクリニック院長の水野泰孝(みずの・やすたか)医師と、意思で“渡航医学”を専門としている関西福祉大学の勝田吉彰教授が独自解説します。
日本政府の対応は?
11月29日、午後1時過ぎ、後藤茂之厚労相が発表したのは…
(後藤茂之厚労相)
「きのう(28日)、10日間の隔離指定国である、ナミビアからの入国者で1名陽性が確認されました。検査結果の判定後、同行の家族も含め検疫の陽性者療養施設に入所してもらっています。」
水際対策で、10日間の隔離が必要となっている指定9か国の1つ・ナミビア。そのナミビアからの入国者1人が新型コロナに感染していることが判明しました。感染者は現在、発熱の症状があるといいます。
(後藤茂之・厚労相)
「陽性検体は国立感染症研究所に29日到着予定で、“オミクロン株”であるかどうかゲノム(遺伝子)解析を速やかにすすめる予定です。引き続き検疫で陽性となったすべての検体についてゲノム解析を実施するとともに、自治体主体の全ゲノム解析を従来お願いしている5%~10%にとどまらず、現時点での検査能力を最大限発揮して実施していただくようお願いする等、国内の検査体制も強化していく」
そのころ、官邸では岸田首相がカメラの前へ。大きな発表を行いました。
(岸田首相)
「我が国も最悪の事態を避けるため緊急避難的な予防措置として、まずは外国人の入国については、11月30日午前0時より全世界を対象に禁止します。そして日本人等でも南アフリカなど、9か国に加え、感染が確認された14か国から帰国する場合には施設における厳格な隔離措置を実施いたします」
外国人の日本への新規入国を、11月30日午前0時から当面停止へ。その対象は「全世界」。これまで、例外的に認められてきたビジネス目的の滞在者や留学生らもこれで日本への入国ができなくなります。
(岸田首相)
「我が国は、G7の中でも最高のワクチン接種率かつ2回目接種からもっとも日が浅い状況にあります。マスク着用をはじめ、行動自粛への国民協力も世界が称賛している状況です。“オミクロン株”リスクへの体制。これは各国以上に強いと認識しています。国民の皆さんには落ち着いて対応するよう呼びかけたい。“まだ状況が分からないのに、岸田は慎重すぎる”という批判については、私がすべて負う覚悟でやってまいります。万が一の措置で、ご不便おかけする国民の皆さんには、ご理解をお願いしたいと思います」
新たな変異株「オミクロン株」とは?
新たな変異株「オミクロン」とは、11月9日、南アフリカで採取された「新たな変異株」です。WHO(世界保健機関)の発表によると、劇的に異なるスパイクたんぱく質で、“これまでで最も激しい変異”があるとされています。11月26日、WHOは、「オミクロン株」と命名、ほかの変異株に比べ 感染力が高い恐れがある【懸念される変異株】に指定しました。これは、最高レベルの警戒です。
また、イギリスの放送局BBCによりますと、「デルタ株」より感染力が強く、ワクチン効果が低い恐れがあるといいます。また、イギリスのジョンソン首相は「ワクチンを2回接種した人でも感染する可能性がある」と話しています。イギリスでは、すでに「オミクロン株」の感染者が確認されたため、南アフリカなど、6か国からの渡航を禁止にするなど、警戒を高めています。
Q.「オミクロン株」は30か所の変異があるということですが、数が怖いのか、それとも変異の形が怖いのか、どちらですか?
(水野泰孝医師)
「数が増えてくれば、いろんな変化が出てくるんですね。感染力ですとか病原性ですとか、あるいはワクチンが効くかどうかです。数が多くてもこれらが懸念されなければ、そんなに問題ないと思うんですけれども、この中でとくに何が問題かというと、他の人にうつす感染力です。どれだけ広がりやすいということと、あとは、既存のワクチンの効果が十分発揮できるのかどうか、ここの2つが非常に重要なポイントだと思います」
Q.「デルタ株」より感染力が強いということですが、直ちにこれはこの「デルタ株」よりも毒性が強いとか、毒性が弱いとかそういうことではないのですか?
(関西福祉大学・勝田吉彰教授)
「それは全く違うことなので、別の話として考えなければいけないです。毒性の話で言えば、今のところ私は少し楽観的に考えているのは、世界中で拡大する中で人がどんどん亡くなるという報道が今のところないわけです。アフリカですから当然、日本とは違いますから、同一には論じられませんが、人が亡くなる数がどんどん増えれば、それは明らかに病原性が増えていると言える。でも、いろんな国に拡散していても、そこで亡くなったという話が無いので、あまり大変なことでもないのかなと。やはり、感染力に私は注目しています」
Q.オミクロンを色々な研究機関が知れていると思いますが、1週間や2週間ぐらいで正体は分かるのですか?
(勝田吉彰教授)
「ある程度の指標というのは、ポイントがあります。どれぐらい感染が広がるのかというのは、例えば基本再生産数(1人の感染者が、免疫を持たない人に直接感染させる人数)ですね。今、一部で1.92という数値が出ているのですけど、その辺もきっちりしたものが出てくる。また病原性についても、入院している人の数が、南アフリカのあるセンターでは100人台だったのが400人台になったという数字だけではなく、詳しく、具体的にどんな人が入院しているかを含めて。いくつかのポイントがカチッと分かればいいわけですので、そんなに長い時間ということではないと思います」
Q.「変異株は共存しない」とも言われますが、南アフリカでは「オミクロン」が出てきて「デルタ」が飲み込まれて、無くなっていくのですか?
(水野泰孝医師)
「置き換わってくるということは、それだけ感染力が強いってことですので、今後、デルタが全くなくなってきて、このオミクロンに替わってくるとなると、感染力は強いのではないかと推測はされますが、現段階では、なんとも言えないと思います」
Q.「オミクロン」が「デルタ」から置き換わると、厄介だということですか?
(水野泰孝医師)
「現段階では、そのように考えていいのかなと思いますけれども、今後どういった形で広がるかというのは、やはりしっかりとした情報入手と、この遺伝子の特徴をしっかりと解析してから対策をとっていく必要があるかと思います」
Q.日本人はワクチンの接種率も高いので、ここは冷静にならなくてはいけない?
(水野泰孝医師)
「そうですね、ワクチンの接種率は、日本はかなり世界的にも高い水準で獲得できています。ワクチンの制度管理とかそういったところもしっかりしていますので、そういった意味では“重症化”に関しては、ある程度抑制できると思うんですが、ただ今後、抗体価が下がってきたときに、どれだけ感染する方が出てくるかと、そういったところも慎重に見ていく必要があると思います」
Q.変異というのは当然起きるわけですが、“新型コロナウイルス”という種類は変わらないわけで、ワクチンを接種している人の有効率が全然無くなるわけではないですよね?
(水野泰孝医師)
「そうですね。ワクチン自体がまったく無効になるっていう可能性はほとんどないと思います。ただ、それをすり抜けて、症状は軽いけどもウイルスがある程度増えてくる可能性はありますので、その辺はしっかりと解析が必要だと思います」
世界各地で確認される「オミクロン株」
この「オミクロン株」は世界各地で確認され、すでに13の国や地域に拡大しています。南アフリカでは、11月15日時点で、検査数の75%以上が「オミクロン株」で、11月25日時点では77例確認されています。その隣、ボツワナでは4例、また、ベルギーでは11月26日エジプトから帰国の旅行者の感染確認。これはヨーロッパで初確認でした。そのほか、イギリス、ドイツ、イタリア、オランダ、デンマークそしてイスラエル、香港、オーストラリアで確認されています。
Q.世界各地で「オミクロン」が確認されていますが、これはまだ注視する段階ですか?
(勝田吉彰教授)
「注視する段階ではありますが、注視というのは、まずは全体にもっともっと世界中に広がるということまで想定しながらの注視なんですね。危機管理の基本だから、注視というのは視てればいいという話ではなくて、まず、入ってくることを前提として考えて準備をしましょうという、そういう注視です」
“震源地”南アフリカでは…
11月25日時点で、77人の「オミクロン株」感染が明らかになっている“震源地”南アフリカ。日本時間の11月27日、港町・ダーバンで開かれたナイトマーケットでは、狭い通路を多くの人が行き交っていました。「オミクロン株」が見つかって以降も、まだ、街に大きな変化はないといいます。南アフリカのケープタウンでは、多くの人が行き交っていました。
気になる「オミクロン株」の症状について、南アフリカの医師会の会長は…
(南アフリカ・コエツィ医師会会長)
「症状のほとんどは、1日~2日続く強い倦怠感の後に、頭痛や体の痛みがある。咳もあるが、ずっと続くものではなく、やがてなくなる」
このように「今のところ軽症」との見解を示しました。
Q.「オミクロン株」が日本に入ってきたとしても、軽症であるならば、ウイズ・コロナと思うことが大事ですか?
(日本感染症学会指導医・グローバルヘルスケアクリニック院長の水野泰孝医師)
「もちろん、そうなんですが、こういった新たな変異株というのは、どうなってくるか全く分からないのと、いま分かっている情報が非常に少ないですので。最低限、入れないことは大事なので、水際対策の強化という意味では、これまでの対策からすれば、今回は早い決断だったかなと私は思っています」
Q. この変異株が、もし広がらないものだと分かれば、これは経済のこと考えると(国の入国を)開けるべきですよね?
(水野泰孝医師)
「そうですね。臨機応変の対応が必要なのと、あとは検査体制ですよね。いま、この株がコマーシャルベースいわゆる我々の医療機関とかで全部それがスクリーング検査できるわけではありませんので、この辺の検査体制なんかも早急に体制が整うと非常にいいと思います」
オランダで「オミクロン株」を多数確認
オランダでは、多くの陽性者が確認されています。11月26日、南アフリカ発アムステルダム着の航空便2便に乗っていた624人のうち、61人が検査で陽性。分析したところ、28日、オランダ保健当局は13人の「オミクロン株」感染を発表。全員の分析は、まだ完了しておらず、さらに増える可能性もあります。実際に南アフリカからオランダに帰国したオランダ人は…
(南アフリカから帰国したオランダ人)
「空港のターミナル到着後は、ちょっとした混乱が起きていました。保健当局の人たちが待機していて、私たちは何が起こるんだろうと不安でした」
さらに、検査後の対応にはこんな問題点も。
(南アフリカから帰国したオランダ人)
「午前4時になってようやく陰性の結果が出ました。その後、出口に誘導されましたが、私の隣にいる男性が陽性だという事がわかったんです。どうして陽性の人を陰性の人たちと一緒に行動させるのか全く訳がわかりませんでした」
検査当局で統率がとれておらず、陽性者と陰性者が分けられていませんでした。
オランダ当局は、11月22日以降に南アフリカとその周辺の国から到着した、約5000人に連絡し、検査を受けるよう求めています。
香港では「オミクロン株」が空気感染?
一方、香港では、気になる事例もあります。香港メディアによると、香港に入国後、隔離で滞在していたホテルで、まず、南アフリカから香港に入国した男性の陽性が判明。その5日後、その向かいの部屋に滞在していた、カナダから香港に入国した男性の陽性が判明しました。香港の医療当局は「医療用マスクを部屋の中で着用せず、ドアを開けた際に部屋の外に空気が流れ出て感染した可能性がある」としています。
Q.この香港の例も慎重に捉えなければいけませんよね?これでパニックになってはいけない?
(水野泰孝医師)
「その通りです。これはまだホテルの状況も分かりませんし、この2人がどういう行動されたかが分かりませんので。換気が悪かったのは、どうもありそうですので、確かに咳き込んだりすれば、一部エアロゾル化しますけど、それがイコール空気感染ではなくて。これまでもありましたけれども、飛沫が飛び交う環境であれば一部エアロゾル化しますので、そういったところもあったのかもしれないです」
アメリカの反応は…
11月25日、感謝祭を祝う恒例のパレードが行われた、アメリカ・ニューヨーク。マスクをしている人はほとんどいません。しかし、この祭りの翌日に「オミクロン株」のニュースが世界を駆け巡ると…
(バイデン大統領)
「この新変異株については懸念される株であり、感染拡大の速度が速いとみられていること以外はまだわかっていないことが多い」
アメリカは、南アフリカを含む8か国からの外国人の入国を制限する措置を発表。ニューヨーク州の知事は「オミクロン株」が冬に拡大する可能性があるとして、病床の確保などに向けた“非常事態宣言”を出しています。
感染拡大が続く韓国では…
一方、感染拡大が続く韓国では、11月29日、対策本部会議が開かれ、保健福祉部の大臣が「オミクロン株」への対応を説明。国民にこう呼びかけました。
(クォン・ドクチョル保健福祉相)
「今まで数多くの危機を克服してきた経験と記憶をよみがえらせるべきだ。国民皆さんの団結の力で、今回の危機も十分に乗り越えられる」
韓国でもアフリカ南部、8か国からの外国人の入国を禁止すると発表したのですが、11月から“ウィズコロナ”を掲げ、最大10人までの会食を認めるなど急激な規制緩和に踏み切ったものの、新規感染者数が過去最多を更新。マッコリ居酒屋にいた男性は…
(居酒屋の客)「ウィズコロナ(規制緩和)になって友人と数年ぶりに会って飲んでいます。」
「オミクロン株」については…
(居酒屋の客)「ニュースで見ました」
Q.ワクチン効果が弱まるというニュースも出ていますが?
(居酒屋の客)「そこまではわからない」
日本のワクチン“3回目接種”は?
ワクチンの“3回目接種”について、国の方針では、「原則2回目接種から8か月以上」の間隔をあけて行うとし、12月1日から開始するとしています。例外的に「6か月に前倒し」する対象について、「クラスターが発生した医療機関」や「高齢者施設」など、同じ保健所の管轄内で複数、クラスターが発生した場合はそれに加え、その地域の「医療従事者」などとすることを厚労省が明らかにしました。接種を前倒しする際は、市町村が事前に厚労省と相談の上、配分されたワクチンを使用します。
Q. ある程度、抗体が下がってからブースター摂取した方が、また抗体が上がるって言われますけれども、実際に自治体にワクチンが配られて条件を付けなくても打てるところは早く打ったほうがいいのか、それともやっぱり8か月というのを守って打ったほうがいいのかどちらですか?
(勝田吉彰教授)
「6か月というのはすごく短い期間ではないので、打てることがあれば打ったらいいと思います。クラスターが出来てからというのはあまり意味が無くて、もちろん早く打った方がいいのだけれども、ただこれからオミクロンの問題もありますから、ワクチンの世界の争奪戦がある。そうすると日本が使えるワクチン量はある程度、上限があるだろう。そういうところで、みんな6か月がいいですかとなって予約すると現場のパニックが起こります。ですので、8か月。そこらへんは需給関係でパニック予防かなと思います」
Q.お子さんの3回目の接種はどうですか?
(勝田吉彰教授)
「これからの経過の中でメリットとデメリットを計りながらやりましょうというのが、基本中の基本です。その中でメリット、つまり子どもの重症化するケースというのが世界的な傾向としてよく報道されるようになってきているのが、気味の悪い所なんです。ひょっとするともうちょっと先のところで、メリットが増えるかも知れない。そうすると今、出来る人は、したらいいかなと思います。ただ一方で、昨日大阪のワクチン会場でワクチン業務に行ってきましたが、まだ12歳、13歳の中学生がどんどんいらっしゃっていて、まだまだ終わらない。“順番がなかなか回りにくい”のかなというのをワクチンの現場からは思います」
Q.水野先生のクリニックでは、”コロナ“の感染者はほとんどいないのですか?
(水野泰孝医師)
「コロナの患者さんは全然いないですね。最後に確認したのは、9月20日ぐらいですから。熱の患者さんは11月になってからちょっと増えた印象ですけども、インフルエンザも新型コロナも検査はしていますが、全て陰性です」
Q.なぜ日本では感染者数が急に減ったのですか?
(水野泰孝医師)
「これは本当に私も正直分からないっていいますか。とにかく急激に減ったことは事実でして。8月上旬は検査すれば陽性で、お子さんも大人も皆陽性になりましたし、それが8月中旬以降から、ワクチンを打っていないお子さんも検査しても陽性にならなくなって、学校が始まって濃厚接触者の検査もかなりやりましたけれども、本当にもう全然陽性にならなくなって、すごく不思議なところで、もちろん人の側の原因もあると思うんですけど、やっぱり病原体が変化したのかなというのは以前から思ってはいたんですが」
Q.もしも「ワクチン接種率が高いから日本で感染者数が減った」としたら、「オミクロン株」も過度に心配する必要は無いのでしょうか?
(勝田吉彰教授)
「ただ、感染者数の母集団がバッと増えると、それほど重症化する人が多くないとしても、やはり絶対数としては増えてくるのです。これは『大したことないから、風邪だけで済む』というメッセージが流れてしまうと、今度は皆さんが行動をあまり考えて下さらないということになるので、結果的に、全体として負担がかかってしまうということが考えられるので、やはりここは、軽症だからいいということではないと思って欲しい」
Q.日本で「オミクロン株」が出ても我々の感染対策は変わらない?
(勝田吉彰教授)
「そうですね、基本的なところは。さらに空中を介したエアロゾル感染の可能性はあるので、換気のところがより大きな点数を占めるのだというところ、特にこれから寒くなるので寒くなっても換気をするのだ、オフィスにおいてもお互いを忖度しないで、ちゃんと窓をあけることを徹底して欲しいと思います」
(情報ライブミヤネ屋 2021年11月29日放送)