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【独自解説】ヘンリー王子“タリバン兵殺害”発言は「家族も自身も危険にさらした」 回顧録『スペア』に綴られた赤裸々告白を専門家が分析
2023年1月12日 UP
1月10日、イギリスで発売されたヘンリー王子による回顧録「スペア」ですが、本の中では、確執が続くロイヤルファミリーを批判。その衝撃的な告白の数々に波紋が広がっています。英国王室のエキスパート、多賀幹子さんとデーブ・スペクターさんの専門家2人が解説します。
タイトル「スペア」に込められた意味とは
ヘンリー王子の回顧録「スペア」は、全416ページの本で、契約金が60億円だといいます。タイトル「スペア」に込められた意味は、1984年ヘンリー王子が誕生した際に父チャールズ国王が、母ダイアナ元妃に対して発した言葉、「これで跡継ぎと『スペア』を授かった、だから僕の仕事は終わった」にあり、この発言を二十歳のときに聞いたヘンリー王子の「自分はスペアだ、兄が跡継ぎ。父やエリザベス女王でさえスペアと言っていた。私はプランB、何かが起こったときのためこの世に生を受けた」という憤りを表したといいます。
Q.この「スペア」という言葉は、どう捉えたらいいのですか?昔からイギリス王室は使っていた言葉なのですか?
(多賀さん)
「女王も『かわいいスペアちゃん』と言っているわけで、悪意がある言葉ではないと思います。ヘンリー王子がどう捉えたかは別ですが、王室や貴族は、継承ということがとても大切になります。広大な土地や建物を引き継いでもらわなければいけません。そうなると後継者と、その人に病気や事故などで何かあった場合の代わりの人を、半分冗談で『スペア』ということはあります。ただ本当の『後継者』も、その悩みや責任感、重みと言う点で大変な思いをしているということも少しは考えてほしかったと思います」
イギリスでの「スペア」の初日の売り上げは40万部を突破しました。この数字は、ノンフィクション部門で最速だということです。国民からは、「王室の人々はバッキンガム宮殿で悲鳴を上げている」「彼は愚かだと思います」といった声がきこえています。
Q.契約金の60億円は、ペイできるのですか?
(デーブさん)
「できると思います。『スペア』を読んだのですが、非常に文章がよくて読み応えがありました。ただ、ハリー王子の自伝ですので、すべて彼からの発信になっていて、特に取材による裏付けなどはないために少し物足りなく感じました」
1月8日、ヘンリー王子はインタビュー番組で「父を愛しています。兄を愛していますし、家族を愛しています。常にです。この本や他のものを通して彼らに危害を加えたり、傷つける意図は私には決してありません。真実を語ったまでです」「私や私の家族に関するウソが何年にもわたって言われ続け、王室の特定のメンバーは自分たちのイメージ回復のため悪魔になることを選んだ。その回復が他人に迷惑をかける行為の場合、私は王室と一線を引きます」と語りました。
Q.ヘンリー王子は「彼らに危害を加えたり、傷つける意図は私には決してありません」と言っていますが、本の内容はかなり踏み込んだ内容になっていますよね?
(多賀さん)
「そうですね。兄やキャサリン妃への個人攻撃もしています。一体どうしてしまったんだろうと思うくらい酷いです」
Q.「王室の特定のメンバーは自分たちのイメージ回復のため悪魔になることを選んだ」というのは、リーク合戦の事を言っているのでしょうか?
(デーブさん)
「そうですね。ヘンリー王子は、他の王室メンバーの広報担当が悪意を持ってメディアと取引していたと思い込んでいるのです。広報とメディアは協力関係にあって、日本で言う番記者的な付き合いもあり、全部が全部そうではないです。でもヘンリー王子は思い込みで発言しているように強く感じます。このインタビューは77か国で放送されていて、本以上に印象が残るので、このままフォローなしだとちょっと残念な気がします」
このインタビューだけでなく、英米の放送局に次々と出演しインタビューに応じるヘンリー王子ですが、多賀さんは「メーガン妃が一回も番組に登場しなかった。ヘンリー王子の暴露に対する世間の批判の声を警戒し、メーガン妃が一定の距離をとった可能性もあるのでは」と指摘しています。
また、世代によって違いはありますが、イギリス国内のヘンリー王子の好感度データは、王室離脱前は80パーセント前後あったのが、1月6日の調査では過去最低の26%になっています。調査会社は「国民の同情を買おうとしたヘンリー王子の思惑は失敗した」と指摘しています。
Q.本の内容が過激なので、メーガン妃は自分も批判の対象になるのを恐れて出てこなかったのでしょうか?
(多賀さん)
「そうでしょうね。メーガン妃は人前に出るのを嫌がるような人ではないのに、4回あったインタビューのどれにも同席していません。これは本に何か問題があったときに、『私の本ではないですよ』と逃げを打っているのではないかと感じました」
(デーブさん)
「世間は、ヘンリー王子はメーガン妃に感化されて王室を離脱したと思っているので、こういう時にメーガン妃は表に出て来ません。本を読んでいて驚いたのが、メーガン妃の話がなかなか出てこないんです。416ページの本でやっと267ページ目で出て来ます。ヘンリー王子一人の思いだという印象を付けたいと思うので、今回この本の宣伝にメーガン妃は参加しないと決めたのでしょう」
“タリバン兵を殺害”発言は「失敗」
ヘンリー王子は10年間にわたってイギリス陸軍に在籍していました。2012年、アフガニスタンに派遣された際、ヘリコプターの砲手を担当しタリバン兵25人を殺害しました。ヘンリー王子は本の中で、「殺した25人を人間だとは思っていなかった。人だと思うと人は殺せない。彼らはボードから取り除かれたチェスの駒だった。善良な人々を殺す前に悪人を排除した」と語りました。
Q.ヘンリー王子が軍に在籍していることを英雄視した時代もありましたよね?
(多賀さん)
「イギリス王室の次男や三男のプリンスは伝統的に戦場に出るというのがありました。チャールズ国王の弟のアンドリュー王子もフォークランド紛争の時に活躍して英雄視されました」
Q.戦場に行くという我々日本人には想像できない状況で、このコメントはどう捉えればいいのでしょうか?
(デーブさん)
「元兵士は自分が人を殺すことに参加していたというのは当たり前のことです。しかし、人数や具体的なことは言わないのが礼儀でもあります。ヘンリー王子も自慢するために言ったのではないと反論しています。『人間だと思うと撃てないので、チェスの駒だと思った』ということで、これは本音だと思います。ヘンリー王子の言い方も失敗ですが、メディアの取り上げ方もちょっと曲解していると思います」
このヘンリー王子の発言に、タリバン幹部がSNSで、「あなたが殺した人たちはチェスの駒ではなく人間だった。帰りを待つ家族もいた」と反論し、戦争犯罪だと主張しています。また、アフガニスタンにいた元イギリス軍事司令官は、「このヘンリー王子の発言によって、王子の安全がより危険にさらされる可能性もある」と警告を発しています。
Q.身の安全に関しては危険が高まってしまったように思います。
(デーブさん)
「ヘンリー王子自身がセキュリティー(警備)のこといつも言っているわけです。イギリスにいる時もセキュリティーを戻してくれとか訴えているのに、この発言で一生ターゲットにされかねないのです。彼だけでなく2人の子どもや家族も危険な状況に置いたわけです。しかもこれが何年も続く状況ですので、今回の発言は失敗だったと思います。この前、ニューヨークで人気番組の収録があったとき、本来は客前で収録する予定だったのが、この発言のあと別撮りになったそうで、それはセキュリティーのためだといいます。また、今後は身辺警護の費用も高くついてしまいますので、この発言は今回の本の騒動で一番マイナスに働いたものだと思います」
(多賀さん)
「ヘンリー王子は反論していて、これは戦場から帰ってきた軍人が自殺することがあるので、そういうことを防ぎたいというようなことを言っていました。しかし内に秘めていたほうがよかったと思います」
ほかにも本の中では、当時は否定していた17歳のころのコカイン使用の話に触れて、「この頃 コカインをやっていたんです。ある人のカントリーハウスで週末に一服させてもらいそれ以来何度かやっていた。あまり楽しいものではなかったし、特に幸せにはならなかったが、自分が変わったように感じられた。私は17歳の不幸な少年で現状を変えるためならほとんど何でもやってみようと思っていた」と書かれています。
Q,ここまで言わなくてもいいんじゃないかと感じるのですが、ヘンリー王子は言いたいんでしょうか?
(多賀さん)
「言いたいのだと思います。こんな薬に手を出すほどつらかったということを分かってほしいのです。しかし、この本での終わり方は悪かったと思います。青少年も読むわけですので、『自分が変わったように感じられた』と言うだけではなくて、『やっぱりこれはひどかった』とか、『克服した』というようなことを言ってもらわないと心配です」
2018年2月、慈善活動行う財団のフォーラムに当時ヘンリー王子の婚約者だったメーガン妃も参加しました。そのメーガン妃がステージに上がる前、化粧直しをしようとして、リップグロスを忘れたことに気付き、キャサリン皇太子妃に「貸してください」と尋ねたところ、キャサリン妃は気が進まない感じでしたが貸してくれたといいます。メーガン妃はそのリップグロスをチューブから指に出して唇に塗ったのですが、それを見ていたキャサリン妃は顔をしかめていたということです。この件に関してヘンリー王子は「アメリカ人のメーガン妃にとっては当たり前のことだ」と言い、こういうことをきっかけに次第に大きな確執に発展したと主張しています。
Q.リップグロスの貸し借りはアメリカ人にとっては当たり前の事なのですか?
(デーブさん)
「友達同士なら、よくある事だと思いますが、この状況はまだ友人とは言えないので、キャサリン妃は驚いてしまったと思います」
この本にはほかにもナチス制服“事件”にウイリアム皇太子とキャサリン妃が関係していたことの暴露や、ウイリアム王子から暴力を振るわれたことなども書かれています。また、カミラ王妃を「危険人物」と批判したりしています。
5月にはチャールズ国王の戴冠式…ヘンリー王子の出席は?
Q.5月に戴冠式がありますが、こんな内容の本を書いてヘンリー王子とメーガン妃は行けるのでしょうか?
(多賀さん)
「チャールズ国王の戴冠式は大きなターニングポイントです。しかし、アーチー君の誕生日ですので、メーガン妃は良いママというのをアピールするために家に居て、ヘンリー王子だけが行く可能性もあります。ヘンリー王子さえ行けない恐れもあります」
(デーブさん)
「一応、王室は招待するけれど、ヘンリー王子夫妻が自ら欠席するというのがいいかもしれません。参加するといっても観客席で何もすることはないので、かえって格好悪いと思います」
Q.この本の内容に王室は反論しないのですか?
(多賀さん)
「王室は挑発には乗りません。同じ土俵には上がらないのです。粛々と公務をやっていくことで国民は分かってくれるという姿勢です」
(情報ライブミヤネ屋2023年1月11日放送)