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【独自解説】「仏の『反カルト法』を日本にも」紀藤弁護士が指摘する“トラブル団体”対応の問題点とやるべきルール作り
2022年8月11日 UP
8月8日、安倍晋三元首相銃撃事件から1か月を迎えました。事件の背景となっている“統一教会”に多額の献金をした山上容疑者の母親は、近く記者会見を開く意向を示していることが分かりました。一方、“統一教会”と政治家の関係、“トラブル団体”との線引きはどうするのかなど、浮かび上がってきた様々な問題を、消費者被害や宗教・カルトの法律問題に詳しい、紀藤正樹弁護士が解説します。
恐怖に襲われ…無くならない信仰心
山上容疑者の伯父(山上容疑者の父親の兄)によると、山上容疑者の母親は「謝罪会見を開きたい。世間に謝りたい」などと話し、8月7日に伯父の自宅を出て、その後の家族との電話で「支援者の庇護のもと、大阪市内のホテルにいる」と明かしたということです。また、8月5日の読売テレビの取材に対し伯父は、母親の信仰心について「変化はないと思う。2階から何かをしている物音は聞こえるが、宗教関連かはわからない」と答えました。ただ、母親が「教典を広げている様子を1回だけ見たことがある。テレビで報じられているような、1冊の値段が高い本のようなものもあった」とも話しています。母親はこれまでの奈良地検の事情聴取で、「“統一教会”に申し訳ない」と話していましたが、現在の支援者が“統一教会”の関係者かどうかは分かっていません。
Q.息子が事件を起こした動機になっていたとしても、信仰心というものは無くならないものなのでしょうか?
(紀藤正樹弁護士)
「黒いものが白になるのは一瞬なのですが、このプロセスに時間がかかることが多いです。ご自身で判断する材料を、外部から提供する必要があるのですが、“統一教会”のマインドコントロールを受けていると、多くの場合は判断の材料を提供しても、それを見たり聞いたりしないのです。見たり聞いたりしようとする気持ちが出てくると、それは『魔が入る』とか『サタンにとられる』と言って、そう考えること自体が地獄に落ちるような恐怖感にかられるのです。思考停止と言うのですが、日常会話はできるのですが、こと“統一教会”の教義ということになると、“統一教会”に批判的なことにはまったく耳を傾けない状況に陥りますので、聞く耳を持つまで時間がかかります。この伯父さんが、山上容疑者の母親にどの程度外部の情報を与えていらっしゃるのかがすごく気になります」
問題解決のため、政府に必要なこと
岸田総理大臣は8月10日、内閣改造と自民党役員人事を行い、第2次岸田改造内閣を発足させます。今回の人事にあたり岸田総理は、所属議員に対して、“統一教会”との関係を見直すよう指示しています。
Q.政治家と“統一教会”との関係が近いか遠いか、その濃淡を重要視されますか?
(紀藤弁護士)
「私は、イベントに参加したり、広告塔になることは、祝電を送る以上に問題が大きいと思いますし、お金を受け取るということになると、さらに問題が大きいと思います。濃淡は当然あるのですが、実は閣僚は“統一教会”との所管に関係しています」
(紀藤弁護士)
「例えば、国家公安委員長だったら警察で、我々は何度も警察庁にも捜査をお願いしましたが、過去に捜査できなかった経緯というのは、国家公安委員長という大臣にも問題があったと思います。消費者問題でいうと、経済産業省も結構大きいです。経済産業省にも、申請の事件が起きたときに申し入れをしました。環境省の環境大臣も非常に大きくて、“統一教会”は2011年に東日本大震災で原発事故が起きてからボランティアに力を入れていて、廃品回収やごみ拾いをやっています。この環境省にも大きく問題があるし、こども家庭庁も今回の事件の動機について、もし警察が言っていることが本当であれば、家庭破壊が問題なんです。そうすると、家庭破壊の問題をこども家庭庁としてどのように考えていくか、今後の方針にも大きく関わる問題です。防衛省や経済安全保障担当などの危機管理の問題、特に“統一教会”は韓国発という宗教団体との関係をどう考えるかという政治の問題も絡んでいて、私は所管の大臣との関係でも、かなり調整が必要だったのではないかと思っています。岸田首相にはかなり踏み込んで頂いたと思うので、過去の事もそうですが、今後の事としても、統一教会問題に政府として取り組んで頂きたいなと、つくづく思います」
仏「反カルト法」、日本で導入は可能?
政界と“統一教会”の関係が続々と明らかにされている中、国民民主党の玉木代表は「反社会的と認定される団体と普通の宗教法人とを分かつ、一定の基準は必要」とし、維新の藤田幹事長は「トラブル団体を区別できる、事務所の手助けになるよう指針が出せたら良い」としています。これについて紀藤弁護士は、「フランスの反カルト法のような法律を導入すべきだ」としています。
フランスのカルト認定には10の指標があります。例えば、「精神的不安定化をもたらす」「法外な金銭要求(献金など)をする」「重大な訴訟問題を抱えている」「通常の経済流通経路からの逸脱(高額な物品販売など)」などが当てはまると、カルトに認定される可能性があるということですが、大阪大学大学院法学研究科の島岡まな教授によると「あくまでも指標で、一つでも当てはまったら即カルト認定ということではない。相談件数や被害者数によって臨機応変に変わる」ということです。
Q.フランスの「反カルト法」のような法律を、日本で導入することは可能なのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「これはガイドラインを作ることですので、他の政党の皆さんも言われていることです。ガイドラインを作ることと、それを法制化するということのレベルの問題をどう考えるかということだと思います。ガイドラインが出来るのであれば、それは法律できっちり決めといた方が、むしろ情報公開されていますから、どの団体でも『こういうことに当てはまるとまずい』ということも分かります。フランスでは、このカルトの10の指標に当てはまると、公安調査庁みたいな組織の被調査団体に入るんです。いわば監視をしているのですが、その監視の前提に、この10の指標があるだけで、もしこの監視が嫌なら裁判を起こせばいい、ということにもなるわけです。つまり、ちゃんとルールは公開しておいた方が結局、被調査団体においても争う手段があるという意味で、曖昧にするより、むしろ公開した方がいいというのが私の考え方です」
Q.宗教団体の教義内容や内心にまで踏み込むことにはならないのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「1970年代~80年代に欧米で議論され、カルトの規制をずっと考えてきた成果で、基本的に内心には立ち入らないんです。『信教の自由に立ち入らない』、つまり『中立で規制する』というのが諸外国の常識で、カルト規制法もそうなんです。またカルト規制法は、宗教団体に限りません。つまり団体規制なので、宗教団体だろうが政治団体や経済団体であろうが、この指標に当てはまるものはカルト認定されます。カルトと呼ぶと宗教的だということで、ヨーロッパでは『セクト』という言い方をしますので、『セクト規制法』と言ったほうが分かりやすいのかもしれませんが、宗教団体に限っていないのです。具体的な行為に基づいてセクト認定をするというのが、ヨーロッパ的な生き方だし、アメリカも信教の自由に立ち入ることはできませんから、脱税や公正取引に反するものは駄目ですよ、などというルールでやっているんです。日本はこれまで、ルールでできていません。オウム真理教事件でも、事前に警察の捜査はなく、事件が起こってから捜査を始めました。そんなことが繰り返し起きているので、先に客観的な指標を作って、『この指標に当てはまるものは、やはり問題がある』と、事前にその指標を公にすることが最も重要だと私は思っています」
Q.欧米のものを日本にそのまま持ってくるのは難しいのではないですか?
(紀藤弁護士)
「『難しいからできません』では政治家は成り立たないと思うので、『難しいからこそやって頂きたい』というのがお願いですけれども、もう少しきめ細かく言うと、この団体規制というのは、『法人解散』と、『団体そのものの解散』との2種類に分かれます。つまり“統一教会”の場合は宗教法人で、他の国と違って日本は宗教法人になると免税団体になります。宗務課の認証だけで、いきなり免税団体ができてしまうんです。他の国だったら、免税資格を取り消すことと、法人格を取り消すことは違って、団体を解散することも違うんですね。その3つの段階があるので、日本の場合は、例えば『宗教法人法の解散命令』や『会社法上の解散命令』では、法人格を剥奪するだけで団体は残っています。そのためオウム真理教も団体は残っています。いろんな段階があるので、この基準に当てはめたときにどのレベルでやるかということの議論は、私はきめ細かく詰めた方がいいと思います。少なくとも、現状の宗教法人を維持させるというのは、こういうことを全部繰り返す団体があれば、解散基準にもなりうるものは作るべきだと思います」
Q.マインドコントロール下にあって思考が停止させられている人や、2世信者で非常に困っていらっしゃる方の救済も、政治家がやっていくべきですよね?
(紀藤弁護士)
「日本は2000年代に、例えば児童虐待防止法やDV防止法など、比較的家庭の中に法律が入っていくというルールは作ったんです。ところが宗教が絡むと、児童虐待防止法はいきなり施行停止するんです。つまり、子どもを家に放っておくとか、あるいは布教の現場にずっと付き添わせて子どもを働かせるということになりますが、『信教の自由だ』ということで、児童相談所に虐待通告があっても、虐待として保護しないんです。DVも同じで、精神的虐待になっていることが多いですが、宗教が絡むと裁判所も行政もいきなりタッチしない。過去では、宗教法人が絡むと霊感商法の問題も取り上げられませんでした。消費生活センターも、宗教団体ということになるといきなり手を引くということも多かったんです。法律があっても運用がうまくいっていないという面は当然ありますが、例えば法外な金銭要求が問題であれば、維新のように、ある程度金額を決めてやるっていうのも一つのルールで、私は傾聴に値すると思っていますし、維新の考え方は正しいと思っていますが、それをもう少し一般の国民に分かりやすいように、開かれたルールとしてやっていかないと、国家権力が恣意的にやりかねないというのはあると思います。各党とか小さいところでやってしまうと、結局そのルールが分からないから『なんで自分が拒否されたのか分からない』というジレンマが出てくると思うんです。私はむしろ公開されるルールは皆さんで決めたほうがいいし、それは国会で決めてもらって、そこできっちり議論してもらった方がいい。どのレベルで規制をかけていくのか、運用で法律が必要なら法律を作る、というところをきっちり国会で議論していただきたいと思っています」
Q.今、いわゆる“トラブル団体”はどのぐらいあるのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「我々の相談の中には、そんなに多くないです。あるとしても、10までいくかいかないかです。経済団体、マルチ商法団体まで含めても、恐らく10いかないかぐらいなので、私はそれほど心配する必要はないと思います。30年以上いろんな相談を受けていますが、“統一教会”だけではなく、他のカルト的な団体、自己啓発セミナー団体とか株式会社も含まれますが、そういう団体の相談を受けているピーク時でも20数個です。今はコロナ禍なので、そういう団体が出来にくいし、活動もしにくくなっているという前提状況があるとは思うのですが、今でも10ぐらいだろうと思いますので、そのぐらいを細かく見ていくという作業が必要だとは思います」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年8月8日放送)