記事

連続強盗の指示役「ルフィ」か?

【独自解説】連続強盗グループ、警察は“首領”に辿り着くことはできるのか?「十分に期待できる」ポイントは「奪った金の流れを掴むこと」専門家が解説

 全国で相次ぐ強盗事件。指示役である「ルフィ」にまで捜査の手が及ぶ中、犯行グループのトップの逮捕はいつになるのでしょうか?数々の凶悪事件の捜査を指揮した、元京都府警捜査第一課長の樋口文和氏と、SNS上の“闇バイト”に詳しいジャーナリストの石原行雄氏が、一連の強盗事件に関与する犯罪組織の実態や捜査のポイントについて解説します。

「ルフィ」疑惑の渡辺容疑者、比では“ビッグボス”との報道も

2019年に起きた巨額詐欺事件

  一連の強盗事件の指示役「ルフィ」をめぐっては、フィリピンにある入管の収容施設にいて、特殊詐欺事件ですでに逮捕状が出ている、渡辺優樹容疑者(38)、今村磨人容疑者(38)、藤田聖也容疑者(38)、小島智信容疑者(45)のうちの1人である疑いが強まっています。

 その中でも渡辺容疑者について、フィリピンの地元メディアは、「日本やフィリピンなど数か国で活動する詐欺組織の“ビッグボス”」と報道しています。そう呼ばれるようになったきっかけは、2019年に起きた巨額詐欺事件です。この事件では、フィリピンから日本へ詐欺の電話をかけていたとして、日本人グループ36人が摘発されていて、これまでに50人以上が逮捕され、被害者は約2300人、被害総額は35億円に上るとされています。この詐欺グループの指示役とみられているのが、渡辺容疑者だということです。

元京都府警捜査第一課長 樋口文和氏

Q.一連の強盗事件の指示役「ルフィ」について、情報が絞り込まれてきていますが、これは2019年の詐欺事件の容疑者からも情報が出てきているのでしょうか?
(元京都府警捜査第一課長 樋口文和氏)
「そうですね。2019年の実行者が捕まっているので、そこからの情報で4人に結び付き、辿り着いたということだと思います」

ジャーナリスト 石原行雄氏

Q.実行犯のスマホなどに残っている履歴などからでも、絞り込まれてくるものなのでしょうか?
(ジャーナリスト 石原行雄氏)
「末端の実行犯というのはSNSでかき集められた素人ですから、そのような管理もずさんで証拠がかなり残っていると思います。捜査側としては非常に有力な材料ですから、そこで4人まで辿り着いたのだと思います」

特殊詐欺のノウハウが強盗に⁉凶悪化する組織犯罪

「指示役」と「実行役」の関係

 連続強盗事件の指示役とされる人物は、「ルフィ」「ミツハシ」「KIM」と呼ばれ、「ルフィ」と呼ばれる人物は、SNSで高額報酬を謳って実行役を募集し、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使って、日時・場所・犯行の指示などを伝えていました。また、稲城市の事件の容疑者の供述から、「KIM」と呼ばれる人物は「強盗に行くときは殺してもいい」という極端な指示をしていたということが明らかになりました。

特殊詐欺・強盗事件の変遷

 石原氏によると、2000年代前半以降の「リフォーム詐欺」、「オレオレ詐欺」、「振り込め詐欺」などの特殊詐欺事件では実行犯が主犯格でしたが、SNSでバイトを募り受け子・出し子をさせる「受け子・出し子型特殊詐欺」においては、実行犯は闇バイトで雇われた人物に変わってきたということです。2020年代頃から、資産状況などを電話などで事前にリサーチし強盗を行う「アポ電強盗」が発生していますが、これも実行犯は闇バイトで雇われた人物だということです。石原氏は「特殊詐欺で出来上がった犯罪組織の構図を強盗事件に流用している可能性がある」としています。

Q.2019年に50人以上が逮捕されて、いわゆる特殊詐欺がやりにくくなったから、非常に凶悪で暴力的な方法に移行しているのでしょうか?
(石原氏)
「おっしゃる通りで、反社の特殊詐欺の歴史は、いたちごっこの歴史です。例えば昔は“飛ばしの銀行口座”を使って『振り込め詐欺』をする時代がありました。しかし、銀行側が即座に口座を凍結するような手続きを取るようになったため、『受け子』が直接取りに行く形になりました。実行犯はSNSで集めた素人で、SNSは若年層が多く利用していますから、『受け子』や『出し子』は中学生・高校生まで逮捕されています。そんな若者が『警察から来ました』『銀行から来ました』とダボダボのスーツを着て来たら、明らかにおかしいと分かります。そういう人材をどう使えばいいかと考えたとき、強盗であれば若くても関係がないということで、今の事件はより凶悪に、より粗雑な犯行になっていると言えると思います」

巨大犯罪組織の構図とその実態

巨大犯罪組織の構図

 樋口氏によると、今回の犯罪組織は非常に大きく、多数いる「実行役」は実行・見張り・運転などに分業し、その「実行役」のリーダーに指示をするのが「指示役」で、さらにその上部には、「統括役」、「司令塔」がいて、「首領」がトップという構図になっているのではないかということです。そして「指示役」と並んで「募集役」や、個人情報を入手してリスト化する「情報入手役」、携帯電話や銀行口座を用意する「管理役」がいるのではないかとみられています。

Q.まるで会社のような構図になっていますね?
(樋口氏)
「はい。『指示役』へは『統括役』から直接指示がなされると思いますが、それ以外の3役と統括の間には、さらに『統括補佐』のような役割があるのではないかと思われます。例えば『総括役』と『募集役』の間には、必ずそこを仲介する人間がいるはずです。その『統括補佐』から指示役に、『こういう人物を募集したから、こいつを使って指示していけ』と言って実行させていく、という流れがあります」

Q.「ルフィ」という指示役も中間管理職のような役でしかないのでしょうか?
(樋口氏)
「『首領』の下の『司令塔』が社長だとすれば、『統括役』は部長・課長となり、その下の『指示役』はどちらかと言うと実行部隊の係長というところだと思います」

Q.「情報入手役」が入手している“個人情報のリスト”は、どんな過程で具体的にリストの中身が濃くなっていくのでしょうか?
(石原氏)
「個人情報保護法が2003年5月に成立して、一部を除いて即日施行されましたが、それから20年経った今でも“名簿屋”が存在します。裏の名簿屋ではなく、看板を出して営業をしているような名簿屋も含めて、その中には『貴金属の購入者リスト』や『登記マンションのオーナーリスト』などあらゆる名簿があります。例えば、裏社会の人間が不動産売買をする場合、暴力団員が直接することはできないのでフロント企業を介してやる、というのと一緒で、名簿を入手して裏社会へ流す、あるいは企業や団体に勤務する名簿に近い人物が、小遣い稼ぎのつもりで不正にコピーして裏に流すこともあります。一度流出すると、それを裏社会の人間が答え合わせをしていきます。今回の一連の事件で言えば、どうやら下見をしていた形跡があるということですが、それでリストを絞り込んでいって、最終的には実行犯に渡すターゲットリストにすることがあります。大元となる名簿をどうにかするというのも、大きな問題だと思います」

Q.様々なリストが出回っている以上は、見た目で「この家は入るのが面倒だな」と思わせるアピールをしなくてはならない時代になってきたのでしょうか?
(樋口氏)
「そうですね。明かり・センサー・音や警備会社を使うなど、色んな形で自己防衛して欲しいと思います」

“首領”の逮捕はあるのか?今後の捜査のポイント

“首領”の逮捕はあるのか?今後の捜査のポイント

 樋口氏は、「『指示役』が海外で活動していることで捜査の手が及びにくくなり、結果的に上層部に辿り着くのが難しい。『統括役』や『司令塔』以上の上層部は日本国内にいる可能性が高いが、別人名義の携帯電話を使用している可能性が高く、人物が特定しにくい」としています。

Q.2019年の特殊詐欺事件の被害額35億円は、指示役がいるフィリピンで使うには大きすぎる金額です。「35億円でも足りない」と、現地にいる彼らに対して要求している人物がいると考える方が自然ですよね?
(樋口氏)
「そうですね。“金の流れ”が一番大事なってくると思います。『指示役』から『実行役』へ指示が出され、『実行役』が成果物として入手した金や貴金属が『回収役』に渡り、そこから数名いる『指示役』の誰かに渡して、その成果物が闇の口座に振り込まれ、組織全体に金が流れていきます。『管理役』が『統括役』と金の振り分けを考え上層部に流れますが、フィリピンにいる『指示役』が指示していれば、必ずフィリピンにも金が流れていきますので、警察としても、その流れを捜査の大事なポイントにしていると思います」

Q.ここまで大きな組織の「首領」に、捜査で辿り着くことはできるのでしょうか?
(石原氏)
「なぜ分業化して、何層もクッションを置くような組織を作ったかと言うと、上に辿り着きにくいようにする、捜査をしにくいようにするためです。ただ、1月18日・20日に起こった特殊詐欺のケースなど、『実行役』から『指示役』まで逮捕の手が及んでいるような事件が続々と増えてきていますので、捜査側が強くなってきているとも考えられます。当然、捜査の手法というのは表にはなかなか出ませんが、なにかしらの形で上まで辿り着ける可能性も、十分に期待できると思います」

(「情報ライブミヤネ屋」 2023年1月30日放送)

SHARE
Twitter
facebook
Line

おすすめ記事

記事一覧へ

MMDD日(●)の放送内容

※都合により、番組内容・放送日時が変更される場合があります。ご了承ください。

※地域により放送時間・内容が一部異なります。