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【独自解説】4630万円誤送金、田口被告の実刑は?元検事「動機は悪質だが状況は被告に有利」510万円争う民事、注目は「阿武町の過失割合」
2022年8月2日 UP
山口県阿武町(あぶちょう)の職員が、新型コロナの臨時給付金として4630万円を誤って送金した問題で、8月1日、逮捕から約2か月半ぶりに田口翔被告が釈放されました。田口被告は刑事だけでなく、阿武町から民事でも提訴されていますが、誤送金された4630万円を町はほぼ回収しているという中、争点は約510万円に上る弁護士費用等になると思われます。今後控える2つの裁判のポイントを、大阪地検の元検事・亀井正貴(かめい・まさき)弁護士が解説します。
8月1日正午過ぎ、田口翔被告が保釈されました。スーツに身を包んだ田口被告は、ゆっくりとした足取りで山口南警察署を出てカメラの前に立ち、一礼しました。長い髪の毛で顔が覆われ、その表情を見ることはできませんでした。田口被告からは「この度は、私の行動で多くの方にご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません。保釈後は仕事をして、借り入れたお金を少しずつ返済していこうと思います」という内容のコメントが文章で出されています。
田口被告は、新型コロナの臨時給付金4630万円を誤入金されたものであることを知りながら、決済代行業者の口座に振り替え、不法の利益を得たとして、「電子計算機使用詐欺罪」で起訴されました。阿武町は、誤送金の4630万円のほぼ全額を、法的に回収したとしています。亀井弁護士によると、「町にほぼ全額が戻っているので、田口被告にとっては有利な状況。検察は懲役3年~4年を求刑し、できれば実刑を取りたいと考えている。田口被告が初犯であれば、執行猶予がつく可能性がある。町にお金がどうやって戻ったか、決済代行業者の返金の経緯・理由が量刑の評価に関わる」ということです。
Q.4630万円というお金が阿武町に戻ってきたということが、量刑の評価に大きくかかわるのですか?
(大阪地検元検事 亀井正貴弁護士)
「そうですね。財産犯ですから、客観的に結果回復されたということは、量刑に大きくかかわります。もちろん主観的な事情から、例えば反省しているかどうかや、自分の返済かどうかという問題もありますけれども、それは『全額返済』をどの程度評価するかです。量刑上は必ず評価されますが、例えば田口被告自身のお金から戻ってきていたなら、かなり評価されますし、例えば決済代業者が独自のお金で出したという事であれば、その経緯が評価に影響を及ぼしてくるということです」
Q.執行猶予の可能性は十分にあるのですか?
(亀井弁護士)
「可能性はありますね。犯行動機が悪質ですから、その辺を裁判官がどう評価するかですが」
5月12日、阿武町は田口被告を相手取り、誤って振り込んだ現金の返還や弁護士費用など、5115万9939円の支払いを求め、山口地裁に提訴しています。田口被告側は、その「不当利得返還請求」に対し、4630万円については、「認諾」していて、「損害賠償分」(弁護士費用、調査経費、利息等)約510万円は争うということです。弁護士費用などの減額について亀井弁護士は、「不法行為による『損害賠償請求』が認められた場合、請求金額の1割は、弁護士の請求費用が認められるので、弁護士費用などを下げることは一般的には難しい。額を下げられるかどうかは、町の過失(誤送金)をどの程度評価するかに関わる」としています。
Q.“阿武町が誤って振り込んだ”というところが、どこまで組み入れられるかで額が決まるということですか?
(亀井弁護士)
「そうですね。被害者側の過失があるんだとしたら、例えば1割だったら1割下がるし、2割だったら2割下がるということですね。刑事事件で執行猶予を取りたいという気持ちもあると思いますので、あまりそこを言うのはどうかとは思いますが」
Q.この場合は刑事と民事どちらに重きを置くものですか?
(亀井弁護士)
「この事案は確実に刑事でしょう。検察側は実刑を狙ってくると思います。動機に悪質な面があるので、実刑は欲しいという意思があるんじゃないかなと思います」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年8月1日放送)