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「スパイ罪」で拘束された鈴木英司さん

【独自解説】中国でスパイ疑惑かけられ逮捕された日本人 突然の拘束、過酷な取り調べ、懲役6年の実刑…「知らなかった」が通用しない国での壮絶生活

 中国当局に、突然スパイ容疑で拘束された鈴木英司さん。鈴木さんは拘束後、7か月もの間24時間監視下におかれ、その後身に覚えのない「スパイ罪」で有罪判決となり、6年間人権を奪われた生活を送りました。その壮絶な実態を、元・中国特派員で、この問題を取材した読売テレビの高井プロデューサーが解説します。

6人の男に囲まれアイマスク…帰国直前に突然の恐怖

鈴木英司さんの略歴

 鈴木さんは、北京の大学で教員をし、「日中青年交流協会」を設立するなど、日本と中国の友好事業を進めていました。その日中友好事業のために、5日間の日程で北京を訪問中、帰国直前の空港で突然拘束されたのでした。

Q.この拘束は、当時特派員として中国にいた高井さんも驚いたのではないですか?
(高井)
「中国で2014年に『反スパイ法』が施行されてから、日本人が拘束されることはたまにあったのですが、鈴木さんは『日中青年交流協会』などをされていて、中国にいる日本人の中では有名な方でした。中国に配慮した発言もしていた人物としても知られていたので、『そういう人物でも捕まってしまうのか』と、中国の日本人社会に衝撃が走りました」

拘束されたときの状況

 鈴木さんは拘束された際、「スパイ容疑を調べるために拘束してもよい」という当局の許可証を見せられます。そして、アイマスクを付けさせられ、ホテルの一室のようなところへ連れていかれました。その後7か月にわたって、24時間の監視の下で取り調べが続いたのです。

Q.この状況はかなりの恐怖ですよね?
(高井)
「日本ですと、『何月何日、あなたはこういうことをしましたね。それで令状が出ています。これから逮捕します』と、容疑が固まってから拘束されるのですが、今回の場合、全く何者か分からない6人の男がやって来て、車の中に入れられて、身分証も見せてくれませんでした。国家安全局とも分からない、マフィアなどの反社会的な団体かも知れないという状況なので、かなり恐怖を感じたと話していました」

逮捕前に身柄を拘束できる「居住監視」

 中国の場合、「国家の安全」に関わる罪の場合には「居住監視」といって、逮捕する前に身柄を拘束する手続きを取れることが法律で正式に定まっています。中国の国民の場合は、住所の場所にいるように指示されるのですが、外国人のように住所のない場合は、場所を指定されてそこにいるように言われるのです。鈴木さんの場合もこれに当たりますが、具体的な理由を知らされることもなく、弁護士を呼ぶことも許されなかったといいます。

監視、外界遮断、扉のないトイレ 過酷な状況下での取り調べ

取り調べと監視は7か月続いた

 そして、黙秘権なしで毎日取り調べられ、24時間3交代で監視。部屋の四隅には監視カメラもあり、窓は閉められ外が見られない状態でした。その上、部屋は一晩中明るくされ、シャワーやトイレには扉がなく、ずっと見られている状態でした。本やテレビなどの娯楽や、時計やカレンダーもなく、ペンや紙も使えない状態でした。鈴木さんは、「娯楽がないので演歌を口ずさみ、室内で体を動かすことで精神を保ってきた」といいます。

Q逮捕する前の段階でここまでするのですか?
(高井)
「ご本人に聞いたところ、取り調べか食事か睡眠以外、することがない状態だったということです。シャワーも人から見られているので嫌だったと言っています」

食事は、朝は饅頭かおかゆに漬物、昼と夜は白米とスープにおかずが1品付く、というものでした。鈴木さんは最初に「肉が好きだ」と言ったところ、毎回昼と夜に肉が入るようになったそうですが、肉を食べた後、取調官から「肉を食べたんだから認めろよ」というようなことを言われたそうです。

鈴木氏はなぜ「スパイ容疑」をかけられたのか?

スパイ容疑をかけられた原因

 鈴木さんがスパイ容疑をかけられた理由は何だったのでしょうか?中国側は、2013年12月4日に、中国高官と北朝鮮に関する話題をしたことが国家秘密にあたる内容だったとしています。鈴木さんによると、12月4日、確かに中国高官と食事の際に、北朝鮮の話はしたということです。しかし、話した内容を巡っては、前日に北朝鮮の金正恩の伯父・張成沢氏が失脚したことが各国で報じられたことをうけて、「北朝鮮の張成沢氏について、日本では処刑されたなどと報道されていますが、どうなんですかね?」と聞いただけだと主張しています。鈴木さんは「各国が報道している公開情報であったが、中国国営の『新華社』が発表していない話は国家機密に当たる」と言われたそうです。

Q.中国の習近平主席の話ではなく、北朝鮮の話題でもダメなのですか?
(高井)
「そこも鈴木さんが主張しているところで、この会話のどこが国家機密なのかは、最後まで明かされなかったということです」

Q.鈴木さんはいつごろから当局に目を付けられていたのですか?
(高井)
「3人いる取調官の中の1人が、鈴木さんが2010年に植林事業をしたときに会っていると話していて、そのときからずっとマークされていたとみられます」

Q.親しい中国の高官が漏らしたとは考えられないのですか?
(高井)
「その親しい中国の高官も、別の容疑で拘束されているということです」

鈴木さんは「中国に行く人は、政治的な話や軍事的施設で写真を撮るなどの行為は、誰かに聞かれ、見られているかもしれないので、絶対しないほうがいいでしょう」と言っています。

Q.高井さんが特派員として注意していたことはありますか?
(高井)
「中国に行く前に『海の写真は一番危険だから撮るな』と言われました。海はどこに軍事施設があるかわからないですし、鈴木さんの例のように、『知らなかった』が通用しない場合もあり、極端なケースでは『撮っただろ、連行する』という事も考えられます」

Q.特派員でも拘束されるのですか?
(高井)
「拘束されることは、中国での特派員生活ではあることです。拘束にもいろいろあって、例えば反政府デモなどを取材しようとすると、拘束されるケースがあります。私の経験では、そのような場合も『撮ってはいけない』などとは言われず、『ここにいてはあなた(=記者)の安全が脅かされるので、一旦安全な場所に連れていきます』と言って拘束されるケースが多かったです」

Q.どれぐらいの期間拘束されるのですか?
(高井)
「私の場合は、長くて半日、通常は2~3時間ぐらいでした。」

無罪を主張するも…懲役6年の実刑確定

「スパイ罪」で実刑が確定

 2017年8月2日、鈴木さんの初公判が開かれました。弁護士は日本大使館に頼めば紹介してくれるという話でしたが、費用が500万円以上かかるため 無料の国選弁護人を選びました。鈴木さんは無罪を主張しますが、検察の「中国が認定した組織の代理人として報酬を受け取り、情報を得ていた」「中国高官と北朝鮮に関する敏感な話をしていた」などの主張に、弁護士は「異議なし」と言ったそうです。1審は2回の公判で懲役6年が決まり、その後控訴しますが、判決は覆りませんでした。

刑務所での暮らし

 その後、鈴木さんは服役します。工場で化粧箱を作ったり、出版物を封筒に入れるなどの作業をするのですが、手紙も書けるし、2週間に1回買い物もできる。本もテレビもあって、交流に制限もなく、日本大使館との面会も可能になるなど、刑務所の方が取り調べのときより待遇が改善されたといいます。

Q.日本の大使館は、何か動けなかったのですか?
(高井)
「日本政府としては『適切に対応していた』とコメントしていますが、このように有罪が決まってしまったので、結果的にはどうする事もできなかったとみられます。」

「日・中領事協定」の決まり

Q.『日・中領事協定』に「領事機関への通報は拘束の日から4日以内に行う」という決まりがあるのに、実際に面会できたのは12日後だという事ですが…
(高井)
「よく読むと分かるのですが、『領事機関への“通報”』と書いてあります。連絡さえすればいいので、いつ会わせるかは決まっていないのです。中国側も、中国の法律に則って、筋を通して手続きをしているのですが、中国の論理に則って解釈をした結果、日本人から見ると非常識に見えるケースがあります。」

 鈴木さんは、「大学の客員教授の仕事や衆議院の仕事など、全ての仕事を失い、私生活も元通りとはいかない状況。中国は現在、世界第2位の経済大国で国連人権理事会の理事国でもある。こういった国である以上、人権に対しもっと理解してもらいたい」と語っています。

(情報ライブミヤネ屋2022年12月20日放送)

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