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【独自解説】“首相襲撃”事件 犯罪心理学者・出口氏「動機は“自分の存在を認められたい”という承認欲求」 発見が困難な『ローン・オフェンダー』とは
2023年4月20日 UP
岸田首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、逮捕された木村隆二容疑者は、選挙制度を巡り国を相手に提訴していたことが明らかになりました。また、昨年、岸田内閣が行った安倍元首相の国葬にも強い不満を持っていたこともわかりました。事件から3日経ち、徐々に足取りが見えてくるも、木村容疑者は依然として黙秘を続けています。犯行動機は何なのでしょうか?犯罪心理学者、出口保行氏の解説です。
Q.逮捕時の映像でも、木村容疑者は犯行に至るまで躊躇がなく、取り押さえられた時も表情を変えず、周囲を見ていますよね?
(犯罪心理学者 出口保行氏)
「この事件は、計画性がとても高いです。何か起きた時にどう対応するかなど、木村容疑者の中で全て準備してあったように思います。こんなことをすれば検挙されることもわかっていますし、第三者から自分がどう見られているのかを観察するだけの余裕があります。それだけ落ち着き払い、計画性に富んでいたということです。本人にしてみれば『自分の思っていたところまでは、やり遂げた』という思いがあったんだろうと思います」
木村容疑者は2022年7月の参院選に立候補しようとしましたが、被選挙権(30歳以上)を満たさず供託金(300万円)も用意できなかったことから断念。そのことを「法の下の平等を定める憲法に違反していて、精神的苦痛を受けた」として、国相手に損害賠償10万円を要求する裁判を起こしていたことが判明しました。
さらに、自民党関係者によると、2022年9月に行われた自民党系の川西市議(当時)の市政報告会に木村容疑者とみられる人物が参加し、「市議の報酬は良いですか?」など、熱心に質問していたといいます。また、その場にいた大串デジタル副大臣にも、「被選挙権の法改正をしてほしい」などと約20分も話したということです。
Q.様々な言動が唐突に見え、選挙制度への不満などが本当に犯行動機かと疑ってしまうのですが?
(出口氏)
「政治的に何か考えていて、それに対する不満が、この事件の背景にあるとは考えにくいです。今回の事件は、『自分の存在感を認めてくれなかった社会に対して、一矢を報いたい』という、抱えていた不満を解消するためだったのではないかと思います」
出口氏は犯行動機について、「遊説先で事件を起こすのは安倍元首相の事件の“模倣”」だとし、「ゆがんだ自己顕示欲を満たすことが動機の一つではないか」と話しています。
Q.手段は何でもよく、目立ちたい、衝撃を与えたい、そして自分の名前が出ることが最終目的ということですか?
(出口氏)
「『こんな小さな自分でも、これだけ社会に大きな不安や動揺を与えられる』ということが、本人にとって一番の快感になります。自己顕示欲にも種類がありますが、今回の事件に関しては“目立ちたい”ではなく、“自分の存在を認められたい”という承認欲求です」
今回の事件で武器として使用されたのは爆発物でした。出口氏によると、爆発物を使用する心理は恨みや思想ではなく、「社会を揺らがせたい、認めさせたい」という自分本位な欲求が働いているのだといいます。
Q.岸田首相に投げたということはターゲットにしていたかもしれませんが、それ以上に社会に衝撃を与えたいということですか?
(出口氏)
「それが一番だと思います。特定の人を狙いたいなら、手製の爆弾では狙いきれません。周囲にいる人たちを巻き込み、大きな動揺やショックを与えるために爆弾を選んだと思います」
また、今回の事件では『ローン・オフェンダー』という言葉も注目されています。『ローン・オフェンダー』とは、テロ組織と直接関わりのない人や社会的に疎外感を抱く人がインターネット等を通じて過激な思想の影響を受け、単独でテロを計画、または敢行することです。計画から実行までを一人で行うため、発見が非常に困難だといいます。「社会からはみ出させない環境を作ることが重要」だと、出口氏は言います。
Q.爆発物を素人が簡単に作れてしまうことにも、規制をかけないといけないですね?
(出口氏)
「今は、やろうと思えば何でもできる時代です。武器も作れてしまいますので、今後、規制を厳しくしていくべきだと思います」
(情報ライブミヤネ屋 2023年4月18日放送)