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中国国営放送「CCTV」元“スター記者”王志安氏

【独自取材】中国の元“スター記者”激白 言論弾圧の実態と報道現場の内情「許される報道」「許されない報道」中国共産党のテレビ局への介入とは

 中国の国営放送「CCTV」の元“スター記者”王志安氏に番組が独自直撃。記者が明かした言論弾圧の実態、報道現場の内情とは?読売テレビ元中国・上海支局長の「ミヤネ屋」高井望プロデューサーが解説します。

“スター記者”が受けた「言論弾圧」

王氏の略歴

 王志安氏は中国の池上彰氏とも言われ、20年近く中国国営放送CCTVの記者を務めていました。当時は夜の報道番組のフィールドキャスターも務めていましたが、2016年に退社。その後もインターネットなどで発信を続けていましたが、2019年SNSなどが突然凍結されてしまったということです。

読売テレビ元中国・上海支局長 「ミヤネ屋」高井望プロデューサー

Q.夜の報道番組などはかなり影響力があったということですが?
(読売テレビ元中国・上海支局長 ミヤネ屋プロデューサー高井望氏)
「週末の夜9時台に放送されている番組なのですが、徹底的に疑惑を追及したりすることで非常に人気だったと聞いています。」

Q.王志安氏自身が取材に出ていたということですか?
(高井氏)
「王氏自身が現場に取材に行って、悪い役人などを追及したりしていました」

王氏は2020年から日本に拠点を移し、現在はユーチューバーとして中国の社会、政治問題、天安門事件などを配信していて、チャンネル登録者は約80万人を数えるそうです。

(高井氏)
「中国では絶対に発信できないような内容を、顔も名前も出して発信する中国人をこの人以外には見たことがないです」

スクープした汚染問題

 王氏のCCTV時代のスクープの一つに、汚染問題がありました。処理費用が高いという理由で工場の廃棄物が地下に埋められているという情報が入り、地下水の汚染で人体に影響が出る恐れもあるといい、実際に王氏が取材に行くと倉庫内に大量の廃棄物が見つかりました。この放送後、役人が逮捕されたということです。

Q.汚染問題は中国国内でも放送されていたのですか?
(高井氏)
「国営テレビは“プロパガンダ”だという認識から、不正報道も『当局の指示で取材させられているのでは』との見方をされることもありますが、王氏に関しては決してそのようなことはなく、タレコミやSNSなどを使って日本の記者と同じようにネタ探しをして、問題を報道していました」

報道制限をかけられた取材

 一方で制限をかけられた報道もありました。2016年の救急システムに関しての疑惑です。北京市では救急システムを運営する民間企業が病院も経営していたそうです。そのため、例えば交通事故の負傷者を距離が遠くても自分たちが経営している病院に搬送していた、という疑惑がありました。王氏によると「支払い能力をみて、搬送先を決定していた」つまり、お金がある人は自分たちの病院へ搬送していたといいます。王氏はまた、「北京市の広さや交通渋滞の状況を考えた時、それが原因で多くの人が亡くなっただろう」とも語っています。この内容を放送しようとしたところ、党の中央宣伝部からFAXで「番組の放送を許可しない」と伝えられたそうです。

Q.王氏曰く「取材は監視されていた」とのことですが、不正を働いている側に、政府の高官などが関係していたということですか?
(高井氏)
「北京の救急に関する不正には公安の幹部が関連していたのではと王氏は主張しています」

中国共産党による、テレビ局介入の実態

中国の全番組に指示をするといわれる「新聞夜総会」

 中国共産党には「中央宣伝部」という部署があり、ここが番組を「放送するべきではない」と判断すると、文章で通達が来たり局に電話が入り放送が差し止めとなるそうです。また、「新聞夜総会」という会議があり、ニュースセンターの主任が全番組のプロデューサーを毎日集め、当日の内容について“扱ってはダメなもの”を伝えているということです。なお、ここでの内容を記録することは厳禁。王氏は「足かせをつけられたまま、踊っている」と話しています。

Q.この「新聞夜総会」のような会議があるという噂はあったのですか?
(高井氏)
「新華社通信にしてもCCTVにしても、私たちが追いかけているのに全く報じられないニュースがあって、『このニュースは報道して良い、してはだめという判断がどこかであり、CCTVの上層部がそれを決めているのだろう』と言う話はありました。しかし、内部にいた王氏からここまで具体的な話として出てきたことには非常に衝撃をうけました。『新聞夜総会』というのは正式名称ではなく通称のようで、その会議で全番組のプロデューサーが集められて、やっていいニュースとダメなニュースが、ニュースセンターの主任から伝えられていたそうです。」

Q.日本のメディアは来ているのに、中国のメディアが取材に来ない現場は多かったのですか?
(高井氏)
「たくさんありました。例えばデモの取材には中国メディアは取材に来ないですし報じません」

Q.日本のメディアに対しても何か取材規制はあるのですか?
(高井氏)
「取材していると、近くに“それらしい車”がいる場合はよくあります。そして、当局に都合が悪いものを取材しようとすると、人が来て『あなたメディアの人ですよね。今あなたが取材しているということが、この地域で問題になっています。危ないので、私と一緒に逃げましょう』と言われて、警察署に連れていかれるケースがありました。『メディアの人間の安全を守る』という口実で連れていかれる形ですね」

 王氏は「現在のCCTVは、報道機関ではなく党の宣伝機関の役割が大きい組織。番組の出演者は、学歴や政治的背景を基準に『人事部』が選出する」と話しています。

Q.いわゆるコメンテーターの人でも党の都合の良い人しか出られないということですか?
(高井氏)
「間違いなく政権批判はしない人というのがポイントですね」

「許される報道」、「許されない報道

 中国では、同じテーマでも「許される報道」と「許されない報道」があり、例えば“新型コロナ”に関する報道ですと、「地方政府の頑張り」や「政府が、どのように庶民の苦境を助けたか」などの報道は許されますが、「ウイルス発生源の考察」や「病院などでの深刻な人道危機」などの報道は許されないということです。

Q.武漢は取材もできなかったようですね?
(高井氏)
「武漢は取材に行けませんでしたが、武漢に行く看護師が家族と抱き合って別れを惜しむようなニュースはたくさん流れていました。逆に反コロナのデモなどは一切報じられませんでした」

突然のSNS凍結は、「“党”が決定」 か

 王氏はCCTVを退社したあと北京のメディアでインターネット番組を立ち上げました。内容は1対1のインタビュー対談で、各回の再生回数は数千万回、年間の視聴者数は延べ20億人に上ったということです。しかし2019年SNSとともに突如凍結されてしまいました。王氏は「停止処分は、“党”が決定したとみられる。理由は、影響力の大きな人物を排除したか」と分析。さらに、「中国の人々に事実を伝えたい。誰もが社会で何が起きているのか知る権利がある。言論弾圧は、社会にとって不利益である」と主張しています。

(高井氏)
「王氏は“反共産党”ではなく『共産党でないと中国は発展しない』という主張です。ただ、『ここまで“自由に知る権利”などを阻害されると今以上の発展はないんじゃないか、自由な報道や社会を良くしていく活動はしっかりやらせてほしい』と語っています」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年7月4日放送)

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