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【独自解説】「“プーチン大統領は神”という情報ばかり」国民を“洗脳”する露メディア支配の実態 白黒テレビ、洗濯機なし…ソ連時代からの28年間を過ごした日本人アナリストのリアル体験
2022年4月7日 UP
世界各国からの批判を受けてもなお、侵攻を続けるロシア。経済制裁で国民生活は打撃を受けているはずですが、プーチン大統領の支持率はアップしています。そこには国民の“洗脳”といっても過言ではない、プーチン流のメディア戦略があると言います。
そのロシアの素顔を、モスクワ生活28年、ロシア人の心を知る国際関係アナリスト、北野幸伯(よしのり)さんが解説します。
“超大国”ソ連での驚きの生活、崩壊後に生まれた「国民の勘違い」
Q.北野さんがモスクワに留学した1990年のソ連時代、モスクワに到着すると空港は暗く軍人だらけで、街中は車の数が少なく、中流家庭でもテレビは白黒で洗濯は手洗だったと言いますが…
(国際関係アナリスト・北野幸伯さん)
「すごくびっくりしました。本当にこれがアメリカと並ぶ超大国の暮らしなのかと思いました。車が少ないので渋滞も起こらなくて、テレビは白黒で、ビデオはありませんでした。洗濯機は家庭によってはありましたが、ホームステイ先にはありませんでした」
その後ソ連が崩壊し、市場が開放さrえたことにより外国製がロシアでも出回るようになりました。ソ連製品の悪さが目立ち始め、技術力では勝てないロシア企業が相次いで倒産してしまいました。そして為替の自由化によって、ソ連時代は1ドルおよそ1ルーブルで安定していたのが、1992年には1ドル415ルーブルになり、1992年のインフレ率はなんと2600%、物の値段が1年で26倍になってしまいました。北野さんにると「一番ひどいと思ったのは貯金の価値がなくなってしまったこと。ロシア国民は『自由』より『めし』が大事だと思うようになった」ということです。
Q.西側の市場経済を取り入れたエリツィン大統領は、それによって発生したインフレなどをメディアに批判されたと言いますが、自由に批判できたのですか?
(北野さん)
「メディアはエリツィン大統領政権への批判を展開していました。変な人形劇がありまして、エリツィン人形と取り巻き人形が馬鹿な話をしているようなもので、好きなことを言っていました。メディアは日本よりもひどいことを自由に言っていました。結果として国民がエリツィン政権を恨むようになって、政権末期の支持率は0.5%になっています」
Q.西側も悪いということになっているんですか?
(北野さん)
「事実としては資本主義が入ってきて為替が自由になって、ルーブルが暴落してインフレが起こったという流れなんですが、資本主義と民主主義がセットで入ってきたので、ロシア国民は、『民主主義が入ってきたから、国民の暮らしが悪くなった』と勘違いしてしまったんです。それで、ソ連が崩壊して2年ぐらいで『民主主義なんていらない!』ということになってしまいました」
「プーチン大統領は“神”」 メディア支配の実態
北野さんによると、世界には欧米とクレムリンの2つの大きな情報ピラミッドがあって、欧米とクレムリンのピラミッドを比べると、情報の流れは、政府からメディアそして国民と同じように見えますが、欧米にはメディアにチェック機能があって批判もできるのに対して、ロシアのメディアにはチェック機能がないので、政府に言われるまま、プーチン大統領の都合のいい情報だけが国民に伝わるという違いがあると言います。
Q.プーチン大統領は、エリツィン大統領の失脚を見て、テレビなどのメディアの力を知ってそれを支配したということですが、ロシアのテレビはそれほどプーチン大統領寄りなんですか?
(北野さん)
「ロシアのテレビを見ていると『プーチン大統領は神様みたいな素晴らしい指導者だ』というような情報ばかり入ってきます。そして『アメリカは悪い国だ、アメリカはロシアを破壊しようとしている』という情報ばかりです。そのため、イギリスのBBCやドイツの放送をよく見て、頭を中和させていました。情報の取り方を失敗すると洗脳されてしまいます」
Q.ロシアのテレビしか見ていない一般のロシア人は、みんなプーチン大統領が大好きで、ウクライナにも良い事をしていると信じている人も多いのでしょうか?
(北野さん)
「テレビだけ見ている人は間違いなくそうですね」
ロシアの残虐行為はなぜ起こったのか
Q.国連安保理でゼレンスキー大統領が、ブチャでのロシア軍による虐殺を非難したうえで、安保理が機能していないと演説しましたが、これを聞いたロシアの大使が「虐殺はフェイクだ」と発言しました。こう言わざるを得ないのでしょうか?
(北野さん)
「“ゼレンスキー大統領がネオナチなので、ロシア軍はウクライナに行かなければならなかった”というのが前提なので『ロシア軍が悪いことをしている』とロシア国内にばれてしまうと、国内の支持がなくなるので、何があってもロシア軍に都合の悪い情報は『フェイクニュースだ』ということからスタートするということです」
Q.このロシア軍が行ったと言われる残虐行為は、ロシア政府の指示があってのことなんでしょうか?それともシリアなどの民兵の仕業なのでしょうか?
(北野さん)
「ロシアというのは極超音速ミサイルなどの近代兵器に力を入れすぎていて、それを見せびらかすことでロシアは強いと思わせているんですが、結局戦争というのはアフガニスタンにしてもベトナムにしてもそうだったように、現代でも一番重要なのは陸軍で、それも歩兵が町を占領することがとても重要です。しかしロシアは、歩兵などの部分がすごく手薄になってしまっています。統制もとれていません。今ロシアでは1年の徴兵があるのですが、そういう徴兵された素人同然の人がどんどん送られていくわけです。プーチン大統領は否定していますが、戦地に行ってみると補給などもなくて、食料もなくて、ロシア兵が店舗に入って窃盗を働いている映像が暴露されたり、無秩序になっていったということだと思います。昔もあったことですが、人は極限状態になると、こういうことをするということだと思います」
Q.ブチャなどでの虐殺にかかわった兵士の氏名などを公開したことは、ロシアに対して強いプレッシャーになりますか?
(北野さん)
「『ロシア兵士 母の会』などが騒ぎ始めると思います。その『母の会』が大騒ぎすることによって、プーチン大統領も考えると思います」
Q.「ロシア兵士 母の会」というのはロシア国内で相当力を持っていると聞きますが…
(北野さん)
「『ロシア兵士 母の会』は、チェチェン戦争の時からずっと活動をしています。プーチン大統領としても、さすがに兵士の母親を弾圧するわけにはいかないので、非常に自由に発言することができるということです」
Q.今後のプーチン大統領とロシアの動きで、5月9日というキーワードがよく聞かれますが…
(北野さん)
「5月9日の対独戦勝記念日というのはロシアにとって大きな栄光の瞬間なので、プーチン大統領としては、それまでにウクライナ東部の占領地を拡大して、『そこの住民を解放しました』ということにして、何らかの勝利宣言がしたいんだと思います。これがプーチン大統領の面目が立つラインと言えます」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月6日放送)