記事
【独自解説】「2週間以内に遺骨を引き取って」北海道で納骨堂が突如閉鎖、利用者紛糾のずさんな実態と不可解な“経営破綻”
2022年10月20日 UP
札幌市にある納骨堂「御霊堂元町」で、運営側が利用者に対し突如閉鎖を発表し、遺骨の引き取りを求める事態になっています。説明会では、利用者から怒号が飛び交い、納骨堂側のずさんな実態も浮き彫りになっているとのことです。果たして納骨堂で一体何が起こっているのか?遺骨の行方はどうなるのか?亀井正貴弁護士と、現役の僧侶で宗教ジャーナリストの鵜飼秀徳住職が解説します。
増加する室内型納骨堂
鵜飼住職によると納骨堂は、「一般的には墓地より安価で、なかなか墓参りに行けない人でも維持や管理が簡単なため増加しているが、一方で供給過多な面もある」とのことです。そして北海道は、墓地の数は1991区域で全国46位なのですが、納骨堂は1743施設と全国2位になっています。北海道は冬に雪が多いのが、室内型の納骨堂が多い背景だと言います。
Q.北海道以外でも、最近は便利なところに納骨堂ができて、仕事帰りや休日に家族でお参りをする人も増えていますよね。
(鵜飼住職)
「都心の主要ターミナルの駅前などに、巨大なマンションのような“自動搬送式納骨堂”と呼ばれるタイプの、ICカードをかざせば自動的に骨箱が出てくる納骨堂が増えていて、ここ10年ぐらいで約30棟位になったといわれています」
Q.“墓じまい”して自分の住んでいる近くにお骨を収めたい、という需要もあるんでしょうね?
(鵜飼住職)
「昨今の高齢化も原因で、高度成長期からバブル期にかけて、東京からアクセスの良い郊外に巨大霊園が分譲されたのですが、そこを買った団塊の世代より上の世代が高齢化して、そこにすら行けなくなってしまい、都心の方に納骨堂も回帰しているという構造もあります」
「御霊堂元町」閉鎖の経緯と不可解な点
問題の納骨堂「御霊堂元町」は、宗教法人「白鳳寺」が運営しています。北海道・札幌市東区にあって、札幌駅から直線距離で約3㎞、最寄駅から徒歩6分の立地です。2012年に開業していて、1階が家族葬ホール、2階以上が納骨堂となっています。ロッカータイプの納骨段で、1区画が20万円~250万円、年間の管理費が6000円~1万2000円だということです。契約納骨段は773基ありました。ホームページには「365日お参り可能・ご供養やご遺骨の管理が難しい方のために“永代供養”も引き受ける」と記載されています。
突然閉鎖になった経緯を利用者に聞くと、先月12日に「御霊堂元町」から、「白鷗寺の名義が不動産会社に移った」という経営破綻を示唆した文章が突然届いたという事で、「それまで全くそんなことを聞いていなかったので、びっくりした」といいます。10月9日~11日の3日間に説明会が行われたのですが、その説明会には弁護士も進行役もおらず、代表が一人だけで説明していたとのことです。
Q.急に、弁護士もなしで「経営破綻しました」と言われても、理解できないのでは?
(亀井弁護士)
「経営破綻したのでしたら、宗教法人は破産宣告の申し立てをする必要がありますから、その手続きをする過程でいろいろ説明しないとだめなのですけれども、それもできないという話ですので無茶苦茶ですね。また、明け渡し前には『催告』と言って、明け渡し期限をまず通知した上で明け渡しを行うため一定の期間があるはずなので、その前に説明はできると思います。破産した場合は、破産原因について事前報告をして、債権者集会でも報告するというのが普通です」
その後分かった経営破綻の経緯ですが、2021年の11月には、債権者である別の葬儀会社が、この建物の差し押さえをしています。2022年の7月になって競売にかかり、札幌の不動産会社が落札しています。所有者となった不動産会社としては、「納骨堂には退去してほしい」となりました。納骨堂の代表によると、「開業した10年前から半分しか埋まっていない。今まで一度も利益が出たことはない」とのことです。
Q.納骨堂は、半分しか埋まらなかったら、経営は苦しいものなのでしょうか?
(鵜飼住職)
「一基20万~250万で773基売れているわけですから、数億円の売り上げがあると思われます。50%契約があるのに『経営破綻した』というのは不可解です。納骨堂の場合、契約数が50%を超えると損益分岐点を超えて利益が出るはずです。という事は、この数億円のお金はどこに行ったのか、プールされているのか、使ってしまったのか、を解明しなければいけないと思います」
Q.破産していますので、お金関係の資料はあるはずですよね。
(亀井弁護士)
「通常でしたら、破産管財人を選任して、破産者から事情を聴くなどの調査をして、使途不明なものに関しては解明していく作業になります。ただこの場合、登記簿を見るとこの物件を借金で買っていて、最初から1億数千万円の負債を抱えて出発していますので、その返済に追われていたという事もありますし、別の経営者が背後にいるかもしれませんので、破産管財人の調査を受けないといけないと思います」
納得できない説明会とずさんな対応
10月10日の説明会では、「24日に強制執行されるので、それまでに遺骨を引き取ってほしい」という話が出ました。聞いた人は「もっと事前に言ってほしい」「24日の強制執行を越えると立ち入りできないと聞いた」「持ち帰った遺骨は家に置いておくしかない…」などと語っています。
Q.急に説明会をして、全ての契約者に連絡は取れているのでしょうか?
(鵜飼住職)
「取れてないと思います。それに700以上あれば、中には無縁仏状態の遺骨もあると思いますので、それを誰がどこに保管するのか、という事も出てくるでしょう」
Q.強制執行されると立ち入りできないのですか?
(亀井弁護士)
「もう他人のものになるので、立ち入れません。ただこの場合、執行者も大変だと思います。通常でも強制明け渡しの断行をしたときに、建物内に動産は残っています。残っている動産は、競売にかけたり廃棄したりするのですが、遺骨などは扱いが非常に難しいのです。さらに今回の場合、債務者のものではなく第三者の持ち物で、執行者が勝手に処分できないため、執行官保管をするのか、差し押さえをしたところに何らかの措置をしてもらうのか、非常に難しいです。また返すにしても、所有者の特定をこの納骨堂の代表者などが立ち会うなどして、確認しながら返却しないといけませんので、この強制執行は大変な作業になります」
さらに説明会では、納骨堂の代表から「15日に文章で報告し、改めて説明会を開きたい」との申し出がありましたが、14日になって「15日に文章を送るのが難しくなった。申し訳ございません。社員もやめて私一人しかいないんです…」と言われたそうです。今も報告はないという事で、利用者は「口頭だけじゃ理解できないくらいあやふやだった。収支報告の資料もなく、とにかく腹立たしかった。お金の流れが不透明なので、明らかにしてほしい」と話しています。
また、競売にかかった後の8月にも、新たな契約を結んでいたことも判明しました。亀井弁護士によると「今後の納骨堂の方針について、きちんと筋が通っていない限り、続けられるか不確定な状態で契約を取ったのなら、詐欺罪に当たる可能性がある」と指摘しています。
混乱する利用者…納骨堂の継続は?
また代表は利用者に、「遺骨を持ち帰ってほしい」と言いながら、「同じ状態でお参りできるように、落札した不動産会社に交渉をしている」とも言っています。利用者は、「どっちかよくわからない」と混乱しています。落札した不動産業者は「利用者からの要望もあり、納骨堂を続ける案もあったが、納骨堂の運営は行政側の許可が出ないし、借金もついてくるので難しい」と言っています。納骨堂を運営するのは地方公共団体や宗教法人のみで、民間企業はできない、と条例で定められており、さらに宗教法人でも「3年以上の活動があること」が条件となっています。
Q.納骨堂の運営は、宗教法人でもすぐにはできないのですか?
(鵜飼住職)
「これは永続性の問題で、行政と宗教法人のみが納骨堂を運営ができるのです。このケースでは宗教法人でさえ破綻してしまって、宙に浮く遺骨が出てしまうのが問題です。宗教法人でさえ永続性が担保できないという風潮になってきますと、『遺骨はどこに収めればいいのか』という社会不安が生じてきます」
そして「費用は帰ってくるのか?」という質問に対し、代表は「財源がなく、使用料や管理費は返還できない」と言っています。亀井弁護士によると、「納骨堂側に財産が残っていなければ、返還は難しいのでは…」という事です。
Q.私たちが、こういう問題に陥らないように気を付けることはありますか?
(亀井弁護士)
「契約するときに、本来であれば財務内容や不動産の所有権などの確認をすることです」
Q.ほかにもこのような納骨堂の破綻はあるのですか?
(鵜飼住職)
「よく聞きます。納骨堂の破綻は、2010年以降徐々に増えていて、もう数十例以上あると聞いています。自衛策としては、最低限ホームページなどを見て、運営している母体がどういう団体か確認することが必要でしょう。今回破綻したこの納骨堂の運営主体は、真言宗や浄土宗といった宗派に属さない単立寺院です。そうなると宗門の監視も効きませんので、好き勝手にできるので非常に危険です」
(亀井弁護士)
「信仰の自由とはいえ、法規制をかけないと、エンドユーザーの被害は無くならないと思います」
(情報ライブミヤネ屋2022年10月19日放送)