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斎藤知事側の告発文対応は適切だったのか?

【独自解説】片山前副知事の元幹部職員への聞き取り調査はまるで“手慣れた捜査” 盗聴まがいの手法も、法律違反認識していなかったのか?疑惑を持たれた側が犯人捜しをする異常事態

 兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ疑惑。知事が言うように「告発文対応は適切だった」のでしょうか?告発者捜しの聴取記録から判明した“生々しいやり取り”を、亀井正貴弁護士が解説します。

■片山安孝前副知事による元幹部職員への聞き取り調査、調査対象は元幹部職員以外に2人

聞き取り調査は3班体制

 2024年3月25日、片山安孝前副知事が元幹部職員への事情聴取を行いました。

 聞き取り調査は3班体制で、聴取対象は元幹部職員だけではなく、他に2人いたということです。3つの班は午前10時半から一斉に調査開始予定でしたが、予定通りに始まったのは1班の片山前副知事が行う元幹部職員に対しての聞き取り調査だけで、2班の県職員A氏は出張中のため午前11時30分から調査開始、3班の県職員B氏は終日不在でした。

亀井正貴弁護士

Q.まるで警察や国税のような感じですね?
(亀井正貴弁護士)
「犯罪者を相手にしているようです。私が思い浮かべたのは、贈収賄事件のときに、賄賂を送った人と貰った人を一斉に捜査して、事情聴取をして白状したら逮捕するという手法です」

Q.口裏合わせをされないように、ということですか?
(亀井弁護士)
「そうです。できれば午前中の油断しているときに始めて、自白を取っていくという手法、合同捜査です」

Q.これは、事情聴取というより捜査ですか?
(亀井弁護士)
「これは捜査ですね。証拠品も押収していますし、取り調べの内容自体も、前副知事の事情聴取の仕方は相当手慣れています」

「近くに来たので寄っただけ」と本来の目的を隠し…

 聞き取り調査の手順が、わかってきました。まず、秘書や周囲の職員に対し、訪問の目的は「近くに来たので寄っただけ」と伝えています。その際、片山前副知事などが持ってきたのは、『聴取用のICレコーダー』『データ保存用のフラッシュメモリー』『PC押収用のモバイルバッテリー』などでした。

 県職員らによると、調査開始時には「名誉棄損及び守秘義務違反の調査のため、パソコン及びスマートフォンには触らないように」と言われ、「記録のためICレコーダーで録音させてもらう」と説明があったといいます。また、パソコン押収時にはパスワードを聞き出し、正しいか目の前で確認したということです。

Q.これが県職員のすることですか?
(亀井弁護士)
「本当に、これは捜査だと思います。やり方について非難されないようなことをやりつつ、証拠品は押さえていくという目的のもとに、複数で行動しています」

犯人捜しが「行政の長として一番問題」

 東京都の石原都政1期目を支えた青山佾・元東京都副知事は、この兵庫県の事情聴取について、「聴取を一斉に、それぞれ同じ日時にそれぞれのチームで行くとか、マニュアルが定められていたとすれば、それはかなり“異例の調査”だという印象」「犯人捜しをやったという、この点が、やはり行政の長として一番問題になる点ではないか」と語っています。

(亀井弁護士)
「利害関係者が、自分に対して向かって来るものを潰すために事情聴取をしているということで、おかしな話です」

調査当日、元幹部職員が伝えられたのは―

 最初の事情聴取が行われた2024年3月25日、聴取の際に元幹部へ「60歳で退職届提出の受理保留」「3月31日付の退職金の支給なし」「予定されていた人事異動は後日改めて内示」「当日の会議への欠席指示」などが伝達されたということです。

■片山前副知事の元幹部職員への事情聴取 各所に取り調べの手法…脅しのようなやり取りも

片山前副知事と元幹部職員のやり取り

 片山前副知事と元幹部職員のやり取りが出てきました(下記は一部抜粋したものです)。

-(片山前副知事)
-「1年間の全部の記録、今全部チェックさせとんねん。やり取りしとるの出とるやないか。どういうこっちゃ。文句あってやっとったんか。そやけど、こんな文書が存在するんやったら、作ってないって言うんか」

-(元幹部職員)
-「知りません」

片山前副知事「一切知らんて最後まで言うの?」

-(片山前副知事)
-「ないこと・あることな、まぁ、ないことのほうが多いけどさ、推測的なこともあるかもしれへんけど、一切知らんて、最後まで言うの?」

-(元幹部職員)
-「たしかに、これは情報をね、集めてというのはしましたけど、やるにしたって、そら辞めてからにしまっせ」

-(片山前副知事)
-「明らかに、言うたら悪いけど、知られてないことも書いてあるしな、ウワサかどうか知らんけどな」

-(元幹部職員)
-「いや、結構あちこちウワサになってたけどなぁ」

片山前副知事「山ほど資料出てきたで」

 そして、告発文への関与を否定する元幹部職員に対し―。

-(片山前副知事)
-「山ほど資料出てきたで、お前のとこから分厚いのがようけ。1年間のやつ。悪いけど、見させてもろたけど」

-(元幹部職員)
-「いや、僕は、そやから、それを何かして対外的に出すなんてことは、一切していませんから」


(亀井弁護士)
「片山前副知事は、具体的な情報を認識していたと思います。誰から話が出たかというのも、ある程度推測していたと思うので、具体的な根拠はあったんです。元幹部職員としては、それは言えないので、『ウワサ』としか言いようがないんです。その『ウワサ』としか言いようのないのをうまく使って、『根拠はウワサです。だから、真実でないことは、もちろん真実相当性はないんです』というようなところに持って行っています。本来であれば、真実相当性があったにもかかわらず、ないことにしてしまったというのが、この事案だということです」

“おねだり疑惑”について

 また、“おねだり疑惑”については―。

-(片山前副知事)
-「これなんや。ロードバイク、知事が受けとったんか。アイアンセット、受けとったんかい。コーヒーメーカー、これなんや。こんなん皆、知らんやろ。知っとんか。誰から聞いたんや」

-(元幹部職員)
-「でも、それもみんなウワサしてますよ」


(亀井弁護士)
「見ていると、取り調べの手法が結構出てきています。例えば、『こんなものがあります』と言ってみて、自白を取ろうとします。あと、同じことを繰り返し聞くことによって、供述が変わらないかみていって、最終的には自白を取ろうとしています。これは取り調べです。手慣れていると思います。恐らく、人事をずっとやってきたのであれば、処分のための事情聴取をやってきたと思います。それ以外に、警察官からそういうことを聞いたことがあるかもしれませんが、やっていることは、取り調べの手法が使われています」

「パワハラ批判」などを「県政批判」にすり替え

 そして、県政への批判についても―。

-(片山前副知事)
-「今からきっちり調査せな、しゃあないやないか。元幹部職員が、やっとんねんからさ。普通の一般職員やったらまだしもな、元幹部職員が、これだけ県政批判してるんやで」

-(元幹部職員)
-「僕は、県政を批判したつもりはないですよ」


Q.県政批判ではなくて、知事の“パワハラ”や“おねだり”への批判ですよね?
(亀井弁護士)
「そうです。県政批判したつもりはないです、となります」

捜査のように動機、計画性、故意・犯意という主観的事情を聞き出す

 元幹部職員が情報を集めた理由については―。

-(片山前副知事)
-「『外には出してません』という答えがあったけど、なんでこんな情報を集めようとしたんや。それを教えてくれや」

-(元幹部職員)
-「いろんな人がいろんなクレームじゃないけど、知事に対する不満を持ってはるんやね。いろんな情報が耳に入ってくるから、書きためとったみたいなことなんですよね」

-(片山前副知事)
-「書きためて、どないしようと思っとたん?」

-(元幹部職員)
-「どないしようというのは、そのときそのときでね、ひょっとしたら役に立つことがあるかもしれないし」

Q.これも事情聴取ですよね?
(亀井弁護士)
「動機、計画性、故意・犯意という主観的事情を聞き出そうとしています。犯罪だとしたら、重要ポイントを聞こうとしています」

脅しのようなやりとりも―

 さらに、脅しのようなやり取りもありました。

-(片山前副知事)
-「名前が出てきた者は、一斉に嫌疑かけて調べなしゃあないからな。一般的に言うたらな、名前出てきた者は、皆、在職しとるということだけは、忘れんとってくれよな。まぁ手始めに調査対象のA氏あたり、危ないと思うんやけどな。(昇級)どないしようかいなと」

-(元幹部職員)
-「それは、調べてもらったら」


Q.これは、人事権を振りかざしていて、完全にアウトですよね?
(亀井弁護士)
「これは脅しです。今時取り調べで、これはできないです。正直言うと、昔はこういうことをやっていましたが、『他の家族や友人にプレッシャーをかけるぞ』と脅して自白を取るということは、今ではとてもできないような取り調べです」

■なぜ“犯人捜し”が始まったのか?知事「徹底的に調べてくれ」 第三者委員会は「時間がかかる」と否定

第三者委員会は斎藤知事が「時間がかかる」と拒否

 斎藤知事と片山前副知事がこのような初期対応になった経緯ですが、2024年3月、報道機関に「告発文」が配布されると、片山前副知事は知事室に呼び出され、斎藤知事から「徹底的に調べてくれ」と言われたといいます。百条委員会で片山前副知事は、それを「“告発者捜しの指示が出た”と受け止めた」と答えています。

 また、百条委員会の証言などによると、当初複数の幹部職員が「第三者委員会を立ち上げるべきだ」と進言していましたが、斎藤知事が「時間がかかる」と拒否したため、『内部調査』で告発者の特定を進めたということです。

Q.第三者委員会に委ねるという方法も、あったわけですよね?
(亀井弁護士)
「本来は、そうするべきです。自分のところで囲い込むのではなく、客観的な判断ができて、調査ができる機関にやってもらうのが本筋です。自分の保身のために潰そうとするから、こういう展開になるんです」

■亀井弁護士「盗聴のような手法で秘密の情報をだまし取るのは相当問題」と指摘

元幹部職員から調査対象A氏に電話が…その時、調査の県職員は

 聞き取り調査を終えた元幹部職員は同じ日、調査対象のA氏に電話をしています。そのとき、A氏は事情聴取の最中で、取り調べを担当した県職員からスピーカー通話にするように指示され、元幹部職員とA氏の間のやり取りを県職員が聞いています。

-(元幹部職員)
-「片山副知事(当時)が来て、取り調べ受けて、調べていたことあって、このあいだ、それを文章にまとめたみたいなことをしたんやけど、それがバレて」

-(調査対象A氏)
-「えっ、(元幹部職員)がやったんですか」

-(元幹部職員)
-「そうそう、Aちゃんが繋がっているんじゃないかと、いろいろ勘ぐっていたから、ちょっと気にしとって」

-(A氏)
-「それって警察にまいたんですか?」

-(元幹部職員)
-「警察と議会とマスコミ。消そうと思ってんやけどなぁ、そこで取られてもうてな」


Q.スピーカー通話にするように指示することは、問題ないのでしょうか?
(亀井弁護士)
「これは相当問題だと思います。いってみれば、捜査の過程の中で秘密をだまし取ると言うことです。形は違いますが、盗聴のようなものです。重要な人の秘密をこのような不適切な方法で取るというのは、相当問題があると思います」

■全体的にみると威圧的・組織的な“捜査”そのもの 知事側も法律違反は客観的に認識できているはず

元幹部職員「俺が一人でやってん。それがほんまやから」

 同じ日、元幹部職員はA氏だけではなく3班の調査にあたっていた県職員にも電話をしています。この職員と元幹部は、関係性があったと思われます。

-(元幹部職員)
-「さっきはしらを切ったが、俺がやったから、あんまり調べんといて」

-(3班の県職員)
-「(元幹部職員が)一人でやったってことですか」

-(元幹部職員)
-「俺が一人でやってん。それがほんまやから。業務上知り得た秘密でもないしな。そのへんでウワサ話なんぼでも流れとるけどな。ごめんな、こんな時に迷惑かけて。そっとしといてくれたら、よかったのに」


Q.知事側が「ウワサ話」だとした根拠は、このあたりなんでしょうか?
(亀井弁護士)
「本当はウワサ話ではなくて、直接の証拠を握っていたと思います。それをやむなく『ウワサ話』とせざるを得なかったということです。元幹部職員が『ウワサ話』と言ってくれたので、『根拠がない』と仕立て上げたということです」

Q.全体的にみると、威圧的・組織的な調査ですよね?
(亀井弁護士)
「調査しているほうは、捜査していると思っています。『嫌疑・押収・否認』などの用語を使っていますので、捜査している気分でやっていると思います」

Q.法的には、どうなんですか?
(亀井弁護士)
「犯人捜し自体がいけないことです。知事側も当然法律に違反しているということは、客観的には認識できているはずです。斎藤知事は、あくまで自分の主張を言っているだけだと感じます。頭の中では、“いけないことだ”と認識しているのではないかと思います」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年9月17日放送)

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