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【独自解説】元駐ウクライナ大使に直撃「“東部で親ロシア系住民が迫害”なんて見た事ない」「防衛のカギは“自警団”」明かされた現地の実態と今後のポイント
2022年3月25日 UP
ロシアとの停戦交渉を巡り、ウクライナのゼレンスキー大統領は「すでに占領された地域の帰属など重要な項目の決定については、国民投票を実施する必要がある」との考えを明らかにしました。緊迫する状況の中、国民投票を行うことは本当に可能なのでしょうか?ウクライナの実態と今後の注目ポイントを、元駐ウクライナ大使の角茂樹(すみ・しげき)さんに伺いました。
プーチン大統領「親ロシア系が迫害されている」、実際は?
角さんは、2014年~2019年まで駐ウクライナ大使を務め、歴史上初となる“日本の首相によるウクライナ訪問”を実現されました。そして在任中は、東部・紛争地帯を年に4~5回視察。多くの勲章を受章しています。
Q.角さんもキーウ(キエフ)に住んでいたということで、今は胸を痛めてらっしゃいますよね。
(元駐ウクライナ大使 角茂樹さん)
「キーウ(キエフ)というのは長い歴史があり、きれいな街なんです。これが今、どうなっているかというのは心配でしょうがありません。」
Q.プーチン大統領は「ウクライナ東部で親ロシア系の住民の人たちが迫害されて、ジェノサイドまで行われている」と言って攻め込んできているわけですが、そういう実態はありました?
(角茂樹さん)
「結論から言いますと、それは全くの嘘です。私は東部を訪れて住民の方と話をしたり、いろんな所を訪れて見聞きしたりしていますが、そんなものは見たこともないし聞いたこともありません。日本をはじめウクライナ政府は、東部でロシアの攻撃に遭った人を助けるということはやっていますが、その人たちを迫害したりジェノサイドするなんていうことはありえないし、全く聞いたこともありません。」
Q.東部の方だけではなくキーウ(キエフ)の方々をはじめ、ウクライナの方々はある意味、ロシアを兄貴分のように慕っていた、という部分もあるのですか?
(角茂樹さん)
「そうなんです。2014年まではそうだと思っていたんですが、2014年に突然、ロシアが東部に侵攻してきてクリミアを併合したということが、ウクライナの国民にとっては本当にショックだったんです。つまり兄貴分だったと思っていた人たちが侵攻してきて、しかも多くの人が殺されましたからね。それからロシアに対するウクライナ国民の考えは、全く変わりました。」
Q.ボリスポリ国際空港もミサイルで被害があったということですが、この空港を作るのに日本もお金を出したということなんですね?
(角茂樹さん)
「ボリスポリ空港というのはキーウ(キエフ)で一番大きな国際飛行場で、多くの人がキーウから外に行くときにここを使っているんです。きれいなターミナルで、これは日本の支援で作られたんです。私が行く直前に完成した、世界に誇れるくらいの非常に立派なターミナルです。そこはさすがに壊れたという話は聞いていませんが、大変心配しています。」
Q.これまでの日本の支援が国別で最大規模ということは、ウクライナは親日の方が多いのですか?
(角茂樹さん)
「ウクライナの人も、日本がこれだけの支援をしてくれているということは知らなかったのですが、だんだんそれが分かるようになりました。例えば私が在任中、昼休みに少し散歩したりすると、ウクライナの人が私の所に来て『日本の大使ですか?』と聞いてくれるんで、『そうですよ』と言うと握手を求めてきたり、『ありがとう、ありがとう』と涙を流さんばかりに言ってくれたりして日本はウクライナを支援をしてくれる国だということが、もう一般の人にも知れ渡っています。」
「自警団」の実態は?「国民投票」はできる?
建物の8割が破壊されるなど壊滅状況が伝えられているマリウポリですが、角さんが注目する防衛のカギは、“自警団”だということです。
Q.ロシア軍としては、空爆はできるが街を占拠することはできない、つまりそこには自警団という人たちがいまだに踏ん張っているという背景があるのですか?
(角茂樹さん)
「もちろんウクライナの国軍もいますが、自警団も国軍と一緒になって戦っています。この自警団は、2014年に作られたわけですけれど、愛国にあふれた人を集めていますから、やはり国を守る意識は極めて高いということですね。」
Q.元軍人や軍事訓練を受けた方もいるということですし、ウクライナは不幸にも何度もこういう紛争・侵攻などがありましたので、いわばプロですよね?
(角茂樹さん)
「その通りです。素人ではありません。やっぱりウクライナというのは、長い苦難の道を歩んでいますから、こういう困難に遭ったら自分たちで守ると。もちろん国軍はいますが、それを補って守るという意識が、非常に強い国民です。」
Q.“停戦協議”は、トルコ紙によると、基本的に議論している6項目のうち、4項目はある程度の進展があったということですが、「クリミアでのロシアの主権承認」、「ドンバスの独立承認」、ここは難しいんじゃないですか?ウクライナからすると自分たちの領土を割譲しろ、明け渡せということはのめないですよね?
(角茂樹さん)
「今、ウクライナの人たちが戦っているのは、まさしく自分たちの国を守るということですからね。その守る国の領土、クリミアとドンバス両方ですけど、この領土をロシアに明け渡すというのは絶対にありえないし、ゼレンスキー大統領も、これを譲歩として持ち出すことは、私はもう絶対にありえないと思っています。そんなことをしたら、何のために戦っているか全く分からなくなってしまいますから。」
Q.ゼレンスキー大統領は、ウクライナ公共放送のインタビューで「ロシアの降伏要求に決して屈しない。戦争終結に向けた、いかなる妥協案もウクライナの国民投票で決定される必要がある」と発言しました。国民投票は現実的にできるのでしょうか?
(角茂樹さん)
「もちろんクリミアとか東部の中でやるというのは難しいと思いますが、まず安全保障の問題、つまりウクライナとしては自国の安全が保障されればいいわけですから、そういう意味では別にNATOに入らなくてもいいわけなので、そういう政策的なところは、国民投票を全国でやる可能性はあると思います。ただ、クリミアを含むロシア軍が支配した地域を巡る問題、例えばこの地域にある程度の自治権を与えるという可能性はあると思いますが、ここを割譲するということは、そもそも国民投票の対象にもならないと思っています。」
ゼレンスキー大統領が「第三次世界大戦」示唆する意図は?
Q.ゼレンスキー大統領はCNNのインタビューに「プーチン大統領との対話の可能性をつかまなければならない。もしその試みが失敗すれば、それは第3次世界大戦を意味する」と答えていますが、この言葉の裏には「アメリカを含め、NATO、西側諸国、協力してくれよ」というゼレンスキー大統領の思いもあると思いますが、いかがでしょうか?
(角茂樹さん)
「それはその通りです。ただゼレンスキー大統領は、今ロシアが狙っているのはウクライナだけではない、具体的に言うとバルト3国などの旧東欧諸国にも多くのロシア語をしゃべる人達はいるわけです。したがって、もしもウクライナがロシアのやりたいようなところになれば、次に狙われるのは、まずはバルト3国、エストニア、ラトビア、リトアニアです。それからポーランド、スロバキア、ルーマニア、こういった国にもロシアは侵攻する可能性がある、ということを言いたいんだと思います。」
Q.プーチン大統領が目指しているのは、やはりロシア帝国の復活、大国への復活ということなんですか?
(角茂樹さん)
「まさしくその通りです。1991年に崩壊したソ連を再び1つの国にまとめるということがプーチン大統領の希望ですから、そういう意味では、ウクライナだけに留まるというふうに見るのは非常に甘いということを、ゼレンスキー大統領は言っているのだと思います。」
Q. キーウ(キエフ)はロシア軍が停滞していて、侵攻が思いのほか進んでいないという話を聞きます。キーウ(キエフ)は地上からは入りづらい街なのですか?
(角茂樹さん)
「キーウ(キエフ)というのは1000年の歴史を持つ街で、そこには古い教会や宮殿もたくさんあるんですね。そしてロシアの人にとってみれば、いわば“ロシアの始まりの地”だというふうにも考えられているんです。日本で例えると奈良みたいなものです。それを攻撃して壊すということは、すごく大きなショックを一般のロシアの人にも与えると思います。もう1つは、やはりキーウ(キエフ)というのは川、それから丘になっていますからね。なかなか攻略するには軍事的には難しいと。その2つの点があると思います。」
生物兵器・化学兵器使用の可能性は?停戦への道は?
Q.アメリカ・バイデン大統領は「ロシアはウクライナが生物兵器や化学兵器を持っていると主張したが、それはプーチン大統領が両方の兵器の使用を検討している明確なサインだ」と言っています。もしこれが当たっているとするならば大変怖いことですね。
(角茂樹さん)
「今、ロシアのウクライナに対する軍事的な侵攻は、プーチン大統領が最初に思い描いたようには全くいっていないわけです。恐らく最初、キーウ(キエフ)は数日で制圧できると踏んで入ったわけですから。やはり長引くとロシアも兵隊の関係など色々と問題が出てきますので、それを解決するために、許されない兵器を使う可能性は、排除できないと思って心配しています。極めて非人道的なということで、もともと条約で禁止されているものですから、毒ガスとかそういうのを使ったら、もうこれは大変なことになると思います。」
Q.これは、国連が機能していないんですよね?
(角茂樹さん)
「国連というのは、いわゆる5大国という常任理事国で、この5大国が“世界の平和を守る”ということで作っています。しかしその1か国であるロシアが、もともと国連が造られた原則・考えと違うことをやっているわけですから、これは国連からすれば、『機能しろといっても、できません』ということになってしまうと思います。」
Q.どうやったら停戦すると思われますか?
(角茂樹さん)
「これは非常に難しいですが、私はやはりロシアの人に現実を知ってもらうことだと思います。今もロシアの人は政府のことを信じて、軍事施設しか攻撃してないとか、東部におけるウクライナ政府のジェノサイドから救うんだと、本当に信じている人がたくさんいます。実際に全く罪のないウクライナの人たちが殺されているということが広がれば、ロシアの普通の人は、兄弟国だというふうに習ってきたわけですから、その兄弟国の人を殺しているという実感が広がれば、ショックを受けて『反プーチン、反戦争』が盛り上がる、私はこれが本当に重要なことだと思っているんです。」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月22日放送)