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高まる中台間の緊張

【独自解説】 米研究機関が『台湾有事シミュレーション』を発表 第三国の関与により中国撃退可能、しかし「終わらない戦争になる」専門家が解説

 ロシアのウクライナ侵攻からも分かる通り、一旦戦争が起こると双方ともに甚大な被害は免れません。これは、我々にとっても他人事ではありません。日本のすぐ近くにある、中国と台湾の緊張感は、年々高まっています。先日、アメリカの研究機関が公表した、中国による台湾侵攻のシミュレーションは、日本にも甚大な被害が発生すると指摘しています。被害規模はどれくらいになるのか?危機を回避するために何が必要なのか?防衛研究所防衛政策研究室の高橋杉雄室長が解説します。

活発化する中国の軍事演習

 ここ数年、中国の軍事演習は活発化しており、1月9日の台湾の発表によりますと、中国軍の偵察機など57機が台湾周辺を飛行し、その内28機が防空識別圏に侵入したということです。また中国軍は、台湾周辺の空と海で実践的な軍事演習を行い、「外部勢力と台湾独立勢力の挑発行為に、断固として対抗するものだ」としています。

防衛研究所 防衛政策研究室 高橋杉雄室長

Q. 日本が思っている以上に、台湾での緊張感は高いのでしょうか?
(高橋杉雄室長)
「特にここ数年、中国の示威的な圧力がかなり増えていて、警戒感がとても高まっています」

Q.中国機の台湾周辺での飛行は、軍事演習なのか探りを入れに来ているのか、どちらなのですか?
(高橋室長)
「防空識別圏の範囲などは分かっているので、台湾に対して『我々はいつでも防空識別圏や中間線を超えるぞ』という圧力をかけているのです」

米研究機関が「台湾有事リポート」を発表

 1月9日、アメリカのシンクタンク「CSIS」が、2026年に中国が台湾に侵攻した場合の24通りのシミュレーションを出しました。

第三国の関与がない場合のシミュレーション

 まず、中国の台湾侵攻に第三国が関与しなかった場合のシミュレーションでは、台湾南部に中国軍が上陸してから10週間で、台北の総統官邸が占拠されます。さらに台湾は、10週を待たずに、苦戦を強いられる前に降伏する可能性もあるとしています。

第三国が関与した場合のシミュレーション

 次に、第三国が関与した場合は、中国を撃退できるとしています。中国の主要な水陸両用艦艇部隊は壊滅し、死傷者も約2万2000人に上ります。しかしアメリカも、空母2隻と7~20隻の主要な艦船を損失し、死傷者は約1万人と想定されています。そして日本も、米軍基地が攻撃され、戦闘機112機に艦船26隻が失われるとされています。

Q.こういうシミュレーションには、民間人の被害は含まれていないのでしょうか?
(高橋室長)
「民間人の被害は、シミュレーションが難しいということと、この段階のシナリオでは『中国は軍事目標を攻撃する』という想定で、今ロシアがウクライナに行っているような都市攻撃は、この段階で考えられないという形で、分析が軍事力に集中しています」

Q.中国が台湾を侵攻したときにアメリカが撃退できても、「両国の国力が大きく低下して、世界中が大混乱になる」ということも言われていますよね
(高橋室長)
「中国としては、アメリカが関わらなかったら勝てるのですが、アメリカが関わってくると勝てない可能性があるので、先に米軍基地を攻撃してくる恐れがあります。そうなると、集団的自衛権ではなく“日本の領土が攻撃された”ということになります。中国としては、アメリカと日本を同時に敵に回すかどうかの判断も1つのポイントとなります。その上で、この戦争が始まってしまった場合、米中の本格的な大戦争になりますので、この地域の経済やいろんなものが滅茶苦茶になってしまうといえます」

Q.このシミュレーションでは、アメリカは核戦争を避けるために、中国本土の基地は攻撃しないだろうとなっていますが…
(高橋室長)
「そこが大きなポイントで、ここ何年か、特に民主党系の専門家は同じように『中国本土は攻撃できない』と言っています。アメリカが中国本土を攻撃するかしないかを考える状況は、日本と台湾が攻撃を受けている状況なので、そこで『中国に反撃しない』という選択をするのは、日米台の関係に非常に大きな影響があるので、『簡単に中国本土に反撃しないと言うべきではない』と、彼らには言っています」

Q.台湾と中国は、本来なら香港の様な形での統一をするのが理想なのでしょうが…
(高橋室長)
「理想はそうです。しかし、香港でいろんな問題が起こり、台湾の中での警戒感や反発が高まってそれができなくなってしまったので、中国は強硬な手段に切り替えつつある、というのが現状だと思います」

Q.今回の、「空母や主要な艦船の被害や、たくさんの死者が出る」というシミュレーションは、イラクやアフガニスタンと違って「海洋戦ではこういう、経験したことのない被害が出る」という想定をアメリカ国民に見せて「あなた方は覚悟がありますか?」ということを示しているのではないのでしょうか?
(高橋室長)
「歴史上、このシミュレーションのような被害をアメリカ海軍に与えたのは、大日本帝国海軍しかないのです。それだけの大戦争になるということを、ワシントンの関係者と米国民に対して意識させるという狙いがあると思います」

ポイントは「いかに開戦させないか」

Q.高橋室長は、「いかに開戦させないか」がポイントだといっていますが、これは“抑止力”ということですか?
(高橋室長)
「現状、中国の台湾に対する強硬姿勢がはっきりしてきているので、この戦争は始まってしまうと“終わらない戦争”になると考えています。中国共産党にとって、台湾有事は負けて終わることができないのです。一度始まってしまうと、このシミュレーションのように、地上部隊が壊滅して占領できなかったとしても、戦争は止められません。今、ロシアがウクライナでしているような都市攻撃や、場合によっては“核の使用シナリオ”も入って来るかも知れません。台湾統一は、習近平主席だけではなく中国共産党の考えですので、今のロシア・ウクライナ戦争よりはるかに終わらせるのが難しい戦争になります。ですから、外交や抑止力など、あらゆる手段を使ってとにかく始めさせないことが大事です。いずれにしても、『勝てる』と思わないと中国は戦争を始めないので、『勝てる』と思わせないことが重要です」

Q.防衛費増強で増税ということも議論をしっかりしなければいけませんが、今近くに危機があるということも我々日本人はもう少し感じていたほうが良いですよね。
(高橋室長)
「備えれば防ぐことができますので、そこに危機があることは、認識している必要があると思います」

(情報ライブミヤネ屋2023年1月19日放送)

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