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【独自解説】相次ぐブランド農産物の海外流出「シャインマスカット」中国産の価格は4分の1!年間損害額100億円!?“品種泥棒”防ぐ手立ては?
2022年10月11日 UP
年々深刻になる、日本産ブランド農作物の“海外流出”問題。2020年、農林水産省は日本で品種登録された果実の苗木や種苗が、中国や韓国のインターネットで無断で流通していた実例を発表。その数は実に36品種に上り、イチゴの「紅ほっぺ」、ブドウの「シャインマスカット」など有名ブランドも含まれていました。さらに9月、石川県が誇る高級ブドウ「ルビーロマン」の苗木が、韓国に無断で流出していたことが、DNA鑑定で明らかになりました。
10月5日、輸出拡大のための関係閣僚会議で、松野官房長官は「円安で輸出の可能性が拡大している今、稼ぐ力を引き出す必要がある」と述べ、農林水産物食品輸出額の目標を2025年に2兆円としました。その上で、「海外での品種登録支援など、『知的財産』の保護活用の強化などについて、総合経済対策の中で具体化を進めてください」と発言しました。輸出で稼ぐ、そして流出を防ぐためにはどうすべきなのか。農林水産省の「海外流出防止に向けた農産物の知財管理検討会」のメンバーで、知的財産権問題に詳しい小山隆史(こやま・たかし)弁護士が解説します。
日本の優良品種が海外に無断流出する問題は2016年に顕著化しました。開発期間に33年かかった「シャインマスカット」の場合、韓国では「SHINE MUSCAT」の名で販売され、中国では「陽光バラ」の名で、1パック約490円と日本の販売価格が約2000円であるのに対し、格安で販売されていました。中国での栽培面積は、日本の約29倍にも上ると言われています。中国・韓国産の「シャインマスカット」は日本産より安く流通しているため、日本産の「シャインマスカット」は中国・韓国での市場喪失、さらに韓国は第三国へも輸出しているため、タイ・香港・マレーシアなどへの市場も喪失しています。この損害額は年間100億円に上ると試算されています。
Q.開発に33年もかかったブドウが海外に流出してしまう、これは法的に問題ないのでしょうか?
(小山隆史弁護士)
「はい。今が『種苗法』が改正されていますが、以前は権利者や開発をされた方が、農家さんなどに売った苗木を外国に持ち出すことは違法ではなかった、ということがありました。それから、外国でこの『シャインマスカット』の品種を登録していないと、その国では権利侵害ということはないので、違法でもないということになってしまいます」
Q.「シャインマスカット」だけで年間100億円の損害があるということは、日本の農作物全体ではどれぐらいの損害になるのでしょうか?
(小山弁護士)
「具体的な数字はなかなか算定が難しいですけれども、これらの品種を外国で登録をしていれば、それを許諾する際にお金もらうことができますので、相当な金額になったのではないかと推計されます」
2022年に入ってから、政府の知的財産管理に関する検討会が立ち上がりました。海外での権利活用・侵害対策を行う機関の設立なども検討しているということです。現状、優良品種を守るための課題は山積みで、小山弁護士は「税関で完全に塞ぐのは困難、流出した場合に公的機関が世界中を監視するのも困難」ということです。
Q.税関で完全に防ぐのはやはり困難なのでしょうか?
(小山弁護士)
「そうですね。今は、改正された法律に基づいて、税関で差し止めるということも可能なのですが、やはり種や苗は小さいので、それを完全に止めるというのはなかなか、現実的には難しいと思います」
Q.公的機関で監視するのが難しいのは何故ですか?
(小山弁護士)
「公的機関は、例えば県の開発センターとか、国の付属機関などありますけど、やはり開発に注力されていますので、作ったものと同じものが世界中のどこで作られているかを監視するというのは、ノウハウや人員も難しいのかなと思います」
新たに流出が発覚した、石川県産の「ルビーロマン」は、都内の百貨店に並べば1房3万円もする高級品種ですが、韓国の農家のショッピングサイトでは、1房8500円で販売されていました。2021年夏、韓国国内で「ルビーロマン」と称するブドウが生産・販売されているとの報道を受け、石川県はこのブドウを韓国で購入し、日本の検査機関でDNA鑑定を実施。粒の大きさにばらつきがあるなど、見た目こそ違うものの、遺伝子の型が石川県産と一致しました。石川県の馳知事は「ルビーロマンの苗木が、本県から韓国に流出したと考えざるを得ないものであり、誠に遺憾である」としました。厳格に管理してきたはずの苗木が、5年前には流出したとみられています。また「ルビーロマン」は、韓国ですでに商業登録されていましたが、2022年8月に韓国がこれを取り消し、10月4日に石川県が、韓国で「ルビーロマン」の商標登録を申請したということです。
Q.韓国が商標登録を取り消してくれて、よかったですね?
(小山弁護士)
「そうですね。韓国の業者がこれを争った結果、特許庁が取り消したと報道されています」
小山弁護士は、優良品種を海外に無断流出させないために必要なことは「開発段階からの管理を徹底、知的財産権の意識向上、早い段階で外国での品種・商標登録」だと言います。
Q.生産者の方々は、開発段階のときは、きっとPRしたいとお思いになられると思いますが?
(小山弁護士)
「そうですね。権利者が開発して、それに協力して農家さんが生産をして、それを自国・県内で広めようという善意でやっておられると思います。いいものを作ろうということは、非常に大事なのですが、やはりこれは知的財産・権利を保護すべきものですので、その保護される権利というものを意識していただくというのが大事だと思います」
Q.早い段階で海外での品種・商標登録というのは、簡単に出来るのでしょうか?
(小山弁護士)
「各国で品種保護制度、商標制度がありますので、まずはそこの国の制度に基づいて、日本の権利者が早く出願をすることで、その国での違法栽培が抑えられるということになります。今、検討されているのは、そういった登録を支援するとか、無断でしようとしている人をチェックすることを、なんらかの機関を使ってサポートする、ということです」
Q.農水省の検討会などが色々な法の立てつけを作ったり、生産者の方に意識を持っていただいたりということが、日本のビジネスチャンスになるということですね?
(小山弁護士)
「そうですね。これらの権利が守られると、最終的には権利者、日本の生産者の方に利益がある、というような制度だと思っております」
(情報ライブ ミヤネ屋 2022年10月6日放送)