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【独自解説】元主犯格が語る特殊詐欺グループの実態 “闇バイト”での「受け子」募集方法、“闇名簿”作製業者の存在、資産聞き出す“アポ電”のリアル手口
2023年2月8日 UP
連続強盗事件をめぐり犯罪組織の実態が明らかになる中、特殊詐欺と似た構造が見えてきています。今回は、特殊詐欺グループの元主犯格に、“闇バイト”の募集・配置の実態、“闇名簿”の内容、入手方法など、その手口を独自取材しました。ジャーナリストの多田文明氏と、元埼玉県警捜査一課の佐々木成三氏が解説します。
元主犯格が語る“特殊詐欺”グループの実態
今回話を聞いたフナイム氏は、2015年、老人ホームの入居権の名義貸しトラブルの解決名目で金をだまし取り、逮捕されました。2016年、懲役5年4か月の判決となり収監され、2021年11月、刑期満了となっています。出所後、刑務所で呼ばれていた番号「2716」から“フナイム”と名乗り、新宿・歌舞伎町を中心に、少女買春や詐欺の撲滅を呼び掛けています。フナイム氏が犯罪に手を染めたきっかけは、知人の紹介で融資保証金詐欺の「かけ子」の“闇バイト”を始めたことでした。その後、最終的には特殊詐欺グループの主犯格となりました。
Q. フナイム氏は主犯格になっていますが、ノウハウを覚えて、その組織の中で上に上がったということでしょうか?
(多田文明氏)
「闇バイトの募集をしている人間は“リクルーター”と言うのですが、話を聞いてみると、かなりの経験を積んで話をしているのが分かります。経験を積んで、リーダー格から『お前やれよ』という形で昇格して行く、ということはあると思います」
フナイム氏の特殊詐欺グループは、自身の人脈を生かして詐欺マニュアル提供者からマニュアルを受け取っていたといいます。主犯格のフナイム氏は、“かけ子”グループのリーダーとして他のメンバーに犯行を指示していました。そして、実際に金をだまして受け取る“受け子(出し子)”は外部に発注していました。その外部の組織のリーダーにフナイム氏が“受け子”の募集を依頼し、そのリーダーがSNSなどを利用して“闇バイト”を募集。多くの“受け子”を用意し、フナイム氏がリーダーに犯行の指示をしていました。また、“受け子”に直接犯行の指示をすることもあったといいます。フナイム氏によると「詐欺師の鉄則は“リスクを最小限に抑える”こと。“受け子”は一番リスクが高いので、外注して“闇バイト”で集めた人間を使っていた。“受け子”グループは『荷物の受け取り』の名目でバイトを募集していたと思う」ということです。
Q.“受け子”のリスクが一番高いんですか?
(多田氏)
「SNSを見ると、常に“受け子”の募集をしています。それだけ人がいないのです。常に捕まってしまうので、補充が必要なのです」
Q.外注にするのは、幹部が捕まらないためですか?
(多田氏)
「特殊詐欺の組織は、グループ間を分断して、上の幹部が捕まらないように考えています」
Q.今回特殊詐欺の組織が、強盗まで犯すようになったのは、主犯格が収容所の中にいるので、たくさんの“かけ子”や“受け子”をつかった詐欺ができなくなったというのもあるのですか?
(多田氏)
「それは考えられます。2020年頃から“かけ子”などを使った詐欺をしにくい状況になったと考えられます。2022年になると、この種の強盗が非常に増えています。2022年は特殊詐欺も増えていて、強盗が増えているのは不自然だと思っていましたが、『強盗は収容所から指示をしていた』というのが分かり、特殊詐欺がやり辛くなったので、手っ取り早く強盗に走ったのだと思いました」
Q.“闇バイト”の募集も、応募の電話をかけてみたら海外ということも多いのですか?
(多田氏)
「“闇バイト”の募集に電話をかけてみると、フィリピン・中国というワードは良く出て来ます。そして、現地で電話を受けている人に『他に何をしているのか?』と聞いてみると『詐欺の電話もかけている』という答えが返ってくるケースが多くありました」
フナイム氏と“受け子”グループのリーダーとのやり取りですが、フナイム氏が「〇月〇日〇時ごろに行かせたいんだけど、誰かいますか?」と依頼をして、“受け子”が見つかると「見つかりました。“受け子”の人間との連絡用に“飛ばし”の電話を1本用意してください」となります。続いて“受け子”にはその電話で、「『○○会社の○○です。受け取りに来ました』と言ってください。特に危険はないので、安心してくださいね」と伝えたといいます。
また、“受け子”だけでなく、グループ間でカネを運搬する運搬役にも“闇バイト”が使われていたということです。フナイム氏によると「運搬役には2回以上会ったことがない。赤ちゃんを連れた女性だったこともある」とのことです。
Q.運搬役の人間は、それが現金だと知らずに運んでいることもあるのでしょうか?
(元埼玉県警捜査一課 佐々木成三氏)
「過去の判例で、中身を知らされずに『犯罪組織に現金を運んだ』ということで逮捕されて、無罪を訴えたのですが有罪になった、という事がかなり多くあります。運搬役には『これはカメラの部品です。公園で渡してください』などと、現金だとは言わずに手伝わせている指示役も多くいます」
断片的な情報を集約、“闇名簿”作製業者の実態
“闇名簿”といわれるこういった犯罪に使われる名簿ですが、これを作製する業者がいるということです。その業者の情報入手方法ですが、法律を守る名簿業者がだまされて情報を提供してしまったり、一般企業・病院・百貨店購入者などの名簿が流出したり、それらの内部から情報を流す人間がいたり、“闇名簿”業者間の取引もあるということです。犯罪グループは、希望の条件を“闇名簿”業者に依頼して“闇名簿”の提供を受け、それを基に“アポ電”をかけてその家の資産状況などを聞き出し、リスト化するということです。
また、“名寄せ”と言われる行為があります。集まる情報は断片的なことが多く、例えば情報Aは「読売太郎、8月28日生まれ、電話番号」という内容、情報Bは「ヨミウリタロウ、1958年生まれ、住所、サッカー好き」という内容、情報Cは「よみうりたろう、住所、電話番号、家族構成、年収」の情報があった場合、それを統合することにより「読売太郎(ヨミウリ タロウ) 64歳 1958年8月28日生まれ 住所・電話番号・年収・サッカー好き」という情報が得られ、ターゲットが丸裸になります。
Q.“闇名簿”業者は、断片的な情報だったとしても、それを集めて正確な情報を作り上げて売るのですか?
(多田氏)
「そうです。受け取った詐欺グループは、家族構成も分かるので、次男をかたったら良いか、三男をかたったら良いのかまで分かってしまいます。私が驚いたのは、病院のカルテまでありました。カルテには体の状態や家族構成、病気の進行の有無まで書いてありました。特殊詐欺の場合は、名前と電話番号でたくさん電話をかければいいのですが、そこに資産状況が組み合わさると、強盗に使われる危険が高まります」
Q.強盗と特殊詐欺だとどちらの方の効率が良いのでしょうか?
(多田氏)
「一人を家に行かせて100万円、ときには1000万円取れるということがありますので、詐欺グループとしては、できれば特殊詐欺をしたほうが良いと考えます。それができないときに、強盗に転じます。どちらにも“闇名簿”の業者の存在が大きく関わってきます」
2022年11月の山口県岩国市の強盗未遂事件では、「被害者宅には金庫が2つあり、合計で1億円がある」という情報を、今年1月19日の東京都狛江市の強盗殺人事件では「高齢女性案件、地下に現金がある」という情報を、実行犯が持っていたということです。
また、自宅の資産状況を知るための“アポ電”ですが、フナイム氏によると、テレビ局や保険会社を名乗り、「アンケート調査です」と電話をかけ、「老後のために2000万円の貯金が必要といわれていますが、銀行にあるお金はそれ以上ですか?未満ですか?」や「タンス預金は500万円以上ですか?未満ですか?」などと、資産状況を聞き出します。また、「家の中で現金をどのように保管していますか?大金だと危険では?」と問いかけ、「金庫もあるからね」などと答えると、保管場所もばれてしまいます。
Q.アポ電だけで情報を得ているのでしょうか?
(佐々木氏)
「過去には、家の間取りを持って窃盗に入ったということもあったので、電話だけでなくいろんなところからの情報が入っていると思われます。自分自身も含めて、情報は漏れていると考えて、対策を練らないとだめだと思います」
詐欺被害を防ぐための自衛方法
フナイム氏は、「電話やネットでお金や資産の話になったら、まず疑う、相談する、ことが重要。特に固定電話は、何十年も前から悪徳業者に出回っている可能性がある。1回でも“怪しい電話”があった場合、最新の対策機能付きの電話や、電話番号自体を変えることも必要だ」と語っています。
Q.流出してしまった自分の情報は抑えられないので、自衛するしかないのでしょうか?
(佐々木氏)
「自分の情報は、自分が漏らさなくても情報を持っている会社などが漏らしてしまうとだめなので、情報は漏れているという前提で、自分で守るセキュリティツールなどを取り付けてほしいと思います」
Q.詐欺のための情報が、強盗にも使われているのでしょうか?
(多田氏)
「そうです。詐欺に遭わないための対策が、強盗に遭わないための対策にもなります」
(情報ライブミヤネ屋2023年2月6日放送)