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巧妙化する“アポ電” の手口

【独自解説】手口が巧妙化する“アポ電”、実際にかかってきた電話の内容とは?対処法を専門家が解説

 連続強盗事件の指示役「ルフィ」の疑いのある4人が、特殊詐欺に関わったとして、先日逮捕されました。しかし特殊詐欺グループが犯行前に行う“アポ電”とみられる不審な電話は、今もなお全国各地で確認されています。巧妙化する“アポ電”の手口とは?かかってきた場合どう対処すれば良いのか?元埼玉県警捜査一課の佐々木成三氏と、“闇バイト”に詳しいジャーナリストの石原行雄氏が解説します。

「ルフィ」事件が問題化して以降も“アポ電”は増加傾向に

「ルフィ」関連の事件が社会問題化以降も相次ぐ不審電話

 ”アポ電”といわれる特殊詐欺グループが犯行前に行う電話は、2022年1年間で12万件を超えており、2021年と比べて20%も増えています。また、警察庁によりますと、「ルフィ」関連の事件が社会問題化した1月下旬以降でも、強盗に絡むと思われる不審電話が約50件あるということです。

元埼玉県警捜査一課 佐々木成三氏

Q.逮捕されても増えているとなると、この”アポ電強盗“の組織が日本にどれだけあるのか恐ろしくなりますね。
(佐々木成三氏)
「残念ながら、一連の事件で逮捕されているグループは本当に氷山の一角で、まだ多くのグループがあるんです。また、この”アポ電”に、今ニュースで流れているような内容をうまく使うグループが多いです。『東京で強盗が多発している』や『逮捕した犯人のスマホに、あなたの名前が載っている』など報道と同じ内容を言うので、信じてしまう人が多い、かなり巧妙な手口です」

ジャーナリスト 石原行雄氏

Q.”アポ電”などの不審な電話は全国規模で行われているのですか?
(石原行雄氏)
「反社会的勢力のあいだでは、そういうノウハウが共有されているケースが非常に多いので、一旦その手法が認知されますと一瞬にして全国的な規模になります」

マニュアルも存在?実際にかかってきた“アポ電”の内容

アポ電 氏名・住所の“再確認”の手口

 犯罪グループが“闇名簿”を手に入れた後、この名簿をもとに詐欺や強盗に及ぶのではなく、まず、名簿を基に”アポ電”をします。その目的は、闇名簿にある名前や電話番号・住所などの再確認と、闇名簿には載っていない詐欺や強盗をするための新たな情報を集めることです。例えば「いつ家にいるのか」や「同居家族の有無」「お金はいくらあるのか」そもそも「家に現金があるのか」というような内容です。

実際にあった警察を騙った“アポ電”

Q. 警察を騙った“アポ電”の実際の音声もありますが、とても流暢にしゃべっていますね。
(石原氏)
「末端の“かけ子”は操り人形ですから、マニュアル通りにやらされているだけなんですが、やはり1日に数多くのノルマを課せられているケースが多いので、場慣れして上手になっているのが非常に厄介なところです」

Q.警察から「偽造通帳が押収されました」というような電話がかかってくることがありますか?
(佐々木氏)
「防犯カメラの内容を見せてほしいということはありますが、通帳やキャッシュカードなどの情報は、本人に聞くことはありません。こういう情報は、銀行とやり取りをすれば捜査できますので、被害者に対して確認することは100%ありません。警察の名前を出して『キャッシュカードや預金を確認してください』というような話題になったら、全て詐欺だと思っていいです。警察だからといってファーストコンタクトで話を信じずに、たくさん質問をしてほしいです。『本当にこの人は警察官なのか?』と思って、『あなたの部署・名前を言いなさい』といろんな質問責めをして深堀していくと、正体がばれると思います」

同じ“アポ電”のマニュアルが出回っている可能性が考えられる例もあります、2020年1月、あるお宅にカツラギと名乗る人物から「タカハシ○○とフクダ○○を逮捕し67人分の通帳と、キャッシュカード、現金2000万円以上を所持していた」と電話があり、その半年後、同じ家にムラコシと名乗る人物から「タカハシ○○とフクダ○○を逮捕し通帳と、キャッシュカード、現金1000万円以上所持していた」と共通した人物を引き合いに出した電話がありました。

Q.同じ内容のマニュアルが全国に出回っているのですか?
(石原氏)
「特殊詐欺の犯罪組織は、おそらく暴力団を頂点とするピラミッドを形成していると思われます。その中間組織で、成績の良いグループがあるとそのノウハウは吸い上げられて、そのマニュアルが別のグループにばら撒かれていると考えられます。その結果同じ名前になってしまったのだと思います」

在宅確認に資産状況の確認…“アポ電”をかける目的と対策

アポ電の目的①在宅確認

 アポ電の目的の1つ目に挙げられるのは『在宅確認』です。札幌市では「あのさー、3時ごろ、きょう行くね」と突然電話があり、「どなたですか」と聞くと「○○だけど」と短い言葉の不自然な応答がありました。こういった電話は2月に入って札幌市で急増していて、2月20日10時までに189件あったということです。

Q.なぜ札幌でこんな数の”アポ電”があるのですか?
(佐々木氏)
「これは札幌市内のリストが出回っていて、そのリストを基に電話をかけているということだと思います。『今から行く』という言葉から、孫や子どもと間違えて、そこから会話が始まって個人情報を取られたりしますので、これも巧妙な手口だと思います」

不審な電話を受けたら#9110へ

 2月11日の午後2時すぎ、同じく札幌市内で80代の男性のもとに「これから行くから」と電話がかかってきました。この方はすぐに警察に相談し、難を逃れました。慌てずに対処できた理由は、連日こうしたニュースを見て「#9110に連絡」と記したメモ書きを固定電話のわきに貼っていたためだということです。

Q.#9110に電話するとどこの部署に繋がるのでしょうか?
(佐々木氏)
「この電話番号は、各所在地の各都道府県警の生活相談窓口にかかります。東京なら警視庁、大阪なら大阪府警の窓口にかかります」

Q.「警察を名乗ってキャッシュカードという言葉が出てきた時は#9110にかける」というのは有効ですね。
(佐々木氏)
「この#9110に『”アポ電”がかかってきました』と伝えることで、その地域にどういった”アポ電”がかかっているかが警察のデータベースに入るので、その情報を警察がSNSで発信したり、防犯無線で伝えたり、警察官がその付近をパトロールするということができます。ぜひこういった電話がありましたら#9110にかけていただきたいと思います」

アポ電の目的②今家族がそばにいるか

 アポ電の目的の2つ目は『家族がそばにいるか』の確認です。広島県では「先日、空き巣と詐欺で男2人を逮捕しました。○○38歳と○○41歳です。名前に心当たりはありませんか?家族にも知っているか確認したいので代わってもらえますか?」という電話があり、家族にかわろうとしたところで切れたそうです。

Q.家族にかわろうとしたら電話が切れたということは、家族がいるので犯罪の対象から外れたということですか?
(石原氏)
「その可能性も考えられます。直接強盗にいくのであれば在宅状況を確認して『複数よりも一人の方が入りやすい』という判断で外されたという可能性は、十分あります。また、指示役は『実行犯はどれだけ逮捕されても構わない』と考えていますが、取った金品を運ぶ時間も必要です。家族などが近くにいると、すぐに通報され警察が駆けつけるので、金品を回収できない恐れもあり、対象から外されると考えられます」

アポ電の目的③一人暮らしか

 3つ目の目的は『一人暮らしか』の確認です。消防署職員を名乗る人物から「一人暮らしですか?」という電話があり「何の用ですか?」と質問すると、「災害時にすぐに救助できるよう、一人暮らしか確認をしています」と答えたそうです。しかし、元東京消防庁の坂口隆夫氏は「災害時に避難行動の支援が必要な人の『名簿』は各自治体が作成することになっている。消防は『名簿』をもらう立場。自ら電話して確認することはあり得ない」としています。

Q.警察がこういう電話をすることはあるのですか?
(佐々木氏)
「電話はしませんが、警察の業務で『巡回連絡』というのがあります。警察が訪問して『ここにはどういった方がお住まいですか?』と聞くことはあります。これは、非常時に家族に連絡するために作っているものです。そういったことを犯罪組織が活用していると思われます」

アポ電の目的④資産状況

 さらに、『資産状況』の確認と思われる“アポ電”もあります。テレビ番組の制作会社を名乗る人物から「所得は500万円より上ですか?」という電話があり「お金のことは答えられません」と断ると後日、警察の協力団体を名乗る人物から「1週間前に、テレビ番組に関して電話がありませんでしたか?捜査で押収した名簿に名前が登録されています」とかかってきた例があります。

Q.この二回目の電話も情報を取る目的なんですか?
(石原氏)
「一回目の電話が詐欺だというのを聞かされて、二回目の電話を信じてしまい、個人情報を答えてしまうケースがあります。例えば、『キャッシュカードを悪用されている』と、聞かされると、暗証番号を伝えてしまい、『係の者が取りに行きます』と言われれば渡してしまいます」

専門家『不審な電話』はかかってくるもの、電話は“性悪説”で

不審な電話の被害を防ぐには

 佐々木氏によると、固定電話の防犯対策として、『防犯機能付きの電話の設置・在宅中でも留守番電話にしておく・番号通知機能の活用』が有効だといいます。また『不審な電話はかかってくるものだ』という認識を持ち、公的機関を名乗る電話があった場合は会話内容で『不審だ』と思った場合はすぐに電話を切り誰かに相談を、と提言しています。

Q.固定電話しかなくても、番号案内の104を使うなどして自分で調べるというのが大切ですね。
(佐々木氏)
「ここまで全国各地で”アポ電”が発生していると、『自分の家にかかってくるものだ・かかってくるに違いない』という意識で、かかってきた電話はすべて『性悪説』で考えてほしいです。実際の警察からの電話であっても疑ってください」

(情報ライブミヤネ屋2023年2月20日放送)

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