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【独自解説】伯父が語る山上容疑者の拘置所生活、今後行われる精神鑑定のポイントは?一方で「社会や政治家の問題にも追求を」鈴木エイト氏が解説
2023年1月11日 UP
安倍元首相が銃撃されてから半年。逮捕された山上徹也容疑者(42)の鑑定留置が、1月10日に期限を迎えました。奈良地検は「刑事責任能力があった」と判断し、殺人罪などで起訴する方針です。そんな山上容疑者の伯父を、読売テレビは半年にわたって取材。伯父が語った山上容疑者の拘置所での様子と共に、山上容疑者の今と今後について、“統一教会”を20年にわたり取材してきた、ジャーナリストの鈴木エイト氏が解説します。
叔父が語る山上容疑者の拘置所生活
2022年7月8日、安倍元首相を銃撃し現行犯逮捕された山上容疑者は、事件から17日後の7月25日から鑑定留置を開始。11月29日にその期限を延長していましたが、2023年1月10日に終了しました。「鑑定留置」とは、被害者や被告人の心神または身体に関して鑑定し、“刑事責任能力”の有無を判断するための身柄拘束のことです。
山上容疑者の伯父は、最近の山上容疑者の様子について「週に1回ほど、鑑定医との面談がある以外は自由に過ごしている。“統一教会”が山上容疑者に与えた影響ばかり調べられている。(山上容疑者は)うんざりしている」と語っています。
また、山上容疑者の拘置所での生活について伯父は「全国から衣服や菓子の差し入れがあり、収容しきれないものは保管している。(中には)現金を送って来る人もいる」と言い、伯父や妹は出所後のために「英和辞典や英検の問題集を差し入れしている」と語りました。さらに山上容疑者は、興味のある科目の本を取り寄せているということです。
鑑定留置の結果と山上容疑者の今後
Q.“統一教会”の問題や政治家との繋がりなど、様々な問題を浮き彫りにした事件ですが、その問題と山上容疑者の凶行は、分けて考えなくてはなりませんね?
(鈴木エイト氏)
「山上容疑者が起こした事件は殺人罪で、当然やってはいけないことです。もし山上容疑者が、教団の悪質な献金の問題や“統一教会”と政治家の問題を世に問うためにこの事件を起こしたとしても、『手段はやはり間違っていた』とはっきりさせるべきです。それによって可視化が進んだ“統一教会問題”は、別個しっかり追及するけれど、山上容疑者が起こした事件の手段は、法の裁きを受ける。その論点を分けずに一緒にしてしまうと、山上容疑者を擁護しているのかのような話になってしまいますので、それはやはり違います」
山上容疑者について、奈良地検は「善悪の判断に影響を及ぼす精神疾患は認められず、刑事責任を問える」と判断し、『殺人罪』と『銃刀法違反』で、勾留期限を迎える1月13日までに起訴する方針です。また裁判所は、「裁判員法50条に基づき、精神鑑定を請求する方針」だということです。
元検事の亀井正貴弁護士によると「裁判員裁判では、公判が始まる前の公判前整理手続きの最中に鑑定を行うことができるため、集中審理の際に鑑定結果を提出できる」ということです。
また「精神鑑定」とは、精神鑑定人が面接や心理検査等を通して犯行当時の精神状態を把握し、供述調書の情報なども勘案し、事件時の責任能力の有無について検討することです。犯罪心理学者の出口保行氏は「妄想や幻覚などの精神障害が生じていたか」がポイントになるとしています。
また、亀井弁護士によると分析のポイントは、①犯行動機や目的、②計画性、③犯行時の行動の一貫性、④犯行前後の行動、などということです。刑法(39条、39条の2)は、「心神喪失者の行為は罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する」としていて、①責任無能力(心神喪失)=無罪、②部分責任能力(心神耗弱)=有罪だが減刑、③完全責任能力=有罪となりますが、亀井弁護士は「殺人罪は、基本的に起訴される」としています。
Q.山上容疑者の供述によると、非常に計画性は感じられますよね?
(鈴木氏)
「そうですね。もともと頭が良く、しっかりとした考え方を持った人物だということは、ツイッターなどからも分析されています。ただ、しっかり考えなくてはいけないのは、当然個人の責任は問われるべきですが、社会の歪みやこういう団体を放置してきたことによって被害者が可視化されなかった、被害者が救われてこなかった、その先で事件が起こってしまった、という社会の側や政治家の問題も、同時に追求されるべきだとは思います」
Q.このような事件が二度と起こらないよう、法整備や相談窓口などをきっちり作るということが大事ですね?
(鈴木氏)
「今後の課題として、それらの拡充は当然重要になってきます。その中で、これが単なる逆恨みなのか、思い込みで起こった勘違いの殺人なのか、もしくは、安倍元首相と“統一教会”の関係にある程度の確度があって、それを山上容疑者が見たことが要因になっていたのか、そこの見極めは別個すべきだと思います」
一方で、山上容疑者の伯父は「(山上容疑者の)刑期は25年くらいで、60歳半ばで出所すると思われる。その時に困らないよう、“統一教会”には(山上容疑者の)母親が献金した1億円のうち、(未返金分の)5000万円を返金してほしい」という思いを抱えています。
Q.「被害者救済法」が施行されましたが、これで被害にあったすべての人を網羅できているのでしょうか?
(鈴木氏)
「この法律が施行される前の被害には適用されないのもそうですが、今後同じような案件が起こったときに、これでどこまでカバーできるか。今回のケースに当てはめるにしても、伯父の場合は直接の近親者から少し外れているとか、養育の対象ではないとか、色々と対象から外れてしまっているような場合があるので、やはりこの法律では、似たようなケースがあったとしても、救済に直接結び付くのは難しいです」
Q.一歩前進ではあると思いますが、ここからは何が課題になってくると思いますか?
(鈴木氏)
「この法律の逐条解説なども出ると思いますが、この法律の精神を、今後の民事訴訟などで活かせるようになっていくのが一つの道だと思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」 2023年1月10日放送)