9525「初老は何歳か?」

2024 . 7 . 31

9525

 

 

パリ五輪の馬術「総合馬術団体」で日本が「銅メダル」を獲得しました。

メダル獲得は「1932年ロサンゼルス五輪」の「馬術飛越(ひえつ)」での、

「西(にし)竹一(たけいち)選手の金メダル」

以来「92年ぶり」のことだそうです!

「西竹市」と言えば、クリント・イーストウッド監督の映画「硫黄島からの手紙」にも出てくる、

「バロン西」

ですよね。この映画では、伊原剛志さんが演じていました。

ところで今回「銅メダル」を獲得した団体チーム4人(大岩義明・戸本一真・北島隆三・田中利幸)の年齢は、

「48歳・41歳・39歳・38歳」=「平均年齢41、5歳」

という、スポーツマンとして「シニア」の部類に入る「高齢」で、自らのことを、

「初老ジャパン」

と呼んでいるそうです。

それに対して、民放の番組の「57歳」のコメンテーターが、

「スポーツの世界では40代はかなり上なんでしょうが、我々からすると『40代で初老とか言うなよ』と言いたくなる」

とコメントしたという記事を目にしました。たしかに。でも、

「そもそも『初老』って何歳を指す」

のでしょうか?ずいぶん昔に「中年」を調べたら、たしか当時「広辞苑」に、

「35歳ぐらいから」

と書かれていて「ええーっ!」と思ったものでしたが。

「国語辞典」読み比べを、またやってみましょう。「初老」は何歳か?具体的年齢に触れている部分を抜き書きします。

*「三省堂国語辞典・第八版」=(2)(古くは)四十歳の異称。

*「新明解国語辞典・第八版」=(もと四十歳の異称。現在は普通に六十歳前後を指す。)

・・・「普通に」の「に」って何だろう?「普通は」ではないの?

*「明鏡国語辞典・第三版」=もと四○歳をいった。現在では六○歳前後と意識される。

*「岩波国語辞典・第八版」=▽もと、四十歳の異称。

*「現代国語例解辞典・第五版」=▽もとは四○歳の異称であったが、現在は六○歳前後の人に使うことが多い。

*「新選国語辞典・第十版」=(1)四○歳のこと。

*「三省堂現代国語辞典・第六版」=***(中年から老年にはいるころ)

*「精選版日本国語大辞典」=四○歳の異称。また、老人の域にはいりかけた年頃。寿命がのびた現在では、五○歳から六○歳前後をさすことが多い。女性では月経閉止期、男性では作業能力が衰えはじめたときから老化現象が顕著になるまでの期間。」

*「広辞苑・第七版」=(2)四○歳の異称。

*「大辞林・第四版」=四○歳の異称。

でした。「精選版日本国語大辞典」が、やけに具体的ですね。

つまり古くは、

「40歳の異称」

だったので、そこをポイントとしたら「平均年齢41、5歳」のこのチームはまさに「初老」と言って差し支えないけれども、昨今の寿命が延びた状態で、

「中年期が終わって老年に入りかける時期を指すのが『初老』」

と考えると、

「60歳前後が『初老』」

であって、

「『41、5歳』を『初老』と呼ぶのは、若すぎる」

ということになるのですね。まさに、年齢に関する呼称は、時代と共に移り変わるということですね。

それで、「初老」について、何か過去に書いたかな?と検索したら、

「平成ことば事情6929『中年』は何歳か?」(2018、8、28)

で書いていました。そこで、寺田寅彦の『天災と国防』(講談社学芸文庫)の「厄年とetc.」の中のこんな記述を紹介していました。

「日本では昔から四十歳になると、すぐに老人の仲間には入れられないまでも、少なくとも老人の候補者くらいには数えられたもののようである。しかし自分はそう思わなかった。四十が来ても四十一が来ても別に心持の若々しさを失わないのみならず肉体の方でもこれと云って衰頽(すいたい)の徴候らしいものは認められないつもりでいた。それでもある若い人たちの団体の中には自分たちの仲間は中老連などと名付けられていた。」

「私の方では年齢の事など構わないでいても、年齢の方では私を構わないのでおかないのだろう。ともかくも白髪と視力聴力の衰兆とこれだけの実証はどうする事も出来ない。これだけの通行券を握って私は初老の関所を通過した。そしてすぐ眼の前にある厄年の坂を越えなければならなかった。」

寺田寅彦がこれを書き終えたのは、1921年(大正10年)4月「43歳」のときでした。大正時代には実質的にも「40歳」で「初老」だったのですね。

そして「現代の『初老』は何歳か?」という問題に関しては、NHK放送文化研究所が出している『放送研究と調査』(「2017年12月号」に載った、

『「高齢者」は72歳7か月からである~2017年「日本語のゆれに関する調査」から~』

という論文に、以下のような調査データが載ったそうです。

<初老>  62歳8か月~70歳4か月

さらに、

<老人>  72歳0か月~

<高齢者> 72歳7か月~

<お年寄り>73歳1か月~

たしかにこれは「我々の実感」にピッタリ。「ハッ!」

俺、今「62歳と11か月」!まごうことなき、

「初老ジャパン」

ではないか!

なお、去年の12月に読んだ「2023読書日記129『変わる日本語、それでも変わらない日本語~基礎から身に付く大人の教養~NHK調査で分かった日本語のいま』(塩田雄大」の中にもこのデータは載っていました。読んだのに、忘れてたわあ、「初老」だから。

 

(2024、7、31)