8706「日本選手最多」

2022 . 10 . 6

8706

 

10月3日、東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手(22)が、ついに今シーズン最終ゲーム・最終打席で、

「56号ホームラン」

を放ち、王(巨人)、ローズ(近鉄)、カブレラ(西部)などの持つ「55号」の記録を抜いて、バレンティン(ヤクルト)の持つ「60号」に次ぐ「単独2位」に躍り出ました。

村上選手が球場で贈られた、

「56 HOMERUNS

と書かれたパネルには、少し小さめでしたが、こう記されていました。

「日本人シーズン最多本塁打」

これに疑問が。

「日本人」

って必要でしょうか?

日本プロ野球界では長い間、王選手の「55本」(1964年)が「シーズンホームラン記録」でした。これがいかにすごい記録かというのは、バレンティン選手が2013年に「60本」で抜くまで「49年」もかかったこと、あの「コント55号」の名前の由来にもなったこと、ゴジラ松井(松井秀喜選手)の背番号は王選手の「55本」を目標にして付けたこと(村上選手の背番号も「55番」です)、バース(阪神)など外国人選手がこの記録を抜きそうになったときに、相手チーム(の投手)が「抜かせまい」と敬遠(の四球)をしたり勝負を避けたりしたなど、枚挙にいとまがありません。

でも、そもそも「王貞治」さんは「日本人」ではありません。国籍は「中国」(中華民国)のままです。でも、チームの登録は「外国人枠」ではなく「日本人選手枠」だったのでしょうかね。

それでも、そのぐらい偉大な王選手の記録は、「日本プロ野球」ファンの脳裏にはしっかりと刻まれています。これまでも並ぶ人はいても、抜いたのは「バレンティン選手ただ一人」なのですから。その「王選手の記録55号」を超えたというのはものすごいことなんですね、「1位」ではなくても。

10月4日の一般紙(新聞朝刊)を見ると、「村上選手56号」の記事があふれていましたが、この点に注目して見出しを比べてみたら、

(読売)村上56号 王超え 日本選手最多 三冠王最年少

(朝日)22歳村上、三冠王 56号も達成

(毎日)村上56号・3冠王

(産経)村上56号 王超え 18年ぶり三冠王、最年少

(日経)村上が三冠王 日本選手最多56号

となっていました。そうでした、「三冠王」も「18年ぶり」に「最年少」で獲得していたのでした。ニュースの内容が多い!

ということで、「日本(人)」ということに触れていたのは、「読売と日経」だけで、しかも、「日本人最多」

ではなく、

「日本選手最多」

でした。「読売と産経」は「王超え」ということに触れていました。やはり、そこはポイントですね。

スポーツ紙の見出しは、

(デイリー)日本選手最多 王超え56号

(スポニチ)日本選手最多56号 最後の最後で王超え

(報知)日本選手最多 最後の最後で村神様 最年少3冠王の底力

(サンスポ)日本最多56号 王超え

(ニッカン)3冠&56号村上

で、「デイリー・報知・スポニチ」は、やはり「人」の入らない「日本選手最多」、「サンスポ」は「選手」も入らない「日本最多」。また「デイリー・報知・サンスポ」は「王超え」に触れています。「ニッカン」がすごくシンプルでした。

これで思い出されるのは、大相撲の、

「日本人横綱」

というカテゴリーの呼び方。これも最近は、国際化が当たり前になった大相撲の中で、あまり言われなくなりました。(「平成ことば事情5966日本出身力士」「平成ことば事情7061日本人力士か?日本出身力士か?」もお読みください。)

そして、毎年ちょうどこの時期に報じられるのは、

「ノーベル賞受賞者」

のニュースです。ここでの注目は、

「日本人受賞者が出るかどうか?」

です。ことし初日の10月3日は「ノーベル生理学・医学賞」の発表。

「スウェーデン出身(生まれ)で、ドイツの研究所に勤務するスバンテ・ペーボ教授」

が受賞しましたが、読売テレビの「かんさい情報ネットten.」では、アナウンサーが、

「スウェーデン人が受賞。日本人の受賞はありませんでした」

と伝え、画面の字幕には、

「ドイツの医学者が受賞」

と出たので、思わず、

「スウェーデンかドイツか、どっちやねん!?」

と画面に突っ込んでしまいました。

しかし、ノーベル賞を取るぐらいのレベルの世界的に活躍する学者は、あまり「国」にこだわらずに、

「ワールドワイドに活躍している」

ものではないでしょうか?

「日本人の受賞」とされる、2008年「物理学賞」受賞の南部陽一郎さん、2014年「物理学賞」受賞の中村修二さんは、

「アメリカ国籍」

ですよね。(文部科学省が「南部さんは米国人」との判断を示したという記事が、2008年10月16日付「読売新聞」朝刊にのっていたというメモが出てきました)

また話題になった人でいうと2017年「文学賞」受賞の「カズオ・イシグロ」さんは、

「英国籍」

でした。

ことし「生理学・医学賞」を受賞したスバンテ・ペーボ教授は、

「スウェーデン生まれで、ドイツの研究所に所属する」

のですが同時に、

「沖縄科学技術大学院大学の客員教授」

でもあるそうですから、「日本」にこだわるなら、そこを取り上げるべきではないのでしょうかね?

なお、ついでですが「三冠王」か「3冠王」かは、

「三冠王」=読売・朝日・産経・日経・デイリー・サンスポ

「3冠王」=毎日・スポニチ・報知・ニッカン

で、一般紙は「三冠王」、スポーツ紙は「3冠王」のほうが多かったです。

 

(2022、10、5)