東京・浅草で、客を乗せずに走っている「人力車」が。実はこれ、
「オンライン人力車」
というアイデア商売なんだそうです。人力車の座席にスマホのカメラを載せて、そこから見える風景を生中継。まるで人力車に乗っているかのような気分を味わえるというもので、今は試験的に無料で配信していると、8月10日の日本テレビ『news everuy.」で放送していました。(ナレーションは「車夫さん」と「さん付け」でした。)
これを翌日の「ミヤネ屋」でも紹介しようという際に、担当ディレクターから質問が出ました。
「『車夫』という言葉は、使っていいんでしょうか?」
たしかに「車夫」というのは「差別語」的だとして使われなかった時期がありました。大体、
「〇〇夫」
という「夫」が付く職業名が、今はまず使われません。昔だったら、
「炭鉱夫」「潜水夫」「農夫」「漁夫」「工夫」「人夫」
などが使われていました。(今も「漁夫の利」などの言葉では使いますが)今では、
「○○士」「〇〇作業員」
などになっているかな。しかし、昨今の「観光用の人力車」の場合はそのような
「差別的な意図・ニュアンスはない」
ということで、「使っても良い」はずです。
しかし、いろいろスタイルブックなどを調べたけれど、この言葉は載っていませんでした。
そこで、私がまとめている過去の「新聞用語懇談会」での討議記録を見ると、
「2003年~2012年にかけて3度」
議題に上っていました。それによると、
<車夫(観光用人力車)>
【2003年5月】(関西地区用語懇談会)
・観光用の人力車の「車夫」。「車夫馬丁」を連想させるので、「人力車の引き手」にした。(=京都新聞)
・「車夫馬丁」はもちろんだめだが、それぞれ単独で「車夫」「馬丁」はOK。最近の若者(新入社員など)は差別的な言葉は知らないから、もしかしたら何の(差別)意識もなしに使ってしまうかもしれない。(=毎日放送)
・・・寝た子を起こすべきか、起こさないべきか。難しいところ。
【2004年5月】(関西地区用語懇談会)
京都・平安神宮界隈の人力車の「女性車夫」を紹介。社内で「『車夫』は差別語だ」と指摘された
→業者がこの名称で営業しており、用語としても問題ない。この場合はそのまま使用した。(朝日新聞)
【2012年10月】(関西築用語懇談会)
幹事社の朝日新聞から「いわゆる“差別用語”の使用状況について」というようなアンケートが各社に配られており、その回答の発表と意見交換という形。回答した社は全国紙5社、スポーツ紙4社、通信社2社、テレビ局5社、ラジオ局1社、地方新聞社8社の、合計25社。以下にその結果を記します。※( )内はテレビ局の数、★=ytvの回答。
「規定なし」は「規定はないが、できるだけ使わない」という意味です。
(語) (使う) (規定有り使わない) (規定なし)
車夫(観光用) 12(2)★ 5(2) 8(1)
~この中で、回答がほぼ半々だった「車夫」(観光地などでの)については、「『人力車を引く人』などと言い換えるが、本人が『私は車夫で』と言うのは、そのまま使っても可」(共同通信)というような意見が多かったようです。
ということでした。
女性の「車夫」は「車婦」ではないのか?昔は「男性しかいなかった」でしょうけれど、今は女性もいるのですね。
差別的な文脈でなく「観光人力車」に使うのは、問題ないのではないかということで、「ミヤネ屋」では、そのままにしました。