新・ことば事情
7350「『難治』の読み方」
2月の新聞用語懇談会の放送分科会で、MBSのF委員から、
「難治性」
という言葉の「難治」の読み方について質問が出ました。
「人工たんぱく質で『難治性皮膚潰瘍』治療へ」というニュース。先輩アナが「なんじせい」と読んでいるのを聞いて、「なんちせい」ではと思い調べたところ、『日本国語大辞典』、『広辞苑』とも「なんち」が空見出し(難治性という項目は無い)、『NHKアクセント辞典』は「なんじ」のみで「なんち」の項目はありません。「なんちせい」の方が違和感がなく、意味を考えるとわかりやすいというアナウンサーが多いのですが、「なんち」の読みは不可とされていますか。NHKの朝のニュースでも「ナンチ」と言っていました。」
これに対する各社の意見は以下の通りでした。
(NHK)「ナンジ」にしている。2014年に「根治」「不治」について調査した際に「コンジ」「フジ」を読む人が多かった。「難治」は調べなかったが、そこからの類推で「ナンジ」としている。本では「ナンジ」の見出しが多いので、そのままにしている。ただし用語委員からは「学術的には『ナンチ』が多く、『難治(ナンチ)疾患研究所』などの固有名詞もある。」という意見が出た。
(TVO)「家庭の医学」を引いたら「ナンチ」で載っていた。
(MBS)「難治」だけだと「ナンジ」でも、「難治性」と「性」が付くと「ナンチ」となるのではないか?
私も、事前に辞書を調べて意見を述べました。
(ytv)手元の辞書を調べたが、たしかにMBSのFさんの言う通り。「不治」「完治」からの類推もあるだろう。1603年に出た「日葡辞書」には「ナンヂ」とある。(「ジ」ではなく。)この「ヂ」から濁点が落ちて「チ」と読まれることもあるのでは?NHKのアクセント辞典は「不治」の読み方を、1998年の「フジ」を2016年の「新辞典」では「フチ」に変更していた。
私が調べた手元の辞書の「難治」「不治」の読み方の見出し語は、以下の通りです。
難治(ナンジ)(ナンチ):不治(フジ) (フチ)
大辞林(4版・2019) 〇 空見出し : 〇 空見出し
デジタル大辞泉(電子辞書) 〇 空見出し : 〇 空見出し
新潮現代国語辞典(2版・2000)〇 × : 〇 空見出し
精選版日本国語大辞典(2006) 〇 空見出し : 〇 空見出し
※1603年「日葡辞書」Nangino(ナンヂノ)
広辞苑(6版・2008) 〇 空見出し : 〇 空見出し
広辞苑(7版・2018) 〇 空見出し : 〇 空見出し
岩波国語辞典(8版・2019) 〇 × :空見出し 〇
明鏡国語辞典(初版・2002) 〇 × : 〇 空見出し
明鏡国語辞典(2版・2011) 〇 × : 〇 空見出し
新明解国語辞典(7版・2012) 〇 × :空見出し 〇
新選国語辞典(9版・2011) 〇 空見出し :空見出し 〇
三省堂国語辞典(7版・2014) 〇 空見出し : 〇 空見出し
現代国語例解辞典(5版・2016)〇 × : 〇 空見出し
三省堂現代新国語辞典(6版・2019)〇 空見出し: 〇 空見出し
NHK日本語発音アクセント辞典・新版(1998)〇 ×:〇 空見出し(許容)
NHK日本語発音アクセント新辞典(2016) 〇 ×:(許容) 〇
うーむ、漢字の読み方って、本当に難しいですね。
「艱難(かんなん)難治を玉とす」
って言いますしね。あ、あれは「汝」か。