新・ことば事情
7339「荷棚」
東京出張で乗った新幹線の車内アナウンスが、こう話していました。
「キャリーバッグなどを載せる場合は"にだな"からはみ出さないようにお気をつけください。」
この、
「にだな」
というのは当然、
「荷棚」
ですね。「荷物を載せる棚」「荷物棚」のことでしょう。しかし聞き慣れません。まるで「煮卵」のように、
「煮棚」
に思えておかしくなりました。
そもそも、この電車の「荷棚」、昔は、
「網棚」
と言っていました。もちろん「網」でできていたからです。それが「網」ではなくなったので「網棚」とは言えなくなり「棚」だけだと、何か頼りないので、
「荷物棚」
と言っていたように思います。それが縮まって、
「荷棚」
になったのでしょうか?
手元の国語辞典17種類を引いてみると、(×=「荷棚」が載ってない:〇=載っている)
×デジタル大辞泉(電子辞書)
〇NHK日本語発音アクセント辞典・新版(1998)
×新潮現代国語辞典(2版・2000)
×明鏡国語辞典(初版・2002~2006)
×精選版日本国語大辞典(2006)
×広辞苑(6版・2008)
×明鏡国語辞典(2版・2011)
×旺文社標準国語辞典(7版・2011)
×新選国語辞典(9版・2011)
×新明解国語辞典(7版・2012)
〇三省堂国語辞典(7版・2014)
×現代国語例解辞典(5版・2016)
〇NHK日本語発音アクセント新辞典(2016)
〇広辞苑(7版・2018)
×大辞林(4版・2019)
〇岩波国語辞典(8版・2019)
×三省堂現代新国語辞典(6版・2019)
ということで、「5種類の辞書」が「荷棚」を載せていました。
古くは「1998年」に「NHK日本語発音アクセント辞典・新版」が「荷棚」を採用していました!もちろん、その後に出た「NHK日本語発音アクセント新辞典」(2016)も載せていました。「国語辞典」では、飯間さんの「三省堂国語辞典」(7版・2014)の他は、「広辞苑」(7版・2018)「岩波国語辞典」(8版・2019)の「岩波」勢が載せています。「広辞苑」は「2008年」の「第6版」には「荷棚」は載っていなかったのに「2018年」に出た「第7版」では載せたんですね!
こういった、
「一見、『昔からある普通の言葉』のように思えるが、実は『新しい言葉』」
を、どれだけ拾えるか(辞書に載せることができるか)が、辞書編集者の感性・能力なのではないでしょうか。
「三省堂国語辞典」は、いつから「荷棚」を載せているのかな?過去の辞書も調べてみましょう。
〇三省堂国語辞典(5版・2001)
〇三省堂国語辞典(6版・2008)
何と両方「荷棚」を見出し語で採用していました!ということは「2001年から」既に採用していたと。飯間さんが編集委員になる前からですね!さすが新語に強い「三国」です。