「名門」
という言葉が「不快語」であるとして「使わない」こともある、と初めて聞いたのは、
「2003年5月」
に開かれた「関西地区新聞用語懇談会」の席上でした。
その際に、当時の「中国新聞」の委員が、
「マニュアルにはないが『名門』『名家』『旧家』は、不快語に当ると判断して使わないことになっている。」
と発言したのです。当時、読売テレビでは、別にそんなことはありませんでしたが、その後「気になる言葉」の一つになり、何度か用語懇談会の席で各社の意見を聞きました。その記録を抜粋すると、
【2009年9月】
安倍、福田、麻生総理に続いて鳩山総理誕生で、またぞろ出てくる「血統」「血筋」「サラブレッド」「家系」「DNA」(?)という表現に関して、各社はどのような対応をされていますか? (ytv道浦)
→(NHK)使わない。
(日本テレビ)「血筋」など使わないようにしている。鳩山家は苦しまぎれで「華麗なる一族」とした。
(TBS)「家系」は出てくる。「政治家の家系」と。
(フジテレビ)ニュースでは使っていない。「名門」「家柄」は昼ニュースで使った。
(テレビ朝日)情報系番組で「サラブレッド」「4代にわたる政治家」と使った。ニュースでは「血~」は使わないで!と言っている。
(テレビ東京)「血筋」「「血統」「サラブレッド」は使わない。「~の家系」は使う。「DNA」も「平和主義のDNA」などと使う。
(WOWOW)「サラブレッド」「家系」は許容。「血統」「血筋」はお断り。
(共同通信)「サラブレッド」「血筋」「家系」頻繁に出てくる。特にダメということはない。
(静岡放送)基本使わないが、「家系」は使うかも。
(毎日放送)「家系」「名門」を使っている。かつて(1994年)「由緒正しき家柄」で抗議があった。
(朝日放送)「血筋」は×。「政治家の一族」「名門」は○。
(関西テレビ)使わないが、ゲストのコメントまで規制してはいない。
(テレビ大阪)ニュースでは使わない。「DNA」「サラブレッド」は出てくるケースが少ない。
【2013年6月】
安倍総理や、フィギュアスケートの小塚崇彦選手などを指して「サラブレッド」という表
現がよく出てきます。「(良い)血統」も同じ意味での表現です。気にはなるものの、「褒めている表現」(プラス表現)でもあり使ってしまうのですが、「この言葉は使わない」としている社はあるでしょうか?(ytv・道浦委員)
*(使わないと決めている)NHK、テレビ朝日、ABC、テレビ東京
*(決めていないが使わない)日本テレビ、MBS、KTV、共同通信
(共同通信)「名門」と同じで、出自に関する語はできるだけ使わない。「サラブレッド」は、規定はないが使わない。
(テレビ大阪)橋下市長の「週刊朝日」報道以降、極力そういった表現は避けているような気がする。
(ABC)「良い血筋」を出すと、必ずその反面に「悪い血筋」があるということになる。差別助長になるので、絶対にダメ。
(読売新聞)「血筋」が良い・悪いではなく、「血筋で決まる」という発想がダメなのだ。
(共同通信)ただ、「歌舞伎」の世界は「名門」という"幻想"で成り立つ世界なので、使わざるを得ない。「高校野球」に「名門」を使うのはダメ。
【2018年2月】
*「DNA」と「遺伝子」(読売テレビ・道浦委員)
以前も何度か話し合ったことがありますが、昭和の大横綱「大鵬」の孫・納谷君初勝利のニュースを「スポーツ紙の記事」を使って「ミヤネ屋」で紹介しました。「1面トップ」で取り上げていた「日刊スポーツ」の1面(東京版)で、「綱の遺伝子」という見出しがありました。各紙(1月17日付)の見出しは、
【日刊スポーツ・大阪版】「おじいさん 見てくれましたか 大鵬孫 納谷 貫禄デビュー」
【スポーツニッポン】「祖父の道 第一歩 大鵬孫 納谷 デビュー戦2秒で圧勝」
【サンケイスポーツ】「祖父 大鵬ほうふつ 孫・納谷 圧勝デビュー!!」
【スポーツ報知】「偉大なDNAそろい踏み 朝青甥・デビュー戦白星・大鵬孫」
【読売新聞】「注目ありがたい」大鵬の孫 初戦○
で、「スポーツ報知」は、「DNA」を使っていました。『週刊文春』(1月25日号)でも、
「貴景勝 貴乃花部屋の最強DNA 父が語る"ガチンコ一直線"」
と「最強DNA」いう見出しの記事が載っていました。
この「遺伝子」「DNA」は、「血筋」「血統」「サラブレッド」などの「言い換え語」だと思われますが、各社の使用・不使用状況は、いかがでしょうか。
→(テレビ朝日)テレビニュースでは出て来ない。新聞・雑誌では出て来る。関連で、大鵬の孫の納谷君が初勝利の際と、新弟子検査では「サラブレッド」を使ってしまった。かつて「政界のサラブレッド」という表現を「小泉進次郎」が出てきた頃に使い倒して、その後反省した。
今回の「サラブレッド」は「昼ニュース」で1回使って、その後見守っていたら、夕方のニュース以降では自粛したのか、出て来なかった。まだ「DNA」「遺伝子」は出て来ないが、これは難しい問題。「サラブレッド」は、あくまで比喩(ひゆ)だが、「DNA」「遺伝子」は、「血を引き継ぐ」以上に「そのもの」であって比喩ではないので、「使うな」とは言えない気がする。しかし「強い(弱い)遺伝子・DNA」としてしまうと「優性・劣勢(顕性・潜性)」の問題になってしまい、問題がある。
(TVO)「遺伝子・DNA」を「人間」に使った例はないが、「企業」に使ったことはある。2016年の経済ニュースで、「逆境に強いのが、シャープのDNA」と。
(NHK)10年分のスポーツニュースを検索してみたが「DNA」「遺伝子」は、外国人監督のインタビューの中での1件だけだった。
【2018年9月】
「名門」「サラブレッド」「DNA」について(読売テレビ・道浦委員)
体操女子の問題で「名門・朝日生命体操クラブ」「体操の名門・日体大出身」という表現を見かけましたが、「名門」は特に問題ありませんか。
関連で、塚原夫妻の息子で、アテネ五輪金メダリストの「塚原直也氏」を指して「ミヤネ屋」の原稿では、「サラブレッドの中のサラブレッド」と出してしまいました。
また先日、他局のバラエティー番組では、高学歴の両親から生まれて子どもに対して、「最強DNA」という表現も使っていましたが、こういう表現は各局では「可」でしょうか。
→(NHK)用語集に「名門校」などは使わないと記されている。言い換えは「有名校」。しかし、高校野球の「名門・〇〇高校」には、あまり抵抗はない。
「サラブレッド」は、人に対して比喩的には使わない。原稿検索でも0件だった。「DNA」は検索しても、ほとんど出て来ない。しかし今週の放送で「中野サンプラザの建て替え問題」での中野区長の発言で「歴史や形状・記憶のDNAを新しいサンプラザに引き継ぎたい」と出て来た。
(日本テレビ)「名門」はなるべく使わない。しかし「名門私立大学」「名門・朝日生命体操クラブ」は出て来た。また「愛子さまがイギリスの名門・イートン校へ」などとチェックの段階で出て来た際には、放送では「名門」を外した。
ガイドラインでは「『家柄』には注意」と書かれているが、自分に使うのはOK。「サラブレッド」も使わないようにしているのだが、2017年11月に、10月の衆院選で初当選した中曽根康弘・元首相の孫、中曽根康隆議員についての原稿で「祖父は元内閣総理大臣の中曽根康弘氏、父は元外務大臣の中曽根弘文参議院議員という政界のサラブレッド」と使ってしまった。(「政治家一家に生まれ育った」などの言い方もあります。)
(TBS)ルールはなかったので、報道局主幹らに話を聞いたら、
〇?△?「名門」→意見が分かれたが「あり」の方向。
△「サラブレッド」→使い方次第で「あり」。
×「DNA」→絶対ダメ!
という感じだった。
(フジテレビ)「名門」は出て来る。「体操の名門・日体大」「高校野球の名門〇〇高校」「イギリスの名門・イートン校」も出て来た。
「血筋・血統」は注意している。しかし「サラブレッド」も出て来た。「DNA」は検索したところ、地の文では小池都知事の発言の引用の中で「日本人のDNAに刻み込まれているラジオ体操」の1件だけだった。「遺伝子」はなかった。
(テレビ朝日)「名門」は使ってはいけないとは、していない。「スポーツの名門・大阪桐蔭高校」「名門イートン校」「スペインの名門・バルセロナ」「かつての名門派閥・竹下派」などと出て来た。「サラブレッド」は『広辞苑』の2番目の意味で載っている「血筋、家系」の意味で「人間」に使うのはやめようということになっているのだが、「小泉進次郎」「鳩山邦夫」、そして「大相撲の大鵬の孫・納谷」には使っていた。「DNA」は、優劣が付くケースでは、使うのはやめようと話している。
(テレビ東京)「名門」は「イタリアの名門・ユベントス」などと普通に使われている。「サラブレッド」「DNA」は、以前回答した通り。
※【2009年9月放送分科会】(テレビ東京)「血筋」「「血統」「サラブレッド」は使わない。「~の家系」は使う。「DNA」も「平和主義のDNA」などと使う。
※【2013年6月放送分科会】「サラブレッドは使わない」としている社は?
<使わないと決めている>=NHK、テレビ朝日、朝日放送、テレビ東京
<決めてはいないが、使わない>=日本テレビ、毎日放送、関西テレビ、共同通信
(毎日放送)「名門」は、学校や団体などに対しては使っている。「アメフトの名門・関西学院大学」など。「サラブレッド」「DNA」は「個人」につながるからダメ!出て来ない。
(朝日放送)「サラブレッド」「DNA」は、使い方次第でOKだが、悪い意味に繋がるものはダメ。共に「逃げ」の言葉。
(関西テレビ)ニュースでは、いずれもあまり出て来ない。ただ「名門」は、春の高校バレー」の中継をしているので、しょっちゅう出て来る。しかし「勝つのは『名門校』か?それとも『雑草軍団』か?」のような「対比・比較」はダメ。「出場〇〇回の名門」はOK。「サラブレッド」は特に決めていない。「DNA」は格闘技関連で「最強のDNAを継いだ〇〇」とよく出て来る。どう言い換えればいいのか、わからない・・・。
(テレビ大阪)検索したところ、過去10年で「名門」=84件。そのうち今年は1件で「名門・星野リゾート」に使っていた。「名門・上智大学」も出て来た。「DNA」は前回も言ったように「シャープのDNA」という使い方。「サラブレッド」=0件だった。
(共同通信)いずれも「記者ハンドブック」には「ダメ」とは書いていないが、「血筋関係」は使わないと「社内連絡」はしている。「名門」は今回のアジア大会において「名門・朝日生命体操クラブ」と出てきたが、例の宮川選手と塚原夫妻の問題が起きる前。その他にも「運動(スポーツ)関連」で「名門・ACミラン」のように、よく出て来る。「サラブレッド」は、人間に比喩的には使わないことになっているが、調べてみたら、今回の自民党総裁選告示日の9月7日の記事に「安倍晋三」について「政界のサラブレッド」と出て来たので出稿部に注意した。
そして、2019年3月15日の日本テレビ・お昼の「ストレイトニュース」では、テロップは、
「米・名門大」
と出して、ナレーションでも、
「名門大学」
と読んでいました。
3月13日の各紙夕刊では、
(見出し) (本文)
(読売)名門大 名門大学
(朝日)*** 有名大学
(毎日)<記事なし>
(産経)名門大 一流大
(日経)*** 一流大学
でした。
それから9か月後の12月13日の「読売新聞」朝刊のスポーツ面で箱根駅伝の展望の記事が出ていました。その見出しが、
「急成長 名門復活の兆し」
として「早稲田大学」が取り上げられていました。去年(というか「ことし」の正月でしたが)の箱根では「シード権が得られる10位以内」に入れず、ことし(来年のお正月、来月の箱根の予選)は予選会からの参加。それも最後の最後で出場が決まったという、「どん底」にある「名門・早稲田」。ここで、
「名門」
が使われていました。
「名門」という言葉、使っちゃいけないわけではないようですね。
2019、12、20