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『道浦TIME』

新・読書日記 2019_163

『鏑木清方 原寸美術館~100%KIYOKATA』(監修・執筆 鶴見香織、小学館:2019、10、28)

東京出張の帰りに寄った、竹橋にある東京近代美術館。ここで「鏑木(かぶらき)清方(きよかた)」の「築地明石町」の特別展示があると知ったのは、出張の3日ほど前だった。

「築地明石町」という美人画を知ったのは、小学校の頃。当時、趣味で集めていた切手で、毎年4月20日に発行される「切手趣味週間シリーズ」の図案として取り上げられた。縦長の大型の切手に魅了された。1971年・昭和46年だったと思う。小学4年生だった。このシリーズでは1965年(昭和40年)に出た上村松園の「序の舞」もきれいで印象深かったが、大人になってから(数年前だが)その実物を美術館で見た時には、そのサイズの大きさに圧倒されたの覚えている。今回の「築地明石町」は、サイズはそれほどでもなかったが、精緻な筆使いと、3部作のように並べられた「浜町河岸」「新富町」の美人画の美しさには、息を呑んだ。「三遊亭円朝像」も貴重だと思う。

この美術館には他にも、船の上の力強い漁師を描いた和田三造の「南風」や、まるでダリの絵のような古賀春江の「海」という作品もあって、気に入りました。

それで、この展覧会には「図録」は無かったのだが、正に展示作品を紹介した小学館とのコラボの本(=本書)があったので購入しました。雑誌がなかなか売れない時代、今後こういう形は増えるかも。


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(2019、12、7読了)

2019年12月29日 17:44

新・読書日記 2019_162

『マリアージュ~神の雫 最終章20』(亜樹直・作、オキモトシュウ・画、講談社:2019、11、21)

いよいよ北軽井沢での「マリアージュ・バトル」開始!

相手は規程の値段を超えた高級ワインで攻めて来る。卑怯。こちらは、きっちり値段を守りなおかつ知名度の低い日本産ワインと料理の総合攻撃で対抗。

最初は「0対30」だった劣勢が、本物の味が分かるお客さんと、雫の素晴らしい語りに

酔されて和食の数が増えていく。焦った相手方のオウンゴールによって・・・。

やはりこの手の漫画は「バトル形式」にすると、読み応えがありますね。「少年ジャンプの法則」ですね!


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(2019、12、28読了)

2019年12月29日 17:29

新・読書日記 2019_161

『続 定年バカ』(勢古浩爾、SB新書:2019、11、15)

前作「定年バカ」は、面白かった記憶がある。あれから随分たつけど、「続」が出たので買って読んでみた。あれ?こんな感じだっけ?勢古さん、前回から現在までの間に「脳梗塞」で倒れて右半身にマヒが残るらしい。本当に年が行くと、人間、何が起きるかわからない。

前回、だいぶ前かと思ったら2年ほど前でした。(2018読書日記004『定年バカ』勢古浩爾、SB新書:2017年)

うーん、今回は色んな「定年本」をバッサバッサと「バカ」だと言って斬って行き、中には「ここは面白い」などと紹介するのだが、「読むに値しない本」をたくさん紹介しているので、「じゃあそんな本、紹介しなくてもいいじゃん!」と思ってしまいました。


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(2019、12、26読了)

2019年12月27日 19:40

新・読書日記 2019_160

『日本人の給料はなぜこんなに安いのか』(坂口孝則、SB新書:2019、12、15)

サブタイトルは「生活の中にある『コスト』と『リターン」の経済学』。

「GDP世界2位」の座を、中国に奪われてから、どんどん日本の「一人当たりGDP」は下落。いまや「世界30位」にも入っていない。この20年、給料が上がらなくなった。正社員が減って、派遣社員・契約社員を増やすことで、会社は生き延びて来た。会社=企業が生き残ったのは、社員・個人の給料を押さえることによってだった。内部留保がどんどん伸びた。特に給料が低く抑えられたのは、日本経済のベースが「製造業」にあるからだという。

著者の坂口さん日本テレビの「スッキリ」に毎週出演されている。彼のコメントは、私は聞いていて「信頼がおけるな」と感じたので、この本を買いました。

(☆3つ半)


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(2019、12、6読了)

2019年12月27日 19:39

新・読書日記 2019_159

『玉三郎 勘三郎 海老蔵~平成歌舞伎三十年史』(中川右介、文春新書:2019、9、20)

中川さんお得意の「歌舞伎」。「平成」という30年間は、歌舞伎界にとってはどんな時代であったか?ということを詳しく。

やはり歌舞伎は「市川宗家」を中心に回るのが王道だが、そうでない時代もある。

「平成」を担って「令和」まで支えいくはずだった團十郎、勘三郎が亡くなり、大黒柱が消えた中で、「令和」を支えるのは、やはり「市川宗家」の海老蔵である。

その海老蔵が、来年5月、「十三代目・團十郎」を襲名する。「2020年」=「令和2年」は、歌舞伎界にとってもメモリアルイヤーになる。

「令和元年」の内に、この本を読み終えられて良かった。


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(2019、12、17読了)

2019年12月27日 19:37

新・読書日記 2019_158

『人生の諸問題 五十路越え』(小田嶋隆・岡康道・清野由美、日経BP:2019、7、8)

ツイッターで知ったコラムニスト・評論家(?)の小田嶋隆さん。5つ年上。早稲田の先輩に当たる。面識はないが。辛坊さんと同い年の同学年だなあ、面識はないらしいが。その高校から大学までの同級生で麻雀仲間の岡康道さんは、元電通マンのクリエイティブディレクター。この二人が48歳の時から50代を通り過ぎて還暦を超えるまで「日経ビジネスオンライン」で連載された対談をまとめた物の、最後の一冊だそうだ。知らなかった。

まあ、うだうだしているけど、それが面白いんだよね。一応、編集者と言うか司会と言うかツッコミ役として清野由美さんが加わっている。

結構、面白いんですが、ほぼ同世代じゃないと、この面白さはわからないんじゃないかなあと思いました。


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(2019、12、16読了)

2019年12月27日 19:35

新・読書日記 2019_157

『自己責任~わずか1週間の航海』(辛坊治郎、KADOKAWA、2019、11、30)

あの2013年、盲目のセーラー(ヨットマン)と一緒に太平洋横断をもくろむ、日本列島から1200kmの所で突然クジラにぶつかられてヨットは沈没、海上自衛隊の飛行機に救助されて、まさに奇跡の生還を果たした辛坊治郎キャスター。これまで番組などでは語っていたものだ。というのもそもそも「番組」を作るつもりで、いろいろな機材を積んでいて、沈没前にそれらの映像が入ったメディアも回収できたという「奇跡」も起こっていた。

しかし、映像で見るのとはまた違う、乗組員としての辛坊治郎が、この事故に至った「記録」を書き記した(「語り下ろし」だったそうだが、「直し」がめちゃめちゃ入って、書いた方がラクだったと言ってましたが)貴重な記録だと思う。読みやすかった。

誤字が1か所。

×「ヨットと出合い」→〇「ヨットと出会い」(30ページ6行目)


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(2019、12、8読了)

2019年12月27日 19:33

新・ことば事情

7313「壮絶な」

今年(2019年)5月の関西地区新聞用語懇談会で、読売新聞の委員からこんな質問が出ました。

「『壮絶ないじめ』という言葉が原稿に出てきたが、『壮絶』は本来『勇ましいこと』を言う。これは『凄絶(せいぜつ)な』の誤用ではないか?」

というものでした。私はこれまで、あまり気にせずに、

「壮絶ないじめ」

は、そのまま通してきたような気がします。

これに対して、毎日新聞の委員が、

「『校閲発・春夏秋冬』というコラムで、『壮絶な被災体験』の『壮絶』は間違いで、『すさまじい』『筆舌に尽くし難い』『苛烈(かれつ)な』『過酷な』に言い換える、と書いた。しかし紙面では『壮絶ないじめ』は出て来る・・・。」

とのことでした。

それから5か月、「ミヤネ屋」にもこの「壮絶な」が出て来ました!

10月18日の放送前にテロップチェックをしていたら、まさにその、

「壮絶ないじめ」

が出て来たので

「凄絶(せいぜつ)ないじめ」

とルビを振って「凄絶(せいぜつ)」に代えました。「凄」が「常用漢字ではない(表外字)」なのです。

さらに2か月。12月13日には、

「壮絶経緯」

という言葉が出て来たので、これも

「凄絶(せいぜつ)経緯」

と直して放送しました。

(2019、12、27)

2019年12月27日 13:16

新・ことば事情

7312「『絶え間ない』と『たゆみない』」

ふと思いました。

「絶え間ない」と「たゆ(弛)みない」の違いは?

少し考えて出て来た答えは、

「絶え間ない」は、「時間」が途絶えず連続している。

「たゆみない」は、「緩み」がなく緊張が続いている。

でした。たような状況で使いますが、元の意味は違いますね。

「絶え間ない」=量

「たゆみない」=質

とも考えられます。そうすると、両方併せて、

「たゆみ無い努力が、絶え間なく続く」

ということも存在します。というか、今の仕事に求められているのは、そういうことのような気がします。

「たゆみない努力、絶え間ない仕事・・・」

つかの間の正月休みに、まもなく入りますが。

(2019、12、27)

2019年12月27日 12:08

新・ことば事情

7311「女性『が』多くか?女性『に』多くか?」

12月24日、元・フジテレビアナウンサーで現在はフリーアナウンサーの、

八木亜希子さん(54)」

が、

「線維筋痛症」※(セ/ンイツーキンショー)=平板アクセント

という病気を発症したので、しばらく休養するというニュースが流れました。

その病の特徴は「30~60代の女性に多い」ということだそうです。

それを報じる「ミヤネ屋」のVTRのスーパーが、

「中高年の女性が多く発症」

と発注されていて、チェックしていて「待てよ...」と。

「女性が多く」と、助詞が「が」だと、

「中高年女性の『患者数』が多い」

というような「人数」を表していることになりますね。

「量(Quantity)と質(Quality)」で言うと、

「量(Quantity)

のほうです。それに対して、

「女性に多く」と、助詞が「に」だと、

「患者の中に占める中高年女性の『割合』が多い」

ということになり、

「その病気の患者が持つ『特性・性質』」

つまり、

「質(Quality)」

を表すことになります。この場合は、後者を取って、

「中高年の女性『に』多く発症」

のほうが妥当だろうと思い、スーパーをそのように直しました。

八木さん、早く良くなってくださいね。あ、でもストレスなども原因だろうから、あまり世間の声は気にしないで。

(2019、12、27)

2019年12月27日 12:06

新・ことば事情

7310「『特定抗争指定暴力団』の読み方」

2年目のSアナウンサーが、質問してきました。

「道浦さん、『トクテイコウソウシテイボウリョクダン』は、どこで区切って読めばいいんでしょうか?」

「???なんだって?」

「『トクテイコウソウシテイボウリョクダン』です。」

「特定コウソウ指定暴力団?」

「指定暴力団の『山口組』と『神戸山口組』の抗争事件の頻発を受けて、愛知や兵庫など6府県の公安委員会が、暴力団対策法に基づく『特定抗争指定暴力団』指定を正式決定するというニュースなんです。」

「ああ、『抗争』ね。一連の事件を受けて。それは『特定抗争』をしている『指定暴力団』だから『ト/クテーコ\ーソー・シ/テイボーリョク\ダン』でいいんじゃないの?」

と答えてから、ちょっと待てよと、改めて、

「特定抗争指定暴力団」

というのを調べてみると、今回の「抗争事件」を受けて、より厳しい指定をするもののようです。つまり、

「『特定抗争指定』の『暴力団』」

のようです。そうなると「切る所」「意味の塊」が変わって来ます。

あわててSアナウンサーの所に行って、

「ゴメン!やっぱり『ト/クテーコーソーシテイ・ボ/ーリョク\ダン』だわ!『特定抗争指定』の後に『の』を入れるような気持ちで、少しだけ間を開けて、『暴力団』を言い直す感じかな。」

と、さきほどの答えを修正したのでした。

長い単語の場合は、

「どこまでコンパウンドをするか」

が難しいですし、全部「コンパウンド」して「アクセントの山を1つ」にしてしまうと、

「意味の区切りが分かりにくい」

ので、ある程度のところで、一旦、アクセントの山を終わらせたほうが、聞いていてわかりやすいとは思うのですが、それはあくまでも、

「意味・内容を崩さないように」

しないといけないというところが、難しいですね。

(2019、12、26)

2019年12月27日 11:51

新・ことば事情

7309「ミートテック」

街を歩いていて、すれ違った人の言葉が耳に残りました。

「それは、ミートテックやんか」

ん!?「ミートテック」?

それはもしかして、

「ユニクロの『ヒートテック』の新商品?」

と思いましたが、よく考えると、そんな新商品が出たとは、耳にしません。もしかしたら...と思いながら、ネット検索をしたら、案の定、出て来ました

トップに出て来たサイトによると、

https://numan.tokyo/words/kTey8

*「ミートテック」=「皮下脂肪のこと、あるいは体に蓄えた皮下脂肪で防寒することを意味する。2011年にTwitterに投稿された、

『皮下脂肪で防寒することを"ミートテック"って呼んでる友人がいて思わず吹いた』」

というツイートが拡散されたことで流行した。株式会社ユニクロから販売されている防寒着"ヒートテック"をもじり、"脂肪を纏(まと)う"という意味を含んでいると思われる。」

その通りでしょう。ダジャレだけど、センスあるな。2011年と言うと、もう8~9年前に出て来た言葉だったのですね。知らなかった。しかしこれって今までは、

「肉布団」

と呼んでいた状態ですよね。

グーグル検索では(12月27日)、

「ミートテック」= 9万9400件

「肉布団」   =16万8000件

でした。

(2019、12、27)

2019年12月27日 11:50

新・ことば事情

7308「火種が渦巻く」


12月25日の「ミヤネ屋」で、日中韓会談に合わせて「東アジア情勢」に関して識者を呼んでスタジオで討論しました。その際にVTRの原稿で、

「火種が渦巻く東アジア情勢」

という表現があったのが気になりました。「火種」は「渦巻く」でしょうか?

「火種は渦巻かない」

と思います。ひだねー、いや、そだねー。ちょっと懐かしいですね。

「渦巻く」のは、

「悪意」「陰謀」「空気」「雰囲気」「煙」

など、抽象的なものでも具体的なものでも、

「形のないもの」=「気体・液体」

です。同じ「火」でも、

「炎」

は渦巻きますね。

それに対して「火種」は、

「形がある」=「固形物」

ですから、当てはまらない気がします、たとえ「比喩的」にでも。そこで原稿は、

「火種を抱える東アジア情勢」

と直して放送しました。

(2019、12、25)

2019年12月25日 21:48

新・ことば事情

7307「逮捕劇」

12月25日午前11時半ごろ、IRに絡む収賄容疑で、秋元司・衆議院議員が逮捕されたというニュースが流れました。

「ミヤネ屋」でも当然、そのニュースを冒頭に伝えたのですが、その原稿が最初、

「約10年ぶりの現職国会議員の逮捕劇」

となっていました。このお尻に付いている、

「劇」

が気になりました。さっき逮捕されたばかりのほやほやの「ニュース」を「劇」として扱うのは良くないです。「劇」と付けるのは、

「ある程度時間がたって、客観的に取り扱うような場合」

ですね。「速報ニュース」に「劇」を使うと、

「その『速報性』や『生』感が失われてしまう」からです。

結局、「劇」を外して、

「約10年ぶりの現職国会議員の逮捕」

と放送しました。

(2019、12、25)

2019年12月25日 21:47

新・読書日記 2019_156

『マリアージュ~神の雫 最終章19』(亜樹直・作、オキモトシュウ・画、講談社:2019、10、23)

あれ?今検索したら「18巻」も買ってなかった!買わなきゃ!...

と思ったら、ちゃんと9月に読んでたわ。

この「19巻」は、「神の雫」のワインを捜しにフランスへ行くための費用を稼ぐアルバイトとして、北軽井沢のプチホテルの立て直しに協力すると。

ここのオーナーシェフが「日本」にこだわり、料理は「日本料理」、酒は「日本酒」しか置かない。素材も「国産のみ」。それで、隣のフレンチのお店に客を取られて、経営を立て直すために呼ばれた主人公の雫。日本料理とも相性の良い、お互いを引き立てる「マリアージュ」できる「日本産ワイン」を見つけ出すという、かなり「制限」された中での仕事。

この後は、お隣のレストランと「料理バトル」になるんだけど(連載で読んでるから知ってます)、その前段階ですね。最近「日本ワイン」もレベルが上がって来て、おいしいですからね。


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(2019、12、24読了)

2019年12月25日 17:55

新・ことば事情

7306「みんなで、いじめをなくそう」

ことし7月、岐阜市の中学3年生の男子生徒生がマンションから転落して死亡した問題で、岐阜市教育委員会はきょう(12月24日)、

「同級生による『いじめ』が自殺の主な要因になった」

とする第三者委員会の報告書を公表しました。

この中学では全校集会を開き、校長が「命の大切さ」を説き、

「みんなで、いじめをなくしていこう」

と話したと、ニュースで伝えていました。しかし、実はこの、

「みんなで」

はダメなんじゃないか。この「みんなで」が「いじめ」を生んだのではないか?と私は思いました。「みんなで」ではなく、

「一人一人が」

考えて、

「自ら行動する」

主体性がないと、「いじめ」は、なくならならないと思います。

そういうことを教えるのが、本当の「学校」ではないのか?

しかしよく考えたら、日本の「学校方式」は、元々「軍隊式教育」の場だったので、どうしても「全体主義」「連帯責任」に向かい、「みんなで」につながる。私たちが小学校の頃も、

「『みんなで』は『民主主義』である」

というように教わった気がしますが、本当にそうなのか?

戦後74年、「軍国主義」という目的を「民主主義」に置き換えただけで、

「手法は同じ」

なのではないでしょうか?

「民主主義=多数決」

と決めつけるのは、「みんなで」思想と同じではないのでしょうか?

本来の・あるべき姿の「民主主義」は、「多数決」からこぼれた「少数意見」もすくい上げるという形の、

「多数派が、少数意見も尊重すること」

にあるのではないでしょうか。

「考えること」が抜け落ちてしまっては、「教育の場」ではないのではないか?と思います。

ともあれ、メリークリスマス。

(2019、12、24)

2019年12月24日 18:14

新・ことば事情

7305「名門」

「名門」

という言葉が「不快語」であるとして「使わない」こともある、と初めて聞いたのは、

「2003年5月」

に開かれた「関西地区新聞用語懇談会」の席上でした。

その際に、当時の「中国新聞」の委員が、

マニュアルにはないが『名門』『名家』『旧家』は、不快語に当ると判断して使わないことになっている。」

と発言したのです。当時、読売テレビでは、別にそんなことはありませんでしたが、その後「気になる言葉」の一つになり、何度か用語懇談会の席で各社の意見を聞きました。その記録を抜粋すると、

【2009年9月】

安倍、福田、麻生総理に続いて鳩山総理誕生で、またぞろ出てくる「血統」「血筋」「サラブレッド」「家系」「DNA」(?)という表現に関して、各社はどのような対応をされていますか? (ytv道浦)

→(NHK)使わない。

(日本テレビ)「血筋」など使わないようにしている。鳩山家は苦しまぎれで「華麗なる一族」とした。

(TBS)「家系」は出てくる。「政治家の家系」と。

(フジテレビ)ニュースでは使っていない。「名門」「家柄」は昼ニュースで使った。

(テレビ朝日)情報系番組で「サラブレッド」「4代にわたる政治家」と使った。ニュースでは「血~」は使わないで!と言っている。

(テレビ東京)「血筋」「「血統」「サラブレッド」は使わない。「~の家系」は使う。「DNA」も「平和主義のDNA」などと使う。

(WOWOW)「サラブレッド」「家系」は許容。「血統」「血筋」はお断り。

(共同通信)「サラブレッド」「血筋」「家系」頻繁に出てくる。特にダメということはない。

(静岡放送)基本使わないが、「家系」は使うかも。

(毎日放送)「家系」「名門」を使っている。かつて(1994年)「由緒正しき家柄」で抗議があった。

(朝日放送)「血筋」は×。「政治家の一族」「名門」は○。

(関西テレビ)使わないが、ゲストのコメントまで規制してはいない。

(テレビ大阪)ニュースでは使わない。「DNA」「サラブレッド」は出てくるケースが少ない。

【2013年6月】

安倍総理や、フィギュアスケートの小塚崇彦選手などを指して「サラブレッド」という表

現がよく出てきます。「(良い)血統」も同じ意味での表現です。気にはなるものの、「褒めている表現」(プラス表現)でもあり使ってしまうのですが、「この言葉は使わない」としている社はあるでしょうか?(ytv・道浦委員)

*(使わないと決めている)NHK、テレビ朝日、ABC、テレビ東京

*(決めていないが使わない)日本テレビ、MBS、KTV、共同通信

(共同通信)「名門」と同じで、出自に関する語はできるだけ使わない。「サラブレッド」は、規定はないが使わない。

(テレビ大阪)橋下市長の「週刊朝日」報道以降、極力そういった表現は避けているような気がする。

(ABC)「良い血筋」を出すと、必ずその反面に「悪い血筋」があるということになる。差別助長になるので、絶対にダメ。

(読売新聞)「血筋」が良い・悪いではなく、「血筋で決まる」という発想がダメなのだ。

(共同通信)ただ、「歌舞伎」の世界は「名門」という"幻想"で成り立つ世界なので、使わざるを得ない。「高校野球」に「名門」を使うのはダメ。

【2018年2月】

*「DNA」と「遺伝子」(読売テレビ・道浦委員)

以前も何度か話し合ったことがありますが、昭和の大横綱「大鵬」の孫・納谷君初勝利のニュースを「スポーツ紙の記事」を使って「ミヤネ屋」で紹介しました。「1面トップ」で取り上げていた「日刊スポーツ」の1面(東京版)で、「綱の遺伝子」という見出しがありました。各紙(1月17日付)の見出しは、

【日刊スポーツ・大阪版】「おじいさん 見てくれましたか 大鵬孫 納谷 貫禄デビュー」

【スポーツニッポン】「祖父の道 第一歩 大鵬孫 納谷 デビュー戦2秒で圧勝」

【サンケイスポーツ】「祖父 大鵬ほうふつ 孫・納谷 圧勝デビュー!!」

【スポーツ報知】「偉大なDNAそろい踏み 朝青甥・デビュー戦白星・大鵬孫」

【読売新聞】「注目ありがたい」大鵬の孫 初戦○

で、「スポーツ報知」は、「DNA」を使っていました。『週刊文春』(1月25日号)でも、

「貴景勝 貴乃花部屋の最強DNA 父が語る"ガチンコ一直線"」

と「最強DNA」いう見出しの記事が載っていました。

この「遺伝子」「DNA」は、「血筋」「血統」「サラブレッド」などの「言い換え語」だと思われますが、各社の使用・不使用状況は、いかがでしょうか。

→(テレビ朝日)テレビニュースでは出て来ない。新聞・雑誌では出て来る。関連で、大鵬の孫の納谷君が初勝利の際と、新弟子検査では「サラブレッド」を使ってしまった。かつて「政界のサラブレッド」という表現を「小泉進次郎」が出てきた頃に使い倒して、その後反省した。

今回の「サラブレッド」は「昼ニュース」で1回使って、その後見守っていたら、夕方のニュース以降では自粛したのか、出て来なかった。まだ「DNA」「遺伝子」は出て来ないが、これは難しい問題。「サラブレッド」は、あくまで比喩(ひゆ)だが、「DNA」「遺伝子」は、「血を引き継ぐ」以上に「そのもの」であって比喩ではないので、「使うな」とは言えない気がする。しかし「強い(弱い)遺伝子・DNA」としてしまうと「優性・劣勢(顕性・潜性)」の問題になってしまい、問題がある。

(TVO)「遺伝子・DNA」を「人間」に使った例はないが、「企業」に使ったことはある。2016年の経済ニュースで、「逆境に強いのが、シャープのDNA」と。

(NHK)10年分のスポーツニュースを検索してみたが「DNA」「遺伝子」は、外国人監督のインタビューの中での1件だけだった。

【2018年9月】

「名門」「サラブレッド」「DNA」について(読売テレビ・道浦委員)

体操女子の問題で「名門・朝日生命体操クラブ」「体操の名門・日体大出身」という表現を見かけましたが、「名門」は特に問題ありませんか。

関連で、塚原夫妻の息子で、アテネ五輪金メダリストの「塚原直也氏」を指して「ミヤネ屋」の原稿では、「サラブレッドの中のサラブレッド」と出してしまいました。

また先日、他局のバラエティー番組では、高学歴の両親から生まれて子どもに対して、「最強DNA」という表現も使っていましたが、こういう表現は各局では「可」でしょうか。

→(NHK)用語集に「名門校」などは使わないと記されている。言い換えは「有名校」。しかし、高校野球の「名門・〇〇高校」には、あまり抵抗はない。

「サラブレッド」は、人に対して比喩的には使わない。原稿検索でも0件だった。「DNA」は検索しても、ほとんど出て来ない。しかし今週の放送で「中野サンプラザの建て替え問題」での中野区長の発言で「歴史や形状・記憶のDNAを新しいサンプラザに引き継ぎたい」と出て来た。

(日本テレビ)「名門」はなるべく使わない。しかし「名門私立大学」「名門・朝日生命体操クラブ」は出て来た。また「愛子さまがイギリスの名門・イートン校へ」などとチェックの段階で出て来た際には、放送では「名門」を外した。

ガイドラインでは「『家柄』には注意」と書かれているが、自分に使うのはOK。「サラブレッド」も使わないようにしているのだが、2017年11月に、10月の衆院選で初当選した中曽根康弘・元首相の孫、中曽根康隆議員についての原稿で「祖父は元内閣総理大臣の中曽根康弘氏、父は元外務大臣の中曽根弘文参議院議員という政界のサラブレッド」と使ってしまった。(「政治家一家に生まれ育った」などの言い方もあります。)

(TBS)ルールはなかったので、報道局主幹らに話を聞いたら、

〇?△?「名門」→意見が分かれたが「あり」の方向。

△「サラブレッド」→使い方次第で「あり」。

×「DNA」→絶対ダメ!

という感じだった。

(フジテレビ)「名門」は出て来る。「体操の名門・日体大」「高校野球の名門〇〇高校」「イギリスの名門・イートン校」も出て来た。

「血筋・血統」は注意している。しかし「サラブレッド」も出て来た。「DNA」は検索したところ、地の文では小池都知事の発言の引用の中で「日本人のDNAに刻み込まれているラジオ体操」の1件だけだった。「遺伝子」はなかった。

(テレビ朝日)「名門」は使ってはいけないとは、していない。「スポーツの名門・大阪桐蔭高校」「名門イートン校」「スペインの名門・バルセロナ」「かつての名門派閥・竹下派」などと出て来た。「サラブレッド」は『広辞苑』の2番目の意味で載っている「血筋、家系」の意味で「人間」に使うのはやめようということになっているのだが、「小泉進次郎」「鳩山邦夫」、そして「大相撲の大鵬の孫・納谷」には使っていた。「DNA」は、優劣が付くケースでは、使うのはやめようと話している。

(テレビ東京)「名門」は「イタリアの名門・ユベントス」などと普通に使われている。「サラブレッド」「DNA」は、以前回答した通り。

※【2009年9月放送分科会】(テレビ東京)「血筋」「「血統」「サラブレッド」は使わない。「~の家系」は使う。「DNA」も「平和主義のDNA」などと使う。

※【2013年6月放送分科会】「サラブレッドは使わない」としている社は?

<使わないと決めている>=NHK、テレビ朝日、朝日放送、テレビ東京

<決めてはいないが、使わない>=日本テレビ、毎日放送、関西テレビ、共同通信

(毎日放送)「名門」は、学校や団体などに対しては使っている。「アメフトの名門・関西学院大学」など。「サラブレッド」「DNA」は「個人」につながるからダメ!出て来ない。

(朝日放送)「サラブレッド」「DNA」は、使い方次第でOKだが、悪い意味に繋がるものはダメ。共に「逃げ」の言葉。

(関西テレビ)ニュースでは、いずれもあまり出て来ない。ただ「名門」は、春の高校バレー」の中継をしているので、しょっちゅう出て来る。しかし「勝つのは『名門校』か?それとも『雑草軍団』か?」のような「対比・比較」はダメ。「出場〇〇回の名門」はOK。「サラブレッド」は特に決めていない。「DNA」は格闘技関連で「最強のDNAを継いだ〇〇」とよく出て来る。どう言い換えればいいのか、わからない・・・。

(テレビ大阪)検索したところ、過去10年で「名門」=84件。そのうち今年は1件で「名門・星野リゾート」に使っていた。「名門・上智大学」も出て来た。「DNA」は前回も言ったように「シャープのDNA」という使い方。「サラブレッド」=0件だった。

(共同通信)いずれも「記者ハンドブック」には「ダメ」とは書いていないが、「血筋関係」は使わないと「社内連絡」はしている。「名門」は今回のアジア大会において「名門・朝日生命体操クラブ」と出てきたが、例の宮川選手と塚原夫妻の問題が起きる前。その他にも「運動(スポーツ)関連」で「名門・ACミラン」のように、よく出て来る。「サラブレッド」は、人間に比喩的には使わないことになっているが、調べてみたら、今回の自民党総裁選告示日の9月7日の記事に「安倍晋三」について「政界のサラブレッド」と出て来たので出稿部に注意した。

そして、2019年3月15日の日本テレビ・お昼の「ストレイトニュース」では、テロップは、

「米・名門大」

と出して、ナレーションでも、

「名門大学」

と読んでいました。

3月13日の各紙夕刊では、

(見出し) (本文)

(読売)名門大   名門大学

(朝日)***   有名大学

(毎日)<記事なし>

(産経)名門大   一流大

(日経)***   一流大学

でした。

それから9か月後の12月13日の「読売新聞」朝刊のスポーツ面で箱根駅伝の展望の記事が出ていました。その見出しが、

「急成長 名門復活の兆し」

として「早稲田大学」が取り上げられていました。去年(というか「ことし」の正月でしたが)の箱根では「シード権が得られる10位以内」に入れず、ことし(来年のお正月、来月の箱根の予選)は予選会からの参加。それも最後の最後で出場が決まったという、「どん底」にある「名門・早稲田」。ここで、

「名門」

が使われていました。

20191220.jpg

「名門」という言葉、使っちゃいけないわけではないようですね。

2019、12、20

2019年12月20日 14:26

新・ことば事情

7304「『美女と野獣』の原題」

ディズニーのミュージカル映画『美女と野獣』のDVDを見ました。これまで、劇団四季のミュージカルとかアニメでは見ましたが、映画は初めて見ました。音楽が、聴き慣れた心地良いディズニーミュージックで、よくできた映画だなあと思いました。いろんな問題を示唆していますね。

それを見て言葉上で気になったのは、この物語『美女と野獣』の原題である、

「Beauty and the Beast」

です。「Bea」まで「頭韻」を踏んでいるんですね「B&B」。わっ、毒ガスだ!と言っても通じませんよね、もう。コマネチ!

横道にそれましたが、気になった点は、

「なぜ『Beauty』には定冠詞の『the』が付かずに、『Beast』には付くのか?」

という点です。

ネット検索してみると、やはり同じ疑問を抱いた人がいました!

たとえば、古くは2005年の「教えて!goo」に、

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/1312105.html

『抽象名詞としてのBeautyならばtheがつかないのも納得できますが、ここでのBeautyは「美女」という意味です。これが可算名詞ですので、a beautyやthe beautyなどとすべきだと思うのですが、どのように考えたら良いでしょう。。。(中略)映画のタイトルなのでなので、ゴロの良さも含め文法通りではない、ということなのでしょうか。』

という疑問に対して、「ベストアンサー」は、

『映画、音楽、表、新聞など、何かのタイトルにおいては頻繁に冠詞やbe動詞などが省略されます。(中略)基本的に「主語+動詞(+...)」という形になっていない文では、あまり冠詞を付けません。例えば、

「Merry Christmas! Happy new year!」

とは言いますが、

「A merry Christmas! A happy new year!」

とは言わないのです。(中略)ちなみにBeautyは(中略)「ある美女」というだけでよければ、あえてtheは付けないことになります。』

というものでした。なるほど。

また、2009年のヤフー知恵袋の「ベストアンサー」では、要約すると、

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1130980406

・原題は「La Belle et la Bête」で、元々フランスの民話。単なる主人公の名前を並べた題名。フランス語ではtheに相当する「la」がBella(=Beauty)にもついているが、英語と文法が異なり、つけないわけにはいかないから。

・「単なる美女と野獣の恋物語」の描写ではなく、もっと人間全体に通じる教訓的なことをタイトルにこめているように読み取れる。「美」という抽象概念を「beauty」と無冠詞で書くことで「the beauty(=特定の美人)」という個体的な意味からイメージを拡張させ「みかけの美しさ」とすることで「the Beast(<こちらは普通名詞なので無冠詞単数にはできない)=人間が持つ野獣性、あるいは見かけの醜さ」と対比していると感じる。

・「ストーリーにこめられたメッセージ性」を意識して、あえてtheをはずし、「美と野生」「心の美しさと見かけの凶暴さ」「内面と外見」という意味合いにしたのではないか。

と言うようなものでした。

なるほど「beauty」は「美女」ではなく、本来は、

「(抽象的な)美」

と訳すべきであったというのですね。これは説得力がありますね。納得しました!

(2019、12、20)

2019年12月20日 12:34

新・ことば事情

7303「『発議』は『ハツギ』か?『ホツギ』か?」

「そこまで行って委員会NP」のプロデューサーで、元「ケンミンSHOW」プロデューサで、元「ミヤネ屋」デスクのN君から、

「憲法改正の『発議』の読みは『ハツギ』?『ホツギ』?」

というタイトルのメールが来ました。それによると、

「私は『ハツギ』だと思い込んでいたのですが、安倍首相は『ホツギ』と言っています。

手元の岩波の辞書には、両方で掲載あり。共同通信記者ハンドブックには載っておらず、NNN系列での基準が、もしあればと思いまして。」

というものでした。私は、こういう返事をメールで送りました。

「お尋ねの「発議」の読み方は、ご指摘通り両方あり、どちらか一方(だけ)が正しいということはありませんが、放送では、

『ハツギ』

と読むのが普通ですね。『ホツギ』は古風な読み方、専門的(に見せるよう)な読み方でしょう。『ハツ』が漢音、『ホツ』が呉音なので『ホツ』のほうが古いです。『NHK日本語発音アクセント新辞典』には『ハツギ』は見出し語にありますが、『ホツギ』は載っていませんでした。

同様の問題では『発疹』を『ハッシン』『ホッシン』どちらで読むか?というのがあります。

以前の『新明解国語辞典』では『ホッシン』の解説に『ハッシンの"老人語"』と書かれていましたが、今はその表記はなくなりました。普通は『ハッシン』と読みますが、最近は回帰現象で『ホッシン』と読む人が増えつつあるように感じます。

きょう(12月20日)の『ミヤネ屋』にも韓国の国会議長が、元・徴用工関連のニュースの事前チェックで『発議』と今、出て来ました。以前書いたものがあるので、添付します。ご参考までに。」

ということで、以前書いた「平成ことば事情5804発疹はハッシンか?ホッシンか?」もお読みください。

(2019、12、20)

2019年12月20日 12:33

新・ことば事情

7302「盗汗」

12月18日の「ミヤネ屋」で、前日「悪性リンパ腫」だと発表した元・フジテレビの笠井信輔アナウンサーと、白血病で今年2月から入院していた水泳の池江立璃花子選手が10か月ぶりに退院したニュースをお伝えしました。その中で、国立がん研究センターがん情報サービスHPから、

「悪性リンパ腫とは」

という説明文を引用したのですが、病気の症状として、

「発熱・体重の減少・盗汗(とうかん)を伴うことがある」

とありました。この、

「盗汗」

という言葉、初めて見ました。「とうかん」って「投函」ぐらいしか知りませんでした。

意味を調べてみると、『精選版日本国語大辞典』にちゃんと載っていました。要は、

「寝汗」

のことなんですね!「寝汗」、寝ている間にかく汗は「汗を盗まれている」のか?

フリップでは、「盗汗(とうかん)」の後に(寝汗)と補っておきました。

また一つ、勉強になりました。

笠井アナウンサー池江選手の病状の回復を、心より願っております。

(2019、12、18)

2019年12月19日 12:29

新・ことば事情

7301「『なので』と『なのに』」

「なので」

という「順接」の接続詞で始まる文章、特に「書き言葉」は「正しくない」と、最近糾弾されることが多いように思います。確かに「話し言葉」ならばOKでも、「書き言葉」だと、少しくだけ過ぎているようにも感じます。

「それなので」

と言うように「それ」を付ければ、まだマシかな。でも、

「だから」「ですから」

といった言葉は「書き言葉」としてもう定着していますよね。「なので」も、定着への過渡期なのかな?とも思います。

そんな中、『人生の諸問題 五十路越え』(小田嶋隆・岡康道・清野由美、日経BP)という対談本を読んでいて、昔のテレビ番組に言及する場面で、「若者たち」という半世紀ほど前(1967年)のドラマ(5年前の2014年にリメイクされて放送されました)の「ドラマ名」と同じタイトルの主題歌「若者たち」(作詞:藤田敏雄、作曲:佐藤勝、歌:ザ・ブロードサイド・フォー)の歌詞の中に、

「なのに」

という言葉が出て来ていたのを思い出しました。昔はこの歌が好きで、よく歌っていました。当時は小学生でしたが。歌詞は確か、

「君のゆく道は果てしなく遠い

なのになぜ 歯を食いしばり

君はゆくのか そんなにしてまで」

だったと思います。ここで、

「なのに」

が使われていたのです!

念のため歌詞を確認したところ、"新たな事実"と言うか、私の覚え間違いが明らかに!

実は歌詞のその部分、「なのに」ではなく、

「だのに」

だったのです!えーーー!「だのに」は「なのに」よりも不自然だなあ。

もしかしたら「なのに」の前の段階は、「だのに」だったのか?

だので、謎はより深まったのでした。これも「人生の諸問題」の一つなのかな?

(追記)

2年ほど前に、同じ「若者たち」から「だのに」を引いていました...。

平成ことば事情6641「だのに」をお読みください。

(2020、1、8)

(2019、12、13)

2019年12月13日 18:46

新・ことば事情

7300「天竺」

元「ミヤネ屋」ディレクターで、今は制作番組のディレクターをやっているN君(通称・ポン)が質問にやって来ました。

「お笑いタレントがロケで食べた物の感想を言う際に、『ホボテン』と言ったんですよ。このタレントは、いろんな言葉を4字で縮めて言うのがギャグの一つになっているんですけど、意味を聞いたら『ほぼ天竺(てんじく)』だって言うんですけど、意味は、まあなんとなくわからなくてもいいんですけど、『天竺』って言葉は、使っても大丈夫ですかね?宗教的に"アウト"ということは、ないでしょうか?」

「ええー?『天竺』は昔の『インド』の日本での呼び名だろ。『西遊記』で孫悟空や三蔵法師たちが目指したのが『天竺』だったよね。まあ仏教伝来などと絡んでいるから、宗教的なイメージはあるかもしれないけど、あくまで地名だから問題ないんじゃないの?『天』という漢字と音が『天国』を連想されて、『ほぼ天国・ほぼ極楽』というニュアンスで言ったんじゃないかな。ほら、だって、お笑いコンビに『天竺鼠(てんじくねずみ)』って、おったやん。大丈夫やで。」

と答えると、

「安心しました」

と言って帰って行きました。

念のため、「天竺鼠」を検索してみたら、何と「テンジクネズミ」とは、

「モルモット」

のことでした。知らんかった!

(2019、12、12)

2019年12月13日 18:40

新・ことば事情

7299「ペイハラ・カスハラ」

12月4日放送の日本テレビ「スッキリ」で、

「ペイハラ」

というのを紹介していました。「キャッシュレス社会」で、

「現金で支払わせないで『ペイペイ』とか『楽天ペイ』とか、あの手の物で払わなきゃダメ!とかいうこと」

かと思ったら、全然違いました。

「ペイシェント・ハラスメント」

つまり、

「患者による医師など医療関係者へのハラスメント」

のことだそうです。医療関係というとこれまでは「医師による患者へのハラスメント」、

「ドクターハラスメント」

いわゆる、

「ドクハラ」

が有名でしたが、いつの間にか「立場が180度逆転」していたんですね!

グーグル検索では(12月12日)、

「ドクターハラスメント」= 6万9200件

「ドクハラ」      =29万0000件

「ペイシェントハラスメント」= 1850件

「ペイハラ」       =2万5600件

やはりよく知られた「ドクハラ」に比べると、「ペイハラ」は新しい言葉だけに、検索件数が「ひとケタ少ない」ですね。

それにしても「ペイシェント」の語源は、

「(痛みに)耐える(我慢する)人」

なのに、耐えないで文句を言うのか。文句を言う人はもう「ペイシェント」ではないな。

そして、おととい(12月10日)の「スッキリ」では、今度は、

「カスハラ」

というのを特集していました。これは

「カスタマー(消費者)ハラスメント」

の略のようですが、「カス」ってあまり良い響きではありませんね。当たり前ですが、

「客の言うことを、全て聞くのがお店側(サービス提供者)」

というわけではありません。

「お客さんは神様です」

という言葉を誤解してはいけないのです。「お客様」は、

「万能」

ではありません。どちらかと言うと、

「煩悩」

です。

私もついつい、そういう態度を私も取ってしまいがちので、気を付けないといけません。

時代が、後から追いついて来た感じです。グーグル検索は(12月12日)

「カスタマーハラスメント」=22万5000件

「カスハラ」       =82万1000件

と、結構、多かったです。

(2019、12、12)

2019年12月12日 17:10

新・ことば事情

7298「敗復」

9月15日、ネットニュースの「共同通信」のニュースで、こんな見出しを見つけました。

「世界レスリング、奈良は敗復へ 高橋らは敗退」

この中で、目に留まったのは、

「敗復」

という文字。おそらく、

「敗者復活戦」

のことだと思われますが、このように省略しているのは初めて見ました。

グーグル検索では(9月16日)、

「敗復」   =  6万2900件

「敗者復活戦」=104万0000件

出て来ましたが、当然この言葉が使われているのは、「敗者復活戦のある競技」、

すなわち、

「柔道、レスリング、ボート、ヨット、サーフィン、フットサル、リトルリーグ(野球)、高校野球(宮城県・秋季県高校野球・東部地区予選)」

といった競技のようです。専門用語的な省略ですね。

(2019、9、16)

2019年12月12日 16:42

新・ことば事情

7297「グルメ通」

12月12日、俳優の梅宮辰夫さんの訃報が届きました。81歳。6度のがん。特に人工透析が必要となった晩年の病気との闘いは、本人はもちろん、ご家族の方の介護の苦労も大変であったろうとお察しします。合掌。

そのニュースを12月12日の「ミヤネ屋」でもお伝えしようと、フリップの発注をチェックしていたら、梅宮さんの人柄紹介の中に、こんな言葉が出て来ました。

「グルメ通」

読み方は「グルメどおり」ではなく「グルメつう」。いやいや、それは違うでしょ。

そもそも、

「グルメ」=「食通」

なのですから、これでは、

「食通通」

になってしまい、「モールス信号」のようです。「ショク・ツー・ツー」。ま、これは死語ですが。つまり「グルメ通」は重複で、

「『食通の人』に詳しい」

という意味になってしまいます。これが「グルメ痛」ならば、

「『痛風』のことかな?」

とも思いますが。ここはお尻の「通」は取って、

「グルメ」

と本来の形に戻すか、「通」を使いたいなら、

「食通」

にする。もっと噛み砕いて言うのならば、

「美食家」「舌の肥えた人」「味にうるさい人」

などとするのが妥当でしょうね。

こんな間違いが起きるのも、「グルメ」という言葉が、本来の

「おいしい食べ物に詳しい人」

ではなく、

「おいしい食べ物」

という意味になっているからだと思います。

(2019、12、12)

2019年12月12日 16:38

新・ことば事情

7296「税制改正大綱」

12月12日のお昼のニュースを見ていたら、2020年度「税制改正大綱」が決定したと伝えていました。この、

「税制改正大綱」

という言葉が妙に耳に残りました。その原因は「リズム」にあると思います。つまり、

「ゼイ・セイ・カイ・セイ・タイ・コー」

というように、「漢字6文字」のうち「最初の5文字」が、

「〇イ」

で終わる音なのです。そして最後の1文字だけ、

「コー」

という「長音」なので、何かリズムが崩れるような感じです。北朝鮮の貨客船、

「万景峰号」

が、

「マン・ギョン・ボン・ゴー」

と「最初の3文字」が、

「〇ン」

なのに、最後の1文字が、

「ゴー」

と「長音」になるのと似ていますね。ついつい、

「マン・ギョン・ボン・ゴン」

と最後を間違って「ゴン」と言ってしまいがちです。これって「ホップ・ステップ・・・」と来て、

「ジャーンプ!」

しようと思ったら、そのリズムではなかったという感じ。そうそう、似たもので言えば、

「川田裕美アナウンサーの『三段跳び』」

みたいな崩れ方だと思えば、容易に想像がつくでしょう。つかんか。

読み間違いやすい言葉って、その原因がこういう「言葉のリズム」にあることも、あるんですね。

(2019、12、12)

2019年12月12日 16:15

新・ことば事情

7295「リーチ・マイケルか?リーチ マイケルか?2」

「令和ことば事情7235リーチ・マイケルか?リーチ マイケルか?」の続きです。

11月の用語懇談会秋季合同総会(長崎)で各社に意見を聞くと言っていたのですが、実際に聞いて来たので、その様子を載せますね。

と言っても、答えてくれたのは「読売新聞だけ」でした。というのも、10月の関東幹事会でも同じ話題が出たそうなので、まとめて答えてくれました。

****************************************

(読売新聞)これは10月の関東幹事会でも同じ議題が出た。そこで朝日・読売・スポーツ紙に尋ねたところ、国籍や記事の体裁(縦書きか横書きか)、記事本文かスタメン表かなどで表記が分かれていた。切れ目のない読みにくさを解消するため、横書きの場合はスペースを入れる社もあった。基本的には各社がケース・バイ・ケースで判断し、対応にばらつきが出ているようだった。日本国籍は日本人扱いで「・」は入れないのが原則ではあるが、読みやすさを考慮して「・」を入れている社もあると。

この後に、

「しかし『・』を入れると『外国人扱い』になってしまうのではないか?この辺りについて議論があった社は、あるのか?」

と質問しましたが、議論した社は、

「なし」

でした。

(2019、12、11)

2019年12月12日 15:58

新・ことば事情

7294「寿詞(よごと)のアクセント」

10月22日の「即位礼正殿の儀」で、

「寿詞(よごと)」

という言葉が出て来ました。『広辞苑』で意味を調べると、

*「よごと」(寿詞・賀詞・吉言)=「天皇の治世の長久・繁栄を寿(ことほ)ぎ祝って奏上する詞。賀辞。」

とありました。この言葉のアクセントは、

「ヨ\ゴト」「ヨ/ゴト」

のどちらか?ナレーターのNさんから質問がありました。

日本テレビの「即位礼生中継」を見ていても「平板アクセント」の、

「ヨ/ゴト」

だったので、それに従ったそうですが、次の機会には忘れていそうだと。

当日、「〇言(〇ごと)」の例で、Sナレーターが、

「寝言(ネ/ゴト)」

を挙げてくれたので、

「なるほど~」

と思ったりもしたそうです。

翌日(23日)私はNさんに、こんなメールを送りました。

ます。

『きのうの「寿詞(よごと)」のアクセントですが、やはり、

「ヨ/ゴト」(平板アクセント)

で言いそうです。

1990年(平成2年)11月12日、現在の上皇さまが、「天皇」への「即位礼」の際に、当時の海部俊樹首相のお祝いの言葉に関してNHKのアナンサー(たぶん石戸谷アナウンサー)がどう読んでいるかを、YouTubeで映像を確認したところ、海部首相がお祝いの言葉を述べる前には2回、

「ヨ\ゴト」

と「頭高アクセント」ではっきりと言っていたのですが、海部首相の「寿詞」が終わったときには、

「海部総理の『ヨ/ゴト』でした」

と「平板アクセント」で読んでいたのを確認しました。

また「正殿」をNHKアナウンサーは、

「セ\イデン」

と「頭高アクセント」で読んでいました。これは宮内庁関係者などのアクセントと同じです。』

ところが!さらに翌日10月24日のNHKのニュースを見ていたら、アナウンサーは、

「頭高アクセント」で、

「ヨ\ゴト」

と読んでいました。(青井アナウンサーかな?)『ニュース7』の男性アナウンサーも、

「ヨ\ゴト」

と「頭高アクセント」でした。

一応、記録しておきます。

(2019、12、10)

2019年12月10日 18:26

新・ことば事情

7293「卓越教授」

10月10日に発表された、ことし(2019年)の「ノーベル化学賞」に、

「リチウムイオン電池で地の開発」

で、吉野彰・旭化成名誉フェローで名城大学教授(71)が選ばれたことは、もう、どなたでもご存じでしょう。日本時間の12月11日(水)未明、もう間もなく「授章式」が行われます。吉野さんはすでに現地・スェーデンのストックホルムに入りに、その準備を着々と進めてらっしゃいます。

ところで、「吉野さんと同時受賞された残り2人」のことに関しては、皆さんご存じでしょうか?大体、日本人にしか興味が行かないですよね、私たち日本人は。私もまあそうなのですが、発表時(もう2か月も前なんだ)一応、目を向けてみました。

一人は、米・テキサス大学オースティン校のジョン・グッドイナフ教授(97)で、

もう一人は、米・ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のスタンリー・ウィッティンガム教授(77)です。グッドイナフ氏(97)は、ノーベル賞受賞時の年齢としては「史上最高齢」なのだそうです。97歳!「ノーベル賞」って、「生存者」にしか贈られませんからね。もう一人の「M・スタンリー・ウィッティンガム教授」ですが、ただの「教授」ではなくて、

「卓越教授」

なのだそうです。これ、初めて見ました。これまで、ノーベル賞受賞者などの「教授」の肩書では、

「名誉教授」「特別栄誉教授」「終身教授」

というものや、最近ちょっと話題になっている、

「特任教授」

なんていうのは見たことがありますが、「卓越教授」は初めてです。英語では、

「ディスティングイッシュト・プロフェッサー(Distinguished Professor)」

というもので、ウィキペディアによると、

「大学などの高等教育機関において、各専門分野において特にすぐれた業績をあげ先導的な役割を果たしている教員に対して付与される一般の教授より上位の名誉的な称号。略称はDP。"distinguished"とは、英語で「抜群の、別格の」を意味する。日本のマスコミなどでは『抜群教授』あるいは『特別教授』などと呼ばれることも多い。」

多いって・・・「抜群教授」なんて見たことも聞いたこともないぞ。

「卓越教授」でまた検索してみたら、時事通信の今年(2019年)3月27日の記事で、

『東大「卓越教授」に藤田氏=梶田さんらに続き3人目』

という見出しがあり、本文は短めに、

『東京大は27日、専門分野で特に優れた業績を挙げた教授に与えられる「卓越教授」の称号を、同大大学院工学系研究科の藤田誠教授(61)に授与すると発表した。同大の卓越教授はノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん(60)らに続き3人目。』

とありました。あの、2015年のノーベル物理学賞受賞で、埼玉県立川越高校出身の、

「梶田隆章さん」

「卓越教授」だったんですね!日本でもあるんだ、この肩書。勉強になりました。

それはさておき、吉野先生、受賞おめでとうございます!!

(2019、12、10)

2019年12月10日 18:19

新・ことば事情

7292「『リチウム電池』と『リチウムイオン電池』」

今、販売中の『ビックコミックオリジナル』12月20日号(小学館)で連載されている『テツぼん』(画・永松潔、原作・高橋遠州)という漫画で、

「リチウム電池」

を取り上げていました。吉野彰さんのノーベル化学賞授賞式のタイミングですからね。

その中で、東海道新幹線の次世代車両の試験運転に招待された主人公(鉄道オタクの政治家)が、

「例えば災害や事故で停電が発生しても大丈夫なように、非常用電源としてリチウム電池による蓄電池を搭載しているんだよ」

と発言。また、主人公(政治家)の女性秘書(本当は妹)が、

「リチウム電池って、今年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が開発したんでしょ。私たちがスマホを使えるのも、リチウム電池のおかげなのよね」

というセリフを発言していました。

しかし!実は、電気自動車やスマホや列車の非常用電源に使われていて、吉野彰氏のノーベル化学賞受賞が決まったのは、「リチウム電池」ではなく、

「リチウムイオン電池」

なのです。簡単に言うと、

*「リチウム電池」(リチウム一次電池)=使い切り型

*「リチウムイオン電池」(リチウムに次電池)=充電式

という大きな違いがあるのです。当然、その用途も違いますね。

一般社団法人「電池工業会」のHPによりますと、まず電池の形が「円筒型」(単三乾電池のような形)では、

・「リチウム電池(CR)」(リチウム一次電池)=コンパクトカメラに使用。使い切り。

・「リチウム電池(FR)」(リチウム一次電池)=デジタルカメラに使用。使い切り。

・「リチウムイオン電池」(Li-ion)(リチウム二次電池)=シェーバーなどに使用、充電式。

とあり、「角型」では、

・「リチウムイオン電池」(Li-ion)(リチウム二次電池)=音楽プレーヤー等に使用。充電式。

そして「コイン型」では、

・「リチウム電池(CR・BR)」(リチウム一次電池)キーレスエントリー・腕時計・炊飯器に使用。使い切り。

・「リチウム電池(VL、ML、TC、CLB、MS、MT、UT)」(リチウム二次電池)=各種電子機器。充電式。

また「パック型」と呼ばれるものは、

・「リチウムイオン電池」(Li-ion)(リチウム二次電池)=携帯電話・デジタルカメラ・ビデオカメラ・音楽プレーヤー・ノートパソコン・アシスト自転車・電動工具・携帯ゲーム機などに使用、充電式。

とありました。

(2019、12、10)

2019年12月10日 17:39

新・ことば事情

7291「腕章を巻くのは右腕か左腕か?」

中継の際の「腕章」は、「左腕」に着けるのか?それとも「右腕」に着けるのか?

ことし9月、うちのアナウンサーが「腕章」を、

「右腕」

に着けて中継したところ、視聴者の方から、

「腕章は『左腕』に着けるものと決まっている!」

というご指摘を受けました。

私はこれまで特に何も考えずに、「右利き」なので右手を使って、

「左腕」

に腕章を着けていましたが、

「左腕に着けるもの」

というような"礼儀作法のようなもの"があるのでしょうか?

「右利きなので左腕に着ける」

のであれば、

「左利きの人が右腕に着ける」

のは自然と思いますが、いかがでしょうか?

なお、先日他局で「右腕」に腕章を着けている人も見かけました。(しかも「腕章」が「上下さかさま」でしたが・・・)

ということで各局のアナウンサー経験者などにご意見を伺ったところ、大体、皆さん、

「きまりはない」

としながらも、ほとんど全員が、

「腕章は『左腕』に巻く」

ようです。理由は、

「右利きなので、左でないと着けにくい」

のほか、いろいろ聞いてくださったり調べてくださって、

「喪章は左腕」

「軍隊の腕章は左腕。十字軍が起源」

というような、他の腕章の例を(中継の腕章とは違いますが)を記してくれた方もいらっしゃいました。そしてアナウンサー経験者ではないですが、NHKの時代考証を担当してらっしゃる、大森洋平さんにも伺ったところ、

「腕章は『左腕』に巻きます。なぜかはわかりませんが日本の憲兵、西洋のMP、衛生兵の赤十字、ナチスのハーケンクロイツ腕章、交通整理のお巡りさん、救急隊員、みな『左腕』です。日本の軍隊なら右腕にまいたら怒られるでしょう。腕章型の喪章も左腕で『ゴッドファーザー』葬式シーンでマフィアが皆そうしています。利き腕とは関係がないということのようです。一般的に『右が利き腕』なので、『利き腕でない左腕に巻く』というのは、一応の理屈になります。あと第二次大戦中のドイツ軍の衛生兵が、ロシア戦線で敵の狙撃兵に撃たれないように『両腕に巻いた』という話を聞いたことがありますが、これはあくまで特例。(かえって狙撃されたらしい。またイラクやアフガンでも、衛生兵はもはや赤十字腕章を付けません)

『そういうエチケット』として、職場でも励行された方がカッコイイですね。

僕もNHKの腕章を右に巻いている若手に対して『腕章は左に巻くものなのだ』と直させたことがあります。」

というお返事を頂きました。大森さん、ありがとうございました

(2019、12、10)

2019年12月10日 17:06

新・読書日記 2019_155

『君主号の世界史』(岡本隆司、新潮新書:2019、10、20)

「皇太子・王太子」問題に関しては、「平成ことば事情5781王太子」でも少し書きました。また、2017年6月の用語懇談会放送分科会の席で休憩時間に、同期のWOWOWアナウンサー・柄沢晃弘君から、

「外国王室の『王太子』(おうたいし)っていうのがあるでしょ。あれも放送では『皇太子』でやってるけど、ヨーローッパのサッカーリーグの試合を、よく王室のサッカー好きの『王太子』が見に来るんだよ。その中継で『皇太子』って言うと、ヨーローッパサッカー好きの視聴者から『「王太子」ではないのか?』という意見が寄せられるんだけど、これはどうすればいいの?」

と聞かれたことがありました。たしかに時々「王太子」は耳にしたり目にしたりするけど、

「皇室=皇太子」「王室=王太子」

ならば、使い分けてもいい気がしますね。これも次回の課題に...と書いて2年半が経ち、ついに、これの答えになりそうなことが書かれた本を読みました。それが本書です。

この著者の岡本隆司氏も、柄沢アナウンサーと同じ疑問を持って色々調べて書いています。

簡単にまとめると、まず「王」があって、それが乱立して「王」の価値が低減し、その上に立つ「皇帝」ができたが、またそれも乱立して価値が下がった。

そもそも「西欧」と「東アジア」では別々の君主号があったが、イエズス会が東アジアに宣教に来た際、君主の「訳語」として「皇帝」が使われたと。

あと「神聖ローマ帝国」から19世紀の「帝国主義時代の帝国」、その後、「帝国」の崩壊の中で、時代に取り残されて残った「大日本帝国」、というような歴史の流れが書かれてあって、要は日本では、

「日本の皇室になぞらえて、外国の体制も呼ぶ」

ので、「国王」「王室」は辛うじて「王」だが、それを継ぐ者に関しては、日本の皇室と同じように「皇太子」と呼び「王太子」は使わない傾向があるとのことでした。

詳しくは本書をお読みください。


star4

(2019、12、3読了)

2019年12月 5日 16:09

新・ことば事情

7290「シはBかHか」

「音名」

というと「イタリア語」の、

「ドレミファソラシド」

が一般的ですよね。「和語」(日本語)では、

「ハニホヘトイロハ」

です。これが合唱をやっている私たちから言うと、「ドイツ語」で、

「C(ツェー)D(デー)E(エー)F(エフ)G(ゲー)A(アー)H(ハー)」

です。だから、「救急車のサイレン」の音階(音名)は、

「シーソー、シーソー」

で、これを「ドイツ語」で言うと、

「HG(ハーゲー)、HG(ハーゲー)」

になります。これは私が中学時代に、音楽とドイツ語が好きな母から聞きました。もう40年以上前の話ですね。

この話を辛坊さんにしたところ、

「『シ』は『H』じゃないだろ、『B』だろ」

と言われました。そして、ウクレレをやっている辛坊さんは、スマホの「音叉アプリ」を出して、

「ほら!」

と見せて来ました。たしかに「シ」は「B」になっていました。

そういえば、中学時代に「ギター」をかじった頃には「B」のコードがありましたね。

なぜだろう???

ネット検索してみたところ、こういう問題について解説しているサイトがありました。

「スガナミ楽器」のサイトです。

https://www.suganami.com/info/44155

詳しくはそれを読んでいただければいいのですが、簡単にまとめてみると、

『「h」の音名は、もともと「b」だった。そもそも音階の中で「悪魔の三全音」と言われた音程がシとファの音に生じる響きで、使ってはならない音程とされていた。どうしても避けられない場合は、「シ」の音を「少し低く」歌っていた。この「『シ』は低く歌う」指示として、「b(小文字のB)」が楽譜に記載された。これが「シ」の音以外にも、低く変化させる時は「丸いb」、高く変化させる時は「四角いb」を書くようになる。のちの「♭(フラット)」と「♯(シャープ)」になった。「b」の丸い部分を四角に書いて、さらに四角の各辺を伸ばして尖った感じを強調すると今の「♯(シャープ)」になる。

その「中間」の「♮(ナチュラル)」は、

「シャープでもフラットでもない、角ばったb」

=「四角いbだけど、シャープほど鋭くもないデザイン」

になったと。

こうして「シ」の音は、「低いシ」は「♭(フラット)」、「元々のシ」は「♮(ナチュラル)」で書かれるようになった。さらにその後、「元々のシ(♮)」は、

「印刷の都合で『h』と書かれるようになった」

という説が有力。(「♮」の「下の横棒」を取ると「h」のようになる。)

(他には「『g』の次が『h』だから」という説もあるようだ。)

これが、ドイツ語で「b」が「h」と呼ばれるようになった経緯の一説。

<参考:吉松隆著『調性で読み解くクラシック』(yamaha music media corporation)>

なのだそうです。

それにしても、なぜ「ドイツ」だけ?

これに関して、指揮者の小久保大輔先生に伺ったところ、

「もしかしたら、楽譜の印刷=グーテンベルクの活版印刷=ドイツが関係しているのではないか?」

という貴重なご意見を頂きました。ありがとうございました。

結論!

「音名は、クラシックではドイツ式(H)、ポピュラーでは英米式(B)を使う」

(2019、12、4)

2019年12月 5日 12:36

新・ことば事情

7289「ブラックフライデー」

11月29日金曜日は、

「ブラックフライデー」

だったそうです。

「え?何か恐慌が起きるの?」

とビビったのですが、さにあらず、

「『ブラックフライデー』の『ブラック』は『黒字』の意味」

なんだそうです。

「じゃあ、なにか、『赤字』やったら『レッドフライデー』か!?」

と思いました。

アメリカでは11月の第4木曜日の「感謝祭」(サンクス・ギビング・デー)の翌日を「ブラックフライデー」と呼ぶそうです。正式の休暇日ではないけれど、休暇になることが多いので、みんな買い物に行くそうです。ふーん。

「ブラックフライデー、カモン!」

とか。これまでは、

「ブラック+曜日」

は、大体、

「恐慌が起きた曜日」

を指していました。

「ブラック=暗黒」

で、「何か悪い事が起きた曜日」を指していました。「月曜」から見ていくと、

*「ブラックマンデー」=1987年10月19日(月曜日)に香港を発端に起こった世界的株価大暴落

*「ブラックチューズデー」=1929年10月24日の「暗黒の木曜日」の翌週の10月29日(火曜日)の大暴落。この2回の暴落によってアメリカの株式市場は壊滅的なダメージを受け、世界恐慌へと突入して行った。

*「ブラックウェンズデー」=1992年9月16日(水曜日)にイギリスの通貨「ポンド」の為替レートが急落、翌日に英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)を離脱した一連の出来事。ブラック・ウェンズデー(暗黒の水曜日)、もしくは逆に「ホワイト・ウェンズデー」とも共呼ばれる。「ポンド危機」。

*「ブラックサースデー」=1929年10月24日(木曜日)にアメリカ・ウォール街で起きた株価の大暴落。世界恐慌のきかけとなった。「暗黒の木曜日」と呼ばれた。

ここまでは「平日」。株式市場が開いてる日。「土日」は、株式市場がお休みだから、

「ブラックサタデー」「ブラックサンデー」

は、この手の意味はないようですね。

なんで「金曜日」だけ「黒字」になるんでしょうねえ?

(2019、12、4)

2019年12月 4日 20:32

新・ことば事情

7288「『全員』のアクセント2」

12月2日、日テレ系のお昼のニュースで、「笑い講」という行事のニュースを読んだ、山口放送の女性アナウンサーが、

「全員」

のアクセントが、

「ゼ/ンイ\ンが」

と「中高アクセント」でした。

同じ日の夜に見たドラマ『シャーロック』の番宣で、ディーン・フジオカも、

「ゼ/ンイ\ンが」

と「中高アクセント」でした。

また、同じ日に借りて来たDVDの映画『Kingdom』に出て来た将軍が、

「この村の者たちは殺せ。我々を見たもの全員だ」

と言った「全員」のアクセントも、

「ゼ/ンイ\ン」

と「中高アクセント」。

うーーーーん・・・・。

『もうみんなが

「ゼ/ンイ\ン」と「中高」で言ったから

12月2日は「ゼ/ンイ\ン」記念日。』

「サラダ記念日」みたいになってしまいました。

2004年に書き始めた「平成ことば事情1561『全員』のアクセント」も、お読みください。

(2019、12、3)

2019年12月 4日 20:27

新・ことば事情

7287「映(ば)えるとブレる」

「インスタグラム」に載せると写真が「映(は)える」という言葉から、

「インスタ映(ば)え」

という言葉が生まれ、さらに省略形で、

「映(ば)える」「映(ば)えない」

という言葉も生まれました。

「ば(え)」と「語頭に濁音が来る」のは、何となく「日本語っぽくない」かなとも思いますが、よく考えると、

「バレる」「ブレる」

と言った言葉があります。これらは、元々の言葉は、

「腫れる」「触れる」

ですよね。それが同じような経緯をたどって、「濁音」になっている。

しかし「濁音」になった「バレる」「ブレる」の意味は、

「マイナスの意味合い」

を含んでいます。古来、日本人の語幹の中に、

「濁音を嫌う傾向」

があったからではないでしょうか?それに対して、

「映(ば)える」

は、同じ濁音の語頭でも、明らかに、

「プラスの意味合い」

を持っているところが新しいのではないかなあ、と思いました。

(2019、12、3)

2019年12月 4日 20:23

新・ことば事情

7286「コチジャン」

韓国の辛い味噌に

「コチジャン」

というのがありますよね。先日スーパーに行ったら、何とこの調味料の名前の表示が、

「3種類ある」

ことに気付きました。それは、

「コチジャン」「コチュジャン」「コウチジャン」

です。

201912021.jpg

普通は「コチジャン」だと思うけどなあ。「コウチジャン」は初めて見ました。

グーグル検索してみたら(11月29日)、

「コチジャン」 = 38万5000件

「コチュジャン」=316万0000件

「コウチジャン」=      28件

でした。ついでに、こんなのもありました。写真を張っておこう。

「豆豉醤(トウチジャン)」

201912022.jpg

(2019、11、29)

2019年12月 2日 09:12