新・ことば事情
7230「停電は『戸』か?『軒』か?3」
「平成ことば事情6943停電は戸か?軒か?」「平成ことば事情6958停電は戸か?軒か?2」の続編です。
9月9日の放送で、「台風15号」で停電した家の数が、
「約90万軒」
と出て来ました。停電した家の数は、
「戸」
だろうと思って直したところ、ディレクターから、
「東京電力のホームページは『軒』なんです」
と言われました。調べたら、確かにそうでした。放送を見ていたら、
(テレビ朝日・日本テレビ)=「軒」
でした。
(NHK)=「戸」
でした。新聞は、
「読売・日経・産経」=「軒」
「朝日・毎日」=「戸」
でした。従来は「戸」だったと思います。
一軒家は「軒」でも、いいかもしれませんが、マンションやアパートなどの集合住宅に「軒」は合わない気がします。
ちなみに去年、関西を襲った「台風21号」の際には、
「関西電力」=「軒」
「中部電力」=「戸」
「四国電力」=「戸」
でした。
これに関して、9月20日に名古屋で開かれた「新聞用語懇談会放送分科会」で、各社どのように対応されているかを聞いてみました。
(NHK)2016年1月、「停電」に関して、それまでの「世帯」から「戸」に変更した。電力会社に問い合わせたところ、契約には「自動販売機」や「倉庫」等「人が住んでいないもの」もカウントしていることが分かったため、「人が住んでいる」イメージの「世帯」をやめて「戸」にした。「東京電力」と「関西電力」の発表は「軒」だが。
(日本テレビ)東京電力のHPの発表が「軒」なので、それに合わせている。「戸」に変更すると、視聴者が混乱するのではないかと。経済部が電事連(電気事業連合会)に聞いたところ、「軒」は「戸」と同じ概念でどちらでも良いと。ただ「一軒家」で「2世帯住宅」だと、契約件数としては「2件(軒)」になる。慣例として「軒」を使っている、という話だった。
(テレビ朝日)「停電」「断水」は助数詞を統一しようと思ったが、決めきれずに当局(東京電力・水道局)の発表に従っているので、「停電」=「軒」、「断水」=「戸」になっている。
(TBS)テレビ朝日と同じ。
(テレビ東京)東京電力のHPに合わせて「軒」にしているが、違和感があった。しかし「契約件数」か「建物の数」かの裏取りができないので、東京電力の発表通り「軒」にしている。
(ABC)電力会社の発表に合わせる。
(MBS)ラジオニュースのデスクの判断。マンションやアパートなど「集合住宅」もあるので、「戸」のほうが「世帯」に近くてわかりやすいので、「戸」にしている。
(KTV)揺れがあるが、今回は「世帯」を使っている。
(テレビ大阪)発表で「軒(ゲン)」。あまり厳密には考えていないが、その時の記者・デスクの判断。
(共同通信)「戸」「軒」。「停電」に関しての決まりはない。「台風15号」については、翌日の9月9日(月)は「停電」が「(92万)軒」、10日(火)の「断水」は「戸」と混在。契約新聞社から「停電と断水で『軒』と『戸』が混在していて良くない」と指摘を受けて、翌日は「戸」に統一した。災害関連の被害件数の助数詞には「棟・戸・軒」があるが、「停電・断水」の使い分けは、「戸」に統一すればよいと思っている。
(時事通信)使い分けはしていない。
「停電」の記事の5年間の検索で、
「軒」=31件
「戸」=112件
だった。
その後、10月2日に開かれた「関西地区新聞用語懇談会」でも、放送分科会での討議を踏まえて同じ質問をしてみました。実は9月9日から1週間で、新聞は、
「読売新聞以外は全て『戸』」
に変更されていたのです。そのあたりも伺いたかった。
ちなみに電力会社のHP、全電力会社を調べてみたら、
*「軒」=東京電力・関西電力
*「戸」=北海道電力・東北電力・北陸電力・中部電力・四国電力・中国電力・九州電力・沖縄電力
また、「断水」の場合についても「戸」か「世帯」か「軒」か?聞いてみました。
各社の回答は以下の通りです。
(日経)ご指摘のように、当初の「軒」から「戸」に変えた。決まりはない。当初、東京電力の発表に合わせて「軒」にしていたが、共同通信が「戸」だったので9月12日に「戸」にそろえた。弊社の記事には、共同通信配信の記事もあるので。
(共同)加盟社の会議が今月下旬にあるのだが、その事前アンケートでも同じ趣旨の質問があった。最初は「東京電力の発表」に合わせて「軒」にしたが、その後「戸」に変更した。後から出て来た「自治体の発表」では、「停電・断水」は「戸」だったため。「軒」は「建物」の数。「戸」は「住居」や「事務所」を含む。「マンション1棟」の中にある「30戸」を「30軒」とするのは、やはりおかしいだろう。「事務所」や「商店」は「世帯」ではないので、「戸」がふさわしい。「自販機」が「戸」か?というのは、また別の議論が必要だろうが。
(読売)停電の数の「よりどころ」は「東京電力の発表」なので、それに合わせて「軒」にしている。
(毎日)火事のニュースは「軒」。しかし広範囲に被害が及ぶ場合は「戸」にすることがある。「発表元」にどこまで沿うか、取材状況で変更することはある。
とのことでした。
さらにその後、10月16日の朝刊を見たら、読売新聞が、それまで、
「軒」
で表していた「停電」の数を、
「戸」
で表していました。台風15号で停電が発生した千葉県は「東京電力」の管轄だったので、東京電力の発表通り、
「軒」
としていたのですが、千葉の自治体は、
「戸」
で発表していました。
今回は、「戸」で発表している「東北電力」や「中部電力」の管轄地域でも停電が発生したため、同じ紙面の「停電の数を表す助数詞」が、地域によって違う(電力会社が違う)からと言って、
「『軒』と『戸』に分けることの意味がない」
と判断したのではないでしょうか?
逆に、10月16日の日本テレビ「ニュースzero」は、全部の電力会社の停電を、
「軒」
で統一していました。それも一つの判断ですね。東京電力で「軒」で始めちゃったから。
しかし、これで10月16日の朝刊の時点で「読売・朝日・毎日・産経・日経」の5紙は、
「停電」は「全紙」、
「戸」
「断水」は「朝日」のみ、
「世帯」
で、他の4紙(読売・毎日・産経・日経)は、
「戸」
ということになりました。
読売テレビ「ミヤネ屋」は、台風15号の最初の何日かは、揺れがありましたが、その後は一貫して「停電」も「断水」も、
「戸」
で放送しています。