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『道浦TIME』

新・読書日記 2019_137

『架空通貨』(池井戸潤、講談社文庫:2003、3、15第1刷・2019、5、17第57刷)

池井戸潤で読んでいなかった一冊。もっとも、単行本で出たのは2000年。初期の作品で、タイトルも「M1」というものだった。「M1」と言っても漫才のトーナメントではない。日本銀行による「通貨供給量の指標」の一つ。漫才の「M1」は2001年スタートだから、この本が出た時には、まだ「お笑い」のイメージは全くついていなかったのだろうが、いまや「M1」は「お笑い」である。それもあって改題したのか?文庫本が出たのは2003年、「お笑い」の「M1」が定着してきた頃。でもこの「架空通貨」というほうが、現在出て来ている「仮想通貨」(「暗号資産」と言い換えられてきているが)と似ていて興味が湧いた。しかも話の中に「リチウムイオン電池」を巡る「リチウム鉱山」が出て来る。おお、ノーベル化学賞受賞決定の吉野彰先生の話とピッタンコ!期せずして何と時流に乗った一冊なのだろう!それを今読む私もビンゴですね!(何が?)

それにしてもこの文庫本、

「57刷」

ですよ!

16年以上にわたって売れ続けている、ものすごいロングセラーではないですか!

460ページもあるけど夢中になって読みました。疑問点は一つ、

「学校の先生なのに、夏休み中とはいえこんなに学校を休んで捜査のようなことをしていていいのか?」

という点ですね。

勉強になったのは、「私募債」。ちょうど、きょう(10月14日)辞任を発表した韓国の曺国(チョグク)法相にかかる疑惑の一つに、この「私募債」がありました。引用すると、

「社債には公募債と私募債という二つの種類があんだ。公募債というのは名前の通り、不特定多数の人たちから資金を集めるもの。これに対して私募債は別名"縁故債"とも言って、取引先や銀行のような特定の相手から資金を募る。」(82ページ)

「公募債のほとんどは、財務内容を公開している上場企業が発行するものだ。だから、公募債はいわゆる債権として株式と同じように証券市場で売買される。ところが田神亜鉛は上場も店頭登録もしていない未公開企業だ。つまり、財務内容を公開していないから、一般投資家に正確な業績はわからない。こうなると不特定多数の人たちから資金を集めるというのはほとんど無理なんだよ。投資家は未公開企業の社債なんか見向きもしない。だから私募債に頼るしかない。」(83ページ)

「これはーーーー少人数私募債だ」

「銀行や証券会社を通さないで発行する社債の一種さ。中小企業のような未公開企業の直接金融が可能になるんだ。取締役会決議だけで発行できる」

「たしか、資金の出し手が五十人未満、つまり四十九人までと限定されてるから少人数私募債と呼ぶんだ。利率などの発行条件は企業が独自に決められるが、その際、引受人に銀行や証券会社がいないことが前提になる」

「とくに中小企業経営者にとっては夢の社債さ。私募債は元来、銀行の手数料稼ぎという性格が強かったんだ。融資すれば済むところを銀行が提案して私募債の形を採る。すると、金利の他に幹事を務めることでばかにならない手数料が銀行に落ちるというわけだ。だが、田神亜鉛の社債は違う。まさに本物の直接金融と言っていいだろう。」(84ページ)

これを読んだら、よくわかりました。

それ以外のメモ。

・辛島はひとりごちた(28ページ)

・(黒沢真紀を)探すのは無理だし(29ページ)*〇「捜す」

・T字路になったその場所に立って辛島は(69ページ)*「T字路」

・窓一杯に広がっている黒雲の立ち籠めた空模様だ。(77ページ)*〇「垂れこめた」

・満天の星明りの下で(80ページ)*「満天の〇〇」

・「役席者が転勤になって、今日はその送別会だそうですよ。銀行というところは、いくら忙しくても宴会だけはきっちりやるところらしいですね」(113ページ)=*池井戸潤の銀行勤務時代の感想、そのままだろう。現実の話だな。それにあきれている。

・手提げ鞄からマニラ封筒を取り出した。(114ページ)*「マニラ封筒」??

・田神札をカルトンに置き、支配人を見る。緑色のカルトンはさんざん使われて中央付近が丸くすり減っていた。(123ページ)*「カルトン」=お札・お金を置く皿ですかね?銀行用語ですね。

・車のシャシーが揺れた(127ページ)*「シャシー」→「シャーシ」ではないのか?と思って『広辞苑』『新明解国語辞典』『精選版日本国語大辞典』を引いたら「シャーシー」。『新聞用語集2007年版』は「シャシー」。『デジタル大辞泉』は「シャーシー」が見出しだが、『「シャシー」「シャシ」とも』

と書いてあった。

・「お医者はなんて」「ノイローゼの症状だっていうんです」(128ページ)*「ノイローゼ」

・「東側に位置する最も急な坂道が男坂だ」(144ページ)*男坂・女坂

・「マネーロンダリング(マネロン)」が完了するまでには3つの段階がある。

(1)プレイスメント(隠匿)(2)レイヤリング(ろ過)(3)インテグレーション(同化)

(305~306ページ)

→あ!もしかしたら曺国(チョグク)法相の「私募債」も「マネーロンダリング」に関連しているのでは?

・辛島はあっと口を開いたまま、二の句を忘れた(330ページ)*「二の句が継げなかった」なら知っているが「二の句を忘れた」は初めて目にした表現。

・「やった方は忘れてもやられた方はずっと覚えているもんだ」(338ページ)*そうそう、何事も。韓国も、きっと。

・「報せようと思ったんだが」(338ページ)*「しらせよう」と読ませるのだろうな。ルビなし。

・男はマイクを投げ、両手で総務部長の胸ぐらを掴んだ。肉声は辛島のもとへも届いた(395ページ)*本来の「肉声」の使い方。

勉強になりました!


star4

(2019、10、10読了)

2019年10月14日 19:47