新・ことば事情
7217「犠牲」
10月2日に開かれた関西地区新聞用語懇談会で、中国新聞の委員からこんなテーマが出されました。
*「亡くなられた」「犠牲者」
京都アニメーション放火事件にからみ、死者名簿に付けた見出し(タイトル)が、
「亡くなった方々」「亡くなられた方々」「京都府警が身元を公表した犠牲者」
など各紙いろいろだった。「亡くなった方々」は丁寧さに欠ける、「亡くなられた方々」は敬い過ぎ、「犠牲者」は何かの成功の陰で命を失ったというニュアンスもあり不適当、などの議論がある。何がふさわしいのだろう。
しかし当日は、4時間半にも及ぶ討議でも議題が消化しきれず、この議題に対しての討議は「されず終い」でした。
そしてきょう(10月11日)、週末に襲ってくる過去最強クラスの「台風19号」に関して午前11時から行われた気象庁会見で、
「今回の台風は昭和33年(1958)の"狩野川台風"に匹敵する」
というコメントを受けて出た、NHKのニュース速報の字幕及びL次画面で、
「【狩野川台風】昭和33年 静岡や関東 1200人以上が犠牲」
というように、「台風被害での死者」に対して「犠牲」という言葉が使われていました。
「死亡」だと冷たい感じがするということと、
「何の罪もないのに、自然の脅威の前に、なす術もなく亡くなった」
という部分が、
「犠牲」
という言葉を使わせているのでしょうかね。
実はこの言葉に関しては、私も以前、引っかかったことがありました。
・平成ことば事情3340「犠牲者という表現」
・平成ことば事情5376「犠牲」
もお読みください。
そして皆さん、くれぐれも「台風19号」にはお気を付けください。
(追記)
10月12日の各紙朝刊に、京アニ放火事件で10月4日に死亡した24歳の女性の身元が発表されたという記事が出ていました。その見出しと本文は、
(見出し) (本文)
(読売)36人目の犠牲者の身元発表 36人目の犠牲者の身元について
(朝日)京アニ36人目犠牲者は24歳女性 事件の犠牲者は36人で
(毎日)36人目死者 24歳女性 36人が死亡した
(産経)京アニ36人目犠牲者の身元発表 36人目の犠牲者の身元
(日経)犠牲36人目 24歳の女性 36人目の犠牲者となった
ということで、各社「犠牲者」を使っている中で、「毎日新聞」のみ「犠牲者」を使わずに、
「死者」「死亡」
を使っていました。
(2019、10、14)