新・ことば事情
7184「シェフ2」
「平成ことば事情4859シェフ」の続編です。
6月に東京で行われた新聞用語懇談会放送分科会の席で、NHKの委員から、この「シェフ」の使い方について質問が出ました。
(NHK)夕方の情報番組「しぶ5じ」で、パーティーに等に出向く料理人を「フリーランスのシェフ」と表現したところ、視聴者から「シェフは料理長のことであり、料理人をシェフと呼ぶのは違和感がある」と指摘がありました。多くの辞書は「シェフ」の意味として「コック長・料理長」しか載せていませんが、「料理人」の意味で使われることもよくあります。各社では、「シェフ」の使い方に、決まりを設けていらっしゃいますか。
これに対する各局の意見は以下の通りです。
(日本テレビ)決まりなし。「料理人=シェフ」は許容。
(TBS)決まりはない。報道の解説委員に聞いたところ、「『シェフ』は『チーフ』から来ている言葉なので、その部門での『トップ』の人。『フリーランス』では使えないのではないか?」と。ただ、午前10時から放送している『おびごはん』という番組では、本人が「私は『シェフ』」と言えば通している。本来はオーナーシェフか、料理長に使うべきだが。
(テレビ朝日)決めていない。店の部門のトップ。若手を指導する実力を持った人。しかし物知りなスタッフによると、「英語の辞書」で「シェフ」は「スキルを持った料理人」となっており、必ずしも「料理長(チーフ)」というわけではないようだ。
(フジテレビ)決まりはない。過去10年の原稿では逸脱した使い方はなかった。「シェフ」はよく出て来る。「コック」とは言わなくなった。「コック」の言い換え語が「シェフ」ではないか。「料理人」という表現は使われているが、「洋」の料理人は「コック」という言葉は避けているようだ。
(朝日放送テレビ)決まりはなし。店で「シェフ」と呼ばれていれば「シェフ」で通す。
(毎日放送)厳しく「料理長じゃないと『シェフ』を使ってはダメ!」と指導している。「ある程度実力があれば、まあ、いいか」ということもあるが、入ったばかりの子を「シェフ見習い」「シェフの卵」と呼ぶのもダメ!
(読売テレビ)7年前に「ミヤネ屋」でスペインのレストランを取材した際、そこの「(料理の)ある部門のチーフを『料理長』ではないが『シェフ』と呼んでいいか?」とディレクターに聞かれた。「『コック』では、だめなのか?」と聞き返したら「『コック』だと、日本の『町の洋食屋さん』のイメージがある。ヨーロッパの高級感を出したい」ということで、結局、これは認めた。
(読売テレビ)かつて夕方の関西ローカル番組に「シェフ対主婦」というコーナーがあった。そこでの「シェフ」は「料理学校の先生」や「若手シェフ」だった。「新米シェフ」という表現も出て来た。しかし「ある程度の腕前を持っている人」に使うようにはしている。しかし最近、同じ番組で5月20日に放送したものでは、アジア出身の女性が「経験の少ないシェフに指導している」という原稿があったが、これは、本来はダメ。
(テレビ大阪)特にルールはない。放送では違和感なく使っているが、個人的には違和感がある。学生時代にホテルの厨房でアルバイトをしていたが、フランス料理の場合は、厨房内には厳しい戒律がある。「料理長」にしか「シェフ」は使わない。
(共同通信)決まりはなし。「コック」「料理人」の代わりに「シェフ」を使う傾向がある。しかし、フランス語では確かに「シェフ」は「チーフ」の意味で「料理長」だが、英英辞典で「シェフ」を引くと、「プロフェッショナル・コック」となっているので、「英語圏」では「料理長」でなくても、単に「料理人」の意味で「シェフ」を使っているのではないか?共同での過去の原稿では、お恥ずかしいことに、
「スリランカで亡くなったご主人は『日本料理店のシェフ』をしていた」
とか、台湾の台北で初めて『ミシュラン』に載った日本料理店について、
「日本人が料理店の『シェフ』を務める」
という原稿も出てしまった。(※本来は「板前」「板長」)「コック」の代わりに「シェフ」が使われている。
(時事通信)決まりはない。過去の原稿では「料理人」の意味で「シェフ」が使われている。
その後、6月26日の読売テレビ「かんさい情報ネットten.」で、G20を前に兵庫・淡路島で開かれた、
「第1回ワールドシェフ王サミット」
というイベントを特集していました。これは各国の「料理長」が集まっていたようですから「シェフ」を使ってOKですね。
「シェフ」も「揺れる言葉」の一つですね。