ことし2月に『三省堂国語辞典』の編纂者・飯間浩明さんが、千原兄弟のせいじさんと「異種格闘技的トークショー」を大阪で開いたので、聞きに行きました。その時に出た話で、飯間さんがいつも行っている街中での「ワードハンティング」に引っかかった言葉に「ムテンカ・ムカチョウ」
という言葉があったというのです。私は全然知らなかった言葉です。これは、
「無添加・無化調」
つまり、
「無添加・無化学調味料」=「化学調味料を使っていない」
ということを「ウリ」にしている店だということで、東京でも大阪でもこの看板を目にしたことがあるそうです。
そうこうしていると、そのすぐあと(2月)に開かれた新聞用語懇談会放送分科会で、朝日放送テレビの委員から、
「『化学調味料』という言葉をどう扱っているでしょうか?」
という質問が出ました。
「化学調味料」という発言が生放送でゲストや出演者からあった場合、ABC(朝日放送テレビ)では、社員アナウンサーが速やかに、
「『うま味調味料』のことですね」
と一言、はさんでいるそうです。その会議での各社の意見は、以下の通りです。
(NHK)うちは(スポンサーが付かないので)その心配はない。少し調べたが、「味の素」などが中心の業界団体も最初は「日本化学調味料工業協会」だったのが、1985年に「日本うま味調味料協会」に名称変更した。https://www.umamikyo.gr.jp/ideas/idea.html
1990年に「日本標準商品分類」(現・総務省管轄)]が、1993年に「計量法」(現・経済産業省管轄)が、2002年には「日本標準産業分類」(総務省管轄)が「うま味調味料」の表記を採用し、現在では各種法令等もこの表記を採用している。
「きょうの料理」という番組では「うま味調味料」と表現すると決めている。ただ「化学調味料」という表現を使わざるを得ない場合もある。その場合には「化学」を取って単に「調味料」だけにしていることも。
(日本テレビ)スポンサーが重要なので、「化学調味料」という言葉は使わないように、毎年1回は注意喚起をしている。タレントが口にしてしまったら、マネジャーを通して注意してもらう。しかし伝わらないこともあるが・・・。
(TBS)ルールとして「化学調味料」は「うま味調味料」に言い換える。生放送のスタジオで言ってしまったら、すぐフォローする。「言い換え」は、明文化はされていない。
(フジテレビ)「化学調味料」という言葉は、使ってはいない。しかし生中継でラーメン店の店主が言ってしまうとかの場合の「フォロー」までは決めていなかったので、「うま味調味料のことですね」というフォローの仕方は参考になった。
(テレビ朝日)「うま味調味料」に言い換える。これは「ハンドブック」に1項目立てて載せている。たとえ言い換えても「うま味調味料を使っていないので安全」「うま味調味料を使わないのがウリ」などの表現もNG。ラーメン店店主が言ってしまった場合は、アナウンサーがフォローするように言っている。
(テレビ東京)2015年に「化学調味朗」と放送に出てしまったことがあり、2017年に系列各局に「『うま味調味料』という表現の使用のお願い」という資料を配布した。ゲストが言ったり、お店の人が言ってしまった場合にはフォローする。
(テレビ大阪)系列局のみならず、グループ以外の制作会社にも資料を配った。
(毎日放送)厳しい研修を受けたことがある。お店の人が「化学調味料、使ってないから」と原稿に出て来たのを、そのまま読んでしまったアナウンサーがいた。
(関西テレビ)うちはまだ、そういう例はない。「味の素」「ハイミー」という商品名は「うまみ調味料」に言い換えることになっているが「化学調味料はダメ」という意識はなかった。
(読売テレビ)関西ローカル番組で、アナウンサーがVTRの中で「化学調味料」と言ったのを家でテレビを見ていて気付いたが、特におとがめはなかったようだ。
(読売テレビ)報道の原稿データベースで調べてみたところ、過去10年で5回「化学調味料」が出て来た(2011年=1回、12年=1回、15=2回、18年=1回)。その全てが「化学調味料は使わずに作っています」という文脈だった。
(読売テレビ)つい先日、「三省堂国語辞典」の編集者・飯間浩明さんのトークライブに行ったところ、飯間さんの街中での「ワードハンティング」に引っかかった言葉に「ムテンカ・ムカチョウ」という言葉があったという。これは「無添加・無化調」、つまり「化学調味料を使っていない」ということを「ウリ」にしている店だということで、東京でも大阪でもこの看板を目にしたことがあるという。
(WOWOW)「ラーメン業界」では「無化調」は当たり前の言葉。店の人が「ウチは無化調だから」と言うので気を付けないといけない。「地上波番組」では使っていないが、「インターネットテレビ番組」では「無化調」は、バンバン出て来ている。
(共同通信)「化学調味料」がダメというのは「記者ハンドブック」には記載していないが、1990年代半ばから「うま味調味料」という表現にしている。「味の素」は「商品名だからダメ」というのは載せている。
(ABC)今回は、すぐに「うま味調味料」と対応すればよかったのだが、すぐにはフォローできず、同じ番組の後の方で「先ほど番組内で『化学調味料』と言ったのは『うま味調味料』のことでした。失礼しました」と訂正を入れたところ、メーカーのほうから「そこまで丁寧に繰り返して『化学調味料』と言わなくても。」と言われた・・・。
(読売テレビ)「特定商品名」ということで言うと、うちも先日「油性マジックが落ちる」というシャワーヘッドを紹介した。放送前に「マジック」は商品名なので「油性ペン」に直したが、ディレクターは「『マジックインキ』は特定商品名だと知っていたが、『マジック』は使ってもいいと思っていた」と話していた・・・。
というような意見交換がありました。
実は、これに先立つ2年前に、秋田で開かれた新聞用語懇談会春季合同総会でも、同じような質問がテレビ大阪の委員から出ていました。
『先日番組で「化学調味料」という表現を使ったら「日本うま味調味料協会」から「『化学調味料』は使わないように」と抗議を受けた。1990年ごろに「味の素」が「化学調味料」を「うま味調味料」に表記を変えたようだが、この件で抗議を受けたりした社はありますか?』
というもので、これに対する各社の意見は、以下の通りでした。
(毎日放送)生放送のインタビューなどで店の人などが「化学調味料で、舌がザラザラする」などと言ってしまうこともあるのでは?
(読売新聞)1995年2月に「×化学調味料→○うま味調味料」とした。これは、1995年1月1日施行の「統計法」の規則の「表記変更」に伴うもの。
(新聞協会・用語コンサルタント)その変更の文章は、当時、私が書いた。
(共同通信)1996年1月16日付で加盟社に「1996年2月1日から、『化学調味料』→『うま味調味料』に変更します」と連絡した。理由は(1)「統計法」規則の表記変更(2)放送界では「うま味調味料」が定着しているから。また業界団体は「日本うま味調味料協会」で「うま味調味料」という表記を用いている。『共同通信記者ハンドブック・第13版』では「特定商品名の言い換え例」(593ページ)として「味の素→うま味調味料」となっている。
(テレビ朝日)報道記者からデスクになった1998年以降ずっと「×化学調味料→○うま味調味料」だった。しかし情報系の生番組(ワイドショー)で、コメンテーターが、「これ、化学調味料を使ってないから、おいしいね」などと、褒めるつもりで言ってしまったりすることはある。そういう場合は番組内で「お詫び・訂正」をする。
私は30数年前の入社当初から、放送では、
×「化学調味料」→○「うま味調味料」
とする、と教わった覚えがあるのですが。
以下、「日本うま味調味料協会」のサイトより抜粋です。
~「化学調味料無添加」についての協会の考え~
「化学調味料」という用語は、昭和30年代に料理番組等で特定の商品名と区別するために使われ始めましたが、現在では、JAS法など行政上の定義は存在せず、不明確な用語になっています。協会では「化学調味料不使用(無添加)」表示は、あやふやな用語で、皆様に誤ったイメージを抱かせる表示として問題意識を持っています。
また、皆様に正確な情報を伝え、適切な商品選択に役立てることを目的とした食品関連法規の精神・趣旨にも反していると考えます。
で、そうこうしていたら先週、飯間さんのように私も「無添加・無化調」を見つけてしまいました!
大阪の堺筋本町。これがそうです!
もしかしたら、「無化調」は、ことしの「流行語大賞」になるかも?
(2019、7、10)