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『道浦TIME』

新・ことば事情

7156「寺院」

「寺院」

と言うと「お寺」ですよね。「お寺」と言うと、

「仏教」

ですよね。「神道」なら「神社」ですから。では、

「ウェストミンスター寺院」

は「仏教」か?と言うと、

「キリスト教」

です。また、

「ヒンズー教」

も「寺院」と言います(訳します)し、

「イスラム教」

でも一般的には「モスク」と呼ばれますが、

「イスラム寺院」

と呼ばれることもあります。つまり、

「『寺院』という日本語がカバーするのは『仏教』に限らないのではないか?」

ということです。

ところが、国語辞典で「寺院」を引いてみると、

『広辞苑』=(「院」は支院を指す)寺(てら)。

と極めてシンプル。

『明鏡国語辞典』=てら。また、キリスト教・イスラム教などの礼拝堂。

とあり、こちらの方が実態に即して説明している感じが。

『新明解国語辞典』=(1)「てら」の総称的呼称。(広義では、キリスト教の聖堂や、イスラム教のモスクを指す)(例)イスラム教寺院、ウェストミンスター寺院。

(2)「てら」の本堂とそれに付随する諸建造物を含めた総称。

とさらに詳しくなりますが、不思議なことに、これまでの3つの辞書には「仏教」の「ぶ」の字も出て来ません。

『旺文社標準国語辞典』=てら。僧院。仏閣。

とここで初めて「仏」の文字が。

『精選版日本国語大辞典』=寺とそれに附属した別舎の総称、また、寺をいう。

とシンプルな説明です。引用文が「法隆寺伽藍演技」や「徒然草」であるところから見ると「仏教」のことを指していると考えられます。

『現代新国語辞典』=寺と、それに関連する建物。

と、『精選版日国』と同じような内容、同じようにシンプルです。

『新潮現代国語辞典』=てら。また、寺の本堂。鐘楼・支院・僧坊などの総称。

とあって「仏教っぽい」のに、引用例は、

「モンテ・カヴァロの寺院小庭の泉のほとり」

という「キリスト教くささ」を感じさせるもの。

『デジタル大辞泉』=仏寺とそれに付属する別舎をあわせた称。また、広くイスラム教。キリスト教の礼拝堂にもいう。てら。

と、「仏教・イスラム教・キリスト教」がそろい踏み。でも、「ヒンズー教」は入っていません。

『現代国語例解辞典』=寺。また、広くキリスト教・イスラム教の礼拝堂もいう。

おお、これは必要最小限っぽい。そして、

『岩波国語辞典』=寺。

何これ?手抜きでは?と思って、こっちを引いてみたら、

『三省堂国語辞典』=てら。

シンプルです。そうだけどさ。行の下に余白があるんだし、もう少し説明してほしい。一応「寺」を引いてみると、

「(1)(仏)僧が住んで、仏像をまつり仏堂を修行し、また、仏事をおこなう(建物・場所)(2)(俗)寺銭」

と、「寺」はもう完璧に「仏教」のものです。だとすると「寺院」のほうは「仏教以外の宗教」に触れるべきではないでしょうか?

私が言いたいのは、『岩波国語辞典』や『三省堂国語辞典』の説明は、いくらなんでも不親切ではないか?ということです。ぜひ次の改訂では、もう少し詳しく網羅した説明にしてほしいものですね。

(2019、6、3)

2019年6月 3日 20:57 | コメント (0)